Sightsong

自縄自縛日記

國分功一郎『スピノザ』

2022-12-30 10:16:31 | 思想・文学

國分功一郎『スピノザー読む人の肖像』(岩波新書、2022年)。

この17世紀の哲学者についてどう捉えたらよいか。自分が以前に主著『エチカ』を読んだかぎりでは、完全性(実体)は神にのみありそれは唯一のものだ/様態などひとつのあらわれに過ぎない/人間精神もまた様態のように不完全でしかありえない/不完全性を知ることが精神向上への唯一の道である/それをしないこと(無知)はドレイへの道である、といった思想だと理解した。

本書は新書にしては厚めだけあってとても丁寧。

無限の完全性がある以上「なにか他の体系としての外部」はあり得ないし、それどころか、身体の外部についても、混乱した観念しか獲得できないということになる。つまり我々の意識とは「身体の変状の観念の観念」であり、我々はひとまずはそれを通じてしか世界と関与できない。ルイ・アルチュセールがスピノザを「ねつ造」して無数の出来事が偶然の出逢いや偶発時のように並行し雨のように降っていると想像したことも(市田良彦『ルイ・アルチュセール』)、ジル・ドゥルーズが世界について「たえずさまざまの個体や集団によって組み直され再構成されながら」形成されていると書いたことも(『スピノザ』)、ミシェル・フーコーがそこに無数のアーカイヴの可能性を見出したことも(『知の考古学』)、あらためて納得できる。おもしろいなあ。

それでは自由とはなにかと言えば、その意識のあり方がもたらす結果であるとする。こうなると確かに著者のいうように『エチカ』は実践の書。

●スピノザ
ジル・ドゥルーズ『スピノザ』
スピノザ『エチカ』
市田良彦『ルイ・アルチュセール ― 行方不明者の哲学』


金澤英明「年末大仕事3~四つ巴」@中野スイートレイン

2022-12-28 23:57:39 | アヴァンギャルド・ジャズ

中野のスイートレイン(2022/12/28)。

Hideaki Kanazawa 金澤英明 (b)
Eiichi Hayashi 林栄一 (as)
Yusei Takahashi 高橋佑成 (p)
Naoki Takahashi 高橋直希 (ds)

<Mary Hartman, Mary Hartman>ではさみこむというドラマ的な展開にハコは盛り上がる。とはいえ仕掛けなどなくても林さんのアルトには圧倒される。レイドバックというのでもない、ここぞというタメを作って有無を言わさぬ音を放つ。

なんて展開なんだという<Straight, No Chaser>、不穏なピアノからの<Lover Man>。響きにぐっとくるベースソロから、おそらく高校時代から吹いていたであろう<Lonely Woman>。アルトの擦れるような微かな倍音からの<You Don't Know What Love Is>では高橋直希さんがブラシで自分の時間を進めるのが印象的。ふたたびすばらしいベースソロからの<Bye Bye Blackbird>。

Fuji X-E2, XF35mmF1.4

●金澤英明
金澤英明+栗林すみれ(二重奏)@小岩Cochi(2020年)
松丸契『THINKKAISM』(2019年)
栗林すみれ『The Story Behind』(2018年)
アーロン・チューライ@新宿ピットイン(2016年)

●林栄一
インプロヴァイザーの立脚地 vol.1 林栄一(JazzTokyo)(2022年)
トリオ座@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2022年)
林栄一+國仲勝男+小谷まゆみ@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2022年)
MMBトリオ with 神田綾子・ルイス稲毛/林栄一@なってるハウス、cooljojo(JazzTokyo)(2022年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2021年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2021年)
林栄一+武田理沙@公園通りクラシックス(2021年)
Fado-mo-two@in F(2020年)
「飴玉☆爆弾」@座・高円寺(2020年)
渋大祭@川崎市東扇島東公園(2019年)
リューダス・モツクーナス『In Residency at Bitches Brew』(JazzTokyo)(2018年)
<浅川マキに逢う>ライブ&上映会@西荻窪CLOPCLOP(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年)
林栄一+小埜涼子『Beyond the Dual 2』(2014-15年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
早川岳晴『kowloon』(2002年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999-2000年)
高瀬アキ『Oriental Express』(1994年)

●高橋佑成
インプロヴァイザーの立脚地 vol.2 高橋佑成(JazzTokyo)(2022年)
瀬尾高志+松丸契+竹村一哲+高橋佑成@公園通りクラシックス(2020年)
秘密基地『ぽつねん』(2019年)
秘密基地@東北沢OTOOTO(2019年)
謝明諺+高橋佑成+細井徳太郎+瀬尾高志@下北沢Apollo(2019年)
森順治+高橋佑成+瀬尾高志+林ライガ@下北沢APOLLO
(2016年)


永田利樹+石田幹雄+外山明@なってるハウス

2022-12-28 00:18:01 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウス(2022/12/27)。

Toshiki Nagata 永田利樹 (b)
Mikio Ishida 石田幹雄 (p)
Akira Sotoyama 外山明 (ds, balafon)

フォービートからラテンまでさまざまなリズムの曲をプラットフォームに出す永田さん、過度に重厚でもなく、押し引きのバランスのなかで良い音を次々に見出してゆく感覚。どんな局面であろうと驚くようなフレーズを繰り出す石田さん、やはりどんな局面であろうと自分のリズムを場に浸透させる外山さん。これは幻惑される。

Fuji X-E2, XF60mmF2.4

●永田利樹
近藤直司+永田利樹+武田理沙@喫茶茶会記(2020年)
ジョー・フォンダ+永田利樹@渋谷メアリージェーン(JazzTokyo)(2018年)
藤井郷子オーケストラ東京@新宿ピットイン(2018年)
かみむら泰一session@喫茶茶会記(2017年)
フェローン・アクラフ、Pentax 43mmF1.9(2004年)

●石田幹雄
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2022年)
石田幹雄トリオ@稲毛Candy(2020年)
松風鉱一+上村勝正+石田幹雄@本八幡cooljojo(2020年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2020年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2019年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2019年)
後藤篤@アケタの店(2019年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2018年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2018年)
石田幹雄『時景』(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
後藤篤『Free Size』(2016年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
5年ぶりの松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2013年)
纐纈雅代 Band of Eden @新宿ピットイン(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
吉田隆一+石田幹雄『霞』(2009年)
石田幹雄トリオ『ターキッシュ・マンボ』(2008年)

●外山明
北田学+外山明+阿部真武@渋谷Bar Subterraneans(2022年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2022年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2021年)
間(ま)と楔(くさび)と浮遊する次元@新宿ピットイン(2021年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2021年)
「飴玉☆爆弾」@座・高円寺(2020年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2020年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2019年)
渋大祭@川崎市東扇島東公園(2019年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2019年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+シセル・ヴェラ・ペテルセン+細井徳太郎@下北沢Apollo、+外山明+大上流一@不動前Permian(2019年)
藤原大輔『Comala』(2018年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2018年)
西島芳 trio SONONI@下北沢Apollo(2018年)
松風鉱一カルテット@西荻窪Clop Clop(2018年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2018年)
西島芳 trio SONONI@下北沢Apollo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
Shield Reflection@Ftarri(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その3)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その2)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その1)
『SONONI, Laetitia Benat』(2016年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2016年)
渋谷毅+市野元彦+外山明『Childhood』(2015年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
纐纈雅代『Band of Eden』(2015年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
纐纈雅代 Band of Eden @新宿ピットイン(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
松風鉱一カルテット、ズミクロン50mm/f2(2007年)
原みどりとワンダー5『恋☆さざなみ慕情』(2006年)


People, Places and Things × Ex@小岩BUSHBASH

2022-12-25 22:38:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

小岩のBUSHBASH(2022/12/25)。

Yuma Takeshita x Hiroyuki Ura 竹下勇馬 × 浦裕幸
Kenichi Kanazawa x Misaki Motofuji 金沢健一 × 本藤美咲
Li Song (from UK)
fuelphonic

竹下勇馬 × 浦裕幸。竹下さんの機械が制御対象から自律へと向かい「言うことを聞かなくなる」ようで、このような世界をふたりが淡々と提示するのが奇妙に愉快。

金沢健一 × 本藤美咲。金沢さんは大きな板に振動を与え、それによる音を提示するとともに、板上で金属やカップを躍らせ、粉からある種のパターンを描画する。面的な展開に対し、本藤さんはバリトンサックスのロングトーンで応じた。音に関してトポロジカルな共演であるように思えた。終演後、金沢さんは「僕は技術者ですよ」と話してくれた。

Li Song。スネアドラムがふたつあり、それぞれ天井からぶら下げられた振動子やメトロノームがスネアを響かせ、それを拾ってサウンドにする。氏の挙動も道具やマテリアルの挙動も偶然と人為の間を揺れ動き、おもしろいものだった。

FujiX-E2、XF60mmF2.4

●竹下勇馬
森下周央彌+竹下勇馬+増渕顕史@Ftarri(2021年)
のっぽのグーニー+竹下勇馬、阿部薫没有未来@大崎l-e(2019年)
Hubble Deep Fields@Ftarri(2019年)
高島正志+竹下勇馬+河野円+徳永将豪「Hubble Deep Fields」@Ftarri(2018年)
Zhu Wenbo、Zhao Cong、浦裕幸、石原雄治、竹下勇馬、増渕顕史、徳永将豪@Ftarri(2018年)
高島正志+河野円+徳永将豪+竹下勇馬@Ftarri(2018年)
TUMO featuring 熊坂路得子@Bar Isshee(2017年)
竹下勇馬+中村としまる『Occurrence, Differentiation』(2017年)
二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+アルフレート・23・ハルト+竹下勇馬@Bar Isshee(2017年)
『《《》》 / Relay』(2015年)
『《《》》』(metsu)(2014年)

●浦裕幸
Zhu Wenbo、Zhao Cong、浦裕幸、石原雄治、竹下勇馬、増渕顕史、徳永将豪@Ftarri(2018年)
徳永将豪+中村ゆい+浦裕幸@Ftarri(2017年)

●本藤美咲
本藤美咲+岡千穂@Ftarri(2022年)
本藤美咲+遠藤ふみ@Ftarri(2021年)
照内央晴+柳沢耕吉+あきおジェイムス+本藤美咲@なってるハウス(2021年)


石原吉郎 - 野村喜和夫

2022-12-25 22:13:56 | 思想・文学

石原吉郎『望郷と海』(1972年)を再読、この機会に野村喜和夫『証言と抒情 詩人石原吉郎と私たち』(白水社、2015年)も読む。

シベリアに抑留された石原吉郎は、状況の苛烈さのためにことばの依拠する意義を失い、解放されてからことばを再発見せざるを得なかった。ことばを失ったのではなく、ことばを回復するために沈黙したのだった。また、その過程は証言ではなく詩的言語による表現であった。このことは野村さんが引用する石原吉郎のエッセイの一文にこわいほどに反映されている。

――― 詩は不用意に始まる。ある種の失敗のように。

ひとまずは回復に成功したのも、石原吉郎が単独者であり、かつ他者に開かれていたからでもあった。それでもかれはアルコールに依存し、精神を病み、緩慢な死を選んだ。そしてこの野村さんの思索は、極限をみた詩人だけでなく、詩を読む者の内奥も掘り下げている。


大石始『南洋のソングラインー幻の屋久島古謡を追って』

2022-12-22 20:46:40 | 沖縄

大石始『南洋のソングラインー幻の屋久島古謡を追って』(キルティブックス、2022年)がおもしろい。

レラ抜きの琉球音階はいまの沖縄が中心で、たとえば奄美大島の民謡などはずいぶん雰囲気が異なっている。だが、それは1か0かではない。沖縄よりもかなり北の屋久島にも琉球音階が伝わっていた。

薩摩から先島までを行き来する官吏、漁民、あるいは商人がマージナルマンであった。人は移動とともにうたを持ってくる。


鶴見俊輔『柳宗悦』

2022-12-13 07:59:31 | 思想・文学

鶴見俊輔『柳宗悦』(平凡社ライブラリー、原著1976年)を読む。

はじめからなにか既成のカテゴリーとして民藝運動があったわけではない。かれが受容したブレイクもホイットマンも、セザンヌさえも、日本においてはまだ真っ当に評価される対象ではなかった。民藝も同様にラディカルな思想だった。柳が京都の朝市で買ったものは、売り手のおばあさんたちに言わせると「下手物」、すなわちごく当たり前に生活の中にあるもの。柳はそれを自分の実用生活の中に「蒐集」を通じて取り込み、運動とした。ごく普通にあるものや模倣に価値を見出すことは、鶴見によれば、ヨーロッパ近代文明へのアンチテーゼでもあった。

おもしろいのは白樺派の系譜にあるこまやかな文体や、「たやすくうちあけばなしをせず、根拠をはっきり示し、推論の途中をとばさずに順序をたててゆっくり説明する」ありようを、単にスタイルとしてではなく、軍国主義に同調するのをさまたげる思想として捉えていることだ。ただ、それでも文体だけでは軍国主義に抗するには十分の力となり得なかったと書くのは、やはり鶴見俊輔ならでは。

●参照
『民藝の100年』展@東京国立近代美術館
アイヌの美しき手仕事、アイヌモシリ
「日本民藝館80周年 沖縄の工芸展-柳宗悦と昭和10年代の沖縄」@沖縄県立博物館・美術館
短編調査団・沖縄の巻@neoneo坐
「まなざし」とアーヴィング・ペン『ダオメ』


サムライ茶会記 茶会記が瞠目する10人10枚10日特集

2022-12-08 23:09:49 | アヴァンギャルド・ジャズ
新宿にサムライという奇妙なバーがあって、そこで長野の茶会記クリフサイドの主人・福地史人さんが指名した10人がそれぞれ10枚を選び、福地さんが流すという企画を続けている。僕の回は12月6日。以下の盤を氏に託した。
●沖至トリオ+1、藤川義明『Live at Jazz Spot Combo, Fukuoka, 1975』(1975年)
フランスに渡っていた沖至が一時帰国したときの記録。沖さんのトランペットは蝶のようにファンタジックで、広い空間をイメージさせる。サックスの藤川義明さんはいま藤堂勉として活動しており、このときすでに激烈なブロウをみせている。翠川敬基さんのチェロにはなまめかしいほどの色気があり、いまもライヴに行くとそれを体感できる。去年発掘されてCD化され、ライナーノーツを書いた。
●ホッパーズ・ダック(林栄一、川端民生、古澤良治郎)『Far Out』(1996年)
たぶん気心が知れたメンバーでためらうことなく躍動。林栄一さんのきゅわわと伸びるアルトも聴きものだがここは故・川端民生さん。「あの」アナーキーなベースが聴けるだけで嬉しい。林さんの名曲<Brother>は必聴。
●デイヴィッド・ブライアント『Higher Intelligence』(2022年)
ピアノトリオ。デイヴィッドはヘンリー・スレッギル、デイヴィッド・マレイ、ルイ・ヘイズらアメリカのレジェンドのバンドにも参加しており、繊細に変わりゆく和音を日本で聴けることは実はたいへんなこと。マレイの<Murray’s Steps>なんてオリジナルとまったく異なるデイヴィッド色でぐっとくる。
●神田綾子『Antigravity Vacation』(2016年)
日本のシーンにおさまりきらずNYで活動をはじめたヴォイスの表現者。誰をフォローしたわけでもなくこの独創性はどこから来たのだろうと驚かされる。このアルバムもNYの腕利きミュージシャンたちと即興ユニットを組んだものであり、現在の活動につながっている。12月10日(土)には渋谷のバー・サブテラニアンズで、柳川芳命さん(若松孝二の映画『エンドレス・ワルツ』で阿部薫の音を吹いたが現在はさらに進化している)、内田静男さん(地下音楽シーンで不穏に脈動している)と共演。ぜひ。
●柳川芳命+直江実樹『SAXORADIO』(2022年)
その柳川芳命さんが、ラジオを両腕で抱えて受信する電波で演奏する直江実樹さんと即興演奏。ラジオは外気を取り入れ抽出する装置だが、直江さんはアンビエントな音だけでなく、サックスのブロウに憑依したかのような音も出す局面があり、おもしろい。
●関根敏行『I Love Music』(2021年)
奇をてらうことのないソロピアノ。先日、行徳のホットハウスではじめて観て魅了されてしまった。明確なフレーズから、レイ・ブライアントやジョン・ヒックスといった名手に通じるブルース感覚があふれ出している。
●松本ちはや『縄文太鼓いにしえ Jomon Fantasy』(2022年)
チンドン屋の太鼓も即興演奏も演るし、縄文時代の太鼓を想像して自分で焼いて作り、演奏するという唯一無二の人。縄文太鼓からさまざまな響きを引き出しつつ、オーボエ・イングリッシュホルンやアラブ琴とともに聴きやすいサウンドを作るなんて、やはり只者でない。
●白石かずこ『ジョン・コルトレーンに捧ぐ』(1977年)
日本のポエトリーリーディングのパイオニアにして今なお現役。『砂族』、『現れるものたちをして』、『浮遊する母、都市』など彼女の詩集を開いてもそうだが、ことばを通じた宇宙空間への飛翔感が半端ない。サックスのサム・リヴァースはマイルス・デイヴィスと演っても白石かずこと演っても突き抜けている。
●金石出『Final Say』(1997年)
故・金石出(キム・ソクチュル)は韓国シャーマン音楽の中でも傑出した存在であり、サックスの梅津和時さんやコントラバスの故・齋藤徹さんなど日本の即興演奏家たちもとりこにした。かれが吹くダブルリードのホジョクは大蛇のようにうねり暴れる。このアルバムでも梅津さんや李廷植(イ・ジョンシク)やヴォルフガング・ プシュニクといったくせものサックス奏者たちと共演しながらも存在感は圧倒的。最後の5曲目はなんと多重録音で金石出vs. 金石出。とんでもなくわけがわからない。
●齋藤徹『Travessia』(2016年)
齋藤徹さんの還暦記念ソロリサイタルの記録。僕はCDのオビに次のように書いた。
「バッハが軋む。タンゴが軋む。韓国が、黒潮が、軋む。有象無象の雑音と倍音のなかから、その都度、齋藤徹の音楽が立ちのぼってくる。さまざまな地下水脈がある。ジャズ。アルゼンチンタンゴ。韓国のシャーマン音楽。ブラジルのショーロ。それらが齋藤徹の身体を通過し、コントラバスを通過し、弦の軋みやホールの響きとともに、いちど限りの、ただひとつの音楽として創出されている。このリサイタルは、齋藤徹という音楽家のひとつの集大成であり、かつ、通過点でもあった。聴く者は、そこに、精製され純化される前の、音のざわめきを見出すことだろう。」
僕もこのリサイタルを観た。バッハの途中で徹さんが「破綻した!」と突然叫び、即興演奏に移行した。その破綻さえも齋藤徹の音楽にしてしまう強靭さ。CDでは<霧の中の風景>に続き、そのときの即興が収録されている。続けて聴くと身動きが取れなくなる。

Non-Confined Space 非/密閉空間『Meta, Construct Within’ Spaces』(Taiwan Beats)

2022-12-07 23:17:13 | アヴァンギャルド・ジャズ

>> Non-Confined Space (非/密閉空間) の第2作『Meta, Construct Within’ Spaces』アルバムレビュー - Taiwan Beats

●謝明諺
サックス奏者謝明諺(シェ・ミンイェン)インタビュー(Taiwan Beats)(2022年)
ジャズと詩の新境界:『爵士詩靈魂夜 A Soulful Night of Jazz Poetry』(Taiwan Beats)(2021年)
『爵士詩靈魂夜 A Soulful Night of Jazz Poetry』(JazzTokyo)(2021年)
陳穎達『離峰時刻 Off Peak Hours』(JazzTokyo)(2019年)
謝明諺+レオナ+松本ちはや@Bar subterraneans(JazzTokyo)(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
謝明諺+秋山徹次+池田陽子+矢部優子@Ftarri(2019年)
謝明諺+高橋佑成+細井徳太郎+瀬尾高志@下北沢Apollo(2019年)
陳穎達カルテットの録音@台北(2019年)
東京中央線 feat. 謝明諺@新宿ピットイン(2018年)
謝明諺+大上流一+岡川怜央@Ftarri
(2018年)
謝明諺『上善若水 As Good As Water』(JazzTokyo)(2017年)
マイケル・サイモン『Asian Connection』(2017年)

 


田辺和弘@上尾BarBer富士

2022-12-06 00:11:34 | アヴァンギャルド・ジャズ
上尾のバーバー富士において、田辺和弘さんのコントラバスソロ(2022/12/5)。
 
 
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 (b)
 
楽器「ライオンヘッド」はフランスのガン&ベルナーデル商会による、バール・フィリップスから齋藤徹さんの手を渡ってきた19世紀のものである。
聴いてやはり驚いた。同じ楽器であっても弾き手によってこうも違うものか。弓を微細にずらしながらグラデーションを描く音も重厚な指弾きも硬い芯が入っているように聴こえる。邦楽のようにも、琉球音階のようにも思える局面があり、またモンゴルの馬頭琴や喉歌を思わせる豊かな倍音も聴くことができた。
 
 
 
 
Fuji X-E2, XF60mmF2.4, 7Artisans 12mmF2.8
 

幽けき刻@成城学園前Cafe Beulmans

2022-12-04 21:37:16 | アヴァンギャルド・ジャズ

成城学園前のCafe Beulmans(2022/12/4)。

Kanon Aonami 蒼波花音 (as)
Fumi Endo 遠藤ふみ (p)
Toru Nishijima 西嶋徹 (b)

類をみないサウンドを提示するグループだが、今日の演奏を通じて、それは方法論の模索からはじまっているように思えた。静かな中で減衰音をいとおしむように次の音を出すありよう、西嶋さんの曲名<Interdependence>に象徴されるように個々の演者の音ではなくそのあわいを引き出そうとするありよう、あるいは蒼波さんの<うつろい>では重なりのグラデーションをためすありよう。それらを通じてのコミュニケーションへの絶望と信頼の取り戻し。様式への従属には陥らないにちがいない。

Fuji X-E2, 7Artisans 12mmF2.8, XF60mmF2.4

●蒼波花音
幽けき刻@公園通りクラシックス(2022年)

●遠藤ふみ
やみのうつつ vol.1@神保町試聴室(2022年)
長沢哲+遠藤ふみ@神保町試聴室(2022年)
遠藤ふみ+甲斐正樹+則武諒@神保町試聴室(2022年)
幽けき刻@公園通りクラシックス(2022年)
神田綾子+矢部優子+遠藤ふみ@大泉学園インエフ(2021年)
遠藤ふみ『Live at Ftarri, March 8, April 11 and June 27, 2021』(JazzTokyo)(2021年)
青木タイセイ+遠藤ふみ+則武諒@関内・上町63(2021年)
徳永将豪+遠藤ふみ@Ftarri(その3)(2021年)
かみむら泰一+古和靖章+遠藤ふみ+阿部真武@神保町試聴室(2021年)
徳永将豪+遠藤ふみ@Ftarri(その2)(2021年)
本藤美咲+遠藤ふみ@Ftarri(2021年)
徳永将豪+遠藤ふみ@Ftarri(2021年)
池田陽子+遠藤ふみ@Ftarri(2021年)

●西嶋徹
神田綾子+大澤香織+西嶋徹@大泉学園インエフ(2022年)
幽けき刻@公園通りクラシックス(2022年)
喜多直毅+照内央晴+西嶋徹@成城Cafe Beulmans(2022年)
神田綾子+大澤香織+西嶋徹@大泉学園インエフ(2022年)
北田学+西嶋徹+神田綾子@渋谷Bar subterraneans(2021年)
喜多直毅+元井美智子+西嶋徹@本八幡cooljojo(2020年)
喜多直毅+西嶋徹『L’Esprit de l’Enka』(JazzTokyo)(-2019年)
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ+喜多直毅+西嶋徹@なってるハウス(2019年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)


川内倫子『M/E 球体の上、無限の連なり』@東京オペラシティアートギャラリー

2022-12-04 21:06:39 | 写真

東京オペラシティアートギャラリーにて、川内倫子さんの写真展『M/E 球体の上、無限の連なり』(2022/12/4)。

ハイキーで光が溢れる写真群、やはり魅力的。フォロワーが似たようなオシャレ写真を撮ったところできっとこの世界は作れない。

触れそうで触れないもの、常に形をかえ続けるもの、いのち。

●川内倫子
川内倫子『The rain of blessing』@Gallery 916


中藤毅彦『NOCTURNE PARIS 2011-2019』@小伝馬町MONO GRAPHY

2022-12-04 20:43:12 | ヨーロッパ

小伝馬町のMONO GRAPHYで中藤毅彦さんの写真展『NOCTURNE PARIS 2011-2019』最終日。

パリの夜を撮ったものが展示のコンセプトとのこと。光のコントラストがもともと高い状況でのハイコントラストな中藤写真ゆえ、思いがけず透明感がある。フランスのFunny Bones Editionsから出された『パリ』を持っているが、それとはずいぶん異なる印象でおもしろい。

在廊なさっていたら裸のラリーズ撮影のことなど聴きたかったところ。そういえば2016年、スーパーデラックスで、氏がグンジョーガクレヨンだかINCAPACITANTSだかを撮影していたのを見たことがあるが、このことについても。

●中藤毅彦
「街の記憶・建物の記憶」@檜画廊
中藤毅彦『Berlin 1999+2014』
中藤毅彦『STREET RAMBLER』
中藤毅彦『Paris 1996』
中里和人『光ノ気圏』、中藤毅彦『ストリート・ランブラー』、八尋伸、星玄人、瀬戸正人、小松透、安掛正仁
中藤毅彦、森山大道、村上修一と王子直紀のトカラ、金村修、ジョン・ルーリー


インプロヴァイザーの立脚地 vol.2 高橋佑成(JazzTokyo)

2022-12-03 23:16:32 | アヴァンギャルド・ジャズ

>> インプロヴァイザーの立脚地 vol.2 高橋佑成 – JazzTokyo

●高橋佑成
瀬尾高志+松丸契+竹村一哲+高橋佑成@公園通りクラシックス(2020年)
秘密基地『ぽつねん』(2019年)
秘密基地@東北沢OTOOTO(2019年)
謝明諺+高橋佑成+細井徳太郎+瀬尾高志@下北沢Apollo(2019年)
森順治+高橋佑成+瀬尾高志+林ライガ@下北沢APOLLO
(2016年)


スティーヴン・ガウチ+サンティアゴ・レイブソン+ウィリアム・パーカー+タイショーン・ソーリー『Live at Scholes Street Studio』(JazzTokyo)

2022-12-03 23:03:28 | アヴァンギャルド・ジャズ

>> # 2223『スティーヴン・ガウチ+サンティアゴ・レイブソン+ウィリアム・パーカー+タイショーン・ソーリー / Live at Scholes Street Studio』 – JazzTokyo

Stephen Gauci (ts)
Santiago Leibson (p)
William Parker (b)
Tyshawn Sorey (ds)

●スティーヴン・ガウチ
スティーヴン・ガウチ+サンディ・イーウェン+アダム・レーン+ケヴィン・シェイ『Live at the Bushwick Series』(-2019年)
Bushwick improvised Music series @ Bushwick Public House(2017年)
スティーヴン・ガウチ+クリス・デイヴィス+マイケル・ビシオ『Three』(2008年)
スティーヴン・ガウチ(Basso Continuo)『Nidihiyasana』(2007年)

●ウィリアム・パーカー
ウィリアム・パーカー@スーパーデラックス(2018年)
ダニエル・カーター+ウィリアム・パーカー+マシュー・シップ『Seraphic Light』(JazzTokyo)(2017年)
スティーヴ・スウェル・トリオ@Children's Magical Garden(2017年)
ウィリアム・パーカー+クーパー・ムーア@Children's Magical Garden(2017年)
スティーヴ・スウェル『Soul Travelers』(2016年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー『The Flow of Spirit』(2015年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)
イロウピング・ウィズ・ザ・サン『Counteract This Turmoil Like Trees And Birds』(2015年)
トニー・マラビー『Adobe』、『Somos Agua』(2003、2013年)
ウィリアム・パーカー『Live in Wroclove』(2012年)
ウィリアム・パーカー『Essence of Ellington / Live in Milano』(2012年)
Farmers by Nature『Love and Ghosts』(2011年)
ウィリアム・パーカー『Uncle Joe's Spirit House』(2010年)
DJスプーキー+マシュー・シップの映像(2009年)
アンダース・ガーノルド『Live at Glenn Miller Cafe』(2008年)
ブラクストン、グレイヴス、パーカー『Beyond Quantum』(2008年)
ウィリアム・パーカー『Alphaville Suite』(2007年)
ウィリアム・パーカーのカーティス・メイフィールド集(2007年)
ロブ・ブラウン『Crown Trunk Root Funk』(2007年)
ダニエル・カーター『The Dream』、ウィリアム・パーカー『Fractured Dimensions』(2006、2003年)
ウィリアム・パーカー、オルイェミ・トーマス、ジョー・マクフィーら『Spiritworld』(2005年)
ウィリアム・パーカー『Luc's Lantern』(2005年)
By Any Means『Live at Crescendo』、チャールズ・ゲイル『Kingdom Come』(1994、2007年)
ウィリアム・パーカーのベースの多様な色(1994、2004年)
Vision Festivalの映像『Vision Vol.3』(2003年)
ESPの映像、『INSIDE OUT IN THE OPEN』(2001年)
ペーター・コヴァルト+ローレンス・プティ・ジューヴェ『Off The Road』(2000年)
アレン/ドレイク/ジョーダン/パーカー/シルヴァ『The All-Star Game』(2000年)
ウィリアム・パーカー『... and William Danced』(2000年)
ザ・フィール・トリオ『Looking (Berlin Version)』
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(1985年)
ウェイン・ホーヴィッツ+ブッチ・モリス+ウィリアム・パーカー『Some Order, Long Understood』(1982年)
『生活向上委員会ニューヨーク支部』(1975年) 

●タイショーン・ソーリー
ラーゲ・ルンド『Terrible Animals』(2018年)
サリム・ワシントン『Dogon Revisited』(-2018年)
マイラ・メルフォード(Snowy Egret)『the other side of air』(2017年)
ヴィジェイ・アイヤー『Far From Over』(2017年)
マット・ミッチェル『A Pouting Grimace』(2017年)
マット・ブリューワー『Unspoken』(2016年)
マリオ・パヴォーン『chrome』(2016年)
マイラ・メルフォード『Live at the Stone EP』(2015年)
『Blue Buddha』(2015年)
マリオ・パヴォーン『Blue Dialect』(2014年)
イルテット『Gain』(2014年)
スティーヴ・リーマンのクインテットとオクテット(2007、2008、2014年)
マイラ・メルフォード『Snowy Egret』(2013年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
アレクサンドラ・グリマル『Andromeda』(2011年)
フィールドワーク『Door』(2007年)