過ぎ去りし、10月某日。
荒川を走る。
吹く風は穏やかで、12年ぶりの有給休暇というのを楽しむ。
実際、同僚や世間の皆さんは仕事している方がほとんどだから、心は休まっているようで休まらない。
それでも、室内にいるよりはマシと、走ることにした。
【ぶつかって避けて走った秋の土手】哲露
どこまでも真っ直ぐな道。
走るようになって初めてフルマラソンを走ったのもこの荒川だった。
6月という気候の初チャンレンジは、今思えば無謀のひと言。
全身から塩が噴き出して結晶となり、炎天下なのに寒気がし、仕舞いには心臓がばくばくしていた。
あれは、熱中症というやつなんだろう。
それでも完走したら、それまで感じなかった別種の何かが見えた。
あれから、何年経ったろう。
貨物船の駅の名残か、国鉄のような案内看板が随所に立つ。
江戸の頃は、千葉や全国からこの川を下り、上って荷が届いたという。
まさに交通の要所だ。
そんなことに思いを馳せて走る。
晩秋の陽光だが、どこまでも優しい。
ついに東京湾へ出る。
遠くに見えるのは、葛西臨海公園の観覧車。
川幅は優雅に広がり、潮の香りが鼻腔を刺激する。
ああ、ここまでよく走ったなぁ。
両手を広げ、胸いっぱいに潮風を吸い込んだ。
一年ぶりに描いた小説世界では、主人公が荒川を走る。
川沿いに野球場とサッカー場が上流まで続く道。
土手には、犬を釣れる人、走る人、猛スピードでスポーツ自転車が過ぎ去る。
まもなく日が沈む。
ボールを蹴っている親子が微笑ましい。
12年間走ってきた会社を辞めた。
出版社に転職して20年以上、この業界に携わってきた。
国内はもちろん、海外も単独で取材に飛び回った20代が懐かしい。
スーパームーンから二日後。
新しく勤め始めた会社の帰り、クリスマス色のツリーと屋形舟が祝福してくれた。
版元を離れるのは、いい仲間と別れることでもある。
一抹の寂しさはあるけど、前に進むと決めた。
これからは、尊敬する兄貴とともに、グルメサイトを盛り上げていく。
もうアラフィフ。
気張り過ぎず、飄々と、柳のように生きていきたい。
時の過ぎゆくままに。
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