鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

海ワシ?山ワシ?

2006-03-19 03:08:44 | 猛禽類
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Photo by Chishima,J. 
オオワシ亜成鳥の飛び立ち 2006年3月 北海道根室市)

 少数のオジロワシは北海道で繁殖・越夏するが、大部分の個体とオオワシは冬期に北方より飛来する。流氷の根室海峡でスケトウダラ漁船団のおこぼれに群がったり、海辺で海ガモ類を捕らえたりしている姿は、これらの鳥を「海ワシ」と呼ばせるのにふさわしい光景といえる。
オジロワシ(成鳥)の飛翔
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

 ところが最近、風蓮湖など氷下漁業が盛んでその恩恵に預かれるような地域を除くと海の近くで見られる海ワシ類の数が少ないような気がする。十勝でも渡来後しばらくは海岸部や十勝川下流域で力尽きたサケなどに付いているが、それらが減ってくる冬の後半にさしかかると、ワシに出会う機会もぐっと少なくなる。

オジロワシ(若鳥)
2006年3月 北海道十勝川中流域
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Photo by Chishima,J. 

 その一方で、同じ時期に山間部で見かける「海ワシ」の数はずいぶん増えてきたようだ。流氷や砂丘海岸ではなく、針広混交林やダム湖を背景に飛ぶオオワシやオジロワシの姿に、最初は違和感を覚えたものだが、近年では当たり前の風景になってきた。こうなるとこれらは海ワシなのか、それとも山ワシということになるのか少々複雑だが、これらの個体の主要な餌資源はエゾシカである。

山間を飛ぶオオワシ(若鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

エゾシカ
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

 エゾシカは急激な個体数の増加による林業や農業への被害が各地で問題となっているが、それらを反映した狩猟・有害獣駆除による残滓や越冬中の餓死個体の増加は、ワシたちに厳しい冬の間の食糧を提供することになる。厳冬期にも関わらず豊富に供給される動物性タンパク質に目をつけたのは海ワシ類だけではないようで、ワタリガラスも山間部へ多数飛来しているし、土着のクマタカもシカ残滓を利用しているそうである。

ワタリガラス
2006年3月 北海道
「コア…」、甲高い声が谷間に響くと2羽のくさび形の尾をしたカラスが現れた。
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Photo by Chishima,J. 

クマタカ(成鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

 これだけで終わってくれれば、ふんだんに利用可能な餌生物をめざとく見つけ、習性を変化させた野生動物の逞しさともいえるのだが、残念ながらそうはいかなかった。有名な鉛中毒の問題である。すなわち、残滓の中に残留している銃弾の鉛により、ワシたちが中毒を起こし、無視できない数が死んでいる問題である。鉛弾の使用規制や残滓の回収強化などの策が講じられてはいるが、根本的な解決にはまだ時間と努力が必要なようだ。
 1980年代には知床のスケトウダラ漁業という人間活動に依存していた海ワシたちは、1990年代の水揚げ量減少という人間側の都合によって各地に分散するようになり、その過程で山間部の越冬地においてやはり人間活動によって生じたシカ残滓を発見し、結果鉛弾という人間側の事情により死亡する事態に至っている。その精悍な顔つきから、自然界における孤高の存在的なイメージで見られることがあるオオワシやオジロワシも、現代の日本では人間の動きに大きく影響されながら冬を越している。

オオワシ(成鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

オジロワシ(若鳥)
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

(2006年3月19日   千嶋 淳)