ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 斉藤貴男著 「民意のつくられかた」 岩波書店

2012年04月21日 | 書評
民意偽装・調達・操作のテクニックー原子力安全神話の結末 第1回

序(1)
 この半世紀、原子力発電をめぐる世論は移り変わってきた。原爆の洗礼を2回も受けたにも拘らず、無定見な「日本人」は「夢のエネルギー」として導入された原子力発電には、無抵抗どころか歓迎の意向さえ示したという。原爆と原発は違うわけでもないのに、奇妙にこの2つの技術を違うものとして「日本人」は扱った。1970年代の石油ショック後には脱石油戦略=原発という図式が日本を支配し、原発推進にアクセルがかかった。しかしスリーマイルズ島やチェルノブイリの大事故では失速したが、1997年京都議定書以来地球温暖化の隠された切り札として、原発は盛り返した。そして今ではこの地震列島日本の上に、米国、フランスに次ぐ世界第三位の54基の原発が存在している。2011年3月11日までは、日本の「民意」は「クリーンで安全な原子力」を信じているようであった。「原子力ルネッサンス」、「原子立国」、「世界一稼働率の高い安全な原発」という景気のいい言葉が横行していた。そして3月11日に「原子力安全神話」は無残に粉砕された。菅首相は「原子力に依存しないエネルギー政策への転換」を呼びかけている。180度の転換が行なわれた日本の世論とは、そもそもリアリティがあったのか、偽装の作り物に過ぎなかったのかという反省がなされなければいけない。本書はそういう意味合いで、2009年ー2010年に岩波書店の雑誌「世界」に掲載された8つの論文をかき集めて急遽刊行されたと理解する。著者は紹介するまでもないジャーナリストである。斎藤 貴男(1958年生まれ)は東京都立北園高等学校、早稲田大学商学部卒業、英国・バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。「日本工業新聞」、「プレジデント」編集部、「週刊文春」の記者を経てフリーとなった。主に時事、社会、経済、教育問題を取り上げる。格差社会や政府による情報統制などへの激しい批判で知られている。主な著書には、「カルト資本主義――オカルトが支配する日本の企業社会」(1997年、文藝春秋) 、「機会不平等」(2000年、文藝春秋)、「サラリーマン税制に異議あり!」(2001年、NTT出版)、「小泉改革と監視社会」(2002年、岩波書店) 、「空疎な小皇帝――石原慎太郎」という問題」(2003年、岩波書店)、「安心のファシズム――支配されたがる人びと」(2004年、岩波新書)、「ルポ改憲潮流」(2006年、岩波新書) 、「住基ネットの〈真実〉を暴く――管理・監視社会に抗して」(2006年、岩波ブックレット) 、「強いられる死 自殺者三万人超の実相」(2009年、角川学芸出版) など面白い話題が一杯の著作活動を展開されている。
(つづく)

読書ノート 渡辺純夫著 「肝臓病ー治る時代の基礎知識」 岩波新書

2012年04月21日 | 書評
肝臓が心配なあなた早やめに診察を 第3回

1)肝臓の役割と肝臓病 (1)
 肝臓は人体の中で最大の臓器で大人で1200-1500gもある(脳は1100-1300g、心臓は200-300g)。肝臓には「肝動脈」と「門脈」という2本の血流があり、「肝動脈」は肺から酸素を供給し、「門脈」は小腸から養分が供給される。肝臓の機能を考えることは門脈から流入する物質の流を見ることである。肝臓の主な機能は、①物質の代謝、②解毒作用、③胆汁の生成にある。
①物質の代謝関係では、口から入った食物は胃腸で消化され、腸管から吸収され門脈を経て肝臓に運ばれる。肝臓細胞では酵素によって分解され、タンパクなど必要な物質に再合成され、血液に乗って必要な臓器に運ばれる。肝臓で合成される代表的なタンパクはアルブミンである。全身の血液浸透圧を保ったり、物質のキャリアーになり機能を助ける。また肝臓では血液の凝固因子が合成され止血に用いられる。肝機能が損傷を受けると、アルブミンの生産が減少し、全身のむくみや復水がでたり、血が止まりにくい出血傾向となる。肝臓に入った栄養士の糖分はグリコーゲンに変えられ肝臓内に蓄えられる。脂肪分も中性脂肪やコレステロールに変えられ備蓄され、飢餓のときには血液中にリリースされる。
②解毒作用関係では、食品添加物など有害物質や薬、細菌などを解毒し排泄する。
③胆汁の生成関係では、古くなった赤血球やコレステロールは肝臓で分解され「胆汁」に変えられる。胆汁は膵臓液とともに、脂肪の分解吸収を助ける役目があり、毎日500-800ml程度胆管に分泌される。胆汁が固まると胆石となり、胆汁が血液に逆流すると黄疸となる。
 肝臓を構成する細胞は種類が豊富である。肝臓の主要な機能を果たす実質細胞のほかに、非実質細胞は肝臓機能を補佐する役目がある。肝臓は肝細胞索という構造を形成している。細胞内の構造は「細胞学」に詳しいので省く。細胞間の物質の移動には類洞という管の周りには非実質細胞が取り巻き、種々な機能をもっている。内皮細胞は壁という構造体をつくり、物質交換を行う篩状の孔がある。クッパー細胞はマクロファージであり分解殺菌係りである。肝星細胞は内皮細胞を裏打ちし類洞の伸縮に関するデスミンというタンパクを持ち、血流を調整している。ピット細胞はナチュラルキラー細胞といわれるリンパ球で免疫を担当する。
(つづく)

読書ノート 山本太郎著 「感染症と文明ー共生への道」 岩波新書

2012年04月21日 | 書評
感染症との闘いは人類に勝利をもたらすか 第11回

3)感染症と人類の生態学(共生への道) (2)
新たに出現した感染症もある。1976年スーダン、ザイールで流行した「エボラ出血熱」、1980年代世界中で発生した「エイズ」、2003年春中国に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)、1967年ドイツで流行した「マールグルグ熱」、1969年ナイジェリアで流行した「ラッサ熱」、1975年アメリカコネティカット州で流行した「ライム病」、1976年フィラデルフィアで流行した「在郷軍人病」などである。「エボラ出血熱」はゴリラやサルでは致命的であるが、1976年ウガンダの流行では1800人がj感染し1200人が死亡した。重症急性呼吸器症候群(SARS)はWHOの国際機関協力によってコロナウイルスが発見され隔離対策が採られ、約8000人の感染者と700人以上の死亡者を出して終息した。ウイルスのヒトへの適応段階は、次の5段階に分けられる。
① 適応準備段階 動物の引っかき傷から感染するがヒトからヒトへの感染は見られない  猫引掻き病、レプトスピラ症
② 適応初期段階 ヒトからヒトへの感染が見られるが、感染効率は低くすぐに終息する  粟粒熱、オニョンニョン熱、新生児致死性肺炎、SARS
③ 適応後期段階 ヒトへの感染が確立し定期的な流行を引き起こす   ライム病、ラッサ熱、エボラ出血熱
④ 適応段階 ヒトの中でしか存在できない  天然痘、麻疹、エイズ
⑤ 適応過剰段階 ヒトから消えてゆく  成人T細胞白血病
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「雨餘江畔」

2012年04月21日 | 漢詩・自由詩
夭桃露潤雨餘天     夭桃に露潤う 雨餘の天

岸上煙籠古渡邊     岸上に煙籠める 古渡の邊

樹下花王饒態度     樹下の花王は 態度を饒く

園中紅薬闘嬋娟     園中の紅薬は 嬋娟を闘わす


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(韻:一先 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)