(前回からの続き)
ここで通貨安のほとんど唯一のメリットである輸出振興効果について簡単に確認しておきたいと思います。結論から先にいうと、英国も日本も、貿易面における通貨安誘導政策のプラス面はそれほど見られず、逆にそのマイナス面がずっと大きく作用して、差し引きでは経済や国民生活への悪影響のほうが大きくなってしまうということになります。
で、英国の主要輸出品ですが、自動車を含む機械類等34.8%、医薬品等を含む化学製品15.5%、鉱物性燃料(原油等)11%など(出典:JETRO)となっていて・・・うーん、自動車などは通貨安の後押しで輸出拡大効果が期待できるかもしれませんが、Brexit(EU離脱)したらEU諸国への輸出品にいまより高率の関税が課せられるなどのおそれがあり、その恩恵は削がれてしまいそう。さらに・・・そもそも英国には自動車とか電機等の世界的メーカーが存在せず、国家の発展を輸出に賭けるのならばどうしても他国資本に来てもらうしかありませんが、Brexitで対EU貿易の優遇措置を得られないとなると外国企業は英国進出を手控えたり同国から撤退しようとするでしょう・・・
以上に加え、英国のGDPに占める輸出額の割合は17%程度(2014年)と、いくら輸出促進に力を入れてもそれが同国GDP全体を押し上げる効果は限定的といわざるを得ません。これらのことからも、英国にとって通貨安はメリット少なくリスクばかりが多いという、同国にとっては回避したい状態だし、だからこそポンド急落をもたらしかねないBrexitは選択するべきではないということになるわけです。
同様のことが輸出額の同割合が15%(同)しかない日本についてもいえます。そのあたりはこちらの記事を含めて本ブログでいろいろ書いているので詳細は省きますが、本稿では「円安誘導しても『Jカーブ効果』なんてほとんど見られない」ことを指摘しておきたいと思います。
「Jカーブ効果」とは、「自国通貨安によって短期的に貿易収支の赤字が増えるが、その後反転し、貿易収支の黒字が(Jの字を描くように)増える」(Wikipedia)こと。日銀の「異次元緩和」という名の円安誘導政策が始まったばかりの2013年春から夏ころにかけて、黒田総裁はことあるごとにこのJカーブ効果についてしきりに言及し、いまは(原油等の輸入額が増えて)苦しくてもやがては円安の輸出促進効果で貿易黒字が増えて、これが日本経済のプラス成長に大いに寄与する、といった見方を示していたはずですが・・・