(前回からの続き)
といった安全保障の観点も含め、とくに2007年以降の円高ドル安トレンドにおける物価水準に馴染んでいた(?)わたしたちにとって、ここ2ヶ月ばかりの円安ドル高にともなう輸入品価格の上昇で引き起こされそうな物価高は、さまざまな面でわたしたちに為替レートがもたらす正負の影響について考えさせるきっかけとなりそうだ、と考えています。
なかでも、円安のネガティブ面が目立ち始める中で、これまでは悪者扱いされていた「円高」の良い面を見直す風潮が出てくるのではないでしょうか。本稿前段で、円安のデメリットは「100%」の国民に及ぶ、と書きましたが、裏を返すと、(程度の差こそあるものの)円高のメリットはこれまた「100%」の国民に及ぶ、ということに多くの人々が気づきそうだということです。
本稿前段の繰り返しになりますが、わが国は「内需大国」であり「輸入大国」でもあります。日本は石油や鉄鉱石などのエネルギー・鉱物資源のほとんどを海外から輸入しています。そして約39%(2011年度カロリーベース:農水省)という、主要国としては最低レベルの食料自給率が示すとおり、国民の「食」もまた輸入に大きく依存しています。
したがって、これらの輸入必需品の値段が円安で高くなることは国民生活の悪化につながるとともに、(最近の貿易赤字の主因である燃料輸入価格の高騰等がもたらす)経常赤字の拡大等を通じて国富の喪失につながり、逆に円高でこれらが安くなることは国民生活にゆとりをもたらすとともに国富の増強につながる、という見方も十分に成り立つかと思います。そのため、今回の円安インフレを機に、これまでの「円高=悪」という一面的な見方から脱し、多くの国民が通貨高の利点に目覚め、それを(海外権益等の買収等に)前向きに活用していくことは、国益の観点からも好ましいことと考えています。
ところで、現状の円安外貨高(ドル・ユーロ高)と輸入インフレの傾向ですが、それほど長くは続かないだろうと個人的には(ある意味ヘンな表現ですが)楽観しています。欧米諸国が今後もさらなる金融緩和(中銀による国債買い入れ等)を続けざるを得ず、一方でわが国のインフレ率が目標(2%)ほどは上がらないなかで、わが国と欧米諸国の実質金利差が結局「円>ドル>ユーロ」となって、円にマネーが集まる、つまり「円高」(ドル・ユーロ安)になっていくだろうとみているからです。だから幸いなことに(?)、国民が輸入インフレにこの先、長い間苦しめられることはないのではないでしょうか。
先日も書いたように、現在の「リスクオン」相場は、欧米中銀の金融緩和という「麻薬」がもたらしたものと認識しています。中銀による国債購入等によって利回りが低下し、これによって市場にあふれた低利マネーが株や不動産などの資産価格を買い支えるといった構図です。
しかしこれは財政健全化や産業振興などといった、真の意味での国家の競争力や支払い能力を高めるものではないために、早晩効力を失い、やがては通貨価値の下落(インフレ)や金利上昇を招くことでしょう。「ドラギ(ECB総裁)マジック」とか「バーナンキ(FRB議長)マジック」などとも呼ばれるそんな麻薬効果が切れたとき、欧米諸国はバブルの最終清算(金融システムへの公的資金投入やCDS決済などなど)に迫られて金融恐慌に陥るにちがいない・・・そんな懸念を抱いているのですが・・・。
まあそれはもう少し先で、ここしばらくは「リスクオン」と「円安」が続くでしょう。円安インフレの気配が忍び寄るなか、ある意味でこれはよい機会かもしれません。わたしたちはこの間に、日常生活面から安全保障面に至るまで、円安と円高の功罪を広範かつ冷静に見極める視野を養っておくべきではないでしょうか。
(「円安インフレ懸念で国民が気づく『円高』のありがたさ」おわり)
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