ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 坂本義和著 「人間と国家ーある政治学徒の回想」 岩波新書

2012年04月23日 | 書評
現代を生きる人間は国家とどう向き合い、国家をどう乗りこえるか 第1回

序(1)
 坂本義和氏については、昔新聞紙上で名前だけは拝見したことがある程度で、恥ずかしながら今まで1冊の本を読んだこともなかった。したがって坂本氏が東大法学部の故丸山真男教授の門下生であり、国際平和学の学徒であるとか、実証的政治史というよりは価値観的(実践的)政治学の道を長年歩んでこられた言論界の左系の大物(京都大学政治学科が右系の大物猪木政道・高坂正堯であることに対して)であったことも知らなかった。何も知らなかったが、本書の題名「人間と国家」からすると、反国家主義者の自伝かと思って読んで見た。まずは坂本義和氏のプロフィールの骨子だけ(本書がそのプロフィール全体の書物であるから)を記しておく。坂本 義和 (1927年9月16日 生まれ )は、日本の政治学者。東京大学名誉教授、国際基督教大学平和研究所顧問。専門は、国際政治学・平和学。戦後の進歩的文化人を代表する人物の一人であり、学問的活動とともに、論壇で発言し続けたという。1945年3月に東京高等師範学校附属中学校(現・筑波大学附属中学校・高等学校)を卒業。旧制第一高等学校を経て、1951年、東京大学法学部卒業。シカゴ大学に留学し、ハンス・J・モーゲンソーに師事。1964年から1988年まで東大法学部教授として国際政治学を担当する。東大紛争では加藤一郎総長代行と共に解決に尽力。東大教授退官後は明治学院大学、国際基督教大学で教える。主な著書には
『核時代の国際政治』(岩波書店, 1967年/新版, 1982年)
『平和――その現実と認識』(毎日新聞社, 1976年)
『軍縮の政治学』(岩波新書, 1982年/新版, 1988年)
『地球時代の国際政治』(岩波同時代ライブラリー, 1990年)
『相対化の時代』(岩波新書, 1997年) などがある。
(つづく)

読書ノート 斉藤貴男著 「民意のつくられかた」 岩波書店

2012年04月23日 | 書評
民意偽装・調達・操作のテクニックー原子力安全神話の結末 第3回

1) 作られた原子力神話 (1)
 こんな事件を覚えている人も少なくなっていることだろう。2006年10月福島県知事佐藤栄佐久氏がダム工事を巡る贈収賄事件で逮捕され起訴された。ことは2000年の木戸ダム工事の入札で前田建設が受注されるよう天の声を発し、見返りに1億7300万円相当の土地収益を上げたという疑いである。前田建設の下請けである水谷建設に知事の弟の衣料会社が有する土地を売り、売却金と購入金の差額が贈収賄にあたるという。ところが2008年8月の東京地裁判決や2009年10月の東京高裁判決では、佐藤氏は実質利益を受けていないこと、収賄にあたる土地収益金の試算法が杜撰で専門家のあいだでは「実質無罪」ではないかといわれた。佐藤氏は2009年「知事抹殺ーつくられた福島県汚職事件」(平凡社)を著わし、この事件が国策捜査にあたるとして「私が闘ってきた霞ヶ関の官僚の行動原理は基本的には自己保身で、自らの責任では行動しない。それに対して特捜検察は行動が最初から自己目的化している。最初の見込みは外れてもストーリーをごり押し、無理やり虚偽の自白を取り、人間を押し潰してゆく。メデイァも人間を葬り去る意味で共犯である。」と語る。同じようなことは佐藤優著「国家の罠」(新潮社 2005年)に外務省が仕組んだ鈴木宗男衆議院議員のロシアへのディーゼル発電機汚職事件のことがのべられている。では知事佐藤氏はなぜ国家の怒りを買ったのか。それはひとつは道州制反対論、大型ショッピングモール出店規制、そして原子力発電に対する異議申し立てであっという。本書では国策としての原子力発電所政策を取り上げる。
(つづく)

読書ノート 渡辺純夫著 「肝臓病ー治る時代の基礎知識」 岩波新書

2012年04月23日 | 書評
肝臓が心配なあなた早やめに診察を 第5回

2) ウイルス性肝炎 (1)
 急性肝炎の原因であるウイルスには、現在A型、B型、C型、D型、E型の5種類が知られている。これらのウイルス性急性肝炎は予後が良好で、1%が劇症化する外は数週間で回復する。しかし問題は慢性化である。B型肝炎、C型肝炎では急性肝炎で終らず慢性化し数十年後に肝硬変や肝ガンに進行することがある。
① A型肝炎
A型肝炎は経口感染を特徴とします。汚染された冷凍食品を介して何時でもどこでも起きるようになった。魚介類(特に生ガキ)原因になることもある。糞便で汚染された地下水利用で集団発生することもある。衛生状態がよくなった現代では若い人に免疫がなく、かかる人が多い。感染しても肝炎を発症しない人もおり、これを「不顕性感染」と呼ぶ。抗体ができると終生免疫を得てA型肝炎には二度とかかることは無い。潜伏期間は約1ヶ月で、風邪のような症状と発熱が多いのが特徴である。黄疸のような症状も起きる。血液検査ではASTとALTが増加し、確定診断は血中のHA抗体による。急性期にのみ現れる免疫グロブリンである「IgM抗体」が有力な指標となる。今はA型肝炎ワクチンが出来ているので、多発する地域に行く場合には予防接種をしていく方がいい。
② B型肝炎
B型肝炎は20世紀には「国民病」といわれ、肝臓病の主役であったが、ウイルスの発見、診断法の進歩、外科手術や抗ウイルス剤の開発により目覚しく治る病気となった。日本ではB型肝炎は人口の1-2%程度が感染し150万人の感染者が居るとされるが、年々減少の傾向にある。B型肝炎ウイルスの遺伝子型はAからHまでの8型に分類される。日本ではB、C遺伝子型が一般的で、慢性化しないウイルスであるが、外来種のA遺伝子型は慢性化させる可能性がある。イギリスではAとD遺伝子型が多く、東欧や中近東ではD遺伝子型が多い。B、C遺伝子型は日本人のルーツに関する知見を与えるので有名である。B遺伝子型は南方民族を、C遺伝子型は大陸モンゴル系民族の由来を示す。これに成人性白血病ウイルスの分布を加味して縄文日本人と弥生日本人、さらには騎馬民族説も入れて興味深い説が流布している。それは本書の主題では無いので割愛する。B型肝炎ウイルスを体内に持つ人を「キャリアー」というが、発病しない70-80%の人を「無症候性キャリアー」という。キャリアーであるかどうかは「HBs抗原」、「HBs抗体」の検査をすれば分る。B型肝炎ウイルスは血液を介する感染経路をとる。昔は輸血による「血清肝炎」が大きな問題であったが、1960年代に献血制度が確立し、1972年には「HBs抗原」検査法による輸血検査体制が出来たことで、1990年代初期には輸血によるB型肝炎は急激に減少した。1999年には「PCR法」で高感度遺伝子検査できるようになり、輸血によるB型肝炎の発生は殆どなくなった。別の重要な感染ルートは母子感染(垂直感染)である。1986年B型肝炎母子感染防止事業による、キャリアーの母から生まれた新生児へのワクチン投与が始まり、新生児のB型肝炎感染はなくなった。
B型肝炎ウイルスによって引き起こされる病気は急性肝炎である。ウイルスに感染した肝細胞が免疫系によって排除されるために、肝臓組織が破壊され肝機能が低下する。殆どのB型肝炎は劇症肝炎に至らず一過性で終息する。B型肝炎ウイルスのマーカーは「抗原抗体系」とよばれ3種類が測定される。表面部分の抗原s、内部の抗原e、初期抗原cとその抗体である。このほかに直接ウイルスの遺伝子を検出する方法でHBV-DNA法が確立された。急性肝炎の治療で重要なことは、1%で起こりうる劇症肝炎を予知することである。慢性肝炎の場合は、HBe抗原の持続期間が長く、HBe抗体が出現しない(セロコンバージョン抗原抗体の交替がおきない)で肝機能障害が持続する場合は進行性の肝炎と見られる。ここで治療を行なわないと肝硬変や肝がんに至る。治療法の基本はインターフェロンと抗ウイルス剤の投与である。実際に使われる薬剤は、インターフェロン、ラミブジン、アデホビル、エンテカビルの4種類である。35歳以下の患者さんには免疫力が備わっており抗体ができて自然治癒するケースが多いので総合的に見る。幹機能障害が大きく、子供をつくる年代の患者さんには4種類の抗ウイルス剤のうちインターフェロンを第1の選択肢とする。インターフェロン投与によりHBe抗原が30-40%で陰性化し、肝炎が沈静化する。しかしインターフェロンには副作用が強い。発熱、倦怠感、関節痛、不眠、鬱病、脱毛などの副作用があり、インターフェロン治療終了後には副作用も消えるので、治療を乗越えることが必要となる。35歳以上の患者さんで肝機能障害があればすぐに抗ウイルス剤の投与を行なう。ラミブジン、アデホビル、エンテカビルには副作用はないが、服用を勝手に止めると急激な肝炎の再燃が起きる。3種の抗ウイルス剤には催奇性があるので、若い人には使えない。副作用は無いが問題は耐性ウイルスの出現である。出現率は低いのであまり心配することは無い。肝炎抗ウイルス剤の開発に貢献したのは、抗エイズウイルス剤の開発である。抗インフルエンザウイルス剤の開発と併せて、ウイルス撲滅の日も近いのではないかという予感がする。抗生物質のように、決定的な抗ウイルス剤の開発が出来そうな気がする。B型肝炎ウイルスは「DNAウイルス」といわれ、肝細胞の核のなかにもぐりこんで潜んでいる心配もある。RNAウイルスであるC型肝炎ウイルスのようには完全に撲滅することは難しい。患者さんが抗がん剤やステロイド剤を使用して全身的な免疫能に変動がおきると、肝臓に僅かに残ったウイルスが騒ぎ出すこともあると云う。このためがん患者で肝炎ウイルスキャリアー人には抗がん剤と抗ウイルス剤の同時投与が望ましい。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「江畔桜台」

2012年04月23日 | 漢詩・自由詩
春月朦朧酒侶邀     春月朦朧 酒侶邀え

遊人吟賞更傾瓢     遊人吟賞し 更に瓢を傾く

倚欄柔軟香風度     欄に倚れば柔軟に 香風度り
 
江畔桜台夜色饒     江畔桜台 夜色饒なり


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(韻:二蕭 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)