この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

秋期限定栗きんとん事件。

2009-03-17 21:59:54 | 読書
 米澤穂信著、『秋期限定栗きんとん事件』(上・下巻)、読了。

 出版界冬の時代といわれて久しい。
 中でもSF、そしてミステリが売れないといわれている(詳細に言えばSFは全般的に、ミステリはごく一部の作家を除いて)。
 しかし売れない売れないと大騒ぎしている割には実際出版社が何らかの手を打っているのかというと、いっちゃなんだが疑わしいことこの上ない。
 ろくに名前を聞いたことない、デビューしたての作家の本を平気でハードカバーで刊行したりする。
 また、『このミス』を眺めれば国内編は一位から十位まですべてハードカバーで占める。
 売れないから、部数が伸びないから、だからハードカバーで出版しなければいけないという出版社の事情もあるだろう。
 しかしそれはあくまで売る側の理屈であって、買う側の事情というものはまるで考慮されていない。
 どれほど面白そうだとしても定価が¥2000近くする本なんてそうそう買えるものではない。
 売れない売れないどうしようどうしようと右往左往している出版業界の人間は、そんなごくごく当たり前のことがわかっていないのではないか、そう思えることがある。

 しかしながら、ごく少数ではあるが、文庫書き下ろしという出版形態で出版業界冬の時代を打破しようという気概を持つ出版社が存在する。
 創元推理文庫を抱える東京創元社もそんな出版社の一つであり、米澤穂信の《小市民》シリーズは創元推理文庫の中で今最も旬なシリーズものといっていい。

 《ストーリー》
 主人公は卓越した推理力を有する小鳩常悟朗。しかし中学生時代その推理がもたらした悲惨な結果に懲り、高校生となった今はひたすら目立たないように《小市民》を目指していた。
 同級生の小佐内ゆきは彼とは違った理由でやはり《小市民》たるべく努めている。
 一度は袂を分かった二人だが、連続放火事件により再び関わりを持つようになる・・・。シリーズ三作目。

 ミステリとしても充分楽しめるシリーズではあるが、特筆すべきはやはり人物描写だろう。
 卓越した推理力を持つゆえに一般市民の生活になじめない主人公という設定も魅力的であるが、ヒロインである小佐内ゆきの性格が秀逸。
 詳しくは述べないが、本編を読んで彼女のキャラクターを確かめてもらいたい。
 鳥肌が立つこと必至である。 

 努努人を喰ったようなタイトルとメルヘンっぽい表紙のイラストに騙されることなかれ。
コメント (5)
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