株式会社は、一定の日を定めて、その基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主をその権利を行使することができる者と定めることができる(会社法第124条第1項)。そして,基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から3か月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない(同条第2項)。
この基準日を設定する趣旨は,「基準日前に名義書換未了の株式譲受人に名義書換えをする機会を保証する必要がある」(江頭憲治郎「株式会社法(第5版)」(有斐閣)216頁)からと解されている。
したがって,株式の異動がほとんど生じない中小企業においては,例えば臨時株主総会を招集する場合においても,基準日を設定せずに手続を進めることが多い。
ところが,株式分割をするためには,例外なく,基準日を定めることが必要である(会社法第183条第2項)。株式分割に係る基準日について定款の定めがない場合には,当該基準日についての公告を2週間前に行うことを要する(会社法第124条第3項本文)ため,決議後2週間後以降の日を基準日として定める必要があり,相応の日数を要することとなる。
そのため,実務においては,「株主全員の協力が得られるならば,株主総会の決議の省略(319条)により定款変更をして株式分割の基準日をその株主総会の日に設定し,取締役会でその日を効力発生日とする株式の分割の決議を行えば,1日で株式の分割を行うことも可能である」(相澤哲ほか編著「論点解説 新・会社法」(商事法務)187頁」に依拠して,公告を要しない方法により手続を行うことも多い。
拙編著「会社法定款事例集」(日本加除出版)302頁~304頁においても,その理解の下に,定款変更の具体例を紹介している。
ところが,「アムスク株主総会決議取消請求訴訟」において,東京地裁(平成26年4月17日判決)は,「当該定款の定めは,基準日の2週間前までに存在することが必要である」と判示しており,東京高裁(平成27年3月12日判決)もそれを維持している。
cf. 山田和彦「アムスク株主総会決議取消請求事件と実務への影響」旬刊商事法務2014年7月25日号(商事法務研究会)17頁以下
「新商事判例便覧3147」旬刊商事法務2015年4月5日号(商事法務研究会)92頁
TKCローライブラリー
https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-050691121_tkc.pdf
判旨は理解することができなくもないが,そもそも論から言えば,株主が権利を行使することができる数多の手続において,何故株式の分割の場合のみ基準日の設定が必要不可欠であるのかという疑問がある。
公開会社においては,もちろん必要ということでよいであろう。
しかし,臨時株主総会の招集の場面でさえ基準日を設定しなくても支障がない「公開会社でない株式会社」において,敢えて株式の分割をする場合にのみ基準日の設定を強制する合理的理由はないであろう。
上記東京地裁判決の射程は,公開会社にのみ及ぶと解すべきである。
そして,「公開会社でない株式会社」が定款変更をして株式分割の基準日をその株主総会の日に設定し,取締役会でその日を効力発生日とする株式の分割の決議を行う場合において,株主全員の賛成が得られているときは,適法であると解すべきである。
「公開会社でない株式会社」において,株主全員の賛成が得られなくても,株主総会の特別決議により定款変更が有効に成立するのであれば,「即効型」も有効と解してよいと思うが,今後の実務においては,「即効型」は,定款変更について株主全員の賛成がある場合に限定して考えるのが手堅いというべきであろうか。