■「ピエロの赤い鼻/Effroyables Jardins」(2003年・フランス)
監督=ジャン・ベッケル
主演=ジャック・ヴィユレ アンドレ・デュソリエ シュザンヌ・フロン ティエリー・レルミット
フランス人のドイツ侵略に対する怨念は本当に強い。これをテーマにした映画はたくさん存在するから、我々アジアの島国の住民ですらその片鱗を感ずることはできる。占領下のフランスでは対独協力者になる者もいたし、レジスタンスとして抵抗を示す者もいた。だが一般の庶民は嵐が過ぎ去るのをじっと待っていただけだ。近頃この時代を背景とした映画の中には、そうした庶民の視点で描かれるものが目立つ。例えばジェラール・ジュニョ-主演の「バティニョールおじさん」はなりゆきで対独協力者となった中年男が、ユダヤ人の子供を通じて人間味を取り戻すお話。エマニュエル・ベアールが美しかった「かげろう」は戦火を逃れて子供と共に田舎に逃げた女性の物語。そして本作「ピエロの赤い鼻」もそうした流れの作品だ。
だが本作の魅力は単にあの時代の悲しいエピソードが描かれていることだけではない。登場する人物それぞれがとても人間くさく描かれていることが魅力だ。レジスタンスにかかわることすらなかった二人の心優しき男が、ふと芽生えた愛国心から線路の爆破を思いつく。決してヒーローではない。ところが二人の行為によって巻き添えを食らう人が出てくる。ポイント切替所にいた老人は爆破で重傷を負い、容疑者として友人と教え子までもが捕まり、二人と共に深い穴で処刑を待つことになってしまう。ちょっとした思いつきが引き起こす悲喜劇。中でも容疑者として捕らえられた4人を救うために、重傷の老人がある決断を下すところが泣ける。脇役のひとりひとりにまで人生を感じさせる。処刑を待つ4人に食料と笑顔を与える心優しきドイツ兵。彼は大戦前にパリでピエロをしていた人物だった。彼のエピソードがこの映画のメインであるが、”笑い”が敵味方を超えて信頼につながっていくこの場面はどこよりも力強い。そしてさらに父親がピエロに扮する本当の理由を知って、息子が父を信頼と尊敬をするようになるのだ。「奇人たちの晩餐会」のヴィユレ、「愛を弾く女」のデュソリエ、「妻への恋文」のレルミット、それに「ピアニスト」のブノワ・マジメルと素敵なフランス男優たちのコラボレーションも嬉しい。
(2005年筆)
監督=ジャン・ベッケル
主演=ジャック・ヴィユレ アンドレ・デュソリエ シュザンヌ・フロン ティエリー・レルミット
フランス人のドイツ侵略に対する怨念は本当に強い。これをテーマにした映画はたくさん存在するから、我々アジアの島国の住民ですらその片鱗を感ずることはできる。占領下のフランスでは対独協力者になる者もいたし、レジスタンスとして抵抗を示す者もいた。だが一般の庶民は嵐が過ぎ去るのをじっと待っていただけだ。近頃この時代を背景とした映画の中には、そうした庶民の視点で描かれるものが目立つ。例えばジェラール・ジュニョ-主演の「バティニョールおじさん」はなりゆきで対独協力者となった中年男が、ユダヤ人の子供を通じて人間味を取り戻すお話。エマニュエル・ベアールが美しかった「かげろう」は戦火を逃れて子供と共に田舎に逃げた女性の物語。そして本作「ピエロの赤い鼻」もそうした流れの作品だ。
だが本作の魅力は単にあの時代の悲しいエピソードが描かれていることだけではない。登場する人物それぞれがとても人間くさく描かれていることが魅力だ。レジスタンスにかかわることすらなかった二人の心優しき男が、ふと芽生えた愛国心から線路の爆破を思いつく。決してヒーローではない。ところが二人の行為によって巻き添えを食らう人が出てくる。ポイント切替所にいた老人は爆破で重傷を負い、容疑者として友人と教え子までもが捕まり、二人と共に深い穴で処刑を待つことになってしまう。ちょっとした思いつきが引き起こす悲喜劇。中でも容疑者として捕らえられた4人を救うために、重傷の老人がある決断を下すところが泣ける。脇役のひとりひとりにまで人生を感じさせる。処刑を待つ4人に食料と笑顔を与える心優しきドイツ兵。彼は大戦前にパリでピエロをしていた人物だった。彼のエピソードがこの映画のメインであるが、”笑い”が敵味方を超えて信頼につながっていくこの場面はどこよりも力強い。そしてさらに父親がピエロに扮する本当の理由を知って、息子が父を信頼と尊敬をするようになるのだ。「奇人たちの晩餐会」のヴィユレ、「愛を弾く女」のデュソリエ、「妻への恋文」のレルミット、それに「ピアニスト」のブノワ・マジメルと素敵なフランス男優たちのコラボレーションも嬉しい。
(2005年筆)
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