局の道楽日記

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生活色々を楽しんで暮らしている日々の記録です

とってもお薦め~奇縁まんだら

2008-05-05 20:36:52 | 読む
一月ほど前 友人のお父さんが亡くなって実家方面に帰りお通夜に参列したことはこのブログにも書いた。
確か 86歳で男性の平均寿命も越えて大勢の子どもと孫に囲まれての大往生だった。
ただ、そのお通夜で気になったのは参列されている友人らしき人がいなかったことだった。やっぱりあんまり年をとると友達って亡くなってしまって段々少なくなるんだなあと思ってしまった。
まだそんな事考えるのはせっかちすぎるからかもしれないが 私はまだ友人が元気なうちに早めに逝って惜しまれる(惜しまれないかもしれないけどさ)方がいいなあ なぞと考えてしまった。

しかし この本を読んでそれがかなり利己的で、やっぱり私って人間が小さいなあと思ってしまった。長く生きて色々な人々と縁を結びそれを語り継ぐという役目が人にはあるということに気づかされたから・・・

「奇縁まんだら」 日経に週一で連載されていた瀬戸内寂聴さんのエッセイです。寂聴さんがその人生で交流を持った人々の話。殆どが作家、芸術家であるが、その人とのかかわりからのエピソードやそれからうかがえる素顔などがとても興味深い。
ざっと 書き出すと  島崎藤村 正宗白鳥 川端康成 三島由紀夫 谷崎潤一郎 佐藤春夫 舟橋聖一 丹羽文雄 稲垣足穂 宇野千代 今東光 松本清張 河盛好蔵 里見 荒畑寒村 壇一雄 平林たい子 平野謙 遠藤周作 水上勉

明治から平成にかけて活躍したそのまま文学史になるような人々が綺羅星のごとく並んでいる。 なんと豪華で贅沢な交遊録・・・・

しかし ここに記されているのは殆ど故人であり、寂聴さんがその死まで間近に見た例も少なくはないが、どれも淡々とした筆致である。
川端康成 三島由紀夫両氏とも少なからず交流してその自殺に際して身近にかかわっているのにあくまでも淡々と客観的に記されている。
やはり 宗教家という立場で死というものの捉え方が凡人とは違うのだろうか?

その死にあたって 哀切の情が一番感じさせられたのは 遠藤周作氏の病死だった。キリスト者とであっても病苦を恐れて 日頃から「死にとうない」 と語っていたという遠藤氏。そうとうな病苦の末に亡くなって30分後に夫人は 天国で先にいった人たちに会っているよ と言う声を聞いて、死に顔が穏やかになったのを見たと言う。
じ~んとしたエピソードだった。

「はじめに」の部分で寂聴さんが書いていらっしゃるが、長く生きた余徳はこれら人々の肉声を聞き 表情をじかに見たこと。 それらの記憶を呆けないうちに書き残すチャンスを与えられたことの喜び。書いているうちに彼らの声が生き生きと書斎を訪れ、その声に助けられて 奇縁まんだらを書き続けてきること。
それは この先達たちのことを一人でも多くの人に覚えていて欲しいからとある。

これを読んで、メーテルリンクの「青い鳥」を思い出してしまった。本が手元にないし、記憶はおぼろげなのだけれど、チルチル ミチルが死者の国に行って 自分たちの亡くなった祖父母に会うこと。彼らはこの世の生者が思い出すたびに その国で眠りから覚めて動き出すこと。生きている人が死者を思い出す限り、彼らは本当に死にはしないというくだり。
作家はもちろん自分で生み出した作品と言うものが後世に残るが、その人そのものもこうやって語りついでもらえることも幸せなのではないだろうか?

長くなってしまったけど、この本の中で私が爆笑した描写を紹介いたします。
文芸評論家の平野謙氏の章。寂聴さんは 小説 「花芯」 を発表して彼に酷評されて一時文壇から干される(後には和解されたのだが) そしてその時 同時期に「太陽の季節」で酷評された石原慎太郎氏から 「気にすることないよ ぼくの小説は傑作なんだ 瀬戸内さんのも悪くないんだろ?」という電話をもらう。

・・・・・言うだけ言うと電話は切れた。実に爽やかな自信に満ちた声だった。たぶん編集者の誰彼から、私が相次ぐ酷評に身悶えして怒っていると聞いたのだろう。その頃の慎太郎さんは、弟の裕次郎さんなんかよりもずっと整ったハンサムで、颯爽としていた。政治家になると、とかく器量は落ちるものらしい。

この本でまだ生存している人が出てくるのは珍しいのだが、この遠慮のない書き方に吹いた。さすがの都知事も苦笑してしまうのだろうな。寂聴さんにかかったら小生意気な弟分くらいの位置づけなのではないだろうか・・・

また横尾忠則氏の装丁、挿絵も傑作です。色がそれぞれの人物にマッチしていて 心に残る画です。

また この頃の作家ってホント いいオトコ多いのね。って言うか 寂聴さんて絶対に面食いだと思う。以前どこかで書斎に飾ってある過去の恋人たちの写真を見たことあったけど 特に小田仁二郎氏の渋さなんてすごいもんでしたから、人選の結果かなのかもね・・・

やっぱり読むならイケ面が書いた小説読みたいよね、顔文一致が何よりと私は思うわ。


コメント (5)
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