週刊浅草「江戸っ子瓦版」 -のんびりHiGH句な日々-

文学と食とRUNの日々を、PHOTO5・7・5で綴るエッセイ♪

創作フレンチのマジックとは!?

2017年02月26日 | 呑み屋探訪(代々木界隈)


『折り紙、フォアグラ』


【フレンチの魔法をかけて寒桜】哲露

 
 予約の取れないレストランに予約ができたので行ってきた。

 代々木上原から住宅街を歩くと、小綺麗な一軒家がある。

 その名は、セララバアド。

 スペインのエル・ブリに始まり、マルティン ベラサテギ、サンパウ、タパス モラキュラーバー、nomaなど。

 名だたる海外のイノベーションフレンチで修行した橋本シェフ。

 ガストロノミーとは、古典であり、食のバイブルと謳われるブリア・サブランの「美味礼賛」が起源。

 ここセララバアドでは、現代版のモダンガストロノミーを提唱し続けている。

 冒頭に掲げた写真は、根セロリの折り紙、味噌を加えたインカのめざめと脂でソテーしたフォアグラ。

 折り鶴はとても食べ物とは思えないビジュアルだ。

 美味しい。だけど、どこに入ったかわからない感覚。



手の込んだ可愛らしいメニュー


『毛玉ビーツ』
 
 
 食前に、温と冷、見事に分かれた不思議な日本酒。柚子がアクセント。

 そして、細く繊細に仕上げたビーツは妖艶で、インパクト大だ。

 口に入れたらあっという間に溶けた。



『林檎とチーズ』
  

 林檎は飾りで、中のチーズで巻いたアイスだけを食べる。

 白ワインに合うが、この段階でデザートを味わった気分。

 

『ペアリングの日本産ワイン』


『冬の大地』 


 黒オリーブのパウダーをまぶしたピュレは大地のイメージ。

 小さな冬野菜が植わっている

 これは、楽しい見た目以上に美味だ。


 
『豚と栗のカルドッソ』


 豚のホホ肉を煮込んだスペイン風リゾット。

 シェフ自ら、たっぷりのチーズをかけてくれる。



『百合根とトリュフ』

 
 百合根のエスプーマにトリュフの香りのミルクの泡。

 黒トリュフを贅沢に散らしてある。

 鶏の出汁が後から広がる。




 焼いた石に乗せた海藻、海辺に立った印象を与えてくれる。

 蓋を開けると、帆立、洋梨が燻製に。

 トマトなど野菜とナッツのソースが複雑に絡まっている。



『紀州の鴨と黒にんにく、葱など』


 鴨とネギの相性は当然ながらいい。

 白葱に入っているソースは、葱の緑の部分をソースにしたもの。

 林檎のピュレをつけていただく。

 葱を焦がしたパウダーが撒いているのが斬新だった。


『モンブラン』


 白いメレンゲの板を退けると、栗のモンブランクリームがある。

 いちごには、結晶を形どったシュガーか。

 この前に、写真を撮る隙もなく『白い吐息』が出た。

 早く口に入れて、シェフ。

 舌が凍傷になるほどに瞬間冷凍したマカロン。

 ミントの香りがしたが、舌が痛かった。

 淑女の鼻から機関車の息が、恋も冷める。




『ミニャルディーズ』


 曇りガラスの向こうは、どこの街。

 宝石箱の中に、デザートがたくさん敷いてある。

 普段から甘いもんを食べないわしには多すぎた。

 白ワインの次に、八海山が出たり、ペアリングは面白いが、なんせ飲んべには量が足りない。

 シェフのマジックに酔った一夜。

 この業界にいるからにはこうしたイノベーションフレンチも知らなくてはいけない。

 しかし、胃のどこに入ったかわからない下町育ちにわし。

 家について、茶漬けをすすったのはご愛嬌。

 ごちそうさん。 


「シニアの品格」を読む

2017年02月18日 | ☆文学のこと☆




【都鳥 春一番の 飛翔かな】哲露


 珍しく話題の本を手に取る。

 59歳の主人公は、アメリカ駐在の支社長という輝かしい経歴を持つが、部下のセクハラのため本社の内勤につく。

 シニア人材と呼ばれる屈辱に満ちた一年を過ごしてきた。

 このシニアという言葉、日本では老人、老化の象徴のような響きだ。

 しかし、ネイティブの間では、年長のほか、上級という意味合いもあるそうだ。

 決して高齢者という意味づけだけでないのだ。

 自己顕示欲が強い東条は、職場でも家庭でも人の話を聞かず、いわば地位を利用して強引に仕事を進め、生きてきた。

 力のあるうちはいいが、立場を失くすと企業では辛いもの。

 そんな時に、テニススクールで出会った一人の老人を見かけた。

 思い悩んだ挙句、「古井戸よろず相談所」という看板を掲げた奥野家を訪れる。 





 二人の他愛ない対話が始まる。

 会社の上司(年下)の愚痴、妻との不和を話し、助言を求める東条に対し、奥野老人はただ聞いて話を促すだけ。

 性急に答えを欲する東条に、自ら考えることを教えていく。

 人の話を聞き、相手の立場や考えを深く理解する。 そこから全ての関係が始まる。

 さすれば自然と人は心を開き、真の意味での交流が持てるのだ。 

 相手の欠点ばかりをつくのではなく、むしろ逆手にとって、良いところを活かす手法に目から鱗になった。

 よくある指南書、上目線の新書の類は得意としないし、読む価値すら感じないが、

 このシニアの品格、老若男女、すべての悩める人に勧めたい。

 最近、若者より電車やスーパーで、勝手気ままに振る舞う老人を見かける。

 暴走老人になる前にこの本を開いてほしい。

 聞くことができる人間のすごさが体感できる本。

 これこそがまさに、人間の尊厳のあり方であり、品格だ。 


ああ、懐かしのメトロに乗って。

2017年02月12日 | ★江戸っ子エッセイ★




【地下街の煙の匂い枯れてなお】哲露


 浅草に暮らして○十年。

 幼い頃から慣れ親しんだ黄色の電車。

 毎週のように親に連れられ、銀座で映画を見たり、渋谷で人工の満天の星を眺めたりした。

 その帰り、浅草駅に近づきカーブを畝ると、地下鉄の電燈が一瞬切れる。

 幼心にずっと不思議だった。

 親に尋ねたこともあったかもしれないが、記憶の彼方だ。

 この時代のことは構想にあるが、まだ書けていない。

 メトロに乗ってなんて望郷薫らす映画もあったが、何と言っても浅草ノスタルジーの極め付けシネマは【異人たちの夏】に尽きる。

 片岡鶴太郎と秋吉久美子の昭和初期の親ヅラがなんともはまっていた。

 何度見ても発見のあるホラーであり、メランコリックでありながら、遥か遠いあの日を思い出すようで好きな作品だ。


 


 あの日の僕はどこに消え、いまの僕は何者になったのだろう。

 親父に手を引かれ、黄色の地下鉄に乗って出かける。

 それだけでエンターテイメントの入り口と思っていた。

 銀座のデパートにマクドナルドが出現した頃から、現代の凋落へつながる傾斜が引かれたのかもしれない。

 今や百貨店も風前の灯火。

 銀座の松坂屋も外国人向けのバスターミナルに変質する。

 変わることは時代の必然とはいえ、このスピードの速さに果たして人は付いていけるのだろうか。

 善か悪か。

 それは後世の人が考えること。

 わっしはそそくさと、地下街のソース焼きそばで一杯の酎ハイを引っ掛けるのみ。

 銀座線の旧1000形のお披露目。

 昭和世代には、ぜひこの機会にノスタルジーを味わってほしい。 

  


【連載】異国を旅して -韓国篇2(世界遺産昌徳宮)-

2017年02月05日 | 【連載】異国を旅して




【権勢の面影残る紅葉かな】哲露


 ソウル滞在二日目の朝を迎えた。

 ベイトン東大門ホテルの部屋からNソウルタワーが見える。

 特別市龍山区の南山公園の頂上にあることから、かつては「南山タワー」と呼ばれた。

 タワーの高さは236.7mで、南山と合わせると、479.7mの眺望となる。

 滞在中、ソウル市の随所から見えたランドマークだ。

 コンビニの飯はマズいと、ガイド役の作家Mさんから聞いていたので、朝からカップ麺をすする。

 朝早い集合だからそれで済ませたが昨夜の市場飯との落差が激しく、やはり外で食えばよかったと後悔。

 旅の二日目の朝から学ぶこと多し。


 


 安国駅で、
Mさんと待ち合わせ。


 ハングル文字に四苦八苦しながら、地下鉄を乗り継ぐ。

 外は快晴。

 危惧していた気温も穏やかだ。





 本日の観光は、世界遺産の昌徳宮(チャンドックン)。

 1405年に建立され、約270年に渡り正宮として使われた。

 朝鮮王朝の中でも、極めて美しい景観で名高い。

 自然の地形に沿って建物が造られており、優雅な庭園と相まって癒しの巨大空間を演出している。







 外国人のための通訳サービスも充実していて、日本語で案
内をしてもらう。

 流暢な日本語で、時折ジョークを交える達者ぶり。

 王宮の歴史を、とてもわかりやすくガイドしてくれた。

 写真は、ソウルに現存する最古の正門。 

 動物の石像がのるのは、やはり最古の石橋、錦川橋。 

 都会からほど近い場所に、こんな庭園式の王宮があるなんて羨ましい限りですな。







 ご覧のように、カラフルな木々のコントラストが素晴らしい。 

 そう、東京より緯度の高いので、葉の色付きが早いのだ。

 まさに、ドンピシャで、異国の紅葉を楽しめた(註:2016.11.10) 。

 なんと贅沢の極み。




 



 地を象徴する四角い池の真ん中に、天を表す丸い島が造られたのは、芙蓉池(プヨンジ)。

 芙蓉は蓮を意味し、夏場の池には蓮の花が咲くとのこと。

 天からの眺めも蓮に見えるとも言われている。

 
蓮の天井。

 汚い水に、綺麗な花を咲かせることから、聖人君子と言われるらしい。

 「宮廷女官チャングムの誓い」で、チャングムが散策をしていたのがこの場所とか。

 韓流ドラマ好きにはたまらない聖地ってわけだ。

 わしとMさんも、チャングムになりきって眺めてみた。

 女官には、はたして何が見えたのか。





 

 一枚の岩を削って造られた不老門(プルロムン)。

 王様の長寿と息災が願われ、この門を潜ると年を取らないという言い伝えがあるとか。

 愛蓮池の奥には、東屋愛蓮亭が鎮座。







 東屋の天井はどれも優美な色彩。

 屋根
は丸(空)天井は八角(人)と四角い建物(地上)と織りなす。

 かつての王宮の権勢を象徴しているようだ。

 どれも保存状態がいい、世界文化遺産になった一つの理由だろう。







 日よけの工夫なども、よくできたもの。

 冬の寒さから韓国の人々を救ったのが、このオンドル。

 部屋の下に火を焚いた、現代でいうところの床暖房。

 マイナスが冬の常時である厳寒を生き抜くための生活の知恵。

 ただ燃やす材料によっては、煤だらけになったそうな。

 韓流オンドル。

 一度、体験してみたいものだ。





 映画のワンシーンのような二人。

 どうやら王様とお妃になりきったアジア人。

 種明かししなければ、それっぽいでしょ。

 ちなみに、ガイドさん曰く、

 「1
番偉いのは、四代王様セジョン。ハングル文字作ってお札にもなっている。2番目は22代イサン」

 そう、あのイサンとのこと。







 建物の様式が特徴的。

 三国史記やら、過去の歴史が組み込まれている。

 また日本の建造物との対比も面白い。

 まさに文化の交流がなせる技。

 政争に明け暮れず、こうした平和な交際ができないものか。





 24代王・憲宗(ホンジョン)が後宮(フグン、王の妾)のために建築した楽善斎は、

 最後の皇太子、李垠(イウン)に、梨本宮家から方子(まさこ)が嫁ぎ暮らした場所。

 木を凝らした素朴な感じがある。

 海を渡り、異国の人に囲まれながら、方子はここで生涯を閉じる。

 何故、帰国しなかったのか。

 皇太子亡き後の、孤独に苛まれた日々を思う。

 彼女はどんな心境で晩年を過ごしたのだろう。
 





 秋真っ盛り。

 異国を感じさせない多彩色の紅葉。

 神様からいただいた大切な1日。

 柿の木に人々が群がり、笑顔が見られる。

 人種も、肌も、言葉も、文化も違えど、四季が織りなす造形美への畏敬は普遍だろう。

 その感覚が世界を取り巻く不穏を、払拭することを願う。

 異国の旅、まだ続きます。