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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

リンカーン

2013-04-20 | 映画(ら行)

■「リンカーン/Lincoln」(2012年・アメリカ)

●2012年アカデミー賞 主演男優賞・美術賞
●2012年全米批評家協会賞 主演男優賞・脚本賞
●2012年NY批評家協会賞 男優賞・助演女優賞・脚本賞

監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=ダニエル・ディ・ルイス サリー・フィールド トミー・リー・ジョーンズ デヴィッド・ストラーザン

 2012年のアメリカ大統領選挙を覚えておられるだろうか。共和党のロムニー候補と民主党の現職オバマ大統領の対決は、政策論争から始まって、様々な対立を促した。保守的な政治を望む人々と、4年前の「Change!」と同じく変革を望む人々。宗教的な見地や人種間の隔たりにもつながるネガティブキャンペーンがエスカレート(みんなウンザリ)。次第に国を二分するような様相を呈した。こんなことで選んでいいのだろうか・・・日本にいる僕らですらその様子には首をかしげたものだ。中傷合戦の一方で、異なる意見の国をなんとかまとめようとするオバマ大統領の姿も印象的だった。

 どんな人物が国のリーダーにふさわしいのか。そんな空気に包まれていた時期に、スピルバーグ監督はこの題材を選んだ。第16代大統領エイブラハム・リンカーンが南北戦争を終結させるまでの物語である。映画の予告編でスピルバーグ監督は、日本の鑑賞者にメッセージを語った(予告編)。予告編で作品について言及する映画監督はピーター・ジャクソンやアルフレッド・ヒッチコックなど、これまでにもたくさんいる。だが今回のスピルバーグの言葉は単なる広告宣伝ではなく、今の世の中で政治のリーダーに何ができるのかを問うために、今も国民に愛される大統領を題材に選んだことを発している。その言葉は、オリバー・ストーンのように声高に世界のこれからの成り行きを憂い、訴えるのではない。かつて「ミュンヘン」のラストシーンで、世界貿易センタービルをCGで再現し、復讐が悲劇しか生まないことを静かに訴えたのに似ている。

 本編で描かれるのは、合衆国憲法修正13条を通過させるまでの物語。ゲティスバーグでの有名な演説シーンは出てこない。長引く南北戦争の一刻も早い終結が望まれる中で、リンカーンが目指したのは内戦の原因でもある奴隷制度の廃止である。しかし、戦争の終結を急ぐ多くの政治家たちは、南と和平さえ結べるならば奴隷制度は二の次でよいと考えている。戦争だけを終結させても根本の問題は解決しない。この両方をいかにして実現するか。これまで歴史の授業や伝記で僕らが知っているリンカーンの偉業だが、映画で描かれるのは泥臭い政治的かけひき。映画の前半はとにかく賛成票を投じてくれる下院議員を増やすための画策が描かれていく。しかし前半の議会の場面は、白熱こそしているもののエンターテイメントとして観るにはキツい部分もある。スピルバーグが元来得意としている映像で語り尽くす上手さは、ひたすら弁論に終始する場面ではうまく発揮できないと思えた。

 だが映画は中盤にさしかかり、一人の人間としてのリンカーン像を理解できてくると映画は輝きを増してくる。悪妻(?)とも言われた夫人の激しい言動にたじろぐ恐妻家、入隊を望む息子との関わりに、不器用な男の一面が描かれる。何事にもひるまない信念の人・・というイメージがあっただけに、ここから政治的難問に立ち向かう後半は、前半のキツさが嘘のように飽きさせない。これまでの作品よりも封じ込められたスピルバーグの映像で語る演出は、短いカットをテンポのよい編集でつなぐことでグイグイ引き込んでくれる。議員一人一人の表情が次々と映し出されて、緊張感が銀幕のこちらにも伝わってくる。トミー・リー・ジョーンズが演ずるスティーブンス議員は”実質的な平等”にこだわっていたが、政治的な妥協で形式的な”法の下の平等”を説く。この場面は印象的だが、ピンときにくいところかもしれない。奴隷とされてきた黒人を解放し、人種間での差別をなくそうとするのが”法の下の平等”。スティーブンス議員は、富裕層の財産を分配して黒人にも経済的な面での平等を与えようとしていた。つまり”実質的な平等”。そこにこだわっていた理由が明らかになる場面は、スピルバーグらしい上手さ。これまでも「アミスタッド」「シンドラーのリスト」でも人種差別問題を扱っただけに、昔からのファンには特に感動的に映る場面かもしれない。

 リンカーンが憑依した(?)とも思えるダニエル・ディ・ルイスは名演技。サリー・フィールドもやや憎まれ役だが素晴らしい。僕らエイティーズに嬉しいのが、裏舞台で民主党議員に近寄る工作員(ロビイスト)を演じたジェームズ・スペイダー。エンドクレジットで気付いたのだが「刑事ジョン・ブック 目撃者」のルーカス・ハースも出演してる。




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