【眩しさやビューと吹く風花開き】哲露
世界最大の家具販売店といえば、言わずと知れた「IKEA」である
わが伝統工芸の国、日本でもいまやファストファッションとIKEAが隆盛を誇る。
主人公はノルウェーで40年に渡り家具店を営んできたハロルド。
その店の前に、ある日突如IKEA」が出現した。
職人気質のハロルドは強気で商売を続けた。
街の名士でもある彼は自分の方針の正しさを疑わなかった。
しかし、わずか半年後には閉店に追い込まれ、認知症の妻も先立ってしまう。
IKEAはまさにハロルドにとって、北欧の黒船だったのだ。
築き上げてきたものをすべて失った初老の男の喪失が切ない。
思えば、幼年期に暮らした町の商店街もいまや死滅してしまった。
通学路にあった電気屋さんのおじさんおばさんは元気いっぱいだった。
近所の喫茶店のマスターの作るカツサンドはどこよりも美味しかった。
自営業の忙しさからよく出前を頼んだ中華屋の五目そばやとんかつ屋のヒレカツ弁当ももう食べることはできない。
取材で訪れた北陸の商店街は、10年前にすでに寂れていた。
東北は震災と放射能による人災で過疎化にさらに拍車がかかっている。
世界各国、資本主義の行き着く先は、大資本の勝利、株主と資本家の天下でしかないのだろうか。
そんな虚しさでハロルドを追っていく。
焼身自殺も失敗した男は、ふとしたことで、その資本家と遭遇する。
代々の家具店を潰された男と潰す要因を作った男が出会ってしまったのだ。
ときに、シリアスに、またコメディタッチに物語は進行する。
酒乱で寂しがり屋の母を持つエバが、「IKEA」創業者のカンプラードの誘拐に加担する辺りから動き出す。
それぞれの信念は違えど、それぞれに確固たる考えを持つ二人の男。
そこには懸命に生きる人間の姿が投影されている。
そして、独りよがりの母を突き放せないエバの健気が愛おしい。
現代のあらゆる悲劇、喜劇、およそ時勢が凝縮されている。
ハロルドがふたたび笑える日はくるのだろうか。
ほぼ三人で構成された作品、金をかけずともヒューマンドラマを描ける。
いいや、金がかかっていないからこそ、市井の日常を映し出せるのだ。
ハロルドが笑うその日まで。
形あるものはいつか崩れる、その刹那を等身大でセンチに、じんわりと包んでくれる。
4月16日より公開スタート!
静謐な大気、大雪原に放たれた花火やネオンの煌めきの一瞬が美しい。
花開きの週末、北欧の男の温かな白い息を思い浮かべる