鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

港のご馳走

2006-03-08 00:28:10 | 海鳥
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Photo by Chishima,J. 
ワシカモメ若鳥 2006年2月 北海道広尾郡広尾町)

 以前「漁港めぐり」でも書いたが、こと冬の漁港には海上の風浪を避けて多くの海鳥が入ってくる上に、一部の鳥は人間の廃棄物を餌として利用すべく積極的に集まってくる。その筆頭がカモメ類であるが陸鳥のカラスやトビもまた、その恩恵に預かろうとする代表的な鳥だ。
 2月下旬の穏やかな休日。小さな漁港の片隅が立ち入り禁止となっていて、そこに周辺の浅海の浚渫で出た泥土がうず高く積まれていた。数羽のオオセグロカモメやカモメ、カラス類が泥の山をそぞろ歩いている。よく見ていると、彼らは無目的に歩いているわけではなく、時々泥の山を掘り返しながら何かをついばんでいる。1羽のハシボソガラスが、掘り起こした獲物をくわえて近くに舞い降りた。その嘴には二枚貝が保持されている。カラスはコンクリートの地面に叩きつけることによって貝殻を壊し、中身を器用に捕食していた。どうやら、海底からくみ上げられて日の浅い泥土には貝類やその他の無脊椎動物が豊富に含まれ、普通なら出会うこともない陸上の捕食者に格好の餌を提供していたようである。休日で作業が行なわれていなかったことも、鳥たちを惹きつけていた要因だろう。

浚渫土内の二枚貝を捕食するハシボソガラス
2006年2月 北海道広尾郡大樹町

土の山から貝をくわえて飛来、背後はオオセグロカモメ成鳥。
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コンクリートで殻を粉砕して捕食
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Photo by Chishima,J. 

 同じ日の別の港。貨物港としても漁港としても利用されているこの港は、界隈では最大の規模でいつも鳥影が濃いのだが、今日はカモメ類がずいぶん少ない。怪訝に思っていると、漁港部分の一角に100羽以上のカモメ類が群れ集まっているのを見つけた。留鳥のオオセグロカモメが大部分だが、冬鳥のワシカモメやシロカモメも混じっている。その多くは採餌に夢中だ。餌はカジカなどの魚やヒトデだが、もちろんこれらはカモメが海で捕ってきたのではない。値が付かないか、市場に出すにはあまりにも量が少なかった「雑魚」や混獲物であろう。人間の都合で漁獲された上に不要であると廃棄された命が、しっかりとカモメたちの腹を満たしているのである。

オオセグロカモメ(若鳥)
2006年2月 北海道広尾郡広尾町
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Photo by Chishima,J. 

 しばらくの間、観察を決め込む。カモメたちは実に多様な行動を示してくれるので、見ていて飽きることがない。餌に貪りつく者、餌の所有権を主張するのに夢中でなかなか食べられない者、仲間やカラスと餌を奪い合う者、そうした喧騒とは無関係に羽づくろいや休息にいそしむ者…。中にはひとしきり食事を済ませて喉が渇いたのか、雪を食べている個体もいる。確かに、多くの水面が結氷してしまう冬期間、淡水の摂取は重要な日課だ。漁が休みのため水揚げや競りの活気が消えた埠頭は今、カモメたちの賑わいで溢れている。

カモメたちの多様な行動
2006年2月 北海道広尾郡広尾町

「僕のだーい!」(ワシカモメ若鳥)
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「誰も私の餌には近付かせない」(シロカモメ成鳥)
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奪い合い(シロカモメ若鳥とハシブトガラス
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積雪からの飲水(オオセグロカモメ成鳥)
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Photo by Chishima,J. 

シロカモメ(若鳥)
2006年2月 北海道広尾郡広尾町
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Photo by Chishima,J. 

(2006年3月7日   千嶋 淳)