鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ヒドリガモの潜水採餌

2006-03-29 10:50:18 | カモ類
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Photo by Chishima,J. 
潜水後に羽ばたくヒドリガモのオス 2006年3月 北海道帯広市)

 カモ類は、その餌のとり方や行動様式から「淡水ガモ」と「潜水ガモ」の2つに大別される。淡水ガモは水面採餌ガモ、もしくは陸ガモとも呼ばれ、昼間は主に河川や湖沼といった内水面で休息し、夜間に湿地や水田などで植物質の餌を中心に食べる。そのため、脚は歩行に適した体の中央近くに位置し、体は細長く、遊泳時は露出部分が多いため、尾羽は水面よりかなり高い位置にある。一方、潜水ガモ、あるいは海ガモは脚が体の後端付近にあって歩行は苦手だが、潜水に長けている。また、体はずんぐりめで首は短く、遊泳時の尾羽は水面すれすれか僅かに上で、沈んでいる部分が多い。得意の潜水で、貝類や魚類、水草などを捕食する。
淡水ガモ(カルガモ
2006年3月 北海道帯広市
脚は細長めの体の中央付近にある。
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Photo by Chishima,J. 

潜水ガモ(ホシハジロ・オス)
2006年2月 東京都台東区
体はより水中に没し、写真ではわかりにくいが脚は体の後方にある。
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Photo by Chishima,J. 

 ヒドリガモは典型的な淡水ガモに属するが、マガモやコガモにくらべると昼間にも水面で何かをついばみながら採食していることが多い。カモ類の生態や形態から、その社会の類型化を試みた信州大学(当時)の羽田健三氏も、淡水ガモを「陸上及び水面採食型社会」とした上で、その中のヒドリガモ、ヨシガモ、ハシビロガモを昼間、水面採餌することの多い「ヒドリガモ型社会」と細分している(「内水面に棲息する雁鴨科鳥類に於ける生態・Kineto-adaptation 並びに Allometry に関する研究Ⅱ.雁鴨科鳥類集団の社会生態学的研究‐すみわけ構造の解析を中心として‐」1955年)。水面のほかにも、陸上で草を引きちぎったり、海の浅瀬や干潟などで海藻をついばんだりと、ヒドリガモは昼間にも活発に採餌する。

水面で採餌するヒドリガモのつがい
2006年3月 北海道帯広市
手前がオス。水面から何か小さなものをついばんでいる。
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Photo by Chishima,J. 

オカヨシガモのつがい
2006年3月 北海道帯広市
左がメス。羽田論文で言及されてないのは、当時は迷鳥なみに稀だったからだろう。
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Photo by Chishima,J. 

ハシビロガモ(オス・若鳥)
2006年3月 北海道帯広市
水中からプランクトンを縁の板歯で濾して食べるのに適した嘴をしている。
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Photo by Chishima,J. 

 そのヒドリガモが時として潜水して餌をとることがある。ほかの多くの淡水ガモも物理的に水に潜れないわけではなく、たとえば猛禽類に襲われた時には潜ることによって難を逃れようとするし、水浴びの勢い余って水中に没していることも珍しくはない。ただし、ヒドリガモの潜水採餌は自発的に餌を求めて潜水する点で、それらの受動的・機会的な潜水とは性質を異にしている。
 3月の穏やかな昼前、市内の小さな川では10羽ほどのヒドリガモが潜水採餌に興じていた。水面から水中を覗き込むように首を水面につけると、翼をすぼめて一気に潜水する。水深は1~2メートルにすぎないものの、生来が潜水に適していない形態のため、こうして勢いを付けないと水底までたどり着けないのであろう。程無くして潜ったのとほぼ同じ地点から浮かび上がった(この辺りも水中を自由自在に動き回る潜水ガモとは異なる点である)嘴には、一束の水草がくわえられている。ひとしきり食べて満足した後は羽ばたきによって付着した水滴を払い落とすと、すかさず次の水底を目指していた。

ヒドリガモの潜水
2006年3月 北海道帯広市
キンクロハジロなどの放物線を描いて飛び込む潜り方とは異なり、コオリガモやウミスズメ類のように翼をすぼめて潜水する。
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Photo by Chishima,J. 

水草をくわえて浮上したヒドリガモのメス
2006年3月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J.

 ヒドリガモの潜水採餌で印象深かったのは、数年前に群馬の実家で観察した事象である。実家の私の部屋は川を見下ろす二階にあって、冬の帰省時にはそこから日がな一日カモを眺めるのを日課としているが、ある12月の午後、多数のヒドリガモが活発に潜水して水草を食べているのに気が付いた。それまでの観察から、このヒドリガモたちは日没後索餌に出かけるのは分かっていたので、不思議に思っていたところ、その晩から明朝にかけては関東の平野部では珍しいほどの大雪であった。あたかも、天候の崩れを予見したヒドリガモたちが、夜間の索餌の代替として午後の活発な潜水採餌を行なっていたように思えて、妙に感心したものだ。

川底からとってきた水草を食べるヒドリガモのつがい
2006年3月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

(2006年3月28日   千嶋 淳)


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
けいこさん、はじめまして。 (ちしま)
2006-04-20 23:39:11
けいこさん、はじめまして。
HPのオナガガモ潜水の写真、興味深く拝見させていただきました。

カモ類は種類が多いので、餌のとり方や求愛行動などが多様で興味が尽きないですね。
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野鳥の会群馬県支部の掲示板からやってきました。 (けいこ)
2006-04-20 19:14:08
野鳥の会群馬県支部の掲示板からやってきました。
そしてヒドリガモの潜水という文字に反応。
私もオナガガモの潜水を見たのです。
だれもこのことに関心を持ってくれなかったので、ちょっと寂しかったです。
やっぱり潜ることがあるんですよね。

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確かに、マガモやカルガモも潜水していることがあ... (ちしま)
2006-03-31 13:11:30
確かに、マガモやカルガモも潜水していることがありますよね。

また、オナガガモも「浅い水底に多くの餌が沈んでいる場合、潜水することがある」(「野鳥識別ハンドブック」高野伸二 1980年)そうです。
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淡水ガモは潜水しないと聞いていましたが最近はマ... (sam)
2006-03-29 22:54:58
淡水ガモは潜水しないと聞いていましたが最近はマガモなども学習したのか潜水をするのを見るようになりました。
ハシビロガモなどは頭隠して尻隠さずですがマガモは完全に潜水していました。
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