Photo by Chishima,J.
(雪の残った牧草地に集まるマガンとヒシクイ 2006年4月 北海道十勝川下流域)
今年の十勝平野は例年になく速いペースで雪解けが進み、3月中旬以降は積雪ゼロの状態が続いていた。タンチョウやガン類などの大型水鳥に続いて、ヒバリやムクドリといった夏鳥第一陣組の渡来も相次ぎ、季節はこのまま春に向かって加速度的に進行するようにみえた。しかし、3月29、30日の低気圧は50センチ以上の豪雪をこの地方にもたらし、景色を一気に見事なまでの白銀に染め抜いた。
ムクドリ
2006年3月 北海道帯広市
ごく少数が越冬するが、大部分は3月下旬に渡来する。
Photo by Chishima,J.
昨日、大雪の後初めて、十勝川下流域を訪れた。当然のごとく、鳥たちの様子は一変していた。先週は40羽を数えたタンチョウは、わずか2羽を確認したのみ。雪原と化した農耕地に出現しないで、川などに潜んでいた個体を考慮しても、著しい減少である。もしかしたら、越冬地(=給餌場)まで一気に戻った個体も少なからずいたのかもしれない。
タンチョウ
2006年4月 北海道十勝川下流域
この日見た2羽のうちの1羽。
Photo by Chishima,J.
ガン類では、ヒシクイは数に大きな変動はないものの、雪深い農耕地で首をすぼめてじっと寒風に耐える姿や、僅かに雪の解けた畑に多数が集まって採餌に勤しむ姿は、3月よりも切羽詰った印象を受けた。マガンの個体数は、雪前のおよそ3分の2までに落ち込んでいた。畑だけでなく旧河川の湿地や解氷の早い沼などでもよく採餌するヒシクイにくらべて、牧草地など陸上の餌場への依存度が高いマガンは、降雪の少ない日高地方あたりまで戻ったのかもしれない。海外のカナダガンなどでは、春の渡りは気候や雪、氷の状態などに応じて行きつ戻りつ行なわれるようである。
雪上のガン類(ヒシクイ・マガン)
2006年4月 北海道十勝川下流域
Photo by Chishima,J.
湿地の賑わい(オオハクチョウ・ヒシクイほか)
2006年4月 北海道十勝川下流域
このような旧河川などの湿地は、湖沼解氷前の水鳥にとって塒や餌場としてたいへん重要である。
Photo by Chishima,J.
通常ともっとも異なる行動を示していたのは、ヒバリたちであった。生活の場である畑や原野が一面の雪で覆われてしまった彼らにとって、餌の確保は切実な問題である。融雪の早い道路端や堆肥などには、所かまわず数~数十羽のヒバリが集まって、なんとか餌を探し出そうと必死に地面を穿り返していた。本種は渡来当初や、雪の多い越冬地では河原などでこのような小群を形成することはあるが、地域全体にわたってこれほどの数がまとまっているのを見たのは初めてだったので、新鮮な光景だった。おそらく、例年であれば融雪の状態をみながら徐々に渡ってくるヒバリも、積雪ゼロ状態に油断して一気に渡来したら、突然の豪雪にみまわれたというところであろう。もっとも、日が高くなって気温が上昇するにつれ、そこかしこでヒバリの囀りが聞こえるようになっていったから、さして心配するには及ぶまい。
朝日を浴びて(ヒバリ)
2006年4月 北海道十勝川下流域
Photo by Chishima,J.
僅かな地面を求めて(ヒバリ)
2006年4月 北海道十勝川下流域
Photo by Chishima,J.
渡来早々の大雪で多くの鳥がペースを乱された感があるが、4月の陽光は厚く積もった雪が残ることを許さず、これを溶かし続けるだろう。そして、再度の雪解けに続いては、湖沼を数ヶ月間外気と隔絶してきた氷を解かし、日高おろしの吹きすさぶ水面にはアカエリカイツブリの恋の歌がけたたましく響き渡ることだろう。そうなれば、ノビタキやオオジシギ、アオジなど夏鳥第二陣組の渡来する日も、もう間もなくである。
オジロワシ(成鳥)
2006年4月 北海道十勝川下流域
大雪の前は河川敷や築堤にも多かったが、この日は河畔林でじっとしていた。
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オオハクチョウ
2006年4月 北海道十勝川下流域
越冬個体も多いためか、大雪後も採餌に喧嘩に活発に動く。
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(2006年4月2日 千嶋 淳)
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