(前回からの続き)
前述のように中国はいま、全世界で1年間に生産される鉄鋼の半分近く(2017年で約45%)を自ら作り、使っていると推定されます。同国のGDPが世界全体の15%ほどであることなどに照らすと、これ相当に過剰な量だといえるでしょう。で、これほどまでに中国が鉄を消費するのは、その異様な経済構造のせいだと指摘することができます。経済活動における「投資」(固定資産投資)のウェートが大きすぎるということです。
中国のGDPに占める投資の割合は2017年時点で44.4%。これ、おおむね20%前後の先進国(米19.8%、日24.6%)の、ほぼ倍の数字です。同国のこの値は以前から高めでしたが、米リーマン・ショック(2008年)直後の世界経済不況に対処するために打ち出された総額4兆元(当時のレートで約60兆円)といわれる超大型の景気刺激策(2009年~)でいっそう上がりました。2011年には同48%の史上最高値に至るなど、同年前後から2014年にかけて45%以上の高い水準を推移しました。
これに連動する形で起こったのが世界的な資源バブルです。中国で鉄がこれだけ必要とされるのだから当然、鉄鉱石の値段は跳ね上がるわけです。実際、2008年にトン当たり62ドルだったものが、わずか3年後の2011年には168ドルと2.7倍になりました。これは明らかに上記政策にともなう中国の「爆買い」の影響でしょう。さらに、こうして同国が大量の鉄を使えばエネルギーもそれだけ消費する、となって石油の値段も高騰しました。国際原油価格は2011~2014年あたりにかけて1バーレル当たり100ドルの大台を上回るレベルで高止まりを続け、この間、円安輸入インフレを待ち望んでいたアベノミクス日本を大いに喜ばせた(?)わけです。
で、この中国の投資ですが、シビアにコスパ評価する民間部門の自律的活動の結果・・・などではなく、国策すなわち共産党政府が主導して実行されたものです。よって、必然的に自分たちの息のかかった国有企業がその実行部隊になることに。こうして、官製巨大投資の骨格作りを担うことになった鉄鋼メーカーは、優先受注とかリベート(?)といった国家の全面的な支援を得て設備増強にのめり込み、過剰な生産能力を持つに至ったわけです。そんなことでもなければ日本の8倍、年間8億トンもの鉄鋼を一国で作れるはずはありませんからね。
そんな、いかにも計画経済国らしい経緯で投資に邁進したものの・・・あちらこちらで無理無駄が蔓延し、投資効率が上がらなくなってきたようです。中国国内にすでに100か所以上は存在するといわれる無人の大規模マンション群「鬼城」(ゴーストタウン)はその象徴です(なかには100万人規模のものまであるらしい?)。そんなのを荒野の真ん中みたいな、どう見ても今後、多くの人が集まるとは思えないようなところにバンバン建てちゃうところが共産国家らしいといえばそれまでですが・・・