車寅次郎こと渥美清の像
「河川敷寅に金八スカイツリ」 鶴輪
久しぶりの吟行である
秋晴れというより、小春日和といった感の土曜日は凛とした空気に包まれている。
お馴染み、寅さん像で待ち合わせ。
ここでも人気の寅さんは、ご年配方からカメラ責めにあっている。
雨にも風にも負けず、男はつらいよ、なのだ。
駅前の出店を冷やかし、帝釈橋を越える。
緩やかな陽射しのなか、風情たっぷりの参道を行く。
なんともはや、いい休日だ。
こちらが「男はつらいよ」の舞台になった団子高木屋さん。
よもぎの利いた苦味が餡と合うのだね。
この場で食うのもいいし、お土産にもぴったりだ。
蕎麦屋まで待ちきれないと、作家は揚げ餅を頬張る。
甘塩っぱくモチモチとした食感が癖になるとか。
お腹が溜まっては、ビールの味が落ちると、私と呑み助の先輩らは我慢。
でも、軒に連なる買い食いは日本人のDNAでもあって、ちょっぴり羨ましい。
帝釈天
和尚姿の笠智衆さんがふらりと現れそうな趣だ。
重厚な木造の門をくぐって、帝釈天に参る。
手水場にいらっしゃるのが、これも有名なお蛇さま。
これぞ、金運。
ああ、ありがたや、ありがたや。
想像もつかないような年月を経たお松さまがお出迎えなり。
手を合わせ、名所の庭と彫り物を見学し、お寺を抜ける。
土手の先に見ゆるそこは、豊富な水を湛える江戸川。
矢切の渡し
「名作の出来る所以や墨田川」 酔徹 (天)
完全武装がアホらしくなるほどの陽気に、顔もホクホク。
ギィーコ!ギィーコ!
和舟を漕ぐ音が広々とした波間にひびく。
花見に似合う陽光が眩しい。風もなく、ゆるりとした波にいい按配だ。
鬼平もこんな気分で大川を渡ったのだろうか。
この日の吟行のお目当ての一つは、野菊の墓。
そう、1906年1月、雑誌「ホトトギス」に発表された伊藤左千夫の小説である。
劇場版は、山口百恵さんと、松田聖子さん主演のものが記憶に浮かぶ。
私が生まれるより以前にも「野菊の如き君なりき」というタイトルで二本撮られている。
年代により、映像のイメージが違うと思う。
皆さんの目には、どんなモノクロームが浮かぶのだろうか。
野菊のこみち
矢切ネギ畑
矢切り葱というネギを筆頭に、キャベツやらワケギなど広大な畑が広がっている。
そんな農道が、野菊のこみちと名付けられていた。
土の柔らかさと、長閑な風に吹かれていると、ここが都会にほど近いというのを忘れてしまう。
少々遠回りしたが、これぞ大人の遠足。
童心に戻って、凸凹道をえっちらおっちら、野菊の丘を目指す。
なんてことない日常に愛おしさを胸に刻む行軍となった。
ああ、野菊や~、矢切ネギや~、お民さ~ん♪
しょうもない端唄の一つも出ようというもの。
耕作のご苦労を肌で感じ、日頃口にできるありがたさを吸い込んだ。
野菊の墓の文学碑
丘の上には、小さな掘っ立てと碑がある。
伊藤左千夫の生家や墓の写真も展示してあった。
本作を書きながら、小説家自らが泣いたという。
それが名作といわれる所以であろうか。
野菊
坂道で、優女さんが偶然みつけた野菊。
文学の神様が心と目に宿ったかな。
帰路は舗装路で。
土手の見事な枝垂れ柳に、吉原の見返りを想う。
いつかこんな風情を戻せたらいい。
「柴又や来てみたけれど吾亦紅」 優女 (地)
江戸川のたゆたう流れに任せ、われ何想う。
前編は、優女さんの逸句で〆よう。
蕎麦処、やぶ忠の句会、後編につづく