司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

非営利株式会社

2013-04-01 10:18:03 | 会社法(改正商法等)
 株式会社は,「営利社団法人」である。

 したがって,会社法第105条第2項は,株主から「剰余金の配当を受ける権利」及び「残余財産の分配を受ける権利」の全部を与えない旨の定款の定めは,その効力を有しない旨を定めている。

 それでは,株式会社が,その事業に係る収益を株主に還元することを欲せず,次のような定款の定めを設けて,運営することは可能であろうか?

 (剰余金)
第○条 代表取締役は,配当可能な剰余金の全額を社会貢献積立金として内部留保し, 適宜な時期にその積立金を社会貢献活動に携わる人や団体に対して寄附するものとする。

 (残余財産)
第○条 当会社が解散した場合(ただし,合併又は破産によって解散した場合を除く。)に おける残余財産は,解散に関する株主総会における決議を経た上で,その一定額を社会貢献活動に携わる人や団体に対して寄附することができる。

 これらの定款の規定は,会社法第454条第1項の剰余金の配当に関する株主総会の決議や,第504条第1項の残余財産の分配に関する清算人の決定を排除するものではないから,上記会社法第105条第2項の「全部を与えない旨」には該当しないと考えられる。

 したがって,これらの定款の規定は,有効であると言えるであろう。

 ところで,これらの定款の規定を設けて運営を図らんとする株式会社が,自らは「非営利」の株式会社であるとして,「非営利株式会社」と称することは,可能であろうか?

 実例としては,既に「非営利株式会社ビッグ・エス インターナショナル」「非営利株式会社PTA」「非営利株式会社じょんから」などが見られるようである。

 違和感バリバリであるが・・・。

 下記小松論文128頁によれば,「非営利株式会社○○」「○○非営利株式会社」「非営利○○株式会社」は,法務局からOKが出たが,「非営利『型』株式会社」タイプについては,本省照会の結果,ダメ出しがされたのだという。


cf. 内閣府委託調査「平成19年度豊かな公を支える資金循環システムに関する実態調査報告書」by 三菱総研
http://www5.cao.go.jp/keizai2/2008/0623yutakanaooyake/mokuji.pdf#page=3


「非営利型株式会社」を巡る論点、主な事例
http://www5.cao.go.jp/keizai2/2008/0623yutakanaooyake/honbun12.pdf#page=10

小松章「非営利分野における株式会社の新しい可能性について」
http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/16264/12/0410800502.pdf


道野真弘「営利企業たる会社は,『非営利の』行為としての社会的責任を負担しうるか」
http://barrel.ih.otaru-uc.ac.jp/bitstream/10252/243/1/%E7%AB%8B%E5%91%BD%E6%B3%95300301_489-520.pdf


 ところで,目的の「営利性」について,登記実務においては従来(平成17年改正前商法時代)より,収益性を要すると解されているが,一般社団法人及び一般財団法人の目的について,構成員への分配可能性が完全否定されている限り,「何ら制約はない」と解されていることの裏返しで考えると,株式会社の目的についても,構成員への分配可能性が担保されている限り,「何ら制約はない」と解してもよいのではないか。すなわち,収益性は要しないと考えてもよいということである。

 要は,「株式会社」とは,「会社法の手続に則って『株式会社』として設立され,運営される会社」に尽きるのであって,(少なくとも会社法においては)目的が何であるかは問わないと考えるべきではないだろうか,である。

cf. 平成18年6月12日付け「会社の目的の営利性」

 というわけで,「転向」したことになりますかね。
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