ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

ブレヒト「ガリレイの生涯」

2012-08-18 20:23:44 | 芝居
7月7日シアタートラムで、ブレヒト作「ガリレイの生涯」をみた(演劇集団円公演、演出:森新太郎)。

16世紀イタリア北部ピサに生まれたガリレオ・ガリレイは、望遠鏡を使った天体観察ほか数々の輝かしい仕事を成し遂げ、
恵まれた環境で研究を続けていた。しかしコペルニクスの地動説を支持した彼を、ローマ教会は宗教裁判にかけ有罪に。
その時彼は「それでも地球は動いている」とつぶやいたと伝えられているが・・。果たしてその実像はいかなるものであった
のか。
ブレヒトは1939年にこの作品を書き下ろしたが、1945年広島・長崎への原爆投下の報を受け、急きょ改筆した由。

全2幕。非常によくできた芝居であり、しかも「円」の公演なので安心して見ていられる。

ガリレイは意外と美食家で、食べることが大好きだったらしい。そういう人間味溢れる一面も分かって楽しい。

ガリレイは友人に「君の宇宙大系のなかでは神はどこにいるんだ?」と聞かれて「僕らの裡にだ。でなければ神なんて
いないよ!」と答える。驚いた友人は「焚刑にされた男(哲学者ブルーノのこと)が言ったようにか?」と叫ぶが、彼は
一歩も譲らない。だがどうだろうか。実際にはガリレイはそこまで考えていなかったのではないだろうか。作者が自分に
近づけ過ぎているように私には思える。だってこの直前に彼に言わせているように、「俺は神学者かい?俺は数学者だぜ」
というのがガリレイの自己認識なのだから。

彼は最後の9年間、娘ヴィルジニアと共に幽閉される。そこにかつての弟子が訪ねてくるシーン、そして彼が幽閉中密かに
書き上げていた「新科学対話」が迫害の手をかいくぐってついに国境を越えるラストが感動的。

役者たちはみな好演。
主人公ガリレイ役の吉見一豊は厖大なセリフを駆使して、教会権力に追い詰められてゆく学者の純粋さ、人間的な弱さを
くっきりと表現した。その他印象的だったのは、年とった枢機卿役の野村昇史、弟子アンドレア役の戎哲史、バルベリニ
枢機卿(後に法王ウルバン8世)役の高林由紀子。

「円」と言えば、今までに見た中で忘れ難いのは、2003年の「マクロプロス-300年の秘密」(カレル・チャペック作)
と2008年の「死の舞踏」(ストリンドベリ作)。
今回のこの作品も、長く記憶に残るだろう。







コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オペラ「エロディアード」

2012-08-08 22:12:30 | オペラ
6月23日新国立劇場中劇場で、マスネ作曲のオペラ「エロディアード」をみた(原作:フロベール、演出:八木清市)。

日本初演。全4幕。休憩を含めると3時間以上の大作。フランス語上演。

生母を探しているサロメは王への贈り物として宮殿へ連れて来られている。彼女は占星術師に砂漠で知り合った預言者
ジャンへの想いを告げ、彼を探しにいく。サロメの姿を求めて落胆するエロデ王に、王妃エロディアードは侮辱したジャン
の首を切れと迫る。探し出したジャンにサロメは愛を告白するが、拒絶される。王はサロメへの欲望を夢見る。
一方エロディアードは占星術師に恋敵サロメと自分の星を占ってもらうと、彼女はあなたの娘だと告げられ半狂乱で否定する。
ジャンは民衆を洗脳した罪で捕まり、サロメの愛する男が彼であると知った王は処刑を命じる。投獄されたジャンは一緒に
死にたいと願うサロメに愛していると告げる・・・。

同じく聖書に題材をとっているが、オスカー・ワイルドの「サロメ」とはえらい違いだ。
まず第一に、ジョン(ヨカナーン)がサロメの愛に応えて彼女を愛するようになる!エロデもエロディアードもみな純愛。
ただそれぞれの愛のベクトルが違うので、もつれ合い絡み合って悲劇に至る。
次に、サロメがエロディアードの娘であることが途中で占星術師によって明らかにされるまで、二人共それを知らない。
それまで王妃は娘を恋敵としてひたすら憎む。
そしてとどめ・・・サロメは「恋人」ジャンの処刑を知って自害する!

マスネの曲が、アリアの終わるたびに止まって(途切れて)拍手を要求するようにできているので、そこでいちいち拍手が
起こるのが苛立たしい。

演出については、全幕を通じて、人々が客席に向かって突っ立っていることが多く、平板で変化に乏しい。

フランスものだから当然なのだろうが、王と王妃の前で、女性ダンサーたちが何度も様々な踊りを披露する。
愛し合うサロメとジャンが引き裂かれるというクライマックスの直後にまでバレエが挿入され、しかもその長いこと!
もうこの後にはラストの破局の場しか残ってないのだし、こっちはそれが気になって仕方がない。早く見たいのに、昔の
フランス人はこんな時ものんびりとバレエを楽しんでいたらしい(今も?)。
この時思い出した。以前「ドン・キショット」をみた時も、やはりもうちょっとで終わるという時になってバレエが始まり、
しかも延々と続いたのだった・・。フランス人って何だかインド人に似ている?

サロメ役の鈴木慶江は美しく可憐な乙女を好演。フランス語の発音は微妙。
預言者ジャン役の人は高音がかすれる。
エロディアード役の福田玲子は声量がすごい。仏語の発音はさっぱり分からない。以前「ブリーカー街の聖女」で主役を
歌った人だと思うが、あの時も英語の発音がまるで分らなかった。

牢獄でのサロメとジャンの愛の二重唱は素敵だったがあまりにも短い。

二日間だけの公演で、しかもダブルキャスト、つまりこの日の歌手はこの日だけのために初めての曲とフランス語の歌詞を
勉強し、消化(マスター)したわけだ。そしてひょっとしたらもう二度とこの曲を歌うことはないかも・・?
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする