あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

「ブッタ斬るゾ !!」

2019年03月15日 09時10分15秒 | 首脳部 ・ 陸軍大臣官邸

   
磯部淺一         片倉衷少佐
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「 ブッタ斬るゾ !!」
 
九時頃、陸軍省の片倉少佐がもう一人の将校と車で入ってきた。
その頃 応接室での会談がおわり、 両大尉はどこかに行き、
玄関に眞崎大将がいつきたのか一人ポツンと立っていた。
そして左前方に磯部主計が考えごとでもしているのか行きつ戻りつしていた。
やがて片倉少佐が車から降りて二、三歩あるき出した時、
磯部主計は やにわに両足を大きく開き拳銃を構えたと見るや、同少佐目がけて発射した。
その距離約十三米、銃弾は少佐の右コメカミをえぐり後方へ飛んだ。
少佐は一瞬体をフラつかせながら手のヒラで傷口を抑えたが腕に沿って鮮血が流れ出た。
少佐はよろける体勢で同行した将校に支えられながら磯部主計に向って
「殺すなら殺してみろーッ・・・・・・」
と押殺したような低い声でにらみつけながら車内に収容された。
その時 眞崎大将がすかさず
「同志撃ちは止めーいッ、同志撃ちは止めーいッ」
と二度繰返して磯部主計を制した。
すると主計は拳銃を投げ捨て、その場で軍刀に手をかけた。
そして
「 ブッタ斬るゾ !!」
と叫び、物すごい見幕で身構えた。
この間危険を察知した同行の大尉は、
片倉少佐を車中に押込めるようにかくまい、逃げるように正門からでていった。
磯部主計の拳銃発射から車が退散するまでの時間はものの一分もなかった。
二・二六事件と郷土兵
歩兵第一聯隊第十一中隊 軍曹・横川元次郎
「蹶起将校の身辺護衛」 から 


陸相官邸表門 ニ 
村中、磯部、竹嶌、丹生、山本 頑張ツテ特定人員ノ來着ヲ待ツ。
歩哨線前ニマントヲ著シ、ユーユーカツ歩シ來ル一將校アリ。
予、手ヲ上ゲテ歩哨線ニ止メシム。
彼ノ將校又手ヲ上ク、予近ヅキテ誰何ス。
「ドナタカ」
マントノ將校曰ク 「石原大佐」
予思フ、ウン、コレガ石原大佐カ、見當リ次第殺害スベキ人。
大佐曰ク 「コノママデハミツトモナイ、君等ノ云フ事ヲキク」
大佐來タ原隊ヨリノ補給モ大臣告示モ知ラザルカ。
然モ大佐ハ陸軍部内第一ノ智ノ一大戰略家ナリ。
法華經ノ信仰極メテ深シ。
予考フ、コノ人ヲ殺スベカラス
君等ノ云フ事ヲキク。
ヨシ、コノ人モ亦味方トセン。
陸相官邸ニ案内ス。
表門ニ來ル途中、竹嶌中尉、石原大佐ヲ見テ、嚴肅ナル敬礼ヲナス。
大佐ハ満州事變ノトキ、中佐參謀トシテ大ナル活動ヲナセシ人ナリ。
竹嶌中尉亦從軍シ、ヨク知レリ。
二人シテ邸内ニ案内ス。
村中、磯部、香田ト會ス。
大佐曰ク 「マケタ」
大佐亦國家革新主張ノ大重鎭ナリ、大先覺ナリ。但シ我等ト其信念ノ異レルアリ。
大佐玄關ノ白雪ノ鮮血ヲ見 驚イテ問フ。
「誰ヲヤツタンダ、誰ヲヤツタンダ」
山本曰ク 「片倉少佐」
驚キ黙然タリ。

コレヨリ先
大臣告示下達ノタメ、我等屋内ニアリシトキ、
十数名ノ將校一斷トナリテ邸内ニ入リ 入口ニテ [ 削除・強弁ス ] 問答ス。
片倉少佐強辯ス。
磯部曰ク
「 何。コノ國賊、國體ノ危機ガワカランカ 」
尚ホモ問答セントス。
磯部大カツ一聲 「 コノ國賊職業軍人 」
轟然一發
片倉少佐ノ頭上ヨリ鮮血ホトバシル。
少佐 頭ヲオサエツツ 「 ワカッタワカッタ 」
磯部更に抜刀、天誅、一太刀、アビセントス。
村中之ヲ制ス。
出血オビタダシク、爲に玄關ノ白雪點々眞紅ナリ。
倉、一將校ニ助ケラレ、倉皇 トシテ去ル。
コノ一團ニ、一主計少將、磯部ノ前ニ顔ヲツキ出シ、
君等ノ眞劍、我等ハコーシテ居テハ相スマヌ。
ヨクコノ顔ヲオボエテ居テ呉レ。
コノ將校ノ一團、磯部ノ大カツ怒聲「 國賊職業軍人奴輩 」
續ク轟然一發ニヘキエキ且ザンゲ、ジクジタルモノアリ。早々ニ退去ス。
跡白雪點々鮮血ニ染ミ轉タ 凄愴 タリ。
五尺七寸九貫ノ堂々タル磯部、玄關ニ立チハダカリ秋水一振
「 馬鹿野郎 」
磯部ハ前年否十年前ヨリ、オレ一人デヤルト云ヒ居タリ。
決心 牢乎 タリ。
傍ニ在リシ 香田、村中、山本、各秋水ニ手ヲカケ居タリシカ、
コノ一團早々ノ退去ノ後、相互ニカヘリ見、満眼ノ眼光、立去ル彼等ノ後ヲ追フ。
眞一文字ノ口、決意更ニ牢乎タリ。


二・二六事件 蹶起将校 最後の手記

山本 又 著 から 


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