Photo by Chishima,J.
(築堤を歩くタンチョウのつがい 2006年3月 北海道十勝川下流域)
月頭に書いた文章の中で「もう2週間もすればタンチョウやガン類が(十勝に)帰ってくる」などと綴ったが、最近の冬の中では群を抜いて降雪量の少なかった十勝野は、このところの暖かさで融雪が加速され、灰色の大地は例年の3月末か4月上旬のような景観を呈している。そして、それに合わせて予想よりはるかに早く、それらの鳥の帰還が始まった。
ヒシクイ
2006年3月 北海道十勝川下流域
Photo by Chishima,J.
特に音別などの釧路方面と、越冬地の近いタンチョウにおいては、そのピッチも早いようだ。10日前に1羽も確認できなかった十勝川下流域では、数日前に4羽飛来の報があったが、それから僅か2日後の昨日には、同じ範囲で30羽近くが観察された。
観察していて印象的だったのは、今回早期の飛来が確認されたのは、主に1990年代以降に分布を拡大している内陸部の繁殖地周辺であったことだ。十勝におけるタンチョウの繁殖数は、1980年代の僅か数つがいから1990年代後半、2000年代の数十つがいにまで顕著な増加を示した。従来は海岸部周辺にほぼ局限されていた繁殖地は、十勝川沿いに内陸部へと拡大し、さらにその範囲内でも密度は確実に増加しつつある。このような事情を踏まえると、現在拡大中で密度も高い内陸部では、営巣地やテリトリーをめぐる争いが熾烈であり、そこに住もうとする個体はいち早く戻ってくるということも考えられるのではないだろうか。実際、何ヶ所かでは2つ以上のつがいが対峙したり、攻撃的な行動に発展するのも観察された。また、昨秋の渡去も海岸部にくらべて内陸部で遅いように感じられたし、秋期になってもなお複数つがいによる攻撃的な出会いが生じていたのも内陸部であった。過密地域でより良い場所を確保するためには、可能な限りそこに固執・滞在して領有権を主張しなければならないのかもしれない。
タンチョウ
2006年3月 北海道十勝川下流域
Photo by Chishima,J.
灌漑や埋め立てで大部分の湿地が失われた十勝川下流域では、タンチョウはかろうじて残存する小規模な湿地で繁殖するが、既にそのような場所は飽和に近付きつつあり、住宅難は深刻な問題である。
農家の庭先を飛翔するタンチョウのつがい
2006年3月 北海道十勝川下流域
多くの繁殖地が農耕地の中に点在する十勝では、決して珍しい光景ではない。
Photo by Chishima,J.
オオハクチョウ2点
2006年3月 北海道十勝川下流域
越冬もするが、渡りの時期にもっとも数が多い。春は繁殖を控え、ハクチョウたちの気分も昂ぶる。
頭部から胸部にかけて赤茶色を帯びているのは、土壌中の鉄分などの色素が付着したためだろうか。
Photo by Chishima,J.
(2006年3月13日 千嶋 淳)
注記:渡来当初や秋期には農耕地などで長閑な姿を見せているタンチョウも、抱卵・育雛といった繁殖期には別の鳥のように神経質になる。繁殖期に人間が長時間付近にとどまることは、巣の放棄や捕食の危険の増大など繁殖失敗の原因になり、特に小面積の繁殖地が多い十勝は危険といえる。これからの時期タンチョウの観察や撮影をする人は、この点に十分留意していただきたい。