ブログ 「ごまめの歯軋り」

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和田純夫著  「プリンピキアを読むーニュートンはいかにして万有引力を証明したか」 (講談社ブルーバックス2009年)

2016年10月09日 | 音楽
近代科学の出発点となった運動の法則や万有引力を確立したニュートンの金字塔 第4回

1)プリンピキアの誕生まで (その2)

ニュートンがプリンキピアを書いた時、どのような科学的知識を前提としていたのだろうか。天動説は地球を中心として太陽や惑星がその周りを円運動をするという、アリストテレス的ギリシャ時代の自然観に基づいていた。運動は「神聖な円運動」以外は考えられないのであった。実際は単純な円運動だけでは惑星の動きは説明できないので、円運動の複雑な組み合わせで補正をしていた。これに対してコペルニクスは1543年(ニュートンが生まれる約100年前)に惑星が太陽の周りをまわるという地動説を提示したが、軌道は円運動にこだわっていた。天体観測データと近似的な整合を得るためにはやはり円運動の組み合わせとして考えなければならないという、科学的には天動説とさして変わらなかった。コペルニクス的転回とは惑星が回るか太陽が回るかどちらを信じるかだけの問題で、科学的には変わるところはなかった。その後ティコ・ブラーエの精密な観測データを基にケプラーは惑星の軌道を計算し、1609年と1618年に公表した。ケプラーの主張は後年「ケプラーの三法則」と言う名前で呼ばれた。

「ケプラーの三法則」
①第一法則: 惑星の軌道は、太陽の一をひとつの焦点とする楕円である。
②第二法則: 惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に描く面積は一定である。(面積速度一定の法則)
③第三法則: 惑星の公転周期の二乗と、楕円軌道の長半径の三乗の比率は一定である。(公転周期は長半径の3/2乗に比例する)
楕円軌道とは短半径の内接円を一定方向に引きのばした図形で、長半径分だけ伸びている。こんな直感的な定義では何を言っているかわからないという人には、作図法として二つの焦点を結ぶたるんだ一定の長さ(長半径の二倍)のひもに鉛筆を立て、ぐるっと一周させて書いた図形であると言えばわかるだろうか。それでもわからない人には関数論的にx^2/a~2+y^2/b^2=1を満たす(x,y)の描く曲線と言えば、x<a,y<b一の範囲でxを代入すればyの値は計算できる。丁寧に計算してゆけば一応楕円曲線を描くことはできる。後で示すことになるがなぜ惑星軌道が楕円曲線になるかということは、二つの惑星間に距離の二乗に反比例する力が働くからである。長径、短径は二つの惑星の質量と重力加速度できまり、運動速度は天体発生の時の初期速度によって決定されるので誰にもわからない。面積速度一定則(第二法則)は、惑星が太陽の近くを通る時(掃引半径は小さく)速度は早くなり、惑星が太陽から離れる時(掃引半径は長く)速度が遅くなるので、半径×速度(面積速)は一定になるということを表している。第三法則は惑星間で(公転周期)^2/(長半径)^3を計算するとどの惑星でも同じになるということである。ちょっと面白い数学形式をしているが、あとで示すが万有引力の大きさが距離の二乗に反比例する結果からきている。地球は太陽の周りを高速で動いているのは何の力が働いているのかを考察したのが、デカルトやガリレオの「慣性」の発見であった。ガリレオは1632年の「天文対話」を表し、相対性原理を明らかにした。等速でまっすぐ動き続ける運動、すなわち等速直線運動を「慣性」と呼び、意識する人間も地球と同じ速度で運動しているのでこれを感知することはできないという。地球の運動軌道は実際は円運動に近いのだが、大きな円を描くので地球の動きの曲がり具合は非常に小さい。だから直線等速運動と見なしても間違いではない。力学の基本法則とされるニュートンの運動の三法則とは次の法則である。

「ニュートンの運動の三法則」
①運動の第一法則(慣性の法則): 物体にその運動を変える力が加わらないかぎり、静止あるいは一直線上の等速運動を続ける。
②運動の第二法則: 運動量(質量×速度)は、加えられた力に比例し、その力の方向を向く。
③運動の第三法則(作用・反作用の法則): 二つの物体間では、すべての作用(力)に対してそれと等しく反対向きの反作用が存在する。
運動の三法則のうち最も重要な観点は第二法則である。ガリレオは1604年頃落下の実験をした世界最初の人である。斜面をころがり落ちる球の距離は時間の二乗に比例することを発見した。従って垂直落下の時も同じことが主張できるとした(普遍化)。又速度は時間に比例して増加することも主張した。1638年「新科学論議」においてガリレオは落下運動と水平運動の動きを合成して、物体の軌道が放物線になることを証明した。これらのことは現代の力学の初歩に従えば、速度v=a・t、距離x=(1/2)a・t^2であり、微分積分関係より自明であるとされている。運動の起因である力についての考察としては、デカルトの渦動説(機械論)、ギルバートの「磁石説」がある。ギルバートは地球全体が一つの磁石であることを明らかにして、それが運動の起因であるとした。ケプラーも磁石説ではあったがこれを「遠隔作用」といって直接物体が触れ合わなくても働く力の存在を主張した。そういう意味では「遠隔作用」に基づく力学的な発想をしたのはケプラーが最初であった。ケプラーは力が惑星の運動に方向に働くという見方であったが、ニュートンは直線運動に太陽の作用による落下運動が合成された軌道となるという見方である。ケプラーは慣性の法則を知らなかった、しかし惑星は太陽から遠ざからず、絶えず太陽方向に軌道を修正しながら(引力を受けながら)公転する。ケプラーは万有引力を発見できなかったが、遠隔作用と太陽からの作用という発想をニュートンにもたらしたのである。

(つづく)


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