(前回からの続き)
先述のように、米中間の貿易不均衡問題の本質的原因は、アメリカに輸入代替品を作る能力がないこと。よって、たとえ中国製品の輸入を関税障壁でブロックしたところで、アメリカはその代わりのモノを他国からの輸入品に依存せざるを得ず、結局、同国のトータルの貿易赤字は減ることはない―――対中赤字は減っても、それと同額程度の対他国の赤字が増える―――ということになるでしょう。であればこの問題、アメリカが、中国はもちろん、日本やEUなどの他国のせいにし続ける限り、永遠に解消することはないはずです・・・
少し大げさに言えば、このあたり、アメリカのモノ作り産業が消滅の危機に瀕していることの表れでもあると考えています。1980年代から2000年代くらいにかけて、アメリカの貿易赤字の主因は原油等の輸入額の大きさでした。その後はご存知「シェール革命」の進展で同国は石油の自給率を高めること、つまりその輸入の削減に成功しつつあります。実際、トムソンロイターの記事等によれば、アメリカの原油輸入量は、2005年に記録した最高1250万バーレル/日から、2018年1月時点では400万バーレル/日を下回る水準にまで減ったとのことです。そればかりかアメリカは2015年以降は海外への原油輸出にも乗り出しているわけです。これらのことから単純に想像すると、石油の輸入額が大きく減るからアメリカの貿易収支は改善する、となりそうですが・・・実際にはそうはなっていません。米商務省の3月のデータによると、同国の2018年の貿易赤字は前年比10.4%増の8787.2億ドルと2006年以来12年ぶりに過去最大値を更新してしまいました。つまりこれ、せっかく石油輸入額が減ったのに、同国のモノの輸入品依存がいっそう深まったがゆえに、トータルでは最悪の値になったということ。その陰には当然、メイド・イン・USAの国際&国内(?)競争力の低下・・・というか、こちらの記事で書いた鉄道車両のように、自国では作ってすらいないモノのジャンルがどんどん広がっている様子が窺えるわけです・・・
上記貿易赤字のデータによると、国別赤字では全体のほぼ半分を占める対中国が4192億ドルと同11.6%増えて過去最大となったほか、対EUや対メキシコもこれまた過去最大となっています。これらからもアメリカが、自動車から消費財等に至るありとあらゆるモノを外国品に頼っているさまが伝わってきます。
貿易不均衡問題について米ドナルド・トランプ政権周辺はしばしば国家安全保障にかかわる問題みたいな言い方をしますが、上記を冷静に分析すれば、同国の真の安保上のリスクは、失礼ながら米国民のモノ作りに関する現状の能力レベルにあるように思えてなりません・・・って、こちらの記事に書いたことがそのあたりを物語っているような気が・・・?