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tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

増加傾向のアメリカの経常赤字

2015年08月28日 12時48分30秒 | 国際経済
増加傾向のアメリカの経常赤字
 中國経済への不信感の増大とアメリカの金利引上げへの思惑などで暴落を演じた世界の株価も、このところ急回復で、ホッとしている方も多いのではないかと思います。

 一部にはこの乱高下で、巨額なキャピタルゲインを得た投機家もおられるのでしょう。そして、こうした所得は実体経済の動きには関係のない、富の単なる移転で、富の偏在を促進する、格差社会化の一因ということになるのでしょうか。

 それはともかく、中国経済の内実は変わらないわけですが、上海市場の安定が「好感」されたことと、アメリカの今年第2四半期の経済成長率が前回の速報値より大幅に改善(2.3%→3.7%)したという2つの情報が、この急速な株価回復に貢献しているようです。
 
 世界の株価が回復することは、経済を回り易くするという意味では結構なことでしょう。特に、世界一の経済大国アメリカの経済が順調に回復しているのであれば、それは世界中にとっても大変結構なことだということになるでしょう。

 それに水を差すようなことは余り言いたくないのですが、最近順調と言われるアメリカの経済回復過程の背後で、アメリカの赤字が、相変わらず拡大傾向という点にも、矢張り注意しておかなければならないでしょう。

 アメリカの国際収支はまだ第1四半期までしか出ていません。第2四半期の数字は9月発表ということですが、第1四半期の数字を見てみますと、アメリカの経常赤字は1133億ドルで、前期の1031億ドルから100億ドルほどの増加です(いずれも季節調整済み、3か月分)。

 年率にすると4000億ドルを超え、18兆円ほどのアメリカのGDPの2パーセント台の数字になります。
 シェールオイルが出る前の4~5パーセントからは大分減りましたが、またこれが、景気回復に伴い次第に増えていくようですとアメリカ経済のアキレスになること必至です。

 9月発表の第2四半期の数字が待たれますし、GDPの数字発表なども、もう少し幅広い見地からの検討や解説が欲しいように思います。

経済波乱はマネーか実体経済か

2015年08月24日 15時53分00秒 | 国際経済
経済波乱はマネーか実体経済か
 週末から週明けにかけて、世界同時株安が深刻化しています。最も大幅なのは中国でしょうか。中国政府が如何に抵抗しても、世界の投機筋を相手にしたのでは、なかなか思うようにはいかないのでしょうか。

 中国相手の仕事の多いアメリカの株価も下げ、ついでのこの間まで利上げ憶測で上昇していたドルも下げ、週明けのトップを切った東京市場も株価は暴落、2日で1000円以上下げる一方、円レートは急騰という状況です。この円高も株安の原因になっているのでしょう。

 実体経済の動きを思惑で先取りするマネー市場ですから、状況が良く解らなければ不安で下げと言うのは当然でしょう。

 確かに中国経済の内実は良く解りません。経済活動の一致指標といわれる電力消費量が、かなり減っているようだといった報道もあり、中国政府が経済運営に苦労しているのではないかといった状況も感じ取れますが、経済的は、ある意味では未だ閉じた国ですからアメリカのサブプライム・リーマンショックのような世界経済に大穴を開けるようなことにはならないでしょう。

 アメリカも経常赤字というアキレス腱は持ちながら、実体経済は上向いているというのが現状です。
 日本は、安定成長路線を着実に歩み始めていますし、ヨーロッパ、アジアでも、実体経済は、問題はいろいろありますが、決してひどい状態ではありません。

 マネー経済は基本的には、実体経済の付属物ですから、ここは慌てずに、実体経済の健全化にきちんと努力することでしょう。
 日本の場合は、改めて、増加する経常黒字を、いかに内需拡大に活用するか、みんなで知恵を絞ることでしょう。GDPの2パーセント近い大幅なものですから、巧く活用できれば、日本経済も様変わりになるでしょう。

世界経済一波乱か、問題は米・中

2015年08月21日 11時10分36秒 | 国際経済
世界経済一波乱か、問題は米・中
 アメリカの利上げ時期の思惑、中国の株価下落、巨大事故など、矢張り世界経済に波乱を起こすのは世界の二大大国、アメリカと中国のようです。

 今年の5月に「アメリカの危うさ、中国の危うさ」と書かせて頂きましたが、趣旨は、両国ともに、経済的な無理をしつつ覇権争いをする構図が見えるということです。

 アメリカでは、早期の利上げを望むグループ、慎重を期すグループがあるようです。利上げ、ドル高で世界からカネが集まるのか、はたまた輸出不振で経済成長力が弱まってしまうのか、TPPも思うようにはまとまらない状態です。

 一方利上げを延ばせば、本当にアメリカ経済は強くなるのかというと、金融緩和による消費の拡大、雇用の増加はあるかもしれませんが、覇権の維持のコストも大きく、双子の赤字を解消し、黒字国に転換するような展望は開けません。

 何かを大きく変えなければ、経常赤字の拡大を抱えながら、基軸通貨国アメリカの迷走が続くという様相で、それでは、世界経済は安定しないでしょう。

 中国も新常態というネーミングは良かったのですが、内実に多様な問題を抱えながら、政府は巨大資金を海外で覇権獲得に向けて支出するという政策がどこまで続けられるのか、内外の多くの目が、政治的にも、経済的にも不安を感じているのは否めない所でしょう。
 
 不動産バブルの処理、かつての高速鉄道の事故やその始末の在り方、今回の天津の事故に見るような未成熟な技術や情報処理・管理の中での急速な発展、その内包する多様な不安が感じられます。
 累卵の危うき、修身斉家治国平天下などという中国から学んだ様々な諺が、脳裏をよぎります。
 
 当面、残念ながら、国際経済は波乱含みとなるのでしょうか。
  EUも日本を含む東南アジアの国々も健全な経済建設に一生懸命努力しています。 世界の二大国が覇権を争い、世界経済に波乱を齎すようなことは願い下げにしたいとものです。大国であればあるほど、かつて書きました NGRを大事にしてほしいと思います。

人民元相場、世界市場をかく乱

2015年08月13日 14時05分16秒 | 国際経済
人民元相場、世界市場をかく乱
 人民元は従来、ほぼ対ドルリンクの状態で来ていましたが、ここに来て中国の方針は変わりました。今日で3日連続人民元の基準値は対ドルで切り下げられ、累計で4パーセント以上の切り下げです。影響で世界中での株価が暴落したりしています。

 アメリカでは利上げの思惑が交錯する中で、ドル高基調が予想され、それにリンクして人民元高では中国経済はやれないということでしょう。
 前日のレートの終値を勘案して基準値を決めるというのは、それなりの考え方で、投機筋の思惑次第で動くのよりはまだいいのかもしれません。

 少なくとも、中国政府の意思が示されているわけですから、国としての理論も政策もその中では見えていると理解すべきでしょう。 
 IMFなどは、市場を尊重するという意味では歓迎、などという意見もあるようですが、これも「市場は正しい」という前提があっての問題でしょう。

 先日、人民元の1元硬貨が、市中から消えたことを書きましたが、かつて、最低賃金を連年大幅に引き上げたこともこれあり、中国経済の実態は、かなりのインフレだと私は見ています。

 賃金は上がっても、高付加価値経済にすればやっていけるというのが、中国の政策だったのかもしれませんが、高付加価値経済にするのは、そんなに簡単なことではありません。
 特に中国経済は、先進国の企業進出頼み、資本と技術が入ってくれば、大量の低賃金労働者の単純作業の熟練で世界の工場になれたのです。

 コスト高になれば、加えて、金利上昇によるアメリカのマネー引き上げなどがあれば、そこから自力で脱出するのには、長期の血のにじむ技術開発、生産性向上の努力が必要でしょう。

 結局、最も簡単な対応策は、人民元安ということになってしまうのも致し方ないことなのでしょう。
 海外進出を図るには人民元高の方がいいのでしょうが、そちらを多少犠牲にしても、中国本体の経済を立て直すことの方が先決でしょう。

 通貨安による経済立て直しは、ニクソンショック以来、先進諸国の常套手段になってきているのですから、正面切っての文句も多分ないでしょう。
 中国がどこまでの切り下げを考えているのか。その辺りから、中国経済の問題の深刻さが解るのかもしれません。

TPP 何を目指す?

2015年08月02日 10時49分43秒 | 国際経済
TPP 何を目指す? 
 かつて 「TPPの胡散臭さ」と書かせて頂きました。
 そのTPPがいよいよ決着の時期を迎えて、多様な意見の相違に喘いでいます。発展段階の違いや経済特性の違いを無視して、何でも同じようにすればいいという理屈は、最先進国には有利かもしれませんが、みんなの幸せには繋がらないものなのでしょう。

 日本もここまで来たらというのでしょうか、乗りかかった船というのでしょうか、何とかまとめたいと日米協力の姿勢ですが、全てはアメリカの意向で進んでいることで、決着の時期もアメリカの大統領選にリンクしているのです。

 日本は経済力があるから、多少の犠牲を払ってもTPPを進めたいと思っているのかもしれませんが、日本の経済力はもっと違った途上国の援助・育成といった施策に活用した方がいいのではないでしょうか。

 アメリカのもともとの発想は、発展するアジア市場を何とかアメリカの産業発展の舞台にしたいということなのでしょうが、アメリカ自体の産業が、自力で頑張るより、ロビー政策で何とかしようということでは結局は駄目でしょう。
 アメリカの万年赤字が、TPPがまとまれば解消するなどということは考えられません。であってみれば、次は更なる「何か」を考えることになるのでしょうか。

 アメリカが言い出したのか日本なのか解りませんが、TPPはアジアへの強力な進出を図る中国を、何とかして共通の経済圏に入れようとの意図もなどといわれます。TPPも進化するのかもしれませんが、そうしたアプローチには、恐らく別の方法論が必要でしょう。
 参加した国の中でもまとまらないものに、中国を巻き込もうとしても、一層まとまらなくなるだけではないでしょうか。

 アメリカはアメリカのメンツをかけて纏める努力をするでしょう。日本は、日本なりの協力の姿勢を取るでしょう。
 しかし、TPPが将来、世界に大きく評価されるようなものになる可能性があるでしょうか。二国間協議を多少広げた様なレベルで、何とか譲歩を引き出そうと細かい交渉をギリギリやっても、基本理念も曖昧、各国の損か得かのやり取りばかりのように見えます。
 
 TPPがまとまれば、アメリカ経済が健全になるというのなら結構な話でもありますが、そんな可能性は極小でしょう。

 もう少し各国の多様性を認め、自主性を認め、その中で、発展段階の違った国でも、それぞれに自力で頑張って、世界経済をより良いものにしていくようなアプローチもあるのではないでしょうか。

 そして、それには、先進国が自身の経済を健全化し、余裕を持って、途上国経済を育成支援していくような基本的哲学が必要なのではないでしょうか。

アメリカの危うさ、中国の危うさ

2015年05月06日 16時41分50秒 | 国際経済
アメリカの危うさ、中国の危うさ
 最近、アメリカは「アメリカがルールを作らなければ、中国がルールを作るだろう」などと中国に対する対抗心を露わにしています。中国はその資金力のモノを言わせてアジアからアメリカの裏庭まで黙々とインフラ援助などの活動を広げています。

 東西冷戦は終焉しましたが、新しい米中の覇権争いの匂いは次第に濃くなっています。
 歴史を見れば、対立抗争は何のプラスも齎さないことを教えているはずですが、人類はあまり歴史から学ぶことはしないようです。

 米中は共に、覇権への道を探りながら、時に首脳会談なども視野に入れつつ硬軟両様の構えもあるように見えますが、こうした政治的な駆け引きは別として、経済面から見ると、米中はそれぞれに危うさを内包しているというのが実態でしょう。
 そして、経済上の制約というのは、少し長い目で見れば、その国の基本的な性格や行動に影響してしまうのが常です。

 そうした意味で、アメリカ、中国双方の問題点(危うさ)を見てみると大略こんなことになるのではないでしょうか。

 アメリカの危うさは、いつも指摘していますように、既に40年以上、どんなに努力しても、経常赤字の体質が治らないことです。その為に、アメリカの覇権は「借金」の上でしか成立しないという弱さを持っています。
 結局アメリカの創るルールは、借金で覇権を維持するというアクロバット的な政策によらざるを得なくなるというのが現実の姿でしょう。

 一方中国は、大幅黒字を背景に、世界中に気前のいい援助そしているようです。しかし中国の1人当たりGDPはアメリカの8分の1、日本の5分の1ほどで(人民元が政策的に過小評価されているとしても)世界中に気前のいい援助をする原資は、国民の低所得の上に成り立っているということになります。
 人口が巨大だから、急速に成長した国だから可能なのかも知れませんが、何時かは、国内と対外政策のバランスの見直しを迫られる日が来ることは当然予想されます。

 こう見て来ると、米中共に、経済的な無理をしながら覇権争いをするという構図が透けて見えるような気がします。
 
 こうした、無理を重ねる覇権争いから、本当に平和で健全な世界づくりのためのルールが生まれてくるのでしょうか。最終的には、世界のためより自国優先に傾斜する可能性は否定できません。

 やはり、争うのではなく、相互の善意、親善をベースに、より良い共生、共存の世界づくりに協力するといったwin-winの関係を目指すべきでしょう。そしてそのためには国連というシステムを、世界中が協力して徹底活用する努力が必要なようです。
 さて、日本には何が出来るのでしょうか。

ワシントンG20とアメリカを見る目

2015年04月20日 09時44分48秒 | 国際経済
ワシントンG20とアメリカを見る目
 18日に閉幕したワシントンG20 についての報道の中では、「AIIBが存在感」などという見出しが躍りまし。
未だ形も見えていないAIIBが存在感を示したというのはどういう事でしょうか。

 中国が一人頑張ってみてもG20で存在感を示すことは不可能でしょう。存在感という言葉の裏には、参加国、参加者の多くが、AIIBに何か意義を見出し、それに期待する意識があって始めて存在感が出て来るのでしょう。
 まだ実体がないものに期待するということは、今あるものが期待外れだからということにほかなりません。

 現状はブレトンウッヅ体制に基づくIMF・世界銀行体制の延長ですが、経済力の付いてきている新興国は、IMFに対する出資を増やし、発言権も高めたいと考えるのは当然で、それに対してアメリカが、アメリカ議会の承認が共和党の反対で得られないという形で、事実上の拒否権発動となっているのは報道のとおりでしょう。

 AIIBについては「中国が拒否権を持つべきではない」と言っているアメリカの事ですから、常識的には、自分ならいいが中国なら駄目といった些かわがまま、あるいはあからさまな中国批判ということになります。

 確かにブレトンウッヅ体制は、アメリカ主導で世界経済発展のための高い志を持って出発し、日本もかつては、GATTの11条国、IMFの8条国を目指して、経済建設に努めた経験があります。

 しかし、アメリカが万年経常赤字国に転落、ドルをペーパーマネーにしたニクソンショック以降、ドル切り下げで経済の行き詰まりを回避し、真面目に努力をした日本には円の大幅切り上げをさせ、遂には、サブプライムローンの証券化で世界中の金融機関に大穴を開け、自らも返り血でリーマンショック、その処理に未だ目鼻がつかないのです。

 この間多様な形で、多くの国に 迷惑をかけたわけですから、国際金融はアメリカが主導する、アメリカは公平で透明だと言っても、説得力はあまりないでしょう。
 中国にはいろいろ問題はあるが、これまでのアメリカにも問題が多すぎる、というのが多くの国の意見ではないでしょうか。

 サラリーマンの世界に例えれば、今多くの国は、アメリカという上司の行動に問題を感じ、新しい上司が来ればいいと思っているのかもしれません。しかし、サラリーマンの世界によくあるように、次に来る上司がいい上司とは限りません。
 その中で日本の政府は何をすればいいのか、是は是、非は非として、日本として持つべき「志」を国民にも、世界にも語ってほしいと思います。

AIIB、中国、アメリカ、日本

2015年04月16日 15時30分13秒 | 国際経済
AIIB、中国、アメリカ、日本
 AIIBも57か国で参加国が決定となり、次の段階に進むのでしょうか。
 主要国で参加していないのはアメリカと日本ということですが、アメリカはすでにアメリカとしての積極的意思表明をしたようです。

 「世界銀行との連携を」というのがアメリカのメッセージということのようですが、アメリカはアメリカなりに、金融の国際秩序の問題も含めAIIBにどう対応するか前向きな方針を考えていることは明らかなようです。

 AIIBに最も近接した立場にあるのはアジア開発銀行でしょう。日本は、アジア開銀の歴代総裁を出すリーダー国ですが、日本の財務大臣などが発言したのは、報道されている所では、AIIB、あるいは中国についてのネガティブな発言ばかりで、AIIBが動き出すことを前提に、アジア開銀との関係なども含め、アジアの経済的開発をいかに進めていくかといった前向きの視点のものはありませんでした。

 その結果、いつでも入れる、様子を見る、動きを見定めてからでも遅くはない、などという全く主体性も積極的判断もない、全く腰の引けた様子見の態度に終始して来ています。

 日本と同様に健全経済を維持し、今やヨーロッパのリーダー役を背負わされているドイツのメルケル首相からの勧誘にどう答えたのかは知りませんが、ドイツも健全な経済や金融についての考えを共有できる、しかもアジアの国である日本に入ってもらいたかったのではないでしょうか。

 何を考えて、何を配慮して、日本としてのきちんとした前向きの発言をしないのか、主体的意思の持てない国なのか。数々の確りした経済・社会的な実績を上げて来ている日本がなぜに建設的な発言をしないのか、国民である我々が不審に思うのですから、多分世界中の国々もそう思うのではないでしょうか。

 やることは一人前だが、世界の問題に積極的な発言をするのを何故かためらっているような日本、などという見方が一般化しないように、政府には少し「日本としてはこうあるべきだと思う」と「インパクトのある発言」をして頂くように頑張ってもらいたい気がします。

 

所得格差と資産格差、日本の経験 4

2014年09月19日 10時37分19秒 | 国際経済
所得格差と資産格差、日本の経験 4
 1980年代前半までの、「安定成長の維持、低インフレ、低失業率、小さな所得格差」の時代が続けば、日本は「ジャパンアズナンバーワン」と言われた良き時代を中・長期的に維持できたのではないかと私は考えています。

 理由は日本の経済主体、消費者、企業、政府の行動が、比較的バランスが取れ、労使の付加価値配分のバランス(労働分配率)も適切で、問題のあった官民バランス(国民負担率)についても、土光臨調(1981~)のようなバランス回復努力が真剣にやられていたからです。

 しかし国際環境はそうした安定を許しませんでした。欧米諸国は自分たちが、賃金インフレによる「コスト高」に苦しむ中で、唯一、労使の賢明な判断で、コスト高の進行を避けている日本に対し、コスト高にすることを要請してきました。

 これが「プラザ合意」です。お人好しの日本は、余裕もあったので寛容に「円の切り上げ」を認めました。当時$1=¥240からせいせい¥190ぐらいと読んでいたと言われますが、結果は2年後に¥120になりました。
 つまり日本は2年間で、賃金も物価も2倍になるという超インフレをやったことになり、世界で最も賃金も物価も高い国になりました。

 日本の持っていたドル債などの価値はドルでは変わらなくても円では半分になり、コスト高で製造業中心に企業は海外に出て行き、日本産業の空洞化が言われることになりました。

 つまり、経済パフォーマンスの良い国に対しては、通貨高を強いることにより、その国の富(蓄積資産)を海外に移転させることが可能ということを実証したのがプラザ合意でしょう。その結果、日本はリーマンショックの円高も加えて、「 失われた20年を経験することになりました。 これは中国に対する人民元高要請も理屈は同じです。中国は容易に応じていません。

 これが、通貨価値の変動で富=資産の国際的移転という経済政策を生み、さらには金融工学に発展して、資産(資本蓄積)を生産活動に活用するのではなく、マネーゲームで「金が金を生む」マネー資本主義に行き着くことになりました。
 サブプライムローンの証券化による海外からの資金獲得、その破綻による世界中の金融機関の大穴は保障されることはありません。

 日本の名目GDPは1997年に523兆円をピークに減少、今年度で漸く500兆円回復の予定という状況で、実質GDPでも、2007年のピークから縮小に転じ、昨2013年やっとその水準を回復しました。
 その結果、OECDの中でも平均より貧しい方の国に転落しました(実質1人ありGDP:1990年初頭6位、2012年18位)。

 こうして、国際的に富(資産価値)が移転し、生産活動も不振になり、国民経済が劣化するとき、国内では所得格差の拡大が起きるようです。(以下次回)

BRICKSの開発銀行設立

2014年07月17日 09時47分23秒 | 国際経済
BRICKSの開発銀行設立
 われわれ市井の人間にとっては突然飛び込んできたニュースですが、もう2年も前から進められてきたものだそうです。
 
 確かに、いまのIMF、世界銀行の中では、拠出額の少ない途上国は、余り発言権がないのでしょう。正直言って実体は知りません。しかしIMF第2位の拠出国の日本でさえ、異常な円高を強いられて、「失われた20年」を経験しなければならなかったことから見ても、新興国はIMFや世銀を「メインバンク」として頼りにする気にはならないのかなと考えてしまします。

 であってみれば、新興開発国が、それに代わる頼りになる国際金融機関を作ろうと考えるのも当然かもしれません。

 もちろん必ずしも主要国の横暴というのではなく、主要国の金融機関が、主要国が認めるマネー資本主義の中で、巨大なマネーを動かして新興国の経済に混乱をもたらすといったことも大きな問題でしょう。

 新興国はインフレになり勝ちです。マネーゲーマー達には、それはビジネスチャンスで、為替や金利の変動をより大きくし、そこからキャピタルゲインを得るのです。途上国の経済に与える影響より、自分のマネーメイキングが大事なのは言うまでもありません。

 ニュースを見て、私などは、新興国として当然の動きかな、などと思うのですが、BRICKSの中では、中国に主導権を握られるのを恐れているという事です。

 考えてみれば、アメリカが最大の拠出国で主導権を握るIMFが頼れないから、別の国際金融機関が必要という事なのでしょうが、そこで中国に主導権を握られてしまったのでは、IMFの二の舞になりかねないという心配もあるでしょう。

 外電では、アメリカの学者やマスコミが、「中国封じ込めが最大の課題」などと伝えていいますし、BRICKS自体も、それを避けるために拠出金額は平等にし、総裁はインドから出すことにしたそうですが、矢張り、本店は上海に置くと決まったようです。

 アメリカ自身が、国連をジュネーブからニューヨークに移し、IMF、世銀の本部はアメリカにおいて主導権を握る一方で、ユネスコやILOの本部はパリやジュネーブのままで、アメリカは都合が悪いと、脱退を言ったり、拠出金を支払わなかったりしているのですから、中国についての心配をアメリカが言うのは、極めて解り易いですね。

 アメリカはアメリカ、中国は中国として、私ども新興国の健全な発展を願うものとしては、此の新たの国際金融機関が、本当に新興国、途上国の役に立ち、頼りになる優れた金融機関として、順調に発展することを願うばかりです。

為替レートとゴルフのハンディ

2014年07月15日 09時48分27秒 | 国際経済
為替レートとゴルフのハンディ<2009年2月6日付のリメイク版>
 このところ集中的に物価問題を扱ってきました。先ずインフレについて、それからスタグフレーション、そしてデフレです。そうした中から見えてきたのが、物価問題と為替レートとの関係でした。

 固定相場制の時代は物価問題は単純でした。「自家製インフレ」さえ阻止するような労使関係、賃金決定を守っていけば、経済は健全に維持できました。
 しかし、アメリカ主導による、「変動相場制+マネー資本主義」という経済環境の中ではそうはいきません。

 日本のように、一国経済としてのパフォーマンスがいくら優れていても、大幅円高にされれば、デフレ転落は避けられません。
 固定相場制時代、円レートは$1=¥360でした。プラザ合意とリーマンショックでそれが、$1=¥80近辺(史上最高は75.54円)まで円高になりました。こんな国は世界のどこにもありません。

 かつては「円が高いことは日本の経済力の高さの反映だから喜ばしいことだ」などという専門家もいましたが、円高による「失われた20年」で塗炭の苦しみを味わった今はそんな人はいません。

 円高という現象は、ゴルフのハンディに例えるのが一番良いと思っています。ハンディ36(360円)から出発した日本は、ニクソンショックによる変動相場制移行でハンディ24($1=¥240)になりました。
 その頃の日本の実力は真面目な練習(生産性向上努力)の結果、ハンディ20~22相当でしたから、コンペでは常勝、まさに「ジャパンアズナンアバーワン」でした。

 たまりかねた欧米諸国は「プラザ合意」で日本を説得、ハンディを12($1=¥120)にしました。実力20でもハンディを12にされたらもう勝てません。一生懸命練習(失われた10年)して、たまには3位入賞も出来そうという時期に、リーマンショックでハンディ8のシングルにされ、ピークで7.5だとも言われました。失われた10年は20年に延びました。

 シングルは名誉ですが、名誉では飯は食えません。黒田日銀はアメリカに倣って超金融緩和政策を取り、$1=¥100(ハンディ10)に戻してもらいました。
 日本経済は何とか息を吹き返しました。

 プラザ合意の時は、一応挨拶がりました。しかしリーマンショックの時は、国際投機資本が勝手に日本のハンディを決めています。

 G8でもG20でも、為替相場の安定は言われ、行き過ぎたマネーゲームの阻止の論議もされます。しかし、実効は上がりません。
 理由は、基軸通貨国アメリカが、万年赤字で、マネーゲームによるファイナンスを必要としているからだなどと言われます。
  この問題もこのブログの重要テーマの一つです。

ファンドの欲望・アルゼンチンの対応

2014年06月23日 15時43分50秒 | 国際経済
ファンドの欲望・アルゼンチンの対応
 今日、新聞の朝刊にアルゼンチン政府の全面広告が出ているのをご覧になって、驚いた方は多いと思います。私も正直驚きました。
 一国政府が外国の新聞に全面広告を出すといったことは、あまり見たことがありません。余程困って、世界の世論に訴えたいということなのでしょう。

 主な内容は、
・アルゼンチンは2001年のデフォルト以来、経済再建に努力している。
・大部分の債権者は債務カットに協力してくれている。(注:92パーセント)
・一部のヘッジファンドがアメリカの連邦裁に提訴し、全額返済を認められた(グリーサ判決)。
・ファンドはデフォルト債を安く買って、17倍に増やそうとしているのだ。
・これを認めれば、債務カットの応じた債権者は黙っていない。
・そうなればアルゼンチンは再びデフォルトで、再建努力は水泡に帰す。
・多くの国、国際機関、専門家も、判決に懸念を表明している。
・公正でバランスの取れた司法判断を期待する。

 同様な全面広告はウォールストリートジャーナルが皮切りだそうですが、マネー資本主義の、カネ、カネ、マネー、マネーの醜い面丸出しの事件のように感じます。

 何年か前、このブログで、「ファンドの敗北」というタイトルで書か出ていただきました。また、「労『資』関係の復活?」というテーマでも書かせていただきました。
 
 資本主義勃興の初期に露わだった、資本の強欲が労働者や他のすべてを犠牲にしても資本の増殖だけに邁進するという「カネに弱い人間性」の側面は、マルクス思想、福祉国家の理念、企業における経営者革命などなどによって、超克されてきたと思われてきました。

 しかし近年アメリカ主導のマネー資本主義、その手段としての金融工学の発展などが、再び「資本原理主義」とでもいうべき、カネで金を創るという作業に専念する人達(例ヘッジファンドなど)を生んだようです。

 折角、資本主義の進化が、資本主義は経済成長を進め、技術革新を促進して、「人類社会を豊かで快適なものにする」ためという方向を見出してきた20世紀後半から21世紀にかけての人類社会の進歩の中で、「資本の強欲の復活」は許されるべきではないでしょう。

 勿論アルゼンチンの行動も、多少確りしていません。頑張って債務返済に努力して来たのに疲れたのでしょうか、ここ3年ほどは経常収支が赤字になり、外からのファイナンスが必要になっています。

 しかし対応すべき方向は、そこから金をむしり、デフォルトにして再建努力を水の泡にするのではなく、「稼ぎの範囲で生活し」借金をより早く返せるように努力することを支援するという事でしょう。
 関係する方々の、資本の強欲と支配ではなく、「人間が主人公」の世界経済の健全化、人類社会全体の着実な前進を見据えた対応を期待したいところです。
 

賃上げ、金融政策と物価の関係 3

2014年03月17日 10時49分18秒 | 国際経済
賃上げ、金融政策と物価の関係 3
 最後に最も強力な「物価水準決定要因」が登場します。それは「内外価格差」です。
 国際化、グローバル化の今日です。電力のような国内限定の生産・消費構造のものや、TPPの例外5品目のように、政策的に、国内価格と国際価格が切り離されているもの以外は、モノであれ、サービスであれ、日本の国内価格だけが外国の水準より高いということは成立しません。

 例え言えば、隣の店でウチより安く売っていたのでは、ウチには誰も買いに来ないようなものです。
 国内のマーケットでも、今では、外国から安いものがいくらでも入って来ます。国際航空運賃、国際通信料金などでも国際競争は熾烈です。
 国内旅行の代金が高ければ、簡単に海外旅行に乗り換える時代です。高かった国内旅行の料金も今では随分安くなりました。

 つまり、日本の物価は常に海外物価と比較され、海外より物価が高ければ否応なしに下げざるを得ないのです。
 御存じのように、1985年のプラザ合意と2008年のリーマンショックで1ドルが240円から80円という極度な円高状態になり、その結果日本はコスト(含賃金)も物価も世界一高い国になりました。我々の経験した長期デフレというのは、そうした高コスト、高物価の状態から、賃金水準を下げ(非正規労働を増やし)、あらゆるコストカットをやり、リストラをやって、物価を国際価格並みに下げるプロセスでした。

 そして、その最後の仕上げが、昨年4月の日銀の政策変更による20円の円安実現だったというわけです。
 さてこれで日本の物価は国際価格並みになったのでしょうか。現実はまだら模様で、なった所はデフレが終息、まだ高い所はデフレから抜け切れていないというのが実態でしょう。

 内外価格差の解消は、
① 日本の物価が下がるか、
② 外国の物価が上がるか、
③ 円安になるか、
この3つの動向次第ということになります。

 現政権はアベノミクスの第3の矢でデフレ脱出などと言っていますが、それにはもう少しのコストダウン、価格引き下げが必要でしょう。それよりも、あと5円か10円、円安にすれば、デフレは多分雲散霧消でしょう。
 しかしそこまで行くと、「日本は為替操作国」というレッテルを張られるかもしれません。

 では、今、日本は、デフレ脱出のために何をしようとしているのでしょうか。その為のプレーヤーは政府であり、日銀であり、今春闘の渦中にある「労使」なのです。
 さて、日本の戦略はうまくいくのでしょうか。次回はその辺りを見てみましょう。

中国の経済発展:1つの見方

2014年01月22日 14時33分13秒 | 国際経済
中国の経済発展:1つの見方
 中国の貿易依存度につては、これまでも2度ほど書いてきました。私はかつて下村治博士が指摘していた「貿易依存度はその国の人口の規模に関係がある」という考え方に基本的に賛成で、そんな目で各国の貿易依存度を見て来ました。 そうした目で見ると中国の貿易依存の大きさが大変気なっていました。

 貿易依存度は、「(輸出額+輸入額)/名目GDP」という形で計算されます。日本の場合は大体20~30パーセントですし、アメリカは20パーセント前後です。
 もちろん、貿易依存度に影響するのは人口規模だけではありません。新興国の場合は一般的に貿易依存度は高いですし、また、貿易自由化の程度によっても当然影響を受けます。
 グローバル化の進展は当然貿易依存度を高めますから、アメリカの貿易依存度も長期的には高くなってきています。

 御存じのように、香港やシンガポールの貿易依存度は100パーセントを越えてますが、これは人口が少ないからで、日本やアメリカはどんなに自由化してもそうはなりません。

 EUでもベネルックス3国のような小さな国は貿易依存度が高いですが、EUを1つの国と見れば、殆どが域内の輸出入になって、貿易依存度は小さくなります。もし世界中が1つの国になれば、貿易依存度はゼロです。

 こうした前提を置けば、人口13億人を有する中国の貿易依存度が50パーセント前後で、自由化が進んでいて人口が3億程度のアメリカやEUよりも大幅に高いのは何故だろうかということになります。

 これは恐らく中国経済には国際貿易などに関わりない在来部門が未だ大きく残っており、その部分の人口を差し引いて考えないと先進国との比較は適切でない(これは新興国にはある程度共通の現象で、中国の場合著しい?)ということではないでしょうか。

 今回発表の中国の経済成長率7.7パーセントが「内需拡大中心の経済に移行」の成果という解説がありましたが、もしそうならば、中国国内の均質化が次第に進み、国内生産・国内消費が進んで、貿易依存度は徐々に下がってくると考えられます。

 JETRO発表の中国の輸出入とGDPの統計から貿易依存度を計算しますと、2006年の65.2%がピークで、2012年には47.0%まで下がってきています。
 中国内部の経済的均質化が進み、在来部門の近代部門への脱皮、国内の格差是正が進捗すれば、これは中国の政治・経済の安定化にもつながり、同時に、異常に高い貿易依存度の低下傾向を生むことが考えられます。

 中国の安定発展は、日本、アジアにとっては勿論、世界にとって大変望ましい事であることを思えば、今後、継続して順調に中国の貿易依存度が低下していくことを願いつつ、その動向を見守るというのも、中国観察の1つの見方ではないでしょうか。


良薬はイヤ、当面の安定を優先へ

2013年10月11日 11時59分10秒 | 国際経済
良薬はイヤ、当面の安定を優先へ
 来年4月からのFRBの長官にはイエレン女史が決まるようです。金融緩和論者でバーナンキさんの跡継ぎにはいいのでしょう。

 イエレン女史は、議長就任が正式に決まれば、雇用の最大化と物価安定、金融システムの安定化を促進するため最善を尽くすと表明されたようで、アメリカという病人に対して、「手術よりも保存療法で」という立場のようです。
 それで元気になったら、ぼつぼつ手術(出口戦略)を考えるという事でしょうが、手術が出来るほど元気が回復(経常赤字改善)するとは思われません。

 雇用を大事にするということはいいことですが、そればかり重視していては、何時まで経っても出口は来ない可能性が高いように思われます。

 今回も、シェールガス・オイルという強力なフォローの風が吹いたのに、それを最大限有効に活用しようという国民の気概は希薄で、すでに省エネは忘れて、ガソリンがぶ飲みのフォードのピックアップの売り上げが大幅増などという報道もあります。

 為政者が、アメリカの真の危機を訴え、国民に、多少厳しくとも、こうしたチャンスをとらえ、健全なアメリカへの回帰を促すような方針が明示が出来ないものかなどと考えてしまいます。

 共和党も最終的には、負債の上限の引上げに(暫定という条件を付けながらも)賛成するでしょうし、問題は当面の弥縫策に矮小化され、近い将来また同じ問題が繰り返されることを知りながら、当面を糊塗することに終わるのでしょう。

 日本でも世界でも、此の所そちらを歓迎する状況のようで、為替や株価にそうした反応が端的に示されています。
 アメリカは世界のために金融緩和や財政政策をやっていてくれるという解釈も成り立つのでしょうが、最終的には、二日酔いに「迎え酒」のたぐいで、問題の本質解決は遠のくばかりです。

 折しも、G20、G7です。いつか誰かが本質論を言い出さなければならないのでしょうが、苦い良薬は飲みたくない、矢張りこのままダラダラということになるのでしょう。
 日本はその辺りを十分理解しながら、今後の内外政策を考えて行くべきでしょう。