(前回からの続き)
米連邦政府の債権者(とくに中国や日本などの米国外の投資家)に対して債務減免を強要するというドナルド・トランプ氏(米次期大統領選に向けた共和党指名争いでトップを走る実業家)の過激な政策は、先述の理由から実際に強行される可能性はきわめて低いでしょう。しかしいっぽうで、アメリカの借金が持続不可能なほどに膨れ上がってしまったという厳しい現実を放っておくわけにもいかず・・・
・・・ということに早くも気づいたのか(?)、トランプ氏は先日、CNNとのインタビューで上記とは正反対といえるこんな見方を示しました―――「This is the United States government. First of all, you never have to default because you print the money, I hate to tell you, OK?」(アメリカ政府なのだからデフォルトするなんてことはまずあり得ない。紙幣を刷るだけでOKという話だろ?)―――つまり債権者にはドル札をあらたに刷って渡せばよい、ということです。
・・・そう、アメリカにはそれしかない、外国に徳政令を呑ませることができないのならば・・・。どれほど優秀なエコノミストが知恵を絞ったところでトランプ氏のこのシンプルな考え以上に説得力のある策なんて、出てくるわけはありません。そんなことでホント、いつもながらこの御方は何て正直なんだろう、と感心させられることしきりですが・・・
借金を返せなければ紙幣を刷って返す。これは、100ドルを借りた政府が100ドル(プラス利子)を返すために徴税等によって市中から100ドルを集めようとするのではなく、あらたに100ドル札を印刷してそれを債権者に渡すようなことを意味します。ということはその前後で市中のドル量は100ドルから200ドルへと増加してしまう。経済成長のペース以上にそんなことを繰り返したらモノやサービスに対してマネーが増え過ぎてしまう現象すなわち「インフレ」(=通貨価値の毀損)の発生は不可避です。で、このインフレ、おカネを借りた側にとってはありがたいもの。なぜならインフレが起これば、おカネの価値が借入時点よりも返済時点で下がっているから、その実質的な返済負担が軽くなるからです。
他方、そんなことをする政府に100ドルを数年間、貸した(当該政府発行の国債を買った)側にとってはどうか、といえば・・・たしかに100ドル(プラス、わずかばかりの利子)は戻っては来るけれど、その間に利回り以上にインフレ率が高く推移すれば、その元利合計の実質価値は元本の100ドルを下回る、なんてことになって損するリスクが高まることになります。したがってもし、トランプ氏が言うような、借金の穴埋めを紙幣印刷で!みたいなことをアメリカが本気で始めたら、同国にカネを貸す余力のある投資家(日本など)は元本割れするようなボロい債券(米国債)なんぞ買おうとしなくなるわけです。そうなればアメリカは資金調達ができずに結局、投資家に対する借金棒引き強要の場合と同じ破局―――ドル・米国債暴落&長期金利急騰―――を迎えることになる・・・