鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

エトピリカ(その2) <em>Fratercula cirrhata </em>2

2011-11-25 00:28:09 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて エトピリカ若鳥 2010年8月23日 北海道釧路沖)

 厚みのある嘴の前半部は鮮赤色で、基部付近にまだ成鳥の色は出ていない。顔もまだ黒色ベースだが、虹彩はやや黄色みを帯び、また将来金色の房毛が生えるであろう部分は、その片鱗を見せつつある。おそらく前年生まれの若鳥。
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 本種のほかケイマフリ、ウミガラス類などの中型以上のウミスズメ類、アビ類、カイツブリ類、ウミアイサなどに広く見られる、潜水前に海中を覗き見る行動。初列風切が褪色しているのが窺える。


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 幼鳥同様、胸は他の上面より淡色なようである。やはり初列風切が褪色して見える。


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 角度によっては顔の部分は多少淡色に見える。下嘴角から嘴端へのラインは幼鳥より勾配が険しい。


(2011年11月24日   千嶋 淳)


エトピリカ(その1) <em>Fratercula cirrhata </em>1

2011-11-24 23:44:19 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(エトピリカ幼鳥 以下すべて 2010年8月28日 北海道根室市)

 逆光なこともあり嘴の色は鈍いが、嘴の厚み、特に先端から下嘴角にかけてのものは、既に本種特有のものとなっている。巣立ちから半月程度の幼鳥と思われる。
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頭部と上面は黒色で、胸は灰白色、脇は灰褐色である。正面から見ても嘴には「高さ」があり、本州独特の形状を呈している。ウトウ幼鳥は嘴にこの高さがなく、胸の灰白色も欠くが、洋上で垣間見ただけでは識別できないことも多い。

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目の上後方には僅かながら、黄色みを帯びた房毛を予感させる羽衣がある。


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(2011年11月24日   千嶋 淳)


海鳥たちの交差点・道東の海

2011-11-20 11:48:13 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
コアホウドリ(手前)とクロアシアホウドリ 2010年9月 北海道十勝郡浦幌町)

(2011年10月9日釧路市立博物館での同名の講演より要旨を作成)


 寒冷な親潮の影響を強く受ける道東の海は、夏の濃霧から冬の流氷まで四季を通じて様々な表情を見せる。そこには多くの海鳥も暮らしている。そもそも「海鳥」とは何か?雌雄同色の種が多い、優れた視覚・嗅覚とそれを活かした探餌能力を持つ、巧みな飛翔や潜水を可能にする翼を持つ、長距離移動や群れ生活する種が多い等の共通した特徴を持つペンギン目、ミズナギドリ目、ペリカン目、チドリ目(の一部)に属する約330種が「狭義」の海鳥である。それら以外に生活史の多くを海洋で過ごすアビ目やカイツブリ目、海ガモ類等を含めて「広義」の海鳥として扱う場合も多く、本稿でも基本的には海鳥=「広義」の海鳥である。



シロエリオオハム(下2羽が夏羽)
2011年5月 北海道十勝郡浦幌町
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 えりも町から根室管内までの鳥類を網羅した「北海道東部鳥類目録」には、写真や標本等客観的証拠のない「ランクB」の15種を含む103種の海鳥が掲載されているが、この中には迷鳥も多く含まれる。道東海域での通年調査は少ないが、浦幌町厚内沖、羅臼沖根室海峡での調査では1~1年半で50~60種の海鳥が記録されている。これらは常に一緒にいるわけでなく、時空間を違えながら道東の海を利用している。時間的な例としては、ミズナギドリ目の種は夏、ウミスズメ類は冬に一般的に多く、同じグループ内でも種によって卓越する時期が異なる。空間的な例として例えば厚内沖では、夏は沿岸部ではオオセグロカモメやウミウ、沖合に向かうにつれミズナギドリ類やウトウが多く、大陸棚付近まで行くとアホウドリ類が卓越する。このようなパターンは他の季節でも種を変えて認められる。このような機構によって多くの種が結果として道東の海に生息可能となっている。


アホウドリ(若鳥)
2011年11月 北海道十勝郡浦幌町
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 季節や場所を違えて道東に飛来する海鳥を、目的や繁殖地から分類すると2つに大別され、後者は更に3つに区分でき、それは以下の通りである。
Ⅰ.道東周辺で繁殖する種
 オオセグロカモメ、ウミネコ、ウミウ、チシマウガラス、コシジロウミツバメ、ケイマフリ、ウトウ、エトピリカ等。モユルリ島、大黒島等の無人島や沿岸部の岬や離れ岩が繁殖地となっている。ウミガラスは1980年代に道東での繁殖が途絶えた。アカエリカイツブリ、シノリガモは内陸部の湖沼や河川で繁殖し、それ以外の時期を海上で過ごす。


ケイマフリ(冬羽)
2011年3月 北海道根室市
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Ⅱ.越冬や越夏、通過のため道東に飛来する種
Ⅱa.北海道より北で繁殖する種

 極東ロシア等北海道より北で繁殖し、越冬や渡り途中で飛来するアビ類、フルマカモメ、海ガモ類、トウゾクカモメ、カモメ類、ハシブトウミガラス、エトロフウミスズメ属等。


エトロフウミスズメ(若鳥?)
2011年3月 北海道厚岸郡厚岸町
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Ⅱb.北海道より南、北半球で繁殖する種
 伊豆諸島等で繁殖するオオミズナギドリやカンムリウミスズメ、同諸島や小笠原諸島、ハワイ周辺で繁殖するアホウドリ類等北半球の温・熱帯海域で繁殖する種で、大半は非繁殖期に飛来するが、オオミズナギドリは繁殖期に採餌のため道東まで飛来する。


オオミズナギドリ
2011年10月 北海道十勝郡浦幌町
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Ⅱc.北海道より南、南半球で繁殖する種
 オーストラリアやニュージーランド周辺で繁殖するハシボソミズナギドリやその近縁種、南極大陸で繁殖するオオトウゾクカモメで、北半球の冬すなわち現地の夏に繁殖した後、北半球まで採餌にやって来る。これに属するミナミオナガミズナギドリは、日本近海ではかつて迷鳥とされていたが、秋の道東太平洋岸は日本で最も本種を観察しやすい海域である。


ミナミオナガミズナギドリ
2010年11月 北海道苫小牧沖
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 このように北極圏から南極まで、世界中の海鳥が隣り合って暮らしているのが道東の海であり、まさに「海鳥たちの交差点」といえる。この海域を海鳥たちにとって魅力的にしているのは親潮や流氷のもたらす高い海の生産性であり、それは釧路沖が世界的な漁場になっていることからも窺える。
 一方、道東で繁殖記録のある11種の海鳥のうち6種が環境省レッドリストに掲載され、世界的にも「狭義」の海鳥の3割近くが国際自然保護連合のレッドデータブックに挙げられる等、海鳥を取り巻く現状は厳しいのも事実である。彼らの生存を脅かす要因としては、捕食者(主に人為的に導入または増加したもの)、混獲、海洋汚染、ゴミ・漂着物への絡まり等人間の活動と関連したものが多い。その解決は一朝一夕で図れるほど簡単な問題ではないが、例えば浜中町ではNPOや漁協、教育委員会、学校等が互いに連携しながら地域ぐるみの保護活動を行ない、成果を挙げつつある。また、我々一般市民にとっては海鳥について知り、親しむ機会を増やすことも共存のための一歩である。人も鳥も豊かな恵みを享受する、道東の海ならではの共生方法がいま求められている。


ハイイロミズナギドリ
2011年8月 北海道厚岸郡浜中町
胸に絡んだテグスらしきものが右脚手前、体後方へなびいている。
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(2011年11月19日   千嶋 淳)