羽を休める鳥のように

きっとまた訪れる薄紫の夕暮れを待ちながら

桐の花事件、その2

2010年05月10日 | Weblog
あの桐の大木が倒れそうで危険ではないのか、という通報があったらしい。
今朝、仕事に行ってその事を知り、初めてその深い空洞に気がついた。
幹に大きな傷もあった。
わたしは公園のカギは開けるが、隣接する事務所にいるだけで、
園内にはめったに行かないし、公園の管理をしているわけでもない。
でも、公園のことはやはり隣接する事務所から目が届く。

今朝、警備員さんと一緒に桐の木を見上げ、
散歩にくるこどもたちの引率者には「注意して遊んでください」と伝える。
そしてまず役所の人がきて、次に樹木の専門家がきた。
空洞に雨水が溜まって侵食し、枝ぶりで斜めに傾き、倒れる危険性有りと
判断され、午後には伐採に行きますと連絡がある。

「切られる?」
毎年楽しませてくれた桐の花。大木の下の薄紫のじゅうたん。

電話を受けてから外に出て見ると、
自転車をとめて佇んでいる女性がいる。
思わず近くに行って「この木、切られてしまうんです」と話しかけていた。
「あらそう、毎年ここを通って見とれてたのよ、残念だわ」
「そうですよね、さびしいです」


わたしは月曜日で煩雑な事務仕事の合間に携帯をもって木のそばに行き、
今までありがとう、、、ごめんね。と声をかけて幹に手をあて、
何枚か写真を撮った。




満開の時を過ぎて桐の花はさわさわとこぼれていく。涙みたいだ。

作業はあっけないほど簡単に済んだ。
わたしは倒れた木から細い枝を何本か貰って帰ろうと思い立ち、
園内に入ると、今朝の役所の人がよく切れる枝きり鋏を貸してくれた。

濡れた新聞紙で切り口を包み、事務所のテーブルに置いておくと、
甘くやさしい香りで室内が満たされる。
いつ終わるかと思うほどの仕事量も、その香りに包まれているからイライラもせずに
どうにか終えた。
すっかり暗くなった道を帰って母に見せる。
「桐の花?初めて見たわ」何度も言いながら、母は花瓶を探し始めた。
「いい匂い、ね」と枝にさわりながら猫か花を相手に話しかけている。

深い空洞を抱えたまま立っているのは精一杯だったろうか。
撮ってきた写真を見ていたらふと、そんなことを思った。