民意偽装・調達・操作のテクニックー原子力安全神話の結末 第1回
序(1)
この半世紀、原子力発電をめぐる世論は移り変わってきた。原爆の洗礼を2回も受けたにも拘らず、無定見な「日本人」は「夢のエネルギー」として導入された原子力発電には、無抵抗どころか歓迎の意向さえ示したという。原爆と原発は違うわけでもないのに、奇妙にこの2つの技術を違うものとして「日本人」は扱った。1970年代の石油ショック後には脱石油戦略=原発という図式が日本を支配し、原発推進にアクセルがかかった。しかしスリーマイルズ島やチェルノブイリの大事故では失速したが、1997年京都議定書以来地球温暖化の隠された切り札として、原発は盛り返した。そして今ではこの地震列島日本の上に、米国、フランスに次ぐ世界第三位の54基の原発が存在している。2011年3月11日までは、日本の「民意」は「クリーンで安全な原子力」を信じているようであった。「原子力ルネッサンス」、「原子立国」、「世界一稼働率の高い安全な原発」という景気のいい言葉が横行していた。そして3月11日に「原子力安全神話」は無残に粉砕された。菅首相は「原子力に依存しないエネルギー政策への転換」を呼びかけている。180度の転換が行なわれた日本の世論とは、そもそもリアリティがあったのか、偽装の作り物に過ぎなかったのかという反省がなされなければいけない。本書はそういう意味合いで、2009年ー2010年に岩波書店の雑誌「世界」に掲載された8つの論文をかき集めて急遽刊行されたと理解する。著者は紹介するまでもないジャーナリストである。斎藤 貴男(1958年生まれ)は東京都立北園高等学校、早稲田大学商学部卒業、英国・バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。「日本工業新聞」、「プレジデント」編集部、「週刊文春」の記者を経てフリーとなった。主に時事、社会、経済、教育問題を取り上げる。格差社会や政府による情報統制などへの激しい批判で知られている。主な著書には、「カルト資本主義――オカルトが支配する日本の企業社会」(1997年、文藝春秋) 、「機会不平等」(2000年、文藝春秋)、「サラリーマン税制に異議あり!」(2001年、NTT出版)、「小泉改革と監視社会」(2002年、岩波書店) 、「空疎な小皇帝――石原慎太郎」という問題」(2003年、岩波書店)、「安心のファシズム――支配されたがる人びと」(2004年、岩波新書)、「ルポ改憲潮流」(2006年、岩波新書) 、「住基ネットの〈真実〉を暴く――管理・監視社会に抗して」(2006年、岩波ブックレット) 、「強いられる死 自殺者三万人超の実相」(2009年、角川学芸出版) など面白い話題が一杯の著作活動を展開されている。
序(1)
この半世紀、原子力発電をめぐる世論は移り変わってきた。原爆の洗礼を2回も受けたにも拘らず、無定見な「日本人」は「夢のエネルギー」として導入された原子力発電には、無抵抗どころか歓迎の意向さえ示したという。原爆と原発は違うわけでもないのに、奇妙にこの2つの技術を違うものとして「日本人」は扱った。1970年代の石油ショック後には脱石油戦略=原発という図式が日本を支配し、原発推進にアクセルがかかった。しかしスリーマイルズ島やチェルノブイリの大事故では失速したが、1997年京都議定書以来地球温暖化の隠された切り札として、原発は盛り返した。そして今ではこの地震列島日本の上に、米国、フランスに次ぐ世界第三位の54基の原発が存在している。2011年3月11日までは、日本の「民意」は「クリーンで安全な原子力」を信じているようであった。「原子力ルネッサンス」、「原子立国」、「世界一稼働率の高い安全な原発」という景気のいい言葉が横行していた。そして3月11日に「原子力安全神話」は無残に粉砕された。菅首相は「原子力に依存しないエネルギー政策への転換」を呼びかけている。180度の転換が行なわれた日本の世論とは、そもそもリアリティがあったのか、偽装の作り物に過ぎなかったのかという反省がなされなければいけない。本書はそういう意味合いで、2009年ー2010年に岩波書店の雑誌「世界」に掲載された8つの論文をかき集めて急遽刊行されたと理解する。著者は紹介するまでもないジャーナリストである。斎藤 貴男(1958年生まれ)は東京都立北園高等学校、早稲田大学商学部卒業、英国・バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。「日本工業新聞」、「プレジデント」編集部、「週刊文春」の記者を経てフリーとなった。主に時事、社会、経済、教育問題を取り上げる。格差社会や政府による情報統制などへの激しい批判で知られている。主な著書には、「カルト資本主義――オカルトが支配する日本の企業社会」(1997年、文藝春秋) 、「機会不平等」(2000年、文藝春秋)、「サラリーマン税制に異議あり!」(2001年、NTT出版)、「小泉改革と監視社会」(2002年、岩波書店) 、「空疎な小皇帝――石原慎太郎」という問題」(2003年、岩波書店)、「安心のファシズム――支配されたがる人びと」(2004年、岩波新書)、「ルポ改憲潮流」(2006年、岩波新書) 、「住基ネットの〈真実〉を暴く――管理・監視社会に抗して」(2006年、岩波ブックレット) 、「強いられる死 自殺者三万人超の実相」(2009年、角川学芸出版) など面白い話題が一杯の著作活動を展開されている。
(つづく)