Altered Notes

Something New.

ギル・エヴァンス「時の歩廊」リマスター盤への不満

2019-02-10 01:12:11 | 音楽
ギル・エヴァンスが残した作品はどれも重厚で価値の高いものばかりだが、その一つに1975~1976年に録音された「時の歩廊(There comes a time)」というアルバムがある。ギルの円熟期の作品であり、革新的なアレンジとサウンド作りは高い評価を得ている。パーソネルでちょっとユニークなのはトニー・ウィリアムス(ds)が参加していることだろう。また、川崎燎(g)が参加しているのも魅力的なポイントである。

このアルバムの1曲目はジェリー・ロール・モートン作の「キングポーターストンプ」だ。これはギル・エヴァンスが過去にキャノンボール・アダレイをソロイストに迎えて一度演奏している馴染みの曲であるが、「時の歩廊」においてはアレンジはほぼ変わらないが味付けに於いては極めてモダンなサウンドで仕立てられており、ソロイストにデビッド・サンボーン、ドラムにトニー・ウィリアムスが入って猛烈にスウィング(グルーヴ)する演奏となっている。また、川崎燎のギターが時おり絶妙なタイミングで入ってきて音楽的な緊張感を高めることに成功している。

ところが・・・である。

ギル・エヴァンス「時の歩廊」は最初のリリースから数年後になぜかミキシングが操作されてリマスター盤なるものが登場してきた。このリマスター盤のサウンド設計がオリジナル盤に比較して少しおかしいのである。「キングポーターストンプ」を最初の盤とリマスター盤で聴き比べれば明白だが、なぜかリマスター盤では木管(サックス)のサウンドがやや前面に押し出されていて金管(ブラス)のサウンドは少し奥に引っ込んでいる。さらに川崎燎のギターの音がほとんど聴こえなくなってしまったのだ。最初の盤で川崎燎がどのようなプレイをしていたか知っている人ならばギターの音が微かに聴き取れるであろう。注意してよく聴けばかろうじて聴き取れる程度には鳴っているのだ。しかし、リマスター盤から聴き始めた人なら川崎燎がプレイしていることすら認識できないほどギターの音がほとんど聴こえない・・・そんなリマスター盤になっているのである。これはいかがなものか。単にギターが聴こえないということではなく、この曲で川崎燎は派手ではないが実に良いプレイをしているのだ。ホーンセクションのアンサンブルの隙間に聴こえてくるギターのアドリブフレーズは実にスリリングで歌心がありグルーヴ感に満ちていてそのシーンにマッチした演奏を提供できている。また、コードのカッティングプレイが明確に聴こえる場面もあって、それが曲のリズミックな側面に寄与している演奏だったからこそリマスター盤でギターの音をほとんどカットしてしまった事に幻滅し絶望しているのである。

また、前述のようにリマスター盤ではサックスセクションのサウンドが比較的前面に押し出されており、これがオリジナル盤のサウンドを知る者にとってはサウンド全体を見通した時に一種の不自然さを感じさせバランスを欠いているような印象を与えてしまっていることは記しておかなければならないだろう。どのようなコンセプトでこの不自然なリマスター処理になったのか全く理解できないのである。

現在販売されているCDはすべてがリマスター盤であり、つくづく残念に想うところである。


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参考資料
ギル・エヴァンスがつくった2種類の『時の歩廊』