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無効審判と訂正と訴訟との関係 (18.5.31)

2006-05-31 06:37:03 | Weblog
「特許無効審判」と「訂正の請求」と「訂正審判」と「審決取消訴訟」との関係

1.特許無効審判の請求
(1)請求人適格
 ① 共同出願違反(38条)又は冒認出願(123条1項6号)を理由として含む場合
  請求人→利害関係人に限られる(123条2項ただし書)。
  利害関係人→当事者のみならず、特許発明の実施者も含む。
 ② その他の理由のみを理由とする場合
  請求人→何人(123条2項本文)
  ただし、当該特許権者は除外(請求の利益なしとして審決却下)

(2)請求の時期
 ① 特許権発生後
 ② 特許権消滅後(123条3項)。ただし、消滅後20年以内(請求権の時効消滅)
 なお、特許権がはじめから存在しなかったものとみなされる場合(特許無効審決確定の場合、請求項の削除の訂正が確定した場合)は、請求の利益なしとして審決却下(135条)

(3)特許無効審判請求書
 ① 所定の事項を記載(131条1項)
 ② 請求の理由の記載→特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し、かつ、立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したものでなければならない(131条2項)。
 ③ 131条2項違反の場合
()補正ができる場合→補正命令(133条1項)
 補正をしなかった場合→審判請求書の却下の決定(133条3項)
 補正をしたが要旨変更(131条の21項)に該当する場合→審判請求書の却下の決定(133条3項)
()補正ができない場合(補正をすると要旨変更になる場合)→審決却下(135条)

2.答弁書の提出
(1)審判請求書の副本の送達(134条1項)
 特許無効審判請求書が適式な場合は、審判長は、請求書の副本を被請求人(特許権者)に送達し、答弁書を提出する機会を与える。
(2)被請求人(特許権者)は、請求人が主張する特許無効理由が存在しないことを答弁書において主張することができる。
(3)答弁書の副本の送達(134条3項)

3.訂正の請求
(1)意義→特許無効理由を解消する手段
(2)請求の時期
 審判請求書の副本の送達を受けた場合の答弁書提出期間内(134条の2第1項)
 その他の期間(134条の2第1項)

(3)訂正の目的
 ① 特許請求の範囲の減縮(134条の2第1項1号)→発明特定事項の直列的付加、上位概念を下位概念に変更、択一的な発明特定事項の一部削除
 ② 誤記又は誤訳の訂正(2号)
 ③ 明りょうでない記載の釈明(3号)

(4)訂正の範囲
 ① 1号と3号の訂正
 願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内(明細書等の記載から自明な事項も含む)(準用126条3項)
 訂正の効果が発生していない場合→特許権設定登録時の明細書等
 訂正の効果が発生している場合→訂正後の明細書等
 ② 2号の訂正
 誤記→願書に最初に添付した明細書等(準用126条3項)
 誤訳→外国語書面出願では外国語書面(準用126条3項)、外国語特許出願では国際出願日における明細書等(184条の19)

(5)訂正の制限
 実質上特許請求の範囲を拡張し、変更してはならない(準用126条4項)。

(6)独立特許要件
 ① 特許無効審判の請求がされていない請求項について特許請求の範囲の減縮(1号)又は誤記又は誤訳の訂正(2号)をするときは、訂正後の発明が独立特許要件(進歩性等)を満たしていることが必要である(準用126条5項)。
 この場合、独立特許要件を満たしていることは、訂正の請求書の請求の理由の欄に記載する。
 ② 特許無効審判の請求がされている請求項については、訂正の要件として独立特許要件は課されない。しかし、訂正を認めたうえで、特許無効理由の審理の対象となるので、結果的には、独立特許要件を満たしていることが必要とされる。この場合、独立特許要件を満たしていることは、答弁書に記載する。

(7)訂正請求書
 ① 所定の事項を記載した訂正請求書を提出(準用131条1項)
 所定の事項→請求の趣旨(訂正事項の特定)、請求の理由(訂正の要件を満たすこと)
 ② 訂正特許請求の範囲、訂正明細書、訂正図面を訂正請求書に添付しなければならない(準用131条3項)。

4.訂正請求書等の副本の送達
 審判長は、訂正請求書及び訂正特許請求の範囲等の副本を請求人の送達しなければならない(134条の2第2項)。

5.審判請求書の補正
(1)特許無効審判請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない(131条の2第1項本文)。
 ただし、審判長の許可があったときは、要旨を変更する補正ができる(131条の2第1項ただし書)。

(2)特許無効審判請求書の請求の理由について要旨を変更する補正ができる場合
 ① 要旨を変更する補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであること(131条の2第2項本文)。
 要旨を変更する補正→特許無効理由の条文の追加又は変更、引用例の追加又は変更など
 ② 1号又は2号のいずれかに該当すること(131条の2第2項本文)
()1号→訂正の請求により請求の理由を補正する必要が生じたこと。
()2号→審判請求時の請求書に記載しなかったことにつき合理的な理由があり、被請求人が補正に同意したこと。

(3)特許無効審判請求書の副本の送達前に要旨変更の手続補正書が提出されたときは、審判長は補正の許可をすることができない(131条の2第3項)。

(4)特許法131条の2第2項の決定に対しては、不服申立てができない(131条の2第4項)。
 決定の種類→補正を許可する決定、補正を許可しない決定
 補正を許可しない決定に対しても不服申立てができない。

6.弁駁書
(1)訂正請求書の副本の送達を受けた審判請求人は、審判請求書を補正する代わりに、弁駁書を提出することができる(特施規47条の3)。
 弁駁書には、特許権者の主張に対する反論を記載する。

(2)弁駁書と手続補正書との相違
 弁駁書も手続補正書も、反論をするための手続であり、本質的な差異はない。
 しかし、手続補正書は、補正箇所を訂正するものであり、補正後の審判請求書の全体を把握するのに手間を要する。一方、弁駁書は、反論の内容をあらためて記載するので、反論の内容を把握するのが容易である。
 したがって、実務上は、弁駁書において新たな無効理由の主張や新たな引用例の追加を認めることとしている。ただし、その場合は、手続補正書の場合と同様に、審判長の決定による許可を必要とする(131条の2第2項)。

7.要旨変更に係る手続補正書等の副本の送達
(1)審判長は、要旨変更に係る請求書の補正を許可するときは、その手続補正書の副本を被請求人(特許権者)に送達し、答弁書を提出する機会を与えなければならない(134条2項)。
 ただし、答弁書の提出をまつまでもなく、特許を維持できる審決(請求不成立審決)をする場合には、答弁書提出の機会を与える必要がない(134条2項ただし書)。

(2)被請求人(特許権者)は、答弁書を提出して、審判請求人の主張に対して反論することができる(134条2項)。

(3)被請求人(特許権者)は、答弁書提出期間内に、再度の訂正の請求をすることができる(134条の2第1項)。この場合、先の訂正の請求はみなし取下げとなる(134条の2第4項)。

8.審決
(1)請求成立審決
 特許無効理由が存在するときは、特許を無効にすべき旨の審決(請求成立審決)がされる。これに対して、被請求人(特許権者)は、審決取消訴訟を提起することができる(178条)。
 訴訟を提起しなかった場合には、特許無効審決が確定し、特許権は始めから存在しなかったものとみなされる(125条本文)。

(2)請求不成立審決
 特許無効理由が存在しないときは、請求不成立審決がされる。これに対して、審判請求人は、審決取消訴訟を提起することができる(178条)。
 訴訟を提起しなかった場合には、一事不再理の効力が生ずる(167条)。

9.審決取消訴訟
(1)請求成立審決に対して不服のある被請求人(特許権者)又は請求不成立審決に対して不服のある請求人は、東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起することができる(178条)。
 特許権者は、審決について直接の不服はないが、訂正審判を請求して特許無効理由を解消することができると判断した場合には、審決取消訴訟は、訂正審判を請求するための手段として形式的に提起することとなる。
 一方、審決の違法性について直接争うときは、訂正審判を請求することなく、審決取消訴訟において本格的に争うことができる。

(2)出訴期間
 審決の謄本の送達があった日から30日以内(178条3項)
 30日は不変期間→ただし、付加期間あり(178条4項、5項)

(3)訂正審判の請求
 ① 訴えの提起があった日から起算して90日以内であれば、訂正審判(126条)を請求することができる(126条2項)。特許無効審判においてした訂正がまだ広すぎて無効理由を有している場合に、これをさらに減縮する訂正をすることにより、特許無効理由を解消することができる場合に有効な訂正である。
 ② ただし、取消し判決(181条1項)又は差戻し決定(181条2項)が確定した後は、前記90日の期間内であっても、訂正審判を請求することができない(126条2項かっこ書)。
 ③ 訂正の要件→126条

(4)差戻し決定
 特許権者が訂正審判を請求した場合、又は訂正審判を請求しようとしている場合には、裁判所は、裁量により、決定をもって、審決を取り消すことができる(181条2項)。
 本案審理を続行した場合において、訂正審判において訂正を認める審決が確定すると、訂正後の内容について裁判所は第一次的に無効理由の存否を審理判断することができないため、本案審理の内容にかかわらず、審決を取り消す判決をしなければならない。この場合は、すでにした本案審理がまったく無駄となる。このような場合には、裁判所は、本案審理をすることなく、差戻し決定をするものと解される。
 ただし、審決の違法性が明らかであり、審決を直ちに取り消すことができるような場合には、裁判所は、差戻し決定(181条2項)ではなくて、取消し判決(181条1項)をするものと解される。
 差戻し決定をするときは、裁判所は、当事者の意見を聴かなければならない(181条3項)。裁判を受ける権利を尊重するためである。
 差戻し決定は、審判官その他の第三者に対しても効力を有する(181条4項)。行政処分の合一確定の要請を満たすこと、特許無効審判の再開の根拠を明確にすること、がその趣旨である。
 なお、差戻し決定は、訴訟物について実体判断をするものではないから、行政庁に対する拘束力(行政事件訴訟法33条1項)は、ない。

(5)取消し判決
 裁判所は、請求を理由があると認めるときは、審決を取り消さなければならない(181条1項)。本案審理をした結果、審決の違法性があると判断した場合には、判決によって審決を取り消すことが義務づけられる。
 取消し判決は、行政庁に対する拘束力(行政事件訴訟法33条1項)がある。したがって、特許無効審判の審判官は、判決の判断と矛盾する審決をすることはできない。

(6)取消し判決又は差戻し決定が確定した場合には、特許無効審判の審判官は、さらに審理を行い、審決をしなければならない(181条5項)。

10.特許無効審判の審理
(1)訂正の請求
 ① 請求不成立審決に対する取消訴訟に関して取消し判決が確定し、特許無効審判の審理を開始するときは、審判長は、取消し判決の確定日から1週間以内に被請求人(特許権者)から申立てがあった場合に限り、訂正を請求するための期間を指定することができる(134条の3第1項)。
()請求不成立審決→請求成立審決が取り消された場合には、訂正の必要性に乏しい。
()申立て→特許権者に積極的な訂正の意思がない場合にまで訂正の機会を付与する必要はない。
()することができる→原審決の取消しの理由が手続上の瑕疵であり、再度有効審決ができる場合には、訂正の機会を与える必要はない。
 ② 差戻し決定が確定し、特許無効審判の審理を開始するときは、審判長は、訂正を請求するための期間を指定しなければならない(134条の3第2項)。差戻し決定は、訂正を前提とした終極裁判であるため、訂正の機会を必ず付与して、特許無効審判における訂正に一本化することをその趣旨とする。
 ただし、特許無効審判の審理の開始の時に、訴えの提起の日から90日以内に請求した訂正審判の審決がすでに確定している場合には、訂正の機会を付与しない(134条の3第2項ただし書)。訂正後の内容で審理を開始すれば十分であるため、あらためて訂正の機会を付与する必要はない。
 ③ 訂正明細書等の援用
 審決取消訴訟の提起があった日から90日以内に訂正審判を請求した場合において、取消し判決又は差戻し決定が確定し、特許無効審判において指定期間内に訂正の請求をするときは、訂正審判の請求書に添付した訂正明細書等を援用することができる(134条の3第3項)。
 訂正審判と同じ内容の訂正を請求するときは、訂正明細書等はあらためて作成する必要はなく、援用することができる。
 なお、訂正請求書は、訂正審判の請求書を援用することはできず、あらためて作成し、提出しなければならない。
 訂正審判の内容と異なる内容の訂正を請求するときは、あらためて訂正明細書等を作成し、これを訂正請求書に添付することが必要とされる。
 ④ 訂正審判のみなし取下げ
 審決取消訴訟の提起があった日から90日以内に訂正審判を請求した場合において、取消し判決又は差戻し決定が確定し、特許無効審判において指定期間内に訂正の請求をしたときは、訂正審判の請求は取り下げられたものとみなされる(134条の3第4項)。訂正審判が独立して審理されることを防止して、特許無効審判における訂正の請求に一本化することをその趣旨とする。
 ただし、訂正の請求の時に、訂正審判の審決が確定している場合には、訂正審判の請求は取り下げられたものとみなされない(134条の3第4項ただし書)。
 ⑤ 審決取消訴訟の提起があった日から90日以内に訂正審判を請求した場合において、取消し判決又は差戻し決定が確定し、特許無効審判において指定期間内に訂正の請求がされなかったときは、指定期間の末日に、訂正明細書等を援用した訂正の請求がされたものとみなされる(134条の3第5項)。
 ただし、指定期間の末日に訂正審判の審決が確定している場合には、訂正の請求がされたものとみなされることはない(134条の3第5項ただし書)。

(2)訂正請求書等の副本の送達等
 ① 審判長は、訂正請求書の副本、訂正明細書等の副本を請求人に送達しなければならない(134条の2第2項)。
 ② 訂正の請求の審理
 特許無効審判の審判官は、訂正の要件を満たすかどうかについて審理する。
 審判官が当事者が申し立てない理由について審理した場合において、訂正の要件を満たしていないと判断したときは、審判長は審理の結果を当事者に通知し意見を申し立てる機会を与えなければならない(134条の2第3項ただし書)。
 ③ 特許無効審判請求書の補正
 審判請求人は、審判長の許可があれば、審判請求書の請求の理由について要旨を変更する補正をすることができる(131条の2第2項)。
 ④ 手続補正書の副本の送達
 特許権者は、指定期間内に再度の訂正の請求をすることができる(134条の2第1項)。

(5)特許無効理由の審理
 審判官は、訂正の要件を満たしていると判断した場合には、訂正後の内容について無効理由があるかどうかの審理を行う。
 審判官は、訂正の要件を満たしていないと判断した場合には、訂正前の内容について無効理由があるかどうかの審理を行う。

(6)審決
 審判官は、請求成立審決又は請求成立審決をすることとなる。
 審決に不服がある場合には、審決取消訴訟を提起することができる(178条)。
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