Sightsong

自縄自縛日記

ビル・オライリー&マーティン・デュガード『Killing the SS: The Hunt for the Worst War Criminals in History』

2021-12-28 17:57:24 | ヨーロッパ

Killing the SS: The Hunt for the Worst War Criminals in History

"Killing the SS: The Hunt for the Worst War Criminals in History" written by Bill O'Reilly and Martin Dugard (2008)

著者のビル・オライリーはかなり保守寄りでセクハラ事件も起こした人だけれど、それはともかく、いつかどこかで買って積んであったナチ戦犯狩りの本。いちいち章の終わりに気をもたせるように「But someone knows. And that someone is coming.」みたいな感じで書いてあって、連続実録ドラマシリーズのノリか。

敗戦後、ナチの権力者たちの何人もが南米に逃亡した。ペロン大統領のアルゼンチンなどもかれらを匿った(エビータ夫人は「comrade」という言葉で左翼大衆とのつながりを好んだというから奇妙だ)。

逃亡した大物のひとりがアドルフ・アイヒマン。偽名を使っていたものの、息子のガールフレンドがそれと気づいた。モサドがアイヒマンがいつも帰宅する時間のバス停に張っていたが、その日はたまたまワインを一杯飲んでいて少し遅れる。読んでいてはらはらするが捕捉され、アイヒマンは完璧なドイツ語で「I have already accepted my fate.」と呟いたという。やっぱり三文小説みたいだ。

●参照
田野大輔『愛と欲望のナチズム』
芝健介『ホロコースト』
飯田道子『ナチスと映画』
クロード・ランズマン『ショアー』
クロード・ランズマン『ソビブル、1943年10月14日午後4時』、『人生の引き渡し』
ジャック・ゴールド『脱走戦線』ジャン・ルノワール『自由への闘い』
アラン・レネ『夜と霧』
マーク・ハーマン『縞模様のパジャマの少年』
ニコラス・フンベルト『Wolfsgrub』
フランチェスコ・ロージ『遥かなる帰郷』
ミック・ジャクソン『否定と肯定』マルガレーテ・フォン・トロッタ『ハンナ・アーレント』
マルティン・ハイデッガー他『30年代の危機と哲学』
徐京植『ディアスポラ紀行』
徐京植のフクシマ
プリーモ・レーヴィ『休戦』
高橋哲哉『記憶のエチカ』
クリスチャン・ボルタンスキー「アニミタス-さざめく亡霊たち」@東京都庭園美術館
クリスチャン・ボルタンスキー「MONUMENTA 2010 / Personnes」


柳川芳命+富松慎吾+マツダカズヒコ+松原臨@京都Annie's Cafe

2021-12-26 20:30:56 | アヴァンギャルド・ジャズ

京都のAnnie's Cafe(2021/12/25)。

Homei Yanagawa 柳川芳命 (as)
Shingo Tomimatsu 富松慎吾 (大太鼓)
Kazuhiko Matsuda マツダカズヒコ (g)
Nozomu Matsubara 松原臨 (ss)

大太鼓がその構造上面的に拡がった音波を出す。マツダさんのギターにもまた面的に音空間の舞台をせり上げたり戻したりするおもしろさがあって(しかも音色があざやか)、最初は太鼓がびりびりと震える異音と重なって現れた。このふたりの面が時間軸を伴って、動的に伸び縮みする三次元空間を作り出していた。

一方のサックスふたりは対照的で、柳川さんのアルトが柔らかくもするどくもある鎌だとすれば、松原さんの内部が擦れる音のソプラノは、長い紐をまるで生きているかのように場の四方八方に行き届かせる。

とはいえ2対2のサウンドではないリンクも多々あった。たとえばマツダさんはサックスの指の動きにも連動し、富松さんは相手によって踏み込みを驚くほど繊細に変えていた。関東でもこの人たちをもっと観たい。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、7Artisans 12mmF2.8

●柳川芳命
柳川芳命+照内央晴+神田綾子@なってるハウス(2021年)
昼間から即興肴に戯れる会@武蔵境810 Outfit Cafe(2021年)
My Pick 2020(JazzTokyo)(2020年)
『Interactive Reflex』(JazzTokyo)(2019-20年)
日本天狗党、After It's Gone、隣人@近江八幡・酒游館(2019年)
柳川芳命+Meg Mazaki『Heal Roughly Alive』(2018年)
柳川芳命+Meg『Hyper Fuetaico Live 2017』(JazzTokyo)
(2017年)
Sono oto dokokara kuruno?@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2017年)
柳川芳命『YANAGAWA HOMEI 2016』(2016年)
柳川芳命+ヒゴヒロシ+大門力也+坂井啓伸@七針(2015年)
柳川芳命『邪神不死』(1996-97年)
柳川芳命『地と図 '91』(1991年)

●マツダカズヒコ
『Interactive Reflex』(JazzTokyo)(2019-20年)

●松原臨
日本天狗党、After It's Gone、隣人@近江八幡・酒游館(2019年)


森田志保『徹さんの不在』(Dance Vision 2021 feat. 齋藤徹)@アトリエ第Q藝術

2021-12-15 23:21:33 | アヴァンギャルド・ジャズ

成城学園前のアトリエ第Q藝術において、「Dance Vision 2021 feat. 齋藤徹」の2日目(2021/12/15)。

Shiho Morita 森田志保 (dance)
Masao Tajima 田嶋真佐雄 (b)
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 (b)

フラメンコダンスの森田志保さんは、齋藤徹さんが最後に共演した相手である(2019/5/5)。そのとき立ち会うことができなかったのはいまも残念なのだけれど、後日、その共演の映像を観て震えた。それほどのものだった。そして今回、森田さんはその共演時の音をスピーカーから流しながら表現をはじめた。

動きに過剰なものはなにひとつない。しかし所作のひとつひとつがこちらの感覚に直接的に飛び込んでくる。徹さんのコントラバスの音と森田さんの動きの音は、田嶋さんと田辺さんのふたりのコントラバスの音に移り変わった。これもまた、過剰ではなく極めて繊細。茫然として観続ける40分間だった。

●田嶋真佐雄
齋藤徹生誕祭@横濱エアジン(2021年)
ベースアンサンブル ~ Travessia de Tetsu ~@横濱エアジン(2019年)
李世揚+瀬尾高志+かみむら泰一+田嶋真佐雄@下北沢Apollo(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)

●田辺和弘
齋藤徹生誕祭@横濱エアジン(2021年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
喜多直毅クアルテット「文豪」@公園通りクラシックス(2018年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)


吉田達也+神田綾子+細井徳太郎@公園通りクラシックス

2021-12-13 21:48:40 | アヴァンギャルド・ジャズ

渋谷の公園通りクラシックス(2021/12/12)。

Tatsuya Yoshida 吉田達也 (ds, voice)
Ayako Kanda 神田綾子 (voice)
Tokutaro Hosoi 細井徳太郎 (g)

ギターのロン・アンダーソンが神田さんに吉田達也と演ってみたらと言ったらしい。そしてふたりが選んだ3人目のメンバーは細井さん。

どうなるかと思ったら、ルインズを思わせる爆発力と濃密な多彩さ。驚いた。

(クリス・ピッツィオコスがまだ24歳のときに初めて話をしたら、かれが好きな日本のミュージシャンとして、吉田達也、灰野敬二、メルツバウらの名前を挙げたことを覚えている。)

Fuji X-E2、7 Artisans 12mmF2.4、XF60mmF2.4

●吉田達也
吉田達也+照内央晴@公園通りクラシックス(JazzTokyo)(2021年)
吉田達也+照内央晴@荻窪Velvet Sun(2020年)
Signals Down@落合soup(2019年)
邂逅、AMU、藤吉@吉祥寺MANDA-LA2(2019年)
クリス・ピッツィオコス+吉田達也+広瀬淳二+JOJO広重+スガダイロー@秋葉原GOODMAN(2017年)
RUINS、MELT-BANANA、MN @小岩bushbash(2017年)
PAK『NYJPN』(-2014年)
一噌幸弘『幽玄実行』『物狂 モノグルイ』(JazzTokyo)(2011年)
早川岳晴『kowloon』(2002年)
デレク・ベイリー+ルインズ『Saisoro』(1994年)

●神田綾子
神田綾子+矢部優子+遠藤ふみ@大泉学園インエフ(2021年)
神田綾子+細井徳太郎+岡川怜央@水道橋Ftarri(JazzTokyo)(2021年)
神田綾子+加藤崇之@下北沢No Room for Squares(2021年)
柳川芳命+照内央晴+神田綾子@なってるハウス(2021年)
細田茂美+神田綾子@高円寺グッドマン(2021年)
神田綾子+真木大彰@Permian(2021年)
纐纈雅代+神田綾子@六本木Electrik神社(JazzTokyo)(2021年)
神田綾子+加藤崇之@下北沢No Room for Squares(2021年)
神田綾子+纐纈雅代@下北沢No Room for Squares(2021年)
新年邪気祓いセッション@山猫軒(2021年)
マクイーン時田深山+神田綾子@下北沢No Room for Squares(JazzTokyo)(2020年)
岡田ヨシヒロ@池袋Flat Five(2020年)
神田綾子+森順治@横濱エアジン(JazzTokyo)(2020年)
神田綾子+北田学@渋谷Bar Subterraneans(動画配信)(2020年)

●細井徳太郎
神田綾子+細井徳太郎+岡川怜央@水道橋Ftarri(JazzTokyo)(2021年)
有本羅人+類家心平+細井徳太郎+池澤龍作+レオナ@神保町試聴室(2021年)
Dance x Music Session Vol. 01(2020年)
坪口昌恭+細井徳太郎@下北沢No Room For Squares(2020年)
秘密基地『ぽつねん』(2019年)
細井徳太郎+松丸契@東北沢OTOOTO(2019年)
WaoiL@下北沢Apollo(2019年)
李世揚+瀬尾高志+細井徳太郎+レオナ@神保町試聴室(2019年)
細井徳太郎+君島大空@下北沢Apollo(2019年)
秘密基地@東北沢OTOOTO(2019年)
謝明諺+高橋佑成+細井徳太郎+瀬尾高志@下北沢Apollo(2019年)
WaoiL@下北沢Apollo(2019年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+シセル・ヴェラ・ペテルセン+細井徳太郎@下北沢Apollo、+外山明+大上流一@不動前Permian(2019年)
合わせ鏡一枚 with 直江実樹@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2019年)
SMTK@下北沢Apollo(2019年)
伊藤匠+細井徳太郎+栗田妙子@吉祥寺Lilt
(2018年)


中村誠一+松井節子+沼上励+村田憲一郎@行徳ホットハウス

2021-12-11 23:07:29 | アヴァンギャルド・ジャズ

行徳のホットハウス(2021/12/11)。

Seiichi Nakamura 中村誠一 (ts)
Setsuko Matsui 松井節子 (p)
Tsutomu Numakami 沼上励 (b)
Kenichiro Murata 村田憲一郎 (ds)

さて、という間もなく、旋律を思い出すように松井さんが弾きはじめてそのまま「Autumn Leaves」の演奏に入った。きのうのソロでアンコールに応えてシャンソンっぽく、なんて軽く呟いていたのが冗談のようだ。中村さんは2曲目の「There Will Never Be Another You」でクラに持ち替え、これもまたバランスよく良い音。驚いたのは「These Foolish Things」で、クラに続いてピアノソロになった途端に時間が遅く流れ始めた。もちろんテンポは変わらない、松井さんの不思議。それに触発されたのか中村さんは曲の途中でふたたびテナーに持ち替えた。「Recado Bossa Nova」、「Alone Together」を経て、「Take The "A" Train」でのモリモリ吹くテナーはみごと。

クリスマスシーズンなのだ。セカンドセットでは「Winter Wonderland」から始まり、気持ちよくテナーがレイドバックする「St. Thomas」、続いて「Stardust」。「But Not For Me」では松井さんは曲を明確に覚えているのかどうか、しかしクラとともに静かに囁くようにして柔らかい松井節子節。そして「鈴懸の径」、「危険な関係のブルース」、そのまま「Good Bye」。

中村誠一さんのグラデーションあって気持ちよく共鳴するテナーはさすがである。また最初から最後まで松井さんのピアノは音量は小さいのだが存在感があって、自分の歌いたいように歌っている迫力が隠しようもない。じつに素晴らしい。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●中村誠一
中村誠一+松井節子+沼上つとむ+小泉高之@行徳ホットハウス(2020年)
中村誠一+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス(2018年)
渚ようこ『あなたにあげる歌謡曲』、若松孝二『天使の恍惚』

●松井節子
松井節子@行徳ホットハウス(2021年)
松井節子@行徳ホットハウス(2021年)
松井節子@行徳ホットハウス(2021年)
中村誠一+松井節子+沼上つとむ+小泉高之@行徳ホットハウス(2020年)
澤田一範+松井節子+小杉敏+渡辺文男@行徳ホットハウス(2019年)
安保徹+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス(2019年)
澤田一範+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス(2019年)
中村誠一+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス
(2018年)


松井節子@行徳ホットハウス

2021-12-11 10:49:19 | アヴァンギャルド・ジャズ

急にぽっかり時間が空いて帰り道に行徳のホットハウス(2021/12/10)。

Setsuko Matsui 松井節子 (p)

お店に入ると松井さんは調子が良くないようで休んでいる。しばらくしたら元気になってピアノを弾いた。

「Love Is A Many Splendored Thing」、「Golden Earings」、「Love for Sale」、「Autumn Leaves」、「Easy Living」。

●松井節子
松井節子@行徳ホットハウス(2021年)
松井節子@行徳ホットハウス(2021年)
中村誠一+松井節子+沼上つとむ+小泉高之@行徳ホットハウス(2020年)
澤田一範+松井節子+小杉敏+渡辺文男@行徳ホットハウス(2019年)
安保徹+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス(2019年)
澤田一範+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス(2019年)
中村誠一+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス
(2018年)


This is It!『MOSAIC』(JazzTokyo)

2021-12-08 21:32:14 | アヴァンギャルド・ジャズ

This is It!『MOSAIC』(Libra Records、2021年)のレビューを『JazzTokyo』に寄稿した。

>> #2143 『This is It! / MOSAIC』

Natsuki Tamura 田村夏樹 (tp)
Satoko Fujii 藤井郷子 (p)
Takashi Itani 井谷享志 (perc, ds)

●田村夏樹
ガトー・リブレ『Koneko』(JazzTokyo)(2019年)
ガトー・リブレ、asinus auris@Ftarri(2019年)
邂逅、AMU、藤吉@吉祥寺MANDA-LA2(2019年)
藤井郷子+ジョー・フォンダ『Four』(2018年)
与之乃&田村夏樹『邂逅』(2018年)
与之乃+田村夏樹@渋谷メアリージェーン(2018年)
Mahobin『Live at Big Apple in Kobe』(JazzTokyo)(2018年)
魔法瓶@渋谷公園通りクラシックス(2018年)
MMM@稲毛Candy(2018年)
藤井郷子オーケストラ東京@新宿ピットイン(2018年)
藤井郷子オーケストラベルリン『Ninety-Nine Years』(JazzTokyo)(2017年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
This Is It! @なってるハウス(2017年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)
藤井郷子『Kitsune-Bi』、『Bell The Cat!』(1998、2001年)

●藤井郷子
Futari『Beyond』(JazzTokyo)(-2020年)
ガトー・リブレ『Koneko』(JazzTokyo)(2019年)
ガトー・リブレ、asinus auris@Ftarri(2019年)
邂逅、AMU、藤吉@吉祥寺MANDA-LA2(2019年)
藤井郷子+ジョー・フォンダ『Four』(2018年)
藤井郷子+ラモン・ロペス『Confluence』(2018年)
藤井郷子『Stone』(JazzTokyo)(2018年)
This is It! 『1538』(2018年)
魔法瓶@渋谷公園通りクラシックス(2018年)
MMM@稲毛Candy(2018年)
藤井郷子オーケストラ東京@新宿ピットイン(2018年)
藤井郷子オーケストラベルリン『Ninety-Nine Years』(JazzTokyo)(2017年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
This Is It! @なってるハウス(2017年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)
藤井郷子『Kitsune-Bi』、『Bell The Cat!』(1998、2001年)

●井谷享志
邂逅、AMU、藤吉@吉祥寺MANDA-LA2(2019年)
This is It! 『1538』(2018年)
MMM@稲毛Candy(2018年)
This Is It! @なってるハウス(2017年) 


小杉武久+高木元輝『薫的遊無有』(JazzTokyo)

2021-12-08 21:28:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

小杉武久+高木元輝『薫的遊無有』(Chap Chap Records、1985年)のレビューを『JazzTokyo』に寄稿した。

>> #2148 『小杉武久&高木元輝/薫的遊無有』

Takehisa Kosugi 小杉武久 (electronics, vln, voice)
Mototeru Takagi 高木元輝 (ss)

●高木元輝
高木元輝の最後の歌(2000年)
2000年4月21日、高木元輝+不破大輔+小山彰太(2000年)
高木元輝『Live at Little John, Yokohama 1999』(JazzTokyo)(1999年)
高木元輝『不屈の民』(1996年)
1984年12月8日、高木元輝+ダニー・デイヴィス+大沼志朗(1984年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(1976年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』(1976年、74年)
富樫雅彦『風の遺した物語』(1975年)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(1971年、75年)
富樫雅彦『Speed and Space』(1969年)


出雲、創られた伝統

2021-12-08 21:04:22 | 中国・四国

ずいぶん昔に読んだ『コリアン世界の旅』は再読したいと思っている良書。その著者の野村進さんの本『出雲世界紀行』を見つけて一も二もなく確保した。

アマテラス~ニニギノミコトの「表」「顕」と、スサノオ~オオクニヌシの「裏」「幽」は知識として知ってはいたし、オオクニヌシが大黒様に同定され、その大黒天はヒンドゥーのシヴァの化身であったりするような世界と地方の神仏習合にすごく興味を持っていたわけだけれど、おもしろいのはそのような物語ばかりではなかった。

本書によれば、「裏」「幽」が祀られる出雲において、いまも日常生活にこの神々が生きているのだという。そしてこの社会には水木しげるも妖怪の導入によってただならぬ影響力を発揮している。どうやらこの妖怪というもの、民間伝承の中にあったものだが、姿かたちの創作も含めて水木先生が数十年前に蘇らせたのだった。曰く、これはバリの伝統に似ていて、ケチャもバリ絵画も20世紀になって欧米との出逢いの中で創られたものだという。つまり「現代的な伝統文化」。

出雲の神々は現代人が創りあげたものではないけれど、権力関係は古代からずっと同じではなかった。たとえば、本居宣長、平田篤胤らの思想を経て、明治において「表」「顕」にふたたび政治的に敗れ去るという激変もあった(このあたりは、原武史『<出雲>という思想 近代日本の抹殺された神々』がおもしろい)。最初の政治的な敗北はもちろん大和朝廷に対して。『水木しげるの古代出雲』を読んでみるとたしかに悔しそう。本書によれば、オリジナル版では出雲兵が大和兵に惨殺され、牢獄の鉄格子を握ったオオクニヌシが「水木よ、この悲惨な殺戮から目をそむけてはいけないッ‼」と叫んでいるそうである。

●参照
原武史『<出雲>という思想』
溝口睦子『アマテラスの誕生』
「かのように」と反骨
三種の神器 好奇心と無自覚とのバランス
仏になりたがる理由
鶴見俊輔『アメノウズメ伝』
「岡谷神社学」の2冊
久高島の映像(5) 『イザイホー~沖縄の神女たち~』
吉本隆明『南島論』
柳田國男『海南小記』
伊波普猷『古琉球』
伊佐眞一『伊波普猷批判序説』
村井紀『南島イデオロギーの発生』
佐谷眞木人『民俗学・台湾・国際連盟』