goo blog サービス終了のお知らせ 

Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

リンカーン

2013-04-20 | 映画(ら行)

■「リンカーン/Lincoln」(2012年・アメリカ)

●2012年アカデミー賞 主演男優賞・美術賞
●2012年全米批評家協会賞 主演男優賞・脚本賞
●2012年NY批評家協会賞 男優賞・助演女優賞・脚本賞

監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=ダニエル・ディ・ルイス サリー・フィールド トミー・リー・ジョーンズ デヴィッド・ストラーザン

 2012年のアメリカ大統領選挙を覚えておられるだろうか。共和党のロムニー候補と民主党の現職オバマ大統領の対決は、政策論争から始まって、様々な対立を促した。保守的な政治を望む人々と、4年前の「Change!」と同じく変革を望む人々。宗教的な見地や人種間の隔たりにもつながるネガティブキャンペーンがエスカレート(みんなウンザリ)。次第に国を二分するような様相を呈した。こんなことで選んでいいのだろうか・・・日本にいる僕らですらその様子には首をかしげたものだ。中傷合戦の一方で、異なる意見の国をなんとかまとめようとするオバマ大統領の姿も印象的だった。

 どんな人物が国のリーダーにふさわしいのか。そんな空気に包まれていた時期に、スピルバーグ監督はこの題材を選んだ。第16代大統領エイブラハム・リンカーンが南北戦争を終結させるまでの物語である。映画の予告編でスピルバーグ監督は、日本の鑑賞者にメッセージを語った(予告編)。予告編で作品について言及する映画監督はピーター・ジャクソンやアルフレッド・ヒッチコックなど、これまでにもたくさんいる。だが今回のスピルバーグの言葉は単なる広告宣伝ではなく、今の世の中で政治のリーダーに何ができるのかを問うために、今も国民に愛される大統領を題材に選んだことを発している。その言葉は、オリバー・ストーンのように声高に世界のこれからの成り行きを憂い、訴えるのではない。かつて「ミュンヘン」のラストシーンで、世界貿易センタービルをCGで再現し、復讐が悲劇しか生まないことを静かに訴えたのに似ている。

 本編で描かれるのは、合衆国憲法修正13条を通過させるまでの物語。ゲティスバーグでの有名な演説シーンは出てこない。長引く南北戦争の一刻も早い終結が望まれる中で、リンカーンが目指したのは内戦の原因でもある奴隷制度の廃止である。しかし、戦争の終結を急ぐ多くの政治家たちは、南と和平さえ結べるならば奴隷制度は二の次でよいと考えている。戦争だけを終結させても根本の問題は解決しない。この両方をいかにして実現するか。これまで歴史の授業や伝記で僕らが知っているリンカーンの偉業だが、映画で描かれるのは泥臭い政治的かけひき。映画の前半はとにかく賛成票を投じてくれる下院議員を増やすための画策が描かれていく。しかし前半の議会の場面は、白熱こそしているもののエンターテイメントとして観るにはキツい部分もある。スピルバーグが元来得意としている映像で語り尽くす上手さは、ひたすら弁論に終始する場面ではうまく発揮できないと思えた。

 だが映画は中盤にさしかかり、一人の人間としてのリンカーン像を理解できてくると映画は輝きを増してくる。悪妻(?)とも言われた夫人の激しい言動にたじろぐ恐妻家、入隊を望む息子との関わりに、不器用な男の一面が描かれる。何事にもひるまない信念の人・・というイメージがあっただけに、ここから政治的難問に立ち向かう後半は、前半のキツさが嘘のように飽きさせない。これまでの作品よりも封じ込められたスピルバーグの映像で語る演出は、短いカットをテンポのよい編集でつなぐことでグイグイ引き込んでくれる。議員一人一人の表情が次々と映し出されて、緊張感が銀幕のこちらにも伝わってくる。トミー・リー・ジョーンズが演ずるスティーブンス議員は”実質的な平等”にこだわっていたが、政治的な妥協で形式的な”法の下の平等”を説く。この場面は印象的だが、ピンときにくいところかもしれない。奴隷とされてきた黒人を解放し、人種間での差別をなくそうとするのが”法の下の平等”。スティーブンス議員は、富裕層の財産を分配して黒人にも経済的な面での平等を与えようとしていた。つまり”実質的な平等”。そこにこだわっていた理由が明らかになる場面は、スピルバーグらしい上手さ。これまでも「アミスタッド」「シンドラーのリスト」でも人種差別問題を扱っただけに、昔からのファンには特に感動的に映る場面かもしれない。

 リンカーンが憑依した(?)とも思えるダニエル・ディ・ルイスは名演技。サリー・フィールドもやや憎まれ役だが素晴らしい。僕らエイティーズに嬉しいのが、裏舞台で民主党議員に近寄る工作員(ロビイスト)を演じたジェームズ・スペイダー。エンドクレジットで気付いたのだが「刑事ジョン・ブック 目撃者」のルーカス・ハースも出演してる。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ル・アーブルの靴みがき

2013-02-07 | 映画(ら行)

■「ル・アーブルの靴みがき/Le Havre」(2011年・フィンランド=フランス=ドイツ)

監督=アキ・カウリスマキ
主演=アンドレ・ウィルム カティ・オウテイネン ジャン・ピエール・ダルッサン ブロンダン・ミゲル

フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の最新作は、ヨーロッパで深刻な問題でもある不法移民をテーマにしている。フランス北部、イギリスとの海峡に面した港町ルアーブル。ある夜、港に置かれたコンテナから子供の声が。翌朝、扉を開けるとアフリカから来た人々が黙って座っていた。その場から一人逃げ出した少年。一方、街で慎ましく暮らす靴みがき主人公は、妻の急な入院と自分を遠ざける態度に戸惑っていた。港で見かけた少年と知り合った彼は、何とか少年を匿って、彼が母親の暮らすイギリスへ渡るのを手助けしようとする。追っ手が迫り、資金はなし。彼の静かなる奮闘がこの映画の軸だ。

アキ・カウリスマキ監督の映画は、陽のあたらない場所に生きる庶民を描くことに特徴がある。この映画も例外ではなく、決して裕福とは言えない主人公夫婦の暮らしが描かれる。パン屋にツケをためているような彼が、少年のために大金を集めようとしたり、危険を冒したり。登場人物がニコリともしないのも監督作品のお約束。だけどなぜだが僕らはホッとする。それは今や映画でも現実世界でも失われつつある人情劇だからだ。政府の移民政策に一言ある訳でも、途上国からくる人々を憐れんだりする訳でもない。お腹を空かせて困っている少年を助ける、ただそれを当然のこととしてやっている。実社会ならいろんな要因が決断を弱らせるはずなのに。夫に本当の病状を告げない妻も自分を曲げない強い人。この映画で憎まれ役の刑事だって、かつて逮捕した男の妻を気遣うやさしさをみせる。世の中って人の善意で救われる。ストーリーは特にひねった展開がある訳ではないし、これを予定調和と評する人もいるだろう。だけど、エンドロールが終わった後の、ほっとする気持ちは予定調和だったのか?予想していたことだったか?。それは違うはずだ。世間でエンターテイメントとさせる映画たちとは、まったく違ったものであることにきっと安心したはずだ。

カウリスマキ映画を僕は数本しか観たことがないけれど、そこで使われるロックミュージックは特徴ともいえる。「過去のない男」では、記憶喪失の主人公がジュークボックスの前でロックを語り、「レニングラード・カーボーイ・イン・アメリカ」はポールシュカポーレしかできなかったバンドがロックやカントリーを習得するのが楽しかった。「ル・アーブルの靴みがき」でもそのスピリットは同じ。資金集めの為に地元のロカビリー歌手にチャリティ公演をお願いする素敵な場面が出てくる。苦しい現実社会をニコリともせずに生きている名もなき庶民を描く監督は、そんな庶民が愛する音楽を小道具として使わない。ヴィム・ヴェンダースよりよっぽどロックがわかってる人かもしれない。ある意味では。

僕が映画館に入るとき、ちょうど映画館からでてきた老夫婦がこんな会話をしていた。
「いい話やったね。」「バカなアメリカ映画観るのとは違うな。ほんっとにいい話だった。」
見え透いた人情話をウリにする日本映画とも違う。こういう映画が本当に心を癒してくれる。

ル・アーヴルの靴みがき 【Blu-ray】ル・アーヴルの靴みがき 【Blu-ray】

キングレコード 2013-01-16
売り上げランキング : 2855

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ブログランキング・にほんブログ村へ 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ローラーガールズ・ダイアリー

2013-01-01 | 映画(ら行)

■「ローラーガールズ・ダイアリー/Whip It」(2009年・アメリカ)
監督=ドリュー・バリモア
主演=エレン・ペイジ マーシャ・ゲイ・ハーデン クリスティン・ウィグ ジュリエット・ルイス ダニエル・スターン

 ドリュー・バリモアが初監督を務めた青春映画は、後味のよいキャンディみたいな映画だった。何を言ってる?と思うかもしれないけど、エンドクレジットを迎えて僕の頭にふっと浮かんだ言葉はそれだった。ご存じの通り「E.T.」の子役で注目されたドリュー・バリモア。あのグレタ・ガルボとも共演している大叔父さんもいる俳優一家の出身。今回の監督業進出もそうした血筋故なのかな。実際に観る前は、お気軽に観られる青春映画のイメージを持っていた。ところがどうして、主人公の成長物語だけでなく、家族の絆、チームメイトの成長、それにアメリカ地方都市の閉塞感にも似た空気をもバランスよく描いた映画に仕上がっている。いい意味で期待を裏切られたと言っていいだろう。

 主人公ブリスは、ミスコンに執念を燃やす母親に違和感を感じながらもそれに従う日々を送っていた。ある日ローラゲームのチラシを目にしたことがきっかけで、彼女は実際の年齢を隠してチームの選抜試験を受ける。ルールも知らない初心者されど、彼女の滑るスピードは群を抜いていた。そして親に隠れてローラーゲームの試合に出場することになる。万年リーグ最下位でなげやりだったチームメイトが、ブリスの活躍で勝利の味を知ってからは大奮闘。リーグ優勝を争えるところまでやってきた。ところが、一緒に試合に来ていた友人が未成年の飲酒で逮捕されたことから親にばれてしまい・・・。

 「JUNO」のエレン・ペイジが健気に頑張る女の子を熱演。彼女は悩みながらも自分を見つけ出す成長物語がよく似合うね。悪役となるローラーゲームの選手には大好きだったジュリエット・ルイス!。30歳過ぎでやっと自分の活躍の場を見いだしたのに、17歳の小娘に負けられない。単なる悪役ではなくて、そんな懸命さが伝わるいい演技だった。また、子持ちであることを隠しながらも頑張っているチームの先輩クリスティン・ウィグの存在が、主人公が親心を理解させるきっかけになる伏線もいい。ローラゲームに賭ける女性達の本音や生き様も丁寧に描いている。一方で、ドリュー・バリモア監督は、チーム内でのいちばんかっこ悪い役柄で引き立て役に回っているのもナイス。映画ファンには「ホームアローン」こそ泥だったダニエル・スターンやタランティーノ映画のスタントウーマンであるゾーイ・ベルの出演も実に嬉しい。

 アメリカのド田舎で、娘のステップアップの為ミスコンに賭ける人々が描かれた映画というと、キルスティン・ダンスト主演の「私が美しくなった100の秘密」がある。カースティ・アレイ扮する母親が娘を優勝させるべく執念を燃やす姿はとても印象に残った。「ローラーガールズ~」の母親マーシャ・ゲイ・ハーデンもその一人。カースティ・アレイのクールな美しさとはちがって表情がキツい女優さんだけに(?)、その分だけ執念の強さが感じられた。主人公ブリスが何も言えずにいたことや。本当に夢中になれることを見つけたのに、打ち明けられなかったのもすごくよくわかる。またその妻にやはり圧迫を感じているのは夫も然り。ミスコン向けのお堅い保守的な家庭を演出しようとするあまりに、自分を出せない姿にはあわれを感じずにいられない(共感?)。母親が好きだったバンドが、キリストを賛美するクリスチャンロックの代表的存在であるストライパーというのも、うまい小ネタの使い方だなぁと思う。また、いかにもテキサスの田舎で流れていそうなカントリー(ドリー・パートンのジョリーン)の替え歌で、都会への憧れを歌う場面も面白いね。でも・・・どうして最下位チームの選手に感動してしまったのか、店に入ってきたチラシや初めて観たローラーゲームの試合がどれだけ彼女にとって衝撃だったのかは、ちょっと理解に苦しむ。それでも映画全体は楽しいし、よくできている。うむ。ラブシーンはどうしてここまで少女趣味?と思えるくらいにロマンティック。



コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロック・オブ・エイジズ

2013-01-01 | 映画(ら行)

■「ロック・オブ・エイジズ/Rock Of Ages」(2012年・アメリカ)

監督=アダム・シャンクマン
主演=ジュリアン・ハフ ディエゴ・ボネータ トム・クルーズ キャサリン・ゼダ・ジョーンズ アレック・ボールドウィン

 80年代の洋楽は、今どきはどうも笑いの対象に見られがち。ファッションも髪型もPVもド派手なMTV時代。ジョン・ボン・ジョヴィでさえ、子供にその頃の自分の映像を見せないようにしてるんだとか。いや確かに変わった時代でしたよ。白塗り少年やら、爆発したよな髪型やら、ホラー映画のようなPVやら、大義を掲げて大勢で集まったり、スゴ腕のメンバーなんだけどやたらポップな曲やってたりとか。他の時代にはなかったバブリーな雰囲気。そんな時代真っ只中、僕らはビルボードのチャートが載ってるFMfan片手にラジオにかじりついてたんだゼ。1987年を舞台にしたこのロックミュージカル映画、アメリカでも興収は今イチのようだし、おすぎにゴミ呼ばわりされたらしいし、やっぱり80年代は笑いのネタ。だけど、今もカヴァーされ愛される楽曲が多いのも80年代。音楽の嗜好や方向性が多様化した現代の楽曲で、果たしてこういう映画や舞台が作れるかと言えばそれは無理だろう。同時代でくくるだけで、こんな素敵なエンターテイメントができあがる。スゲぇだろ、80年代!。

 物語は田舎町からロサンゼルスに主人公シェリーがやって来るところから始まる。この数分間がまず圧巻。Paradise City~Sister Christian~Just Like Paradiseと続くメドレーに、一気に心は舞台の1987年へ。ロックの殿堂たるライブハウスと、その存続を阻もうとする女性団体との対立が主軸のお話。キャサリン・ゼダ・ジョーンズ扮する市長夫人がご婦人方を率いてパット・ベネターを歌い、若い主人公二人はフォリナーを歌いながら愛を確かめる。もともとこういう使われ方を想定してないはずなのにしっくりくるのは選曲の妙だし、楽曲の良さ。何よりも話題はロックスター役のトム・クルーズ。僕ら世代はどうしても「トップガン」で下手くそなライチャス・ブラザースを歌うイメージがあるもんで、今回歌手役と聞いて正直マジか?またええかっこしいやん!と思った。カッコいいこと言ってるようで訳がわからない役柄なれど、Wanted Dead Or Aliveを歌う場面などなかなかではないか。出てくる女性の髪型は中村あゆみかボニー・タイラーにしか見えなかったし。

 80年代育ちには楽しくてたまらない映画。ジャーニーファンの僕はクライマックスのDon't Stop Believin'に涙しそうになってしまった(恥)。サントラ欲しいー!これは一人で観る映画じゃないね。80年代育ち限定で盛り上がって観たい!できれば「マンマ・ミーア!」のときみたいに歌詞の字幕付きで!



コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

恋戦。OKINAWA Rendez-vous

2012-11-13 | 映画(ら行)

■「恋戦。OKINAWA Rendez-vous/恋戦沖縄」(2000年・香港)

監督=ゴードン・チャン
主演=レスリー・チャン フェイ・ウォン レオン・カーフェイ ジジ・ライ

 沖縄万座ビーチホテルも出てきてリゾート気分いっぱいのおしゃれな恋愛映画。うわーっ、また沖縄に行きたくなった。女に弱い大泥棒とその相棒、日本人ヤクザとその中国人情婦、バカンス中の香港の警察官とその恋人。個性豊かなキャラクターたちが恋と金をめぐって入り乱れる様子が実に面白い。男女の感情だけでなく素性を隠したやりとりが観る側を少しハラハラさせ、日常を忘れさせてくれるデートで観るには最高の映画だろうな。ハチャメチャやってた登場人物たちが物語の終わりには、すっかりあちこちでカップルとなり普通の人になっていくのは、まぁ予定調和なんだけど見事にまとめているから観ていて爽快だ。

 プラターズの♪The Great Pretenderが上手に使われているのも嬉しい。恋の痛手を人に見せまいとする男の歌だけど、ここではレスリー・チャンが気持ちを隠していることをうまーく表現しているかのようだ。ただ恋愛映画としてはレスリー・チャンとフェイ・ウォンがあまりにも感情を抑え込んでいるのでちょっとじれったくもある。だいたいフェイ・ウォンは表情に変化がない人だからね(故に「2046」のアンドロイド役は巧かった)。その分この映画で頑張っているのはレオン・カーフェイ。「南京の基督」や「愛人/ラ・マン」とは違ったコミカルな役柄で見事に好演。それに友情出演の加藤昌也もよかった。レスリー・チャンの相棒役ヴィンセント・コクは、「少林サッカー」のチャウ・シンチーとも仲良しの映画人。ジャッキー・チェンの「ゴージャス」の監督・脚本を手がけた人物でもある(劇中フェイ・ウォンが泊まっている部屋に「ゴージャス」のポスター貼ってあったよね)。

 ★

この文章を書いたのは2004年。外国映画で日本がロケにになるとなかなか嬉しいものだが、沖縄がおっしゃれなリゾートとして登場し、恋のバトルの舞台になるなんてわくわくするね。プラターズが流れる映画って素敵なのが多い。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ルーヴルの怪人

2012-10-26 | 映画(ら行)

■「ルーヴルの怪人/Belphegor」(2001年・フランス)

監督=ジャン・ポール・サロメ
主演=ソフィー・マルソー フレデリック・ディフェンタール ミシェル・セロー

 ルーヴル美術館の全面協力で撮影した、とのことなのだが、映像自体はゴージャス?と聞かれたらそんなことはなく、セットかと思うくらいにショボい。「モナリザ」も一応映るんだけどありがたみは今一つ。これを観てルーヴルに来てもらおう!という意図があったんだろうけど、こんな見せ方ではそそられません。出し惜しみという気さえした。ソフィーのインタビューと一緒に「エル」誌に載っていたルーヴル美術館でのフォトセッションの方が、よっぽど雰囲気があった。

 最初からネタが割れているから、さぞ事件解決までのプロセスが面白いんだろうと思ってたら、さにあらず。ダニエル・トンプソンのシナリオは、随所に面白くなりそうな仕掛けがあるのだけれど、これが全く生かされていない。イギリスから来たジュリー・クリスティー扮する考古学者は、館長と旧知の仲のようだし、食事に誘う場面も出てくる。一方事件解決の為にやって来たミシェル・セロー扮する刑事とも音楽の話を通じていい仲になりそうだった。そんな三角関係も中途半端だったし、精神病院の病棟でソフィーが語るおばあちゃんのお話も尻切れで終わっている。何だい、これは。原作はフランス往年のTVシリーズだそうで、それを現代風に形を変えて語り継ぐ為のリメイク。気持ちだけはわかりますけど・・・。

 さて、我らがソフィー・マルソー。「ラ・ブーム」好きには期待どおりの”お婆ちゃんっ子”の役柄。ますます美しかったし、ちょっとだけバックヌードのサービスもあり。貴方が彼女を観るために劇場に足を運ぶのでなければ、また貴方が熱烈なルーヴル美術館ファンでなければ、あまりお薦めはできないかも。この時期他に観る映画はあるでしょう。

 ★

この文章を書いたのは2002年。ソフィー・マルソーは作品に恵まれないよなぁ・・・と思うことがしばしばあるが、これはその最たるものかも。淀川長治センセイの教えを守って、最近はあんまり映画をけなさない僕ですが、この映画には当時よっぽど不満だったんでしょうな。感想にも書かれているように、「ELLE」誌に掲載されたフランス女優の特集の写真はとっても綺麗だったんよね。それで期待が高まっていたのでしょう。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラビット・ホール

2012-09-09 | 映画(ら行)

■「ラビット・ホール/Rabbit Hole」(2010年・アメリカ)

監督=ジョン・キャメロン・ミッチェル
主演=ニコール・キッドマン アーロン・エッカート ダイアン・ウィースト タミー・ブランチャード

最近、僕の身近な人が小学生のお子さんを交通事故で亡くされた。遺族や葬儀の司会から紹介される家族のエピソード、生前好きだった曲・・・あれ程心に刺さるような葬儀に参列したことがなかった。それに僕は大学1年の夏、高校時代の友人を交通事故で亡くしている。その後、彼のご両親は離婚してしまった。それだけにこの映画を、僕は穏やかな気持ちで見ることができなかった。このレビューもなかなか筆が進まなかった。この映画の主人公は交通事故で4歳の息子を亡くした夫婦。悲しい記憶を早く忘れてしまいたい妻と、息子との思い出にいつでも触れていたい夫。二人の溝は次第に大きくなっていく。そんな時、加害者の学生を見かけたことから、妻は彼に近づこうとする…。

大事なものを失った悲しみは当事者でないとわかるものではない。また悲しみへの向き合い方も人それぞれだ。僕らはそれを頭で理解していても、勝手な見方をすることがあるものだ。交通事故遺族のサークルに参加して、自分たちだけではないことを感じるのも一つの方法。夫は参加する意義を感じたが、妻はどうしても周囲と合わない。いちばん悲しみを共有してくれそうな配偶者とも意見が合わない状況になれば、お互いに自分と同じ思いを理解してくれそうな相手を探すことになる。息子の事故に自責の念がある妻にとって、それは加害者の少年だった。観ている最中、「どうして彼と会わねばならないのか?。加害者だぞ。」と思っていた。それは映画のクライマックスで夫が口にしたことと同じだ。しかし、鑑賞後にじっくり考えてみれば、息子の死に責任を感じている点では二人は共通している。だからこそ、二人はまた会いたい、話したいと思えるようになったのだろう。一方で夫はサークルで知り合った女性(サンドラ・オー)と意気投合する。二人は理解者が欲しくってお互い寂しくて仕方ない関係。車でマリファナを吸ってサークルをサボってしまったり。だが、彼女がパートナーに去られたことを告げられると、「僕は妻を愛しているんだ」と繰り返す。結局それ以上に接近することはないのだが、夫婦それぞれの思いが実に丁寧に描かれていく。ミッチェル監督の視線は優しい。受け取り方によっては一見理解しがたい二人の行動を、丁寧に綴っていくことで次第に観ている側に共感させていく。

少年が描いたコミック「ラビットホール」(「不思議の国のアリス」でウサギを追ってアリスが落ち込んだ穴)で、息子がまたこことは違うパラレルワールドででも生きていてくれたらと思うようになる。この世での生を失った悲しみは消えないけれど、何もかもがうまくいっている世界がきっとある。それは彼女にとって気持ちの救いとなる。ダイアン・ウィースト扮する母親が主人公に言う「岩のような悲しみもいつかポケットの小石に変わる」という台詞もいい。大事なものを失った人の心を表現した見事な表現だと思うのだ。冒頭に書いた方々がどんな思いでいるのか、本当に理解することはできない。でも僕らは、小石になりつつある悲しみの存在を理解することだけはできるのでは。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロミーとミッシェルの場合

2012-09-05 | 映画(ら行)

■「ロミーとミッシェルの場合/Romy & Michele's High School Reunion」(1997年・アメリカ)

監督=デヴィッド・マーキン
主演=ミラ・ソルヴィーノ リサ・クロードー ジャニーン・ガラファロ

 LAで気ままな生活を送る仲良し二人組が、田舎の同窓会出席のためにサクセス・ストーリーをでっちあげる。しかし、そこで彼女たちは本来のあるべき自分に気づく。80年代ポップス満載の楽しい楽しいお気楽コメディ快作である。自分のスタイルや主張をしっかり持つことがよいのだ!といういかにもハリウッド映画的なテーマなのだが、この映画にはとにかく爽快感がある。一度主人公たちを落ち込ませておいて、高校のいじめられっ子だったのが大逆転!というラスト。まるでカンフー映画の復讐劇(または「少林サッカー」と言ってもよいか・笑)を観ているかのようだ。ちょっと冴えないが一事に長けている人(いわゆるヲタクと言ってもいいか)が成功を手にするお話。世の中にどこか引け目を感じている観客を、勇気づけてくれること必至。お気楽ヤンキーガールのお話なんだけど、そんな普遍性があるからこの映画を好む人が多いのだろう。僕も好きです、これ。

 劇中流れる80年代ポップスがとにかく楽しいし、選曲もうまい。リサ・クロードーが「高校時代のヒット曲でカセット作っといた」と、同窓会へ行く道中 ♪Footloose をガンガン流す。嘘の成功物語引っさげて同窓会へ向かう彼女たちが、”気ままにいこうゼ”ってな曲を歌う皮肉。キャリアウーマンに変身した彼女たちは ♪Karma Chameleon を聴いている。LAのクラブの場面 ♪Staying Alive で踊っている彼女たちは、冴えない生活してても踊っているときは”まだ生きてるゼ!”と感じていることだろう。本来の自分に目覚めた彼女たちが ♪Venus をバックに登場するところは、もう拍手もん。アラン・カミングのヘリに乗ってパーティ会場を去る場面、♪Heaven Is A Place On Earth なんて気が利いてるじゃない!。そして二度流れるのが ♪Time After Time。「クラブ通いの成果が出たわね!」というダンスシーンは、クラシックバレエみたいなダンスだからもう笑うしかない。エンドクレジットの ♪We Got The Beat までTVの前で盛り上がりっぱなしの僕でした(笑)。あぁー!踊りに行きたい!マハラジャが恋しい!(80年代青春組)。

ロミー & ミッシェル [DVD]ロミー & ミッシェル [DVD]

ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント 2005-12-07
売り上げランキング : 47451

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ブログランキング・にほんブログ村へ 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラム・ダイアリー

2012-07-08 | 映画(ら行)

■「ラム・ダイアリー/The Rum Diary」(2011年・アメリカ)

監督=ブルース・ロビンソン
主演=ジョニー・デップ アーロン・エッカート マイケル・リスポリ アンバー・ハード

※注意・結末に触れている部分があります
ジョニー・デップの友人だったジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンの自伝的小説の映画化。報道記事というと出来事を客観視して書かれることが一般的に思うが、トンプソン氏のスタイルは一人称を用いた自分の言葉と感覚で語られる手法だった。これまでになかった手法だけに、彼の文章は”常軌を逸した”という意味をもつゴンゾー・ジャーナリズムと評された。ジョニー・デップは私生活でも親しかった彼だけに、この映画の製作にも名を連ねている。かなり個人的な思い入れがある映画だと言えるだろう。

プエルトリコの新聞社に勤めることになった主人公ポール・ケンプ。自称ジャーナリスト、小説家ではあるが、まだこれと言って作品にできたものがない。しかし読者あっての文筆業であるとの信念を強く持っている人物。編集長自ら紙面の内容に満足していなく、数名のプロによって支えられている新聞。星占いや暇つぶし記事しか書かされないラム酒浸りの日々。地元民の貧困をテーマにしようとするが編集長は認めてくれない。そんな折、空港で知り合った実業家サンダーソン氏。ポールは彼から米軍演習場跡地買収をめぐる企みに荷担するように求められる。サンダーソンの恋人である美女シュノーとの出会いも絡んで、彼の運命は次第に大きく動き始める。

この映画にいかにもハリウッド的なエンターテイメントを求めると、おそらく肩すかしを食らうことになるだろう。ストーリーを聞けば、きっとこの悪徳実業家に一泡吹かせてハッピーエンド!というラストを期待するだろうし、僕自身も最後まで観ていてそれを期待していた。しかし、サンダーソンのボートを奪うくらいで復讐劇に転ずる訳でもない。それに映画の半分くらいは酒浸りのどこかお気楽に見える日々の描写。アメリカへと旅立っていく主人公とその後の活躍を示して映画は終わるのだ。エンドクレジットを迎えて、正直なところ僕も「えー!これで終わり?」と思った。

確かにスカッとする映画じゃないが、観ていて不完全燃焼だったかと言えばそんなことはない。原作者のトンプソンが無名時代を経て、世の中の不条理やならず者たちへ立ち向かう心を養った話なんだな・・・と考えると、なんか後からじわーっとくるし、男として物事に立ち向かう勇気みたいなものを教えられた気がするのだ。映画の冒頭で、新聞社に抗議する地元民たちの姿が出てくる。これが記事に対する批判だと思ったポール。しかしそれは新聞作成の機械化を進めたことで解雇された地元民だと知る。美しい海に面した土地は白人によって買い占められて、地元民は近づくことすらできない。「ここはアメリカなんだよ」と地元読者を小馬鹿にする編集者。その挙げ句に突然新聞社も撤退してしまう。身勝手な白人たち。搾取される弱者。こうした現実がトンプソンを育てたのに違いない。ただ、残念なのは映画の焦点がそこに絞られている訳ではないことだ。ジョニー・デップが望んだのは友人の若き日々をスクリーンに綴ること。そして、トンプソン氏のスピリットを漠然でも感じて欲しいというのが、製作まで兼ねたジョニーの気持ちだったのでは。

ブログランキング・にほんブログ村へ 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラヴソング

2012-05-25 | 映画(ら行)

■「ラヴソング/甜蜜蜜(Comrades-Almost a Love Story)」(1996年・香港)

監督=ピーター・チャン(陳可辛)
出演=レオン・ライ マギー・チャン エリック・ツァン クリストファー・ドイル

●1997年香港電影金像奨 作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞・美術賞・撮影賞
・衣装メイクアップ賞・音楽賞・脚本賞
●1997年金馬奨 作品賞・主演女優賞
●1997年香港映画批評家協会賞 作品賞・監督賞・主演女優賞

 テレサ・テンの歌声にのせて、運命のいたずらですれ違いを続ける男女の姿を描くピーター・チャンの大ヒット作。テレサ・テンが好きだというと、大陸出身者だとわかってしまう、というエピソードが興味深い。この映画観てると、当時の中国人にとって、香港は想像以上に”別の世界”だったというのがよくわかる。「海外に出ていった人たちはみんな中国に帰って来てるわよ」とマギー・チャンが言われる95年で、この物語は終わるんだけど、香港返還を控えた中国の人々の姿を通じて、香港経済・社会の移り変わりをこの映画から読みとることもできるだろう。

 でも、恋愛映画として観るのならば、この映画全編に流れる切なさを観ている自分が受け入れられるかどうか、それぞれの切なさを抱える登場人物たちに感情移入できるか、そこでこの映画が気に入るかどうか決まっちゃうのかな、と思う。

 マギー・チャンは強さを表面に出しながらも”耐える女”。「友情」と強がりながらも・・・切ない。
一方、レオン・ライは、「友情」の名の下でうまいこと二股をかけた男!ってイメージがどうしても最後までつきまとい、彼には感情移入しにくかった。ただ、慣れない都会生活での寂しい気持ちは理解できる。「怒ったらもう会ってくれないだろう?」 ここはこっちまで切なくなったね。

 やくざのオッチャン、パウさんのエリック・ツァン。自分を怖がらず「鼠しか怖いものがない」というマギー・チャンのためにミッキー・マウスの刺青を入れるなんて、男のかわゆさ(?)が出てる。「俺は方々に女がいるんだ。お前も他に男つくれよ。」といいながらマギーを抱きしめるあたりは泣けてきた。こっちに感情移入するなんて、僕も年とったのかな・・・。レオン・ライのおばさん、これもまたいい。ウィリアム・ホールデンとペニンシュラホテルで食事した若い頃の思い出を大事にする姿は実に印象的だ。クリストファー・ドイル扮する英語教師が去っていく姿も短いんだけどジンときた。こうしてみると、愛すべき登場人物たちばかりだな。


ラヴソング [DVD]ラヴソング [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ 2010-04-21
売り上げランキング : 2997

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ブログランキング・にほんブログ村へ 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする