反駁 ・ 北一輝 第四、五回公判狀況 『 事實審理 』

第四回公判狀況
二・二六事件公判狀況ニ關スル件 ( 第五公判廷 )
十月五日 午前八時五十分 被告北輝次郎、西田税出廷、
仝九時吉田裁判長以下着席、開廷ヲ宣シ、直チニ被告北輝次郎ノ身分調ヲナシ、事實審理ニ入ル
北一輝 
＜法務官--北 ＞
学歴及ビ経歴ヲ申述ベヨ
郷里ノ中學校ヲ三年ニテ退學、東京ニ來リ、
各図書館等ニ出入リシ 獨學研究シ、自己ノ中學時代ヨリ疑問ノ諸點ノ解決ニ努力シ、
二十二年ノ秋ヨリ 「 國體論及純正社會主義 」 ノ著書ノ爲メ努力シマシタ。
田舎出ノ書生デアル事ト資金ガアリマセン爲、出版ニ際シ相當苦勞シ、
二十三年ニ完成シ 自資ニテ發行シマシタガ、
社會ニ及ボス影響大ナル故ヲ以テ發禁トナリマシタガ、
此ノ著書ヲ通ジ各思想運動者、幸徳秋水、堺利彦、片山潜
及 支那亡命者孫逸仙 等ト交際 竝 相知ル事トナリマシタ。
該著書ヲ通ジテ多數ノ人ヲ知ル様ニナリマシタ。
國體論及純正社會主義ヲ著述スルニ至リタル動機如何
中學時代ヨリ國體問題ニ就イテハ非常ニ關心ヲ有シテ居リ、
中學ノ先生ニ問フテル明確ナル解答ヲ得マセンノデ、
一般學者間ニ唱ヘラレタル皇祖ノ外國ヨリ移住説ニ對シ不満を有シテ居ル事ト、
郷土ニ順徳天皇 及 後鳥羽上皇ノ遺跡等アリ
歴史上ノ參考資料ノアル事ヨリ 日本ノ歴史ヲ嚴密ニ研究シタル結果、
日本民族 我ガ國土ニ發生シ發展シタル事を感ジマシタ。
一般ニ唱ヘラレル移住説、 「 馬來民族 」、亦、漢民族デアルトスレバ、
彼ノ文化ノ發展セル民族 ( 漢民 ) ニハ言語 及 文字モアリ、移住ニ際シ 人ガ言語文字ヲ忘却スルコトナシ。
本土ニ言語文字ニ其遺跡アルベク、文字等ノ遺跡ナキハ然ラザル事明白ナリ。
馬來民族ノ如キ非文明ナル民族ガ、現今ニ於イテスラ航海困難ヲ來ス支那海ヲ
數千年前ニ丸木舟ニテ渡來セル事ハ不能ニテ、信ズル事出來ザルモノナリ。
即チ、我ガ國體ハ日本ノ歴史ノ上ニノミ發見確認出來ルモノナリ。
・
純正社會主義論ニ就イテ
當時ノ社會主義者間ニハ 「 ダアヴイン 」 進化論中ノ優勝劣敗論
ト 大杉榮ノ唱ヘタル相互扶助論ガ相當抬頭シテ居リマシタ。
幸徳秋水、大杉榮 等ニ接シ種々研究シマシタ。
彼等ノ社會主義ナルモノゝ生命單位ハ個人ナルガ故ニ、優勝劣敗ニモ見ヘ、相互扶助ニモ見ヘ、
之レハ各々 眞ノ國家社会ノ福利民福ヲ基準ニシテ論ジテ無イ感ガアリマシタ。
當時ノ社會主義ガ全部日露戰爭反對論ヲ唱ヘテ社會主義運動ノ第一義トナシテ居リ、
考究スルニ、彼等ハ國際主義デアリマシタ。
自分ハ社會ノ生命單位ヲ國家ニオキマシタ。
國家ノ發展ノ爲ニハ、國民ハ相互扶助ヲ行フモノデアリマス。
併シ乍ラ、諸外國トノ間ニハ優勝劣敗ヲ繰返スモノデアル。
此ノ見地ヨリ相互扶助デアリ、優勝劣敗デアル。
即チ、現在ノ日露戰爭ハ國家ノ優勝劣敗上必要ニナルコトニテ、日本ノ眞使命デアルト大書特筆シテ日露戰爭ヲ賞賛シマシタ。
吾ガ國ノ社會ハ日本ノ歴史ノ上ニ樹立スベキデアルト論ジ、
他ノ社會主義ハ不純ナルモノトシテ、自分ノ説ヲ純正ト爲シタノデアリマシタ。
國體論及純正社會主義ノ観察ハ、今猶同様カ
當時ハ二十三歳ノ青年デアリ、生命單位ヲ國家ト爲シタコトハ 一大發見ヲ爲シタ様ニ感ジマシタ。
今日ニ於テ國體論及純正社會主義ニ於テモ相當加筆訂正ノ用ルト存ジマスガ、
根本方針ニハ變リアリマセン。
當時幸徳秋水 及 大杉榮、片山潜 等ト交際シアルト云フガ、彼等ノ思想ハ著書中ニ這入ツテ居ルノデハナイカ
當時牛込區百人町ニ居住シ、
附近ニ幸徳秋水、片山潜、堺利彦 等ガ居住シテ居ツタ關係カラ交際ハシマシタガ、
思想的ニ相通ジマセンデシタ。
幸徳ハ個人的ニハ立派ナル人物デ、他ノ片山、堺 等トハ性格ノ相異デ親シクアリマセンデシタ。
以上ノ如クデ、著書中ニハ全然彼等ノ思想ハ這入ルコトナク、
當時社會運動者ガ日露戰爭ニ反對シタガ、
自己ノ著書中ニハ純正社會主義トシテ戰爭ヲ是認シテアリマスノデ、當時相當糾彈セラレタ事實モアリマス。
其後ノ経歴ニ就イテ述ベヨ
前ニ申上ゲマシタ著書ニヨリ、
當時支那ヨリ日本ニ留學スル二萬人近くノ留學生中ノ一部 及 亡命者 孫逸仙 他と接スル様ニナリ、
一夜 孫逸仙ト支那革命ニツキ懇談シ、相通ヅル処アリ、
相共ニ支那革命ニ努力奔走スルコトヲ一夜ニシテ約シ、
其後 孫、黄興、宋教仁、張継 等ト親密ニナル交際ヲ爲スニ至リ、
吾ハ支那革命ニ全能力ヲ傾注スルニ至リ、言論機關ヲ通ジ革命熱ヲ煽ル他、
啓蒙運動ニ從事シテ二、三年ヲ經過シ、東京ニ於テ専門的ナル武器其他ノ準備計畫ヲ樹立中、
武漢ニ豫期セザル革命ノ烽火ガ揚リタルヲ以テ、
南京ノ孫ヨリ電報ニテ支那ニ來ルコトヲ要請セルヲ以テ直チニ準備ヲ爲シ出發シマシタ。
支那革命ニ就イテノ被告ノ立場如何
當時ノ支那ハ明ガ斃レ清ガ興リテ漢民族ヲ壓迫スルニ至リマシタノデ、
私ハ將來日本ガ満洲ヲ日本ノ權益下ニオクニツイテハ、満洲 及 北支ニ絶大ナル權力ヲ有スル清朝ヲ壓倒シ、
漢民族ニ依リ南京ヲ中心トスル十八洲ノ政府ヲ樹立シ、南方ヨリ迫り、北方ヨリ進ムニ依リ、
清朝ヨリ満洲 及 北支ヲ日本ニ提供セシメルト共ニ、
支那民族ノ清朝ヨリノ重壓下ヨリ救フコトヲ重要ナル主眼點トシテ望ミ、
内田良平 及 時ノ政府員ト準備交渉 爲し、
支那ニ渡リ上海ヨリ南京、武昌ト第一支那革命ノ中心地ヲ歩キ、
孫逸仙 及 同志等ト相謀リ 全支那ノ革命ヲ促進セシメ、
革命軍ヲ支持シ、日本ノ政府ヲシテ革命軍ノ支援ヲ爲サシメ、
南京臨時政府ヲ成立セシメ、仝政府ノ顧問トシテ活躍致シマシタ。
革命ガ成功シ、袁世凱ガ此ノ時 帝位ニ就キ、北京ニ滞在、一歩モ北京を出ヨウトセズ、
革命軍全部ニ自分達モ北京ニ政府ヲ置クハ將來ノ爲 良好ナラズトシ、南京入リヲ要請セシモ、
其ノ儘ナルト、五ヶ國借款ヲ袁世凱ガ爲シタル爲、
第二革命ヲ起コスベク準備奔走シ 兵ヲ起シタルモ、
袁世凱ハ北京ニテ死亡後ハ、五ヶ國中 日本ノミガ之ニ參加シアリテ革命軍ヲ壓迫シタル爲、
日本ト相結ビ來タリタル同志 及 支那要人ハ殆ンド排日家ト變化シ、今日ノ排日思想ヲ起サシムルニ至リマシタ。
コノ爲、退去命令ニ依リ 日本ニ歸ヘリマシタ。
一度支那ヨリ日本ニ來タリマシテ支那革命外史 其他ヲ著述シ、
再ビ大正五年ヨリ南京ニ赴キ旧同志等ト相結ビ浪人生活ヲ過ゴシテ居ルウチ、
欧州戰爭ノ發生ニ從フ日本ノ聯合軍參加 及 相次グ外交問題ノ失敗等ト支那ニ於ケル排日運動ノ旺盛、
世界思想ノ大混亂 特ニ ロシア革命、ドイツ ノ崩壊 等 相次イデ發生スルヲ見テ、
日本ノ將來 内外共ニ多事多難ノ未曾有ノ時代到來スベキヲ感ジ、
大正八年 上海ノ排日運動 眞ツ只中ニ於テ 日本改造法案大綱ヲ著述シ、
大正九年一月 日本ニ大川周明氏ノ招致ニ依り歸ヘリマシタ。
日本ニ渡ル當時ノ狀況如何
大正八年九月中
大川氏 日本改造法案執筆中ノ自分ヲ訪フテ、
日本ニ革命興ル、至急歸ヘラレタシ云々、ト 申セシヲ以テ、
手段、方法 竝 建設計畫ニ就キ聞キタルモ、具體案ナキヲ以テ、
執筆中ノ日本改造法案ノ原稿ヲ見セタルニ 同氏ハ大イニ喜ビ、之ヲ參考資料ト爲スコトトシ、
直チニ日本ニ歸ヘリ、
自分ハ殘餘ノ執筆ヲ完了シ、
同年十二月 上海 出發 日本ニ來リタルニ、
上海ニ於ケル朝鮮總督ヨリノ密偵ノ誤報ニ依リ 革命児トシテノ取扱ヲ受クルニ至リ、
大川氏等ノ猶存社ニ行キタルガ、憲兵、警察官ノ警戒キビシキヲ以テ 不快ナル感ニ打タレタルガ、
東京憲兵隊長ト面接ノ結果、誤解ハ一掃シマシタ。
猶存社時代ノ活動如何
猶存社ハ自分 歸朝前ニ大川氏等ガ結成シタルモノニシテ直接關係ナキモ、
自分ノ宿所ガ猶存社ノ二階ナル關係上 種々ナ人々ト面接スルコトトナリマシタガ、次第ニ交渉ヲ斷タレマシタ。
今上天皇ノ御成婚ニ際シテハ長閥ヲ相手トシテ極力運動ニ成功セシ結果、
猶存社ノ名ト共ニ一般ニ知ラレル様ニナリ、
其後 ヨツフエ來朝問題ニ際シ 仝社ノ人々ガ後藤新平等ト共ニ礼賛シタルヲ以テ自分一人ニテ反對シ、
ロシア承認ハ共産党ノ直輸入ナルコトヲ提唱、遂ニ同氏ト意見衝突ヲ來し、猶存社ノ看板ヲ取リ外シ、
北一輝ト改名、其後ノ猶存社ニハ關係セズ、直接間接ニモ同社ト交渉ヲ持チマセンデシタ。

大川周明ト離別セル情況如何
大川氏トハ性格上相離反スルコトナキモ、
西田税ガ 大川氏ヲ最モ新任スル牧野伸顕ニ對シ 皇室林不法拂下問題ヲ惹起セシコト、
私ガ  朴烈ノ怪冩眞問題ニテ若槻内閣ヲ打倒スベク企圖運動中、
西田ノ牧野宛ノ手紙ニ聯座
懲役三ヶ月ニ處セラレタルコトゝ、大川氏ノ立場ヲ失ハシメタルコトニ依リ
次第ニ相離反スルコトトナリ、直接間接ノ衝突ハアリマセンガ、
西田ガ大川氏ト議論セシト
猶存社 及 行地社ノ出版部ニテ 日本改造法案ノ發行準備中ナルヲ無斷ナル故ヲ以テ中止、
西田ヲシテ發行セシメタルコトニ依リ、西田ヘノ攻撃ハ自分ニ對スル攻撃ト變化シ、
次第ニ思想界ニ 北、西田派ト大川派ノ二大派ヲ對立分離スルニ至リタルモノト考ヘラレマス。

大川周明と分離後の行動如何
大正十三年 牧野伸顕ニ對スル問題ニテ西田ト共ニ三ヶ月ノ懲役服役後、
思想運動ニ奔走スルヨリハ政治運動ニ變り、
森恪、安達鎌蔵、内田良平 等ト交リ、海軍省案ヲ支持シ、樞密院顧問官ヲ説得シ、
同案ニ賛成セシメ、同案通過ニ努力奔走セシモ、政府案ノ通過ヲ見ルニ至リタリ。
其後ハ 時折ノ政治運動ニ關与シマシタ他、
信仰生活ニ入リ、神秘的ナル靈感等ヲ痛感シ、時代ノ先覺者トシテ今日ニ至リマシタ。
三月事件、十月事件ニ關係アリヤ
三月事件ニハ、全然關係ナシ。
十月事件ニ關シテハ相當ノ意見ヲ有シテ居リマス。
當時、軍部ノ建川、橋本欣五郎氏等ガ アノコトヲ計畫實施セントスレバ、當然ノコトト 日露戰爭以來
幾多ノ犠牲ヲ拂ヒタル満洲ニ於テ 政府 及 重臣等ノ不穏當ナル外交方針ノ爲 諸外國より壓迫セラレ、
特ニ張学良ノ横暴ニ任セ、毎日排日ヲ受クルモ忍耐シ來レルガ、
九 ・一八事件ヲ期シ 兵を起シタルニ、元老 重臣 等惡夢醒メザル爲、
朝野ニ對スル反省ノ烽火ト考ヘ、
十月事件ヲ起サズトモ準備計畫ニテ政府ニ對スル充分ナル鞏壯劑トナリ、
遂ニ今日ノ満洲ヲ建設スルコトガ出來得タルト信ズ。
十月事件ニ關シ 蹶起ノ時期ガ外部 ( 關屋宮内次官 ) ニ 知レアリタルヲモッテ、
自分ハ前日 參謀本部ニ建川氏ヲ訪問、時期ノ變更ヲ爲スベキコトヲ忠告ヲ爲シタル他、
西田ヨリ若干ノコトヲ聞イテ居リマス。
五 ・一五事件ニ際シテハ如何
五 ・一五事件ニ際シ 何等ノ關係ナク、
西田税ガ何等カノ關係ヲ有シテ居ルノデハナイカト事件ノ起コル一ヶ月前ニ深入リセザル様注意シオキタルニ、
西田ガ狙撃セラレタルヲ以テ 意外ニ思ツタ次第デス。
血盟團、神兵隊ニ關係アリヤ
何等關係アリマセン。
青年将校トノ交際如何
青年將校 及 軍部關係者トノ交際ハ少數デアリ、
皆 西田ノ狙撃事件ニ依リ病院ニテ看護中 知己トナッタモノニテ、
栗原中尉、安藤、山口大尉、對馬中尉、磯部、村中 等デアリマシテ、
一年 一、二回位、多イ人ニテ一〇回位ノ面接ヲ有スル人々デアリマス。
日本改造法案大綱ノ根本思想ハ今猶同一カ
日本改造法案大綱 ハ上海ノ動亂中ニテ執筆シタルモノニテ、
今日ノ如ク平時ニ於テハ 相當加筆ヲ要スル部分アルト思フモ、
根本的指導原理タル天皇大權ノ發動ニ依リテ行フ 等ノ點ハ代リアマセン。
只、今日著述スルナラバ、モット 變ッタモノガ出來ルト思ヒマス。

日本改造法案中、憲法ヲ三年間停止ト云フ點ハ如何
憲法ノ三年間ノ停止ト云フコトデアリマスガ、
天皇ハ絶對的ナル現姿神ニアラセラレ、憲法を超越シタルモノト観察致シマス。
其ノ天皇ガ國家非常時ニ処スル爲、
天皇大權ノ發動ニ依り國家ノ改造ヲ實行セラレントスル際ニハ、
一時憲法ヲ停止シ 大詔ヲ發セラレ、
戒嚴令下ニ於テ時局事態ヲ収拾セラレルニ際シ、
不忠ナルモノガ憲法ニ依リ 貴衆兩議院ヲ中心ニ、
天皇ノ實施セラルル國家改造ノ大權ヲ阻止スルヲ防止スル爲、論ジテアルモノデアリマス。

被告ハ明治天皇ヲ尊敬シアルガ、
憲法ハ明治天皇ガ天地神明ニ誓ヒ欽定セルモノニシテ、
此ノ憲法ノ停止ハ憲法ノ否認デアリ、
明治陛下ヲ否認シ奉ル 我ガ國體ト相容レザル思想ナルコトヲ承認スルヤ
明治大帝ニ對シマシテハ絶對的ナル尊敬ヲ爲スモノデアリマス。
明治大帝ハ即チ今上陛下デ在ラセラレマス。
今上陛下ガ國家非常ノ際ニ明治大帝ノ欽定セラレタル憲法ヲ一時停止シ、
國家ヲ改造シ永遠ノ完全ニオカレマスコトハ、吾ガ國體ニ反スルコトデナイト確信致シマス。
天皇ハ總テノ上ニタタレテ居リマス。
即チ、
憲法ノ上ニ天皇ハオラレルコトデアリ、
天皇大權ノ發動ニ依リ 憲法ヲ一時停止スルコトハ、
憲法ヲ欽定スルコトト改造セラルルコトハ何等ノ變リナキコトニテ、
停止即チ否認デナイト考ヘラレル。
憲法ノ停止ハ天皇ノ大權ニ依り爲サレルモノニテ、
臣下ニ於テ絶對ニ爲スモノニ非ザルヲ以テ、
國體ニ反スルモノトハ絶對ニ考ヘルコトガ出來マセン。
改造法案中ニ三年間ノ停止トアルモ、
單ナル手段方法ヲ書キタルモノニテ、
眞ノ精神ハ世界ノ何れノ革命改造史ニモナキ私有財産ノ限度制ヲ採用シタルモノデアリマス。
憲法ノ停止ハ即チ否認ニテ、
平時ニ於テ改造法案ノ實現ヲ企圖シアリタル処ヨリ見テ矯激ナル國體と相容レザル思想ト云フコトヲ得ルナリ
絶對ニ平時ニ於テ實現セントスルモノニアラズ。
非常ニ際シ、天皇ノ大權ニテ爲スベキモノニシテ、國民ハ翼賛シ奉ル丈ノモノナリ。
法務官殿ノ申サレマスル法的立場ヨリ停止ガ否認ト云フコトハ、今日迄 解シテ居リマセンデシタ。
乍然、
法務官殿ハ何処ニ陥入レルカト云フコトガ知レマシタ今日、
猶今迄 極刑ニサレマスコトヲ覺悟シマシタ以上、
停止ガ否認デアリ、
日本改造法案ノ根本思想ガ
矯激ナル思想ト申サレマスルコトヲ承認イタシマス。

憲法ノ三年間停止ガ否認ナルコト
及ビ 日本改造法案ガ
吾ガ國體ト相容レザル矯激ナル思想ナルコトヲ承認セシメルニアタリ、
約二十分ニ亘リ 法務官ト被告 論爭し、
理論ニ於テハ結論ヲ得ザルモ被告ハ承認ナシタリ
・
青年將校ハ改造法案ヲ絶對的ニ信ジ居リタルヲ承認スルヤ
青年將校 及ビ 軍人ガ改造法案ニ共鳴スルハ外交問題ニ於テハアルベキモ、
其他ノ手段方法ハ承認共鳴セヌモノデアルベク、
猶、改造法案ガ何ノ程度ニ讀マレテ居ルカヲ承知セザルモ、
青年將校間ニ讀破セラレアルコトヲ承認イタシマス。
青年將校ガ今般蹶起シ、日本改造法案ノ實現ヲ企圖シタルコトヲ承認スルカ
詳シイコトヲ聞カザルモ、
今般ノ蹶起ノ趣旨ハ肅軍
即チ 兵馬大權ノ干犯者ヲ討ツニアルト聞キマシタガ、
改造法案云々ノコトハ 西田、村中ヨリハ聞カナイガ、
警視廳、憲兵隊ニ於テ色々ノコトヲ申サレタルノデ、
青年將校ヲ見殺シニスルコトガ出來マセン故、承認致シマス。
西田ヨリ十二月中蹶起ノコト聞キタルヤ
明確ナル記憶致しマセンガ、其當時ハ相澤公判ノコトデアリマシタ。
蹶起前ニ村中、磯部ニ面接セル狀況如何
二月二十二、三日頃 村中ガ來タリ、蹶起ノコトヲ話シタル際、
村中ヨリ兵ヲ使用シ 蹶起後一地點ヲ占據スルハ國體観念ニ反スルカトノ質問ニ對し、
不明ナリト解答シ、考ヘ通リ實施シタライイト申シマシタ。
磯部ハ其ノ翌日來マシタガ何ンノ話モアリマセン。
自分ハ他人ノコトニ干渉スルコトギ嫌ヒデアリマシタノデ、村中ニ對シ左様ナコトヲ申シ述ベタノデアリマス。

大體 事件前ノ事實審理ヲ終了シ、
午後四時三十七分 閉廷、次回ハ六日午前九時開廷ヲ申シ渡シタリ
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第五回公判狀況
二 ・二六事件公判狀況ニ關スル件報告 ( 第五公判廷 )
十月六日 午前八時五十分、被告北輝次郎、西田税 出廷、
仝九時吉田裁判長以下着席、開廷を宣し、直チニ被告北輝次郎ノ事實審理ニ入ル
＜法務官--北 ＞
二十五日迄ノ事實審理ハ昨日ニテ終了シ、本日ハ二十六日以後ノ事實審理ヲ行フ

事實審理ノ前ニ檢察官ノ公訴事實ニ對スル意見ヲ述ベマス。
檢察官ノ公訴事實ヲ聞キマスニ、
北輝次郎ハ支那革命ニ参加成功セシメタルヲ以テ、日本ニ於テモ革命ヲ實施スル如ク述ベラレアリ、
丁度、隣家ニテ強盗ヲ為シタルカラ、此ノ家ニテモ強盗ヲ為スト云フ論法デ來テ居リマス。
亦、日本改造法案大綱ヲ以テ平時ノ日本ニ騒擾そうじょうヲ勃發セシメ、革命ニ導キ、
日本改造法案ノ實現ヲナサシムベク
常ニ青年将校 及 軍部ニ接近、啓蒙運動ニ從事シ、
今回ノ事件ヲ蹶起セシメタル処ニ根本ヲ置キ論述シ、
裁判官モ取調ヲナシテ居ル様ニ見ユルモ、事實ハ全然相異シテ居リ、
國家ノ改造ハ天皇ガ大權ノ發動ニ依リ國家非常ノ際ニ實施スルモノニテ、
其ノ參考資料ノ一部分タル改造法案デアリ、現今ノ時代ニハ符號シナイ部分モアルト思フ。
結論ヲ私ガ革命ヲ爲スモノト前提シ取調ヲ爲スコトハ、當ヲ得ザル事ト存ジマス。

二十六日ノ行動及事件ヲ知得セル情況如何
二十六日午前五時ヲ期シテ青年將校ガ肅軍ノ徹底ノ爲
兵馬大權ノ干犯者ヲ討ツト云フ事ガ知レテ居リマシタノデ、非常ニ心配致シマシタガ、
自分ハ昨年末以來ヨリ久振リニテ支那ニ渡ルベク具體的準備ヲ為シツツアリマシタノデ、
直接關係シ 色々ノ事ヲ考ヘルノヲ避ケテ居リ、
二十五日夜 西田ガ來マシタノデ若干ノ話ヲ爲シ、後ハ神佛ヲ祈ツテ居リ、
他ニ電話ニテ聯絡ヲ爲サズ、
二十六日午前六時頃 西田ヨリ青年將校ガ蹶起シタラシイトノ事ヲ聞キマシタ。
青年將校ガ皇軍ノ一部ヲ檀用シ蹶起スル事ハ統帥権干犯ト考ヘナイカ
今般青年將校ガ蹶起シ、
「 ロンドン條約 」 及 敎育總監更迭ニ際シ
元老重臣 竝ニ 軍首脳部ニ於テ
兵馬大權ヲ干犯セル者ヲ討ツ爲ニ兵力ヲ使用スルト云フ事ハ、
父ノ惡事ヲ反省セシメル爲メ 劍ヲ取リタルト同様ニテ、
「 已ムニ止マレヌ 」 行爲ト考ヘマシタ。
自然ノ事象トモ云フベキ箏ト思ヒマス。
法治國ノ國民ニシテハ、兵力ヲ檀用シタル事實ガ統帥權干犯成ル事ハ常識ニテモ解釋スベキ箏ナラン
法律的ニ解釋スラバ 勿論統帥権干犯デアリマスガ、
當時ノ自分ノ氣持ハ 呆然トシテ居リタル爲メ、詳シク考ヘマセンデシタ。
化學方程式ニ事ヲ解スル餘裕ガアリマセンデシタ。
困ツタ事ダト感ズルノミデアリマシタ。
二十六日に岩田富美夫、澁川善助、西田 等ト会談セシ狀況如何
西田ヨリ事件ノ概要ヲ聞キ、
本人ニ對シ 必ズ警視庁方面ヨリ豫備檢束等ニテ拘束ヲサレル事ヲ心配シ、
西田ヲ避難セシメル爲メ 自分ガ午前八時頃 岩田ニ電話シ、自分ノ処ニ來ル様依頼シ、
仝九時頃 岩田ガ來マシタノデ、西田ノ身柄保護ニ關シ三名ニテ協議、
岩田ノ親族タル巣鴨ノ木村病院ニ静養方避難セシメル事ヲ決定致シマシタ。
其後、澁川ガ來マシタノデ襲撃個所 及 事件ノ情況等ヲ聞キ、
西田、岩田、私ノ四名ニテ今後ノ時局収拾ニ就キ懇談致シマシタ。
會談約一時間ニテ澁川ハ歸リ、
續イテ西田、岩田 共ニ去リマシタノデ、後ハ御祈リヲ續ケテ居リマシタ。
二十六日ニ政界 財界方面ヨリ電話ガ掛ツタ事ニナッテ居ルガ、如何
今日中野正剛ガ支那ヨリ歸朝後初メテ電話ヲ掛ケテ來マシタ。
其ノ内容ハ 「 大變ナ事ガ起ツタ様ダ 」　ト 中野ガ尋ネマシタガ、
私ハドウシタト聞キ、雑談デ終始シマシタ。
財界方面ノ誰カラモ電話ハアリマセンデシタ。
薩摩雄次ガ大變ナ事ガ起ツテ多數元老重臣ガウタレタ様ダト電話デ申シテ來タノデアリマス。
私ハ二十六日ニハ全然他ニ電話デ話モセズ、外出モシマセンデシタ。
二十七日中ノ行動ニ就イテ申述ベヨ
二十六日夜ハ充分ニ睡眠致シ、午前六時頃起キ 朝食ヲ濟マスト、
西田ヨリ行動部隊ニ對シ昨日陸軍大臣ノ告諭ガ發セラレ、
蹶起部隊ヲ承認スルト共ニ各軍事參議官モ同意シ、今後蹶起部隊ト共ニ昭和維新ノ爲メ邁進スルトノ事デアリ、
次ノ様ナ事ヲ告諭トシテ下サレタト聞キマシタ。
一、蹶起ノ趣旨ニ就イテハ天聴ニ達セラレアリ、
二、諸子ノ心情ハ國體顯現ノ至情ニ基クモノト認ム、
三、各軍事參議官モ一致シテ右ノ趣旨ニ依リ 邁進スルコトヲ申合セタリ、
云々シ申シテ居リマシタノデ、大變ナ事ガ起ツタト考ヘ、
陸海軍ノ首脳部ノ全部ハ昭和維新ノ爲メ努力シ、行動部隊ト共ニ國家ノ改造ニ從事スル事
及 陸軍大臣ガ行動部隊ノ決起趣意書ヲ天皇ニ上奏シ、
愈々日本ヲ改革サレル時期ガ來タト感ジ、非常ニ國民ノ一員トシテ嬉シク考ヘマシタ。
午後岩田ヨリ電話ガアリ、大臣告諭ノ事を申シテ、非常ニ喜ンデ居リマシタ様です。
然し、西田ハ陸軍大臣告諭
及 軍事參議官ト青年將校ノ會見ノ顛末ヲ話シナガラ、
常ニ 「 クスグッタイ 」 様ナ面持チデアリマシタ。
西田ガ栗原中尉等ヲ常ニ壓ヘ
亦、事件前ニ非常ニ壓ヘタニモ反對シテ蹶起セル彼等ニ之ノ様ナ告諭ヲ發セラレ、
其ノ事ヲ 西田ニ傳ヘラレタル時、相當彼等ヨリ逆襲サレタト感ジマシタ。
此ノ告諭ノ事ヲ聞イテ直ニ御經文ヲ唱ヘ 御祈リヲ致シマスト、
常ニ心配セル時局収拾ノ人材ニ就イテノ事ガ靈感ニ依リ示サレマシタ。
「 人ナシ、勇將眞崎アリ、皇國正義軍疑ナシ、一任セヨ 」
ト　アリマシタノデ、
西田ニ示シマスト、彼ハ非常ニ喜ビマシタ。
青年將校ガ軍事參議官ト會見ノ際、
次期内閣ハ柳川中將云々ト要求シアリトノ事、告諭ノ話ノ際ニ聞イテ居ツタカラデアリマス。
私ハ、行動部隊ハ天皇ニ蹶起ノ趣旨ヲ認メラレ、
官軍トナッタ 即チ 正義軍トナッタ、
今後ノ時局収拾ハ眞崎大將ヲ首班トスル内閣ニ一任シ、前後処理ヲ爲スベキナリト信ジ、
其ノ靈感ヲ行動部隊ニ傳達シ、眞崎大將ニ一任スル様 クレグレモ話シマシタ。
青年將校等ハ北ノ霊感ヲウケテ後 協議シ、眞崎大將ニ一任ハ行動 及 時局収拾カ
單ニ時局収拾カト云フ疑問ヲ生ジ、
被告ニ對シテ電話デ照会シテ來タト云フガ、此ノ点、如何
昨日ノ軍事參議官ト行動將校トノ會見ニ際シ、
柳川内閣云々ト云フ事ハ人物トシテハ適任ナルモ、
現在東京ニ居ラザル者ニ一任シ
亦 軍事參議官、陸軍大臣ガ種々心配シ
行動隊ト共ニ時局収拾ニ當ルト申シテ居ル時、
柳川云々ト云フ事ハ
軍事參議官ヲ踏ミツケルト同様ナリト感ジ、
總テ白紙ノ狀態ニテ眞崎内閣ニ一任シ、
各軍事參議官ノ援助ヲウケルガ最モ適當セリト感ジタノデ、
前ニ申シタ趣旨ト同様霊感ヲ再ビ傳ヘマスト、
協議シテ見ルトノ返事デアリマシタ。
青年將校ハ行動ハ一任スル事出來ズ、一任スレバ眞崎ハ引ケト云フ、
只々時局ノ収拾ノミヲ一任スベキダトナシ、被告ニ解答ヲ求メタト申立テテ居ルガ、如何
電話ニ依リマスト、
丁度 眞崎大將ハ阿部、西 両大將と會見中ニテ、
眞崎大將ハ引ケト申シ、
阿部 西 兩大將ニ 白紙ニテ眞崎大將ニ一任スルト申シタルニ、
非常ニ喜ビ、良ク理解シテ呉レタ、各參議官ト協議、眞崎大將ニ一任スル様努力スル
ト申述ベラレアルトノ事デアリマシタ。
推察シマスニ、眞崎大將ガ現地ヲ引ケト申スノデ、
行動ハ一任セズ時局ノ収拾ノミ一任スルト云フ疑問ヲ生ジ、
質問シテ來タト考ヘラレマスガ、
兎ニ角自分ハ 中央部ハ意見一致シ、内閣ノ首班ニ就キ問題トナッテ居ルト感ジタノデ、
一嚮彼等ノ趣旨ハ聞取レマセンデシタ。
被告ハ眞崎ニ一任シ、青年將校等ノ信奉スル被告ノ著書タル日本改造法案ノ實現ヲ企圖シタルモノニアラズヤ
眞崎大將、柳川中將ト云ヘ、軍ノ首脳部ニ於テ 私ノ著書 日本改造法案ノ信奉者ハ無イト思ヒマス。
參考トシテ見タ人ガアルトモ、私ハ日本改造法案ノ實現ノ爲メ 仝大將ニ一任シタモノニ非ズ、
只 時局収拾ニ關シ 一般ニモ青年將校ニモ信頼ノ厚イ仝大將ガ適當ト感ジタルノミデアリマス。
二十七日以後ノ行動ニ就イテ申述ベヨ
二十七日午後ハ西田ヲシテ小笠原長生子爵ニ時局収拾方ヲ依頼セシメ、
猶、薩摩雄次ニ電話シテ
海軍ノ加藤寛治大將ニ陸軍ト歩調ヲ揃ヘテ時局収拾ニ當ラレ
眞崎大將ヲ支持スル様依頼セシメマシタ。
其ノ後ハ何処ニモ電話モセズ、事態ノ推移ヲ見ツツ睡眠シマシタガ、
常ニ西田ノ身邊ニ就イテ心配シテ居リマシタ。
何等直接ノ関係無キモ、憲兵隊 及 警視廳ニ於テ注目セラレテ居ルカラデアリマス。
二十八日午前中ニ憲兵隊ヨリ西田ヲ訪ネテ來マシタノデ、
居ラヌト答ヘマスト、自分ニ憲兵隊ニ出頭シテ呉レトノ事デアリマシタノデ、
準備ヲ爲シ、憲兵隊ニ出頭致シマシタ。

正午 一時休息シ、午後一時ヨリ　被告北輝次郎、西田税、龜川哲也 三名出廷シ、北ノ審理ヲ續行ス
＜法務官--北 ＞
二十八日迄ノ被告ノ事實審理ハ一應打切ル
國家ノ現状ニ就イテ如何ニ感ズルカ
吾ガ歴史ヲ詳シク檢討スルニ、
藤原氏ハ専横ヲ極メ大權ヲ簒奪さんだつセリ
平家モ亦然リ　
源氏起リ 大權ヲ簒奪セザルモ
土地臣民ヲ私有セリ北条氏亦代リテ大權ヲ簒奪シタリ。
此ノ時 楠公忠勤ヲ爲し、
時代ハ變遷シ
戰國時代トナリ、
徳川氏抬頭シ専横ヲ極メ、
明治維新ニ於テ 士族ノ下層階級タル維新ノ志士ニ依リ、
明治維新ノ一端ハ建築セラレ、版籍ハ奉還セラレタリ。
明治大帝ノ欽定憲法發布ノ前後ヨリ政治體制ハ整頓し、
完全ナル政治機構ハ樹立セラレタルモ、
其後資本主義ノ發展ニ伴ヒ、
天皇ニ属スル財力ハ次第ニ少數ナル財閥ノ手ニ歸シアリ。
此等 財閥ト相結ビタル政党ハ、其ノ政党政治ノ腐敗堕落ノ極致ニ達シタリ。
機構ノ欠陥ニアラズシテ、
國家ノ中心ヲナスベキ元老、重臣、政治家、官僚等
私私利欲ノタメ財閥ト相結ビテ惡事ヲナシアル今日、
機構ノ問題モアルモ、主トシテ人的要素ニ於テ改革ヲ要スルモノ多ク、
之ニテ諸外國ノ重壓下ニ國家ヲ維持スル事ハ困難ヲ來スベキナリ。
即ち、非常時ニ処スルニハ、政治ノ腐敗堕落、國民ノ堕落ノ反省、
活力ヲ得ンニハ、經濟機構ノ改善ヲ必要トスルモノト感ズ。
資本主義ヲ根本的ニ打倒スルモノニアラズ。
亦、承認スルモノニアラズ、即チ、資本主義ニ或種ノ改善ヲ行フ。
私有財産ノ過度制ヲ設ケ、三百萬圓以上ハ國有ニ歸ス事ト爲スカ、
亦、時ニ應ジ額ヲ制定スベキト考ヘルナリ。
他ハ經濟機構ノ改革ニ依リ肅正改革セラルモノト信ズ。
最近ノ仕事ニ就イテ申述ベヨ
五 ・一五事件以後ハ政治、思想等ノ運動ニ専心從事セズ、
時ニ應ジ政治外交問題ニ關係セシノミニテ、主トシテ信仰ニ力ヲ傾注シテ今日迄來マシタ。
昨年秋頃ヨリ支那ニ渡ル考ヘデ、今般ノ事件ノ如キハ何等關心ヲ有セズ、
今年三月中旬ニ出發ノ豫定ニテ、準備中デアリマシタ。
今般ノ事件ヲ起サシメルニ至ッタ原因ハ何カ
今般ノ事件ヲ起シ、國家ヲ改造スルト云フ事ハ歴史ノ必然性ト思ヒマス。
誰ガ惡イト申ス事ハ出來マセン。
國家、國民ノ全部ヲ通シテ、現狀ヲ打破シ、昭和維新ヲ行フト云フ事ハ 常識的ニナッテ居リマス。
人的要素ガ惡い、機構ガ惡イト云フ事ナク、全部ガ改善セラルベキ運命ニアルト思ヒマス。
資本主義經濟機構デアリマスガ、イヅレ其ノ中ニ内部的ニ崩壊シ、改革セラルベキ時機ガ到來スルト思ヒマス。
其時ガ眞ニ改造ノ時機デアリ、改造ハ軍部ニテノミ行フモノニアラズ、
又、無理ヲ爲スベキモノニアラズ。
事件ノ原因ハ總テノ内ニアルト思フ。
＜ 欠 ＞
事件ニ際シ 陸軍大臣 及 各軍事參議官等ガ蹶起セシ行動を承認シタルコトハ、
吾々ノ如キ中野ノ電話ニテ聯絡ヲ爲シタルコトト比較スルトキ、問題ニナラズ。
彼等コソ反亂軍ニ支援セル大權干犯者ニテ、罪斷ジテ許ス可カラズト確信致シマス。

午後二時 北ノ審理陳述終了シ、西田ノ補充審理ヲ若干爲シ、
龜川哲也ノ身分調ノ後、事實審理ニ入ル
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次頁 反駁・北一輝、西田税 昭和11年10月15、19日の公判 に続く