(前回からの続き)
世界各国、とりわけ欧米諸国を自国製品「漬け」にすることに成功したいま、中国はそれらの交換券としての人民元の国際化≒ハードカレンシー化を推進しつつ、さらには人民元の将来の基軸通貨化すら見据えている・・・。
といったような、中国指導者の野心(?)を前回、憶測で書いてみました。まあこの後段(人民元の基軸通貨化)はさすがにハードルが高いでしょうが、メイド・イン・チャイナに対するニーズの高さを勘案すれば、前段(人民元のハードカレンシー化)は十分に手が届く目標といえるでしょう。実際に人民元が貿易決済通貨としてさらに使われるようになれば、国際金融界における中国のステータスはますます高まり、日本(円)を凌駕するのはもちろん、アメリカ(つまり基軸通貨ドル)の地位を脅かす存在になるのかも・・・
それでも―――これだけ中国製品が地上にあふれ、人民元の利用価値が高まっても、中国が世界の金融覇権を握ることはできないでしょう。
ということで、ここから先はそんな中国の野望を阻むネガティブ面について思い浮かぶところを記してみたいと思います。
で、その最大のボトルネックとして指摘できるのは、通貨「人民元」・・・の使い勝手の悪さ、つまり人民元がいまだに世界の為替市場で自由に売買できる通貨になっていないことだと考えています。だから「自由化」―――これこそ人民元がドル、ユーロ、円などとならぶハードカレンシーと位置づけられるために突破しなければならない最大の関門。一方で現状の管理通貨―――金融当局による恣意的な為替・金利操作、持ち出し・持ち込み額の上限、中国内における外貨との交換制限などなど・・・の各種規制で管理された通貨―――にとどまる限り、人民元は国際通貨としての利便性も信認も具備することはないので、金融マーケットにおける中国の存在感がこれ以上に高まることはないでしょう。
このあたりに関連して現在、人民元を国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(Special Drawing Rights:SDR)の構成通貨(現時点ではドル、ユーロ、円、英ポンドの4通貨)として採用すべきかどうか、という議論があります。現に中国当局は関係各所にこれを積極的に働きかけており、イギリスやドイツ等の欧州諸国は採用に前向きの意向を表明しているもよう・・・。
これに対してネガティブな反応を示しているのがアメリカです。報道によれば、同国のルー財務長官はこのほど、人民元がSDR構成通貨の基準を満たすには一段の自由化等が必要で、アメリカはそのためのプロセスを完了させるよう中国に促している、といった趣旨の発言をしたとのこと。ということで、先日のアジアインフラ投資銀行への参加の是非に続き、中国の動向に関してまたも欧州とアメリカ(ついでに日本)との間で対応の違いが表面化したわけですが・・・。
わたしは今度はアメリカの意見に賛成です。つまり、中国は人民元をSDR通貨にしようなどとする前に、アメリカ、欧州、日本がしてきたように、まずはその自由化を進めよ、という立場。なぜなら、それによってはじめて人民元の本当の実力―――ドルや円などに対する相対的な市場価値が確認できるから。逆にいまのように過度な規制や管理で「お化粧」(?)されたままでは素顔が分からず、人民元はどうにも怪しくて使えないしホールドする気になれない―――そう考える投資家も少なくないのではないでしょうか・・・。