鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

晩秋の八戸航路

2006-12-01 20:27:31 | 海鳥
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All photos by Chishima,J.
トウゾクカモメ 以下すべて2006年11月 八戸~苫小牧航路)


八戸~苫小牧航路 2006年11月25日
鳥:シロエリオオハム コアホウドリ クロアシアホウドリ フルマカモメ オオミズナギドリ ミナミオナガミズナギドリ ハイイロミズナギドリ ハイイロウミツバメ ウミウ ヒメウ オオハクチョウ トウゾクカモメ クロトウゾクカモメ トウゾクカモメ科 ユリカモメ セグロカモメ オオセグロカモメ ワシカモメ カモメ ウミネコ ミツユビカモメ カモメ科 ハシブトウミガラス ウミスズメ ウトウ ハシボソガラス
海獣:イシイルカ

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 今週になって北海道の各地から大雪や真冬日の便りが聞かれ、季節はすっかり冬に移行した感が強いが、まだ秋の雰囲気を僅かに残していた先週、札幌に用事があったのを幸いに八戸・苫小牧間のフェリーに乗船して海鳥観察を行ってきた。苫小牧を夜出て、八戸には早朝というか深夜に着き、その数時間後に出港する折り返しの苫小牧行きで観察するというなかなかの強行軍ではあったが、季節の海鳥をそれなりに楽しむことができた。


八戸港を背景に飛ぶミツユビカモメ
背後の雪を頂いた山は、八甲田山あたりだろうか。
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 ところで、この行程には一つだけ問題がある。晩冬の時もそうだったが、船が八戸に着く朝4時はまだ真っ暗で、気分としては夜である。無人のフェリーターミナル(他の客はタクシーなり自家用車で目的地を目指すため)で数時間の待ち合わせは、それは暇なものである。となれば酒でも飲むしかないわけで、焼酎など煽っているのだが、そのうち夜が明けて空が白んでくると何となく罪悪感を覚えて、朝食を摂ってみたりする。それでも既に数時間は飲んでいるのだから、出港時には立派な酔っ払いが一名、出来上がっていることになる。閑話休題。


トウゾクカモメ
本種はこのように頭上を飛ぶことも多いので、海上ばかり見ていると急に現れて驚かされる。
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 今回は風浪も弱く条件も良かったので、観察・撮影にくわえて大まかな数も記録した。これは双眼鏡で見える範囲での大体の数を1時間ごとに記録したものであり、定量的なデータとはいえないが、それでも各種の相対的な多さはある程度反映しているだろう。帰帯して過去の野帳を眺めていると、3年前のほぼ同じ時期にも同海域で大雑把なカウントを行った記録があった。厳密には3年前は大洗~苫小牧航路でのものであるが、八戸のごく沿岸をのぞけば、かなり重複した海域を通過するので、併記しても問題あるまい。以下、種名の後の数は今回の数、それに続く()内は2003年11月16日の大洗航路での数である。()の数が示されていないものは今回のみの出現、逆に()だけでの表示は2003年のみ出現したことを、それぞれ示す。
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 シロエリオオハム6(2) コアホウドリ10(7) クロアシアホウドリ1 フルマカモメ551(800) オオミズナギドリ1(12) ミナミオナガミズナギドリ1(4) ハイイロミズナギドリ90(24) ハイイロウミツバメ2 ウミウ40(7) ヒメウ4 ヒシクイ(22) オオハクチョウ3 シノリガモ(5) トウゾクカモメ17(14) クロトウゾクカモメ3 トウゾクカモメ科7 ユリカモメ35 セグロカモメ16(5) オオセグロカモメ800(31) ワシカモメ1(1) カモメ53 ウミネコ140(10) ミツユビカモメ6100(1400) カモメ科300(400) ウミガラス(4) ハシブトウミガラス1 ウミスズメ66(25) ウトウ11(582) ハシボソガラス15
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 これをみると細かい点で違いもあるが、両者の構成はよく似ていることがわかる。すなわち、ミツユビカモメが圧倒的に優占し、フルマカモメやカモメ類がそれに続き、トウゾクカモメやウミスズメなども割と多い。両年度の優占種の中で著しく数の違うものとしてオオセグロカモメとウトウがあるが、前者は今回の港や沿岸部での本種の多さを反映したものであり、後者については2003年の方が10日ほど早かったため、移動のピークを逃してしまった可能性もあるが、海鳥の移動には時期よりも海水温や餌生物の分布等が絡んでいることも多く、不明である。珍しいところでは、ミナミオナガミズナギドリが両年ともに出現しており、9~10月にも何度か観察していることから、少数ながら秋期には定期的に飛来している可能性がある。


ミツユビカモメ(第1回冬羽)
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フルマカモメ(暗色型)
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ウミスズメ(冬羽)
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 今回出現した海鳥のうち、ミツユビカモメやコアホウドリなどは厳冬期でもこの海域で見られるが、シロエリオオハムやウミスズメ、ウトウ等はかなりの部分が南下して、分布の中心は三陸~北関東の沖あたりに移動する。また、フルマカモメをのぞくミズナギドリ類は、厳冬期の北日本沿岸からは姿を消すか、非常に少なくなる。代わって冬の後半のこの海域には、エトロフウミスズメやコウミスズメ、ハシブトウミガラスなどが流氷に押し出されるように大挙して渡来し、優占種になることもある。


コアホウドリ
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シロエリオオハム(冬羽もしくは幼鳥)
船の接近に驚いて、助走しながら飛び立つ。
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 総じて、晩秋11月の八戸から苫小牧にかけての海上の鳥類相は、夏のミズナギドリ目を主としたものから冬のチドリ目(カモメ類・ウミスズメ類)を主体とした鳥類相へ移行中の段階にあるといえる。この「夏のミズナギドリ目から冬のチドリ目への移行」という海上鳥類相の一大特徴は、微妙に種類を変えながら、三陸沖や常磐沖など北日本太平洋側の海上でも一般的にみられるものである。


トウゾクカモメ
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(2006年12月1日   千嶋 淳)


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