フライング気味に道路に出しておくべき看板は、コードが巻かれた状態で地下へ続く階段の前に置かれている。
階段を降りきったところにある店の入り口らしきところから、かすかに光がもれていた。
「 店、やってる? 」 そういいながら、2人連なって階段をそ~~っと降りる。 別に悪いことしてるわけじゃないから、ふつうに降りればいいんだけど。
オフィス街の休日というのは、平日と比べてびっくりするくらい人がいなくなる。 ましてや夜。 出先から、なんだかんだでここまで戻ってきて、気づいたら20時半。 何か口にするために、事前に調べておいたアフリカ料理店にいってみることにしたわけだが・・・・・
階段を降りきって、ドアの前に立ち、そーっと(どうしても、こういう動きになる。)ガラス戸の隙間からレストランの店内を見てみた。
「 誰かいるよ。」
私は振り返り、伝える。 「 開けてみようか。。?」
ドアをゆっくり引いた。 「 コンバンハ・・・・ 」
恐る恐る開けた私の目の前に、控え目なかんじでこちらを見る店員らしき女の人がレジのところに立っていた。 「 いらっしゃいませ・・・・?」
向かい合いながら、お互いの次の言葉を探るように、一瞬の間が空いた。
「え~っと・・・・・・・ やってますか? 」
「今日は、定休日なんですが・・・・・・」 へ?
定休日だというその店には、お店の人もこうやって目の前にいるし、奥の方の見えない部屋のほうからは、人の気配がする。
「先ほどお電話いただいた方ですか?」
「いえ、私はしてませんが・・・・・」 なんのこっちゃわからないまま、私は再び後ろを振り返り、「なんか、今日、定休日みたいよ。」と相方に説明する。 困った様子を振りまく私達に、お店の人が、
「ちょっと、軽く、何か食べるくらいだったら・・・・・折角来ていただいたので。 9時過ぎまで、という感じにはなってしまいますが・・・・」
9時過ぎって、あと30分ちょっとじゃん。
どうする、私達。 この店の周りには、あんまり店なかったし。
「どう・・・・」 相方に訪ねようとすると、相方は、「入らせてもらおうよ。」という空気の塊を私の背中に押し付けてきたのを感じたので、
「・・・・じゃぁ、ちょこっとだけ、、いいですか?」 図々しくも控え目に言ってみた。
一応、控え目に、店内の端の席に座る。
定休日といいつつ、店内中央には、一人の男性が静かにごはんを食べているし、ここからは見えない別の部屋からは、何人かの話し声が聞こえている。 入り口で私達を迎え入れた女の人は、フロアーを担当らしいが、たまに、その“なぞの部屋”に行っては談笑していた。 今日は、とりあえず料理人が一人、キッチンにいるらしく、時間のかからない料理だったら・・ということで、それらしいものをメニューの中から探すことにした。
このアフリカ料理店は、アフリカの情報発信の場も担っているらしく、それで、定休日などでも、それに関連した集まりがあって人が店の中にいたりするらしいことが最後の頃に分かった。
結局、私達は、メニューの中から、
パンダ豆のコロッケ、アボカドサラダ、チェブジェン、ガリ(デザート) と、アフリカ地ビールを注文。
パンダ豆のコロッケは、豆腐のようなフワフワした食感のコロッケで、これって、どんな豆なんだろうと、お店の人に尋ねると、もってきてくれた豆の現物は、白地に黒い点のある豆で、大豆系のものであることが判明。大豆系だと、つぶすと、豆腐のような食感になるかも、と納得。 パンダ豆は、日本名で黒目豆と言われているものだということが、後からスーパーでそれを発見したときに判明した。
基本的に、全てがはじめての食べ物だったので、これは何で出来ているかとか、お店の人が料理をもってくる度に尋ねていた。 チェブジェンは、魚や野菜をご飯と一緒に炊いたもので、アフリカ版パエリアというようなものだった。 どれも、なかなかのおいしさで、ワイワイ言いながら食べているうちに、定休日なのに、特別に入れてくれたことなどすっかり頭から抜けていた。
コロッケにつけるソースや、お好みで加える調味料を、器に入れて持ってきてくれたのだが、その器が何で出来ているかというのが、私達2人の間で議論になり、お店の人に尋ねると、「椰子の実ですよ。」と、キッチンから、2つ、その椰子の実の器をもってきて、私達にひとつづつプレゼントしてくれた。 こんな、無理に店に入れてもらった私達に、さらに“おみやげ付”とは。 ナチュラルテイストの好きな相方は、その器をもらえたことをとても喜んでいた。
こげ茶色の木の家具に囲まれた店内は、20Wの昼光色の明かりがついている。
相方は、離れたところにあった、一枚木の背もたれ付の椅子に座り、まるで自分ちのようにくつろいだりしていた。 Mama アフリカ。
せっかく Cocoの器ももらったし、またあとでパンダ豆のコロッケでもつくらなくちゃね。