満井佐吉中佐の四日間 4 『 蹶起部隊ハ歩一ノ兵營ニデモ終結シテハドウカ 』

満井佐吉 

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満井佐吉  第三回聴取書
本籍  福岡県企救郡企救町字石田一〇五一
住所  東京市世田谷区松原四丁目一四四番地
所属  陸軍大学校
陸軍歩兵中佐  満井佐吉
明治二十六年五月五日生
右者、昭和十一年三月十九日、渋谷憲兵分隊ニ於テ、本職ニ對シ左ノ陳述ヲ爲シタリ
一、本籍、住所、所属、官等、氏名、年令ハ前述ノ通リ相違アリマセン。
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二 ・二六事件

二月二十六日帝国ホテルニテ龜川哲也ガ、村中ヲ説得セバ効果アラント考ヘタル理由
竝ニ説得シタル狀況如何
二月二十六日夜、帝國ホテルニ於テ龜川氏ヲ呼出シタ理由ハ、村中ト龜川トハ公判辯護ノ關係ニテ、
懇意ナ間柄デアリ、又、村中ハ信念的ナ処ガアツテ、上級者タル自分 ( 満井 ) ガ直接説得スルコトハ、
村中ニ壓迫的感情ヲ起サシメル虞ガアルコトヲ考慮シタカラデ、
地方人タル龜川氏ハ社會ノ情勢モ克ク知ツテ居リ、私カラ直接言フヨリモ、
ナゴヤカニ村中ハ聞イテ呉レルト思ツタカラデアリマス。
龜川ト村中トノ關係ハ、龜川ガ皇道主義ヲ信奉シ、農道會ヲ組織シテ居リ、
荒木閣下ヲ尊敬シテ居タコトハ知ツテ居ルガ、兩氏ガ同志的關係デアルカドウカト云フコトハ、
克ク存ジマセン。
私ハ公判關係ニテ龜川、村中トモ會合シタコトモアリ、又、兩人ヨリ公判ノ辯護上ノ希望ヲ聞イタコトモアルノデ、
村中ヲ説得スルノニハ龜川ノ方ガヨイト思ツタノデアリマス。
ソシテ龜川ヲ先ヅ呼出シ、龜川ガ來テカラ村中ヲ呼出シタノデアツテ、
其ノ時ノ狀況ハ帝國ホテルノ玄關上階上廣間、奥行二十五米位アリ、澤山ノ 「 テーブル 」 ガアリマシタガ、
最初石原大佐、橋本大佐ト話シタノハ奥ノ方ノ 「 テーブル 」 ヲ使用シタノデ、
両兩大佐ガ歸ツタ後、龜川氏ガ來テ、同氏トハ別ノ入口ノ方ノ 「 テーブル 」 デ、
石原大佐トノ話ノ内容 ( 話ノ内容ハ第二回聽取書ノ通リ )　ノ要旨ヲ話シ、
村中ガ來ルカラ説得シテ貰フ様頼ミマシタ。
間モナク村中ガ來タノデ、龜川ガ立ツテ同室ノ奥ノ方ノ 「 テーブル 」
( 私ノ 「 テーブル 」 ヨリ約二十米位離レタ処 ) ニ村中ヲ案内シテ、二人デ話シテ居リマシタ。
其ノ間、私ハ元ノ 「 テーブル 」 デ待ツテ居リ、約十分位シテカラ龜川ノ処ニ行キマシタ。
私ガ行ツタノデ二人ハ會話ヲ止メマシタノデ、龜川ト私ハ二人デ村中ヲ説得シタノデアリマス。
其ノ説得ノ内容ハ、前ニモ申上ゲタ通リ、
宮中方面ノ努力ハ軍中央部ノ責任者ニ任セテ、
蹶起部隊ハ歩一ノ兵營ニデモ終結シテハドウカ、
帝都ヲ混亂ナゾサセルノハ、君等ノ本意デハナイダロウ
ト云フコトヲ説キマシタ。
村中ハ私ノ精神ノアル処ヲ諒トシ、成ルベク其ノ趣旨ニ添フ様ニ努力シテ見ルガ、
必ズシモ其ノ意思ノ如ク、同志ガ動クカドウカハ、請負ヒ兼ネル旨ヲ申シテ、退去シマシタ。
其間ハ約十分位アリマシタ。
歩一ニ集結シテハト申シマシタノハ、
蹶起部隊ガ、歩一ノ者ガ多イトノ村中ノ話デアツタカラデアリマス。
是等ノ話ノ間、小林ハベツノ 「 テーブル 」 デ休ンデ居テ、話ノ内容ニハ何等ノ關係モアリマセン。

同夜龜川ガ本事件ノ処置ニ關シ、貴官ニ述ベタル事項如何
龜川氏ハ、後継内閣ノコトニ就テモ、蹶起部隊ノ処置ニツイテモ、何モ私ニハ意見ハ述ベマセンデシタ。
私ノ依頼ニ應ジテ村中ニ話ソウトノ事デシタ。
村中ガ 「 テーブル 」 ニ行ツテカラハ、龜川ハ何モ申シマセンデシタ。
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二月二十日以來、龜川ニ面接シタル日時及面談ノ内容如何。二十二日ニハ會ハナカツタカ
控室デ會ヒマシタ。
其ノ時ノ話ノ内容ハ
二十二日ハ公判日デ、辯護人控室デ會ヒマシタガ、
當日ハ非公開デ、昼休ミノ時、控室ニハ無外和尚、鵜澤辯護人及菅原辯護士モ同室セラレ、
會談ノ内容ハ相澤中佐ノ噂位デシタ。

何カ特別ナ話ハナカツタカ
昼休ミノ終ル頃、龜川氏ヨリ 「 一寸 」 ト云ツテ、別室 ( 辯護人控室向側ノ貴賓室 ) ニ行ツテ立話デ、
「 強力内閣ノ顔触レハ誰ガヨイデスカ 」 トノ質問ガアリマシタノデ、
私ハ一寸妙ニ感ジテ、私ハ 「 ソレハ陰謀ジャナイデスカ 」 ト云ヒマスト、
「 内閣ガコワレルカモワカラン 」 トノ話デシタノデ、
私ハ 「 コワレタラコワレタトキノ事ジャナイデスカ。 陰謀は絶對ヤツチヤイケマセンヨ 」
ト申シマスト、龜川氏ハ一寸黙サレマシタノデ、私ハ
「 モウ直キニ公判ガ始マリマスカラ 」 トテ、兩人室ヲ出マシタ。

二月二十三日ニハ會ハナカツタカ
二月二十三日降雪ノ日ニ、證人申請ノ準備ヲシ様ト思ツテ、
池田成彬ニ對スル證據ハ龜川ノ提出デアリマシタノデ、龜川氏ニ私ノ自宅ニ來テ貰ヒマシタ。
其ノ日龜川氏ノ來タトキハ、小林氏ガ來テ居テ、午后一時頃龜川氏ガ來タノデ、
二人ニ頼ンデ證人申請ノ質問事項等ヲ、書イテ貰ウトシマシタガ、
其ノ日龜川氏ハ殆ンド口ヲ開キマセンデシタノデ、
私ヨリ小林ハ私ノ信頼スル人ダカラ心置キナク一緒ニ加勢シテ下サイ、ト紹介シマシタガ、
小林氏ガ種々意見モ述ベテ、私ノ言フノヲ書キ取リ乍ラ手傳ヒシテ呉レマシタノヲ、
龜川氏ハ黙シテ見テ居リマシタノミデ、夕方 「 今日ハ失礼スル 」 ト言ツテ歸リマシタ。
當日ノ様子ハ小林ガヨク承知シテ居ルト思ヒマス。

二十五日ハドウカ
二十五日ハ非公開公判デ、龜川ハ昼休ミノ時 特別辯護人控室ニ來テ居リマシタガ、
其時ハ菅原辯護士、鵜澤辯護人、無外和尚モ居リ、種々雑談ハシマシタガ、
特ニ變ツタ話モナイ様デシタ。
龜川氏ハ昼食前自宅ニ歸リマシタ。
午後ノ公判デ、午後二時頃、裁判長ヨリ證人申請ヲ命ゼラレマシタガ、
私ハ證人申請ハ次回ノ公判デヤル様ニ思ツテ準備モ十分出來テ居リマセンデシタノデ、
公判ヲ休憩シテ貰ツテ、
鵜澤辯護人ト證人ニツキ打合セヲスル爲メ控室ニ行ツタ時ハ、龜川氏ハ居リマセンデシタ。
鵜澤辯護人ト、咄嗟ノ間ニ、證人ヲヨリワケテ申請シマシタ。
其後ハ前ニ申シマシタ二十六日夜、帝國ホテルニテ會フ迄會ツタコトハアリマセン。

龜川ヨリ二月二十四日午後○時半頃電話ガアツタ筈ナルガ、其時對話ノ内容如何
二十四日午後鵜澤辯護人ト證人ノ打合ハセヲスル約束デアリマシタガ、二十四日昼頃ダツタト思ヒマス。
鵜澤氏宅カラ龜川氏ガ電話ヲカケテ、
鵜澤先生ハ差支ヘガ出來タカラ今日ノ打合ハセヲ止メテクレトノコトデアリマシタ。

鵜澤辯護人ガ二月二十六日西園寺公ノ許ニ赴クコト及其ノ要件ヲ承知シ居タルヤ
承知シ居タリトセバ、夫レハ何時頃知リタルヤ
ソンナコトハ全然聞イタ事ハアリマセン。

西田ノ陳述ニ依レバ、貴官ハ今回ノ事件ヲ勃發前ニ亀川カラ聞イテ知リ居ル筈ナリト言フガ、如何
今迄申上ゲタ通リデ、全然餘知セザル処デアリマス。

事前ニ知ツテ居ツタトシタラ、ドウスルカ
私ガ事前ニ知ツテ居タナラバ、必ズ上司ニ報告スルナリ、或ハ捨身デ中止ヲ勧告スルナリ、
何カノ方法デ未然ニ防止スルコトガ出來タダロウト、殘念ニ思ツテ居リマス。

二十日以後、鵜澤辯護人及菅原辯護士ヨリ、事件勃發ニ關シ何カ聞キタルコトナキヤ
全然アリマセン。

陳述人  満井佐吉
右録取シ讀ミ聞カセタルニ、相違ナキ旨申立ツルニ附、署名捺印セシム
昭和十一年三月十九日
渋谷憲兵分隊
陸軍司法警察官  陸軍憲兵少佐  徳田 豊

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