tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

ダウ平均急落666ドルは前車の轍?

2018年02月03日 12時05分52秒 | 経済
ダウ平均急落666ドルは前車の轍?
 昨金曜日(2018/2/2)の日経平均は、アメリカ市場の不安予測で221円の下げでしたが、半日遅れのNY市場ではダウ平均666ドルの急落で、リーマンショックに次ぐ下げとなりました。(因みに1987年のブラックマンデーは508ドルの下げ)

 リーマンショックの時は777ドルの下げで、何か数字合わせになっていますが、そんな冗談を言っていてはいられません。日経平均CFD(24時間市場)では501円の下げになっています。
 月曜日、どうなるか心配のかたも多いかと思いますが、ここでの問題は、その背後にあるアメリカの経済政策、経済状態です。

 投機筋の思惑を走らせたのは、アメリカの長期金利上昇の気配のようです。この所の労働需給のひっ迫、その結果賃金上昇率の高まりから、インフレ率の高まりも懸念され、過熱警戒感からFRBの利上げのペースが加速するのではないかなど、アメリカの経済状態に対しては過熱を恐れるという観測も出てきている様です。

 1月一杯で退任したイエレン議長は、物価が上がらない理由が解らないと言っていました。後任のパウエル議長は、イエレン路線を引き継ぐとの事ですが、FRB内部には、すでにイエレン路線である年3回の利上げを4回にすべきといった意見もあるようです。

 アメリカは日本に比べれば、こうした景気観にも振れが大きい国でしょう。もともと日本的経営は長期的視点(と人間重視)に立つことを善しとし、日本は企業労使も長期的視点で物を見ていますから、急に過熱を恐れるようなことにはならないと思っていますが、問題は日本政府でしょう。

 アベノミクスの成果を早く出そうという意識が強いようで、春闘介入も、2%インフレ目標も、早く、早くという事のようですが、本当にそれでいいのでしょうか。経済の原理はアメリカも日本も基本的には同じです。
 労働需給がひっ迫すれば賃金は上がる、賃金が上がれば物価も上がる、物価が上がれば金利も上がるのです。

 1970年代に2回の石油危機までは、日本の労働組合は、経済や経営の現実に無関心で、何よりも高い賃上げを目指していました。
 特に第二次オイルショック以降の日本の政権は、経済・経営の実態をわきまえて行動する日本の労使の恩恵を大きく受けていることを知るべきでしょう。

 経済のメカニズムから言えば、賃金を上げ、インフレ率を高め、しかし金利は低く据え置いて、インフレ頼みで財政再建を速めるといった政策は不可能でしょう。インフレ率が高まれば金利も上がり、政府の金利負担は増えます。

 今回のアメリカの騒ぎも、マネー・マーケットへの影響は別として、日本の実体経済の健全な成長を実現するための「他山の石」として、「前車の轍を踏まず」と堅実な経済政策の王道を行くために生かしていくべきものではないでしょうか。

平成という時代:$1=¥75と日本経済

2018年02月02日 20時14分44秒 | 経済
平成という時代:$1=¥75と日本経済
 平成20年~24年(2008~2012)は、平成時代の日本にとって、経済的にも社会的にも最悪の時期でした。

 プラザ合意で主要国から円高を押し付けられ、紆余曲折の中で、20余年を経て、何とかその克服の目鼻がついたと思われた時期に、さらなるデフレ不況の深淵に突き落とされたという所でしょうか。

 事はアメリから起こりました。アメリカで収入の低い層(サブプライム層)を対象に住宅価格高騰の中で行われた巨額の住宅ローン残高を証券化し、それをトリプルAに格付けたりして世界中に売り捌きました。
 アメリカは巨額なマネーを世界中から集めたのですが、住宅価格は何時までも上がるわけではありません、日本のバブル崩壊と同様、崩壊する日が来ます。

 胴元がアメリカで、不良債権にAAAの格付けなどをして世界中に売り捌いていましたから、世界中の金融機関や企業・個人の資産に大穴が空きました。
このバブルに中心的な存在だった投資銀行リーマンブラザーズホールディングスは倒産、世界金融恐慌の様相になりました(いわゆるリーマンショックです)。
 グリーンスパンに代って、FRB議長になったバーナンキは、事態収拾のため、徹底した金融緩和政策をとり、世界金融恐慌の回避に専念しました。

 日本の主要銀行はその前のバブル崩壊で大幅に整理されていましたので、被害は小さいと言われましたが、日本経済に深刻な結果をもたらしたのは、金融危機騒ぎの中での国際投機資本主導の円高でした。

 円レートは2007年秋には$1=¥87円になり、その後も80円とう水準が一般的になり、2011年8月には75円台を記録しています。
 1ドル120円に漸く対応出来つつあって日本経済・社会は、改めて1ドル80円レベルに対応するためのコストダウンを強いられたのです。

 プラザ合意で1ドル240円から120円という円高に20年をかけて対応してきた日本は、いわばリハビリ中でしたが、今度は1ドル80円に対応しなければならないという事で、改めて深刻なデフレ不況を経験することになりました。

 この深刻な不況は、国家財政や年金財政を直撃、産業社会から市民生活までいろいろな面に影響してきたようです。企業の海外移転、海外投資の増加、失業率・求人倍率の悪化、非正規雇用者比率の増加、教育訓練費の削減、労働災害減少傾向の反転、メンタルヘルス問題の深刻化、などなど、このままでは日本経済社会は行き詰まるのではないかといった様相さえ見られたように思います。

 この深刻な状況は、2013年、アメリカの金融緩和と同じ手法をとった、黒田日銀の異次元金融緩和で、漸く脱出に向かいます。
 バーナンキさんは、日本はもっと早く徹底した金融緩和をやるべきだったと言っています。

 1ドルが80円前後という異常な円高に適応しようと苦しんだ日本企業、日本社会は、この苦境がトラウマになったのでしょうか、今に至る、その種々の後遺症に悩まされているようです。

平成という時代:「いざなぎ越え」と「グリーンスパン・マジック」

2018年02月01日 16時03分36秒 | 経済
平成という時代:「いざなぎ越え」と「グリーンスパン・マジック」
 この所、アメリカの金融正常化(金利の引き上げ)の中で、アメリカ自体、ドルが高い方がいいのか、安い方がいいのか、発言が交錯しています。
 そのドルの影響を日本はまともに受けます。それは、トランプさんが対日貿易赤字を懸念し、国際金融資本が「円は安全通貨」という事で、「何かあると円買い」という行動を取り、為替に敏感な日本経済が影響受け易いからでしょう。

 平成時代の真ん中に位置し、不況か好況か解らないような時期として有名な「いざなぎ越え」(2002~2008年)も、このシリーズの前回までの様にアメリカとの関係で見ていく必要があるようです。

ご承知のように、「いざなぎ越え」は「いざなぎ景気」より長い景気上昇という事でつけられた名前ですが、これは統計数字上の話で、日本では殆どの人達は、実感としては、ずっとデフレ不況と思っていたようです。

 1991年から2002年まで続いたプラザ合意による円高を、コスト(中心は人件費)削減で乗り切るために企業はコストカットを続けて物価を下げ、いざなぎ越えの期間においてもGDPデフレーターはずっとマイナスを続けています。

 その結果、名目GDPはずっと横ばいでしたが、実質GDPは、僅かなプラス成長を続けていましたという事です。つまり、名目値の成長がほとんどなくても、物価が下がったから実質はプラスといった統計計算上のプラス成長状態が「いざなぎ越え」だったのです。
これでは、現実の経営や生活ではデフレ不況の状態と感じるのは当然でしょう。

 ところでその間、アメリカはどうだったのかといいますと、1987年にFRB議長にグリーンスパンが登場し、その直後にブラックマンデーの株価暴落(根底にはアメリカの経常赤字がありましたが投機筋の思惑が増幅したようです)がありましたが、その後は、いわゆるグリーンスパン・マジックと言われたFRBの金利操作で順調な経済状態を維持しています。

 しかしその背後では、アメリカ経済の破綻が進んでいたようです。グリーンスパン・マジックの内実は、当時このブログでも何度も取り上げていますが、「アメリカが赤字であれば、黒字の国がある。黒字の国からアメリカにカネを還流させればアメリカは経常赤字でも困ることはないという事だったようです。

 これは国際投機資本などの駆使する金融工学によって進められてきたようです。
経常赤字でも繁栄できるアメリカ経済では住宅バブルが起き、カネを借りて家を買えば、家が値上がりしてそれを担保にカネを借りれば贅沢な暮らしができるという住宅バブルが蔓延していたようです。

 かつての日本は土地バブルでしたが、アメリカは住宅(土地付き)バブルだったのでしょう。その結果、アメリカの経常赤字は急激に拡大し、2006年にはGDPの5.82%にまで達します。
 グリーンスパンは2006年にバーナンキと交代しますが、その直後にサブプライムローンの債権化の破綻、そしてリーマンショックとなって、アメリカ発の金融危機は世界に広がっていきます。

 日本の「いざなぎ越え」は、2006~2007年頃には、何とか正常な経済状態に復帰可能かという段階にまで達していたと見ていますが、リーマンショックは、日本経済をさらなるデフレ不況の深淵に落とし込みました。