あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

「大義を明かにし人心を正せば、皇道焉んぞ興起せざるを憂へん」

2020年04月10日 18時45分50秒 | 昭和維新 ・ 蹶起の目的


「 青年将校は、北、西田の思想に指導せられて 日本改造法案 を実現するために蹶起したのだ 」
  と 云ったり、
「真崎内閣を作るためにやったのだ」
 等の 不届至極の事を云って、ちっとも蹶起の真精神を理解しようとはせずに、
彼等の勝手なる推断によって青年将校は殺されてしまひました。
北、西田氏も亦同様に殺され様としています。
青年将校は改造法案を実現する為に蹶起したものでもなく、
真崎内閣をつくるために立ったのでもありません。

蹶起の真精神は
大権を犯し国体をみだる君側の重臣を討って大権を守り、
国体を守らんとしたのです。

ロンドン条約以来統帥大権干犯されること二度に及び、
天皇機関説を信奉する学匪、官匪が宮中、府中にはびこって
天皇の御位置をあやうくせんとしておりましたので、たまりかねて奸賊を討ったのです。
そもそも 維新と云ふことは皇権を恢復奉還することであって、
陸軍省あたりの幕僚の云ふ政治経済機構の改造そのものではありません。

青年将校の考へは 一言にして云へば
「 皇権を奪取 (徳川一門の手より、重臣元老の手より) 奉還して大義を明らかにすれば、
 国体の光は自然に明徴になり、国体を明徴にすれば 直ちに国の政・経・文教全てが改まるのである。
これが維新である 」
と 云ふのです。
考え方が一般の改造論者とひどく相違しています。
法務官などは此精神がわからぬものですから、
「 オイ、御前達は改造の具体案をもっているか。何ッ、もっていないッ。 
 そんな馬鹿な事があるか。
具体案もなくて維新とは何だッ。
日本改造法案が御前達の具体案だらう。何ッ、ちがいますう。
嘘だ、御前達の具体案は改造法案にきまっている。
あれを実現しようとしたのだ。サウダ、サウダ 」
こんな調子で予審を終り、
公判になって、民主革命を強行し、・・・・を押しつけられたのです。

藤田東湖の
「 大義を明かにし人心を正せば、皇道焉んぞ興起せざるを憂へん 」

これが維新の真精神でありまして、
青年将校蹶起の真精神であるのです。
維新とは具体案でもなく、
建設計画でもなく、
又、案と計画を実現すること、そのことでもありません。

維新の意義と青年将校の真精神とがわかれば、改造法案を実現する為めや、
真崎内閣をつくる為に蹶起したのではない事は明瞭です。
統帥権干犯の賊を討つ為に、軍隊の一部が非常なる独断行動したのです。
私共の主張に対して、彼等は統帥権は干犯されず、と云ひます。
けれどもロンドン条約と真崎更迭の事件は、二つとも明かに統帥権干犯です。
法律上干犯でないと彼等は云ひますが、
法律に於て統帥権干犯に関する規定がどこにあるのですか。
又、統帥権干犯などと云ふものは、法律の限界外で行はれる事であって、
法律家の法律眼を以ては見定めることは出来ないのです。
これを見定め得るものは、
愛国心の非常に強く、尊皇精神の非常に高い人達だけであります。
統帥権干犯を直接の動因として蹶起した吾々に対して、
統帥権は干犯されていないとし、
北の改造法案を実現する為に反乱を起こしたのだとして
罪を他になすりつける軍部の態度は、卑怯ではありませんか。


磯部淺一  獄中手記(三) 四、尊皇討奸事件(二・二六)と北、西田両氏トノ関係
1 青年将校蹶起の動因
二・二六事件秘録 (別巻) より


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