北一輝
前頁 北一輝 (警聴取3) 『 大御心が改造を必要なしと御認めになれば、 百年の年月を持っても理想を実現することが出来ません 』 の 続き
聴取書 ( 第四回 )
住居 東京市中野區桃園町四十番地
無職 北一輝 事 北輝次郎
当五十四歳
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二 ・二六事件
前回カラ續イテ申上ゲマス。
一、今回ノ事件ニ關スル打合セ内容及役割、分担等ハ
今回ノ事件以前ニ於テ西田、村中カラ前申上ゲマシタ様ナ報告ヲ受ケマシタ。
村中カラ只一回私共 ( 村中等 ) ハ愈々蹶起致シマス、
ト云フ一言ヲ聞イタダケデアリマスケレ共、西田カラハ數回ニ亙ツテ報告ヲ受ケテ居リマス。
其ノ内容ハ村中、磯部、栗原、山口、安藤等ノ青年將校ガ蹶起スルト云フ事、
又斯ク急ニ蹶起スル理由ハ、
第一師團ガ満洲ニ派遣サレル事ニナツタノデ、
此儘満洲ニ行ツテ仕舞ヘバ國内ノ事ガ如何共スル事ガ出來ナイ、
故ニ青年將校等ハ只 捨石ニナル積リデ決行スルノダト云フ事。
目標人物ハ
西園寺、牧野、齋藤、岡田
高橋、渡邊、鈴木等ガ青年將校ノ間デ決定シ、尚
池田成彬、伊澤多喜男、
後藤文夫、三井、三菱ノ主人
等ガ考慮中デ、
山口大尉ノ週番中ニヤルト云フ事。
山口大尉ハ週番トシテ後ニ殘ツテ色々ノ聯絡ヲ執ル事。
他ノ人々ハ何レモ行動隊トシテ出動スルト云フ事。
決行ノ前日頃豊橋部隊ノ都合惡クテ、西園寺ハ中止シタト云フ事。
千五百圓ダケ龜川カラ都合シテ貰ツタ、
如何ニ金ノイラン仕事ダト云ツテモ少シハイリマスカラト西田ガ申シタ事。
時局ノ収拾ハ眞崎内閣ニシテ柳川陸相ト云フ考ヘデ居ルト云フ事 等ガ報告ノ主要デアリマシタ。
之ニ對シテ私ハ、誠ニ咄嗟ノ取極メデアリ
又 満洲派遣ト云フ特殊ノ事情カラ起ル事デアル事ガ判リマシタノデ、
前年末 數回ニ亙ツテ止メタリシタ事ノアル事情トハ違ヒマスノデ、
之ハ人力如何トモスル事ハ出來ナイト考ヘ 青年將校ノ目的達成ヲ祈ツテ居リマシタ。
別ニ助言ト云フ程ノ事ハアリマセンガ、
萬已ムヲ得ナイト、諸君 ( 西田及青年將校ヲ指ス ) 等ガ考ヘル人物以外
總テ多クノ人ヲ殺サナイト云フ事ヲ方針トシテヤリナサイ、ト申シタ事ガアリマス。
眞崎内閣ト云フ事ニ對シテ、私ハ矢張リ眞崎、荒木ノ一體ニナツテ行クノガ良イデハナイカト申シマシタガ、
西田ハ用ヒル風ガアリマセンデシタ。
西田ハ眞崎内閣ヲ以テ自ラ時局収拾ヲヤツテ行キ得ル確信ヲ持ツテ居ル様ニ私ニハ見エマシタ。
從ツテ事件ノ役割ト申シマスナラ
行動隊ハ青年將校
所謂建設ハ山口大尉、龜川、西田
等デアラウト思ヒマシタ。
又 資金ハ龜川カラ千五百圓出タト云フ事デスガ、龜川ガ何処カラ都合シタカハ私ニハ判リマセン。
処ガ二十六日ノ午後西田ガ見エマシテ、
青年將校一同ガ軍事參議官ニ對シ、臺灣ノ柳川内閣説ヲ持チ出シタト云フ事ヲ聞キマシテ、
西田カラ前日迄聞イテ居ル、眞崎内閣ニ由ル時局収拾方針トモ違ツテ居ルシ、
且ツ 柳川デハ遠イ臺灣デアル爲ニ事變ヲ長引カセ、
又地方ニ動亂ヲ波及セシムル虞レアリト云フ事ヲ私一人デ非常ニ心配致シマシテ、
二十七日ニナリ、私ハ自發的ニ電話ヲ以テ、栗原又ハ村中ヲ呼出シ、
眞崎説に一致して一任する事を極力勧告致シマシタ。
又 薩摩ニ頼ンデ、加藤寛治、小笠原長生氏等ノ人力デ
海軍側カラ青年將校ノ眞崎説ニ意見一致シタ事ヲ基トシテ
眞崎内閣ノ出現ヲ以テ當面ノ時局ヲ収拾セラルル様働イテ貰ツタノデアリマス。
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一、交友關係
西田税トハ
大正十一年頃ガ初メテノ面識デシテ
同十四年西田ガ軍隊ヲ退イテ東京ヘ歸テカラ始メ師弟ノ様關係デアリマシタガ
同十五年、「 日本改造法案大綱 」 ヲ西田ニ与ヘテ、西田ノ自由ニ一任スル事ニ致シマシテカラ、
最モ深イ關係トナリ、爾來十年程ノ間ハ生活費等モ私カラ出テ居ルノガ大部分ト思ヒマス。
西田ハ 「 改造法案 」 ヲ以テ主トシテ軍部方面其他ニ啓蒙運動ヲ爲シ、
私ハ西田カラ報告ヲ受ケ、又ハ西田ニ紹介サレテ時々色々ナ人ニ會ツテ居リマシタ。
其後所謂五 ・一五事件デ西田ガ一命ヲ拾ヒマシテカラハ、
兩者ノ間全ク親子ノ様ナ心持デ居ツタノデアリマス。
村中孝次元大尉トハ
五 ・一五事件デ西田ガ撃タレタノデ
順天堂病院ニ入院中私ハ絶エズ病院デ西田ノ看護其他ヲシテ居リマシタノデ、
其時同人ガ見舞ニ來テ初メテ面識シマシタ。
其後今日ニ至ル迄多ク西田ニ伴ハレテ十回位 來訪ヲ受ケテ居リマス。
磯部浅一元一等主計トハ
二、三年前カト思ヒマスガ、西田ニ伴ハレテ來訪シタノガ初メで、
其后今日迄 四、五回位會ツタダケダト思ヒマス。
澁川善助元士官候補生トハ
同人ガ士官學校デ退學サレタ後デアリマスカラ何年カ記憶アリマセンガ、
西田ニ伴ラレテ參リマシタノガ初メデ、其後何年か會ヒマセンデシタガ、
五 ・一五事件當時順天堂病院デ會ヒ、更ニ暫ク參リマセンデ、
最近ノ相澤事件公判ヲ直接傍聴シタト云フノデ村中ト二人デ一回來タ丈デアリマス。
山口一太郎大尉トハ
同人ト五 ・一五事件ノ際病院デ知合ヒマシタノガ初メデ、
後チ同ジ大久保百人町ニ住ンデ居リマシタノデ時々來遊シマシタガ、
昨年十月私ガ中野ニ轉住シマシタノデ遠クナツタノデ會ヒニ參リマセン。
但シ年始ニ澁川ト二人デ來テ酒ヲ飲ンデ歸ツタ事ガアリマス。
安藤輝三大尉トハ
矢張リ五 ・一五事件當時病院デ知リマシテ其後、
今日迄西田ト共ニ、二、三回來訪シタ程度デアリマス。
栗原安秀中尉トハ
五 ・一五事件当日、西田宅に私が駈付ケマシタ時、
同人ガ來マシタノデ知リ、病院又ハ私宅デ度々會ヒマシタ。
非常ニ急進無謀ノ事ヲ考ヘル男デスカラ、私カラ特ニ注意シタ事ガ記憶ニ殘ツテ居リマス。
香田清貞大尉トハ
五 ・一五事件以後ト思ヒマスガ、西田ト同道シテ、二、三回來訪シマシタ。
菅波三郎大尉トハ
同人ガ士官學校在學中、單獨デ訪ネテ參リマシタノガ初メデ、
其時數時間、思想問題其他ヲ話シマシタ。
其後同人ハ遠方ニ任官赴任シマシタノデ、何年カ會ヒマセンデシタガ、
五 ・一五事件ノ時、東京ニ居リマシテ矢張リ西田ノ入院シテ居タ病院デ會ヒマシタ。
同人ハ五 ・一五事件ノ關係カラ満洲ヘ轉任サレマシタノデ、
又會フ機會ガ無クナリマシタ。
大岸頼好大尉トハ
同人モ西田ノ紹介デスガ何時初メテ會ツタカ記憶シマセンガ、
昭和四、五年頃子供ガ仙台ノ知人ノ所ニ海水浴ニ行ツテ居リマシテ、
當時仙台ニ居ツタ大岸ノ所へ遊ビニ聯レラレテ行ツタ事ナドガアリマシテ、
大岸ガ上京ノ時ニ、二、三度來訪シマシタ。
其後一向會フ機會ガアリマセンデシタ。
大蔵榮一大尉ハ
同ジ五 ・一五事件當時西田ノ病院デ知ツタノガ初メテデアリ、
其後五、六回位ハ來遊シテ居リマス。
中野ニ移リマシテカラモ朝鮮ニ轉任スルト挨拶ニ參リマシタ。
末松太平大尉ハ
確カ五、六年前、西田同道デ一、二回會ツテ居ルト思ヒマスガ判然トシタ記憶ガアリマセン。
青年將校ト云フ方達ノ知合ハ之レ位デ、會談シタ話ノ内容ハ私ノ性質トシテ理論メイタ事ヤ、
議論ヲ上下スルト云フ様ナ事ハ非常ニ嫌ヒナノデ愉快ニ多ク漫談シテ別レル程度デ
若シ改造案ニ對シテ質問ナドノ出ル場合ニハ、ソンナ面倒ナ話ハ西田君ト諸君デ研究シテ呉レ
ト云フ位ニシテ多ク話題ヲ他ニ轉ジタノデアリマシタ。
只其時ニ私ガ關心ヲ持ツテ居ル對外策ナドニ就テ話ノアツタ場合ハ私モ相當所見ヲ述ベタ事ハアリマス。
薩摩雄次ハ
十數年前、確カ大川周明君ノ紹介デ面識シ、
其後、昭和四年ロンドン條約ノ騒ギ當時カラ今日迄全ク私ト一緒ニ行動シテ居リマス。
多ク各方面ノ情報ナドヲ私ニシラシテ呉レタリ、又家庭的ニ親戚ノ子供達ヲ入學トカ保證トカ訓戒トカ、
又ハ私自身ノ世話事ヲシテ呉レタリスル關係デアリマス。
非常ニ礼儀正シイ人デ 從テ海軍ナドノ上層ノ人ナドニモ非常ナ信用ヲ受ケテ居リマシテ、
政界其他ノ情報ナドニ就テモ私ハ確實詳細デアル事ヲ永年ニ亙リテ知リマシテ、
同志ト存ジテ居リマス。
夫レデ同人ノ生活費ハ昭和四年頃カラ私ノ有無ニ從ヒマシテ、西田ト同額位ニ給附シテ居リマシタ。
福井幸ハ
大正十五年中ニ、二、三月私方ニ寄食シテ居リ、其後消息ガアリマセンデシタガ、
支那ノ南京近クノ師範學校ノ教師ヲシテ居リマシテ、數年間時々文書デ消息ガアリマシタ。
三、四年前突然何ノ知ラセモナシニ歸ツテ參リマシタノデ、
生活ノ出來ナイ人デアリマスカラ、私ガ生活費丈ケトシテ月々五、七十円程度ノモノヲ給付シテ居リマシタ。
一昨年末、私資金ニ困リマシタノデ毎月ヤル譯ニハ行カン事ガアリマシテ、
入金ノ時ニ昨年中、百圓ヲ二度程与ヘタ事ガアリマス。
同人ハ非常ニ一徹ナ男デ少シデモ餘分ノ金ヲヤリマスト、本人ノ身ヲ誤ル事ヲ仕出カシハシナイカト
云フ懸念ガ絶ヘズ私ニアリマシタノデ、小金ヲ渡ス時デモ一々、之ハ生活費デアリマスヨ、
ト云フ事ヲ念ヲ推シタ位デアリマス。
今年ニナツテカラハ二月ノ二十日前後頃洋服ノ質受ケト二月分ノ家賃トシテ金五十五圓ヲヤリマシタ。
赤澤良一ハ
大正十五年頃辰川静夫ノ家カラ私方ノ玄關番ニ來マシテ、三、四ヶ月居リマシタ。
其後私ハ餘リ面倒ハ見マセンデシタガ、岩田富美夫方ノ世話ニナツテ居ル事ヲ承知して居リマシタ。
昨年夏私ガ淀橋區百人町ノ前住居ヲ出マシテ、岩田方ニ暫時居リマシタ時、赤澤ハ私ノ身ノ廻リノ用件ヲシテ呉レマシテ、
同年十月今ノ中野ニ移リマシタ時十一月迄二ヶ月間私方ニ住居シマシテ、新宅ノ色々ナ雑用ヲシテ呉レマシタ。
之レニハ小使ヒトシテ時折五圓、十圓、二十圓程度ノモノヲヤツタ丈デアリマス。
杉田省吾ハ
五 ・一五事件ノ西田ニ輸血ヲシタリナドノ事ガアツテ、西田退院後モニ、三回見エマシタガ、
其後一嚮見エマセンノデ、今回西田ガ私方ニ居ル様ニナリマシテカラ、
西田ニ用デモアツタラシク、二月ノ二十七日カ八日カ記憶シマセンガ、
私ノ部屋ニ這入リマシテ挨拶シタ丈ケデ直グ出テ行ツタノデアリマシタ。
龜川哲也ハ
西田カラ名前ハ良ク聞カサレテ居リマシテ、
最近相澤公判ニ就テ鵜澤博士ニ頼ンダノモ同人ノ關係デアル事ヲ聞イテ居リマスガ、
會ヒマシタノハ、二月ノ二十七日夜、村中大尉ガ來訪シマシタ時、
西田ト共ニ別室ニアツタ同人モ出テ來マシテ其序デ初メテ會ツタノデアリマシタ。
大森一声ハ
何時頃カヨク記憶シテ居リマセンガ、誰カノ紹介デ一、二回會ツタ記憶ガアリマス。
加藤春海ハ
五 ・一五事件以後西田ノ紹介デ會ヒマシテ今回迄三、四回位ノモノデアリマス。
今年ハ年始ニ參リマシタ。
岩田富美夫ハ
大正八年私ガ上海ニ居リマス當時同人モ上海ニ來テ居リマシテ初メテ面識シ、
其後猶存社ノ干係ニモ岩田ガ居リマシタシ、殆ンド師弟ノ關係デ今日迄永ク續イタ交リデアリマス。
殊ニ金錢關係デモ融通シ合フ親シイ間柄デアリマス。
増田一税ハ
昭和四年ノロンドン條約當時カラ知合ニナリマシタガ、其後國體擁護聯合會ガ出來テカラ
薩摩 ( 増田 ? ) モ同會ノ幹部ニナツテ居リマスノデ、改メテ私方ニ來ル用事モ少ナクナリ、
年ニ、二、三回ノ程度デアリマス。
入江種矩ハ
昨年ノ夏、實川時治郎方ニ於テ會ヒマシタノガ初メデ、今回事變ガ起キマシテ、
二月ノ二十七日午前中、増田ト二人デ來訪サレタ丈ケデアリマス。
此二人ハ多く薩摩ノ關係トナツテ居リマス。
實川時治郎ハ
昭和四年ロンドン條約當時カラ面識シテ
非常ニ話ノ面白イ人デ時々二人デ一杯飲ミニ行クト云フ間柄デアリマス。
中野正剛ハ
十數年前カラノ知合デ田中内閣ヲ倒ス時ナドハ行動ヲ共ニシタ事モアリマスシ、
浜口内閣ヲ攻撃スル時デモ敵味方ハ別トシテ、心良ク交ツテ居リマシタ。
數年前カラ同君ハ不幸續キニナリマシタノデ、夫レ以後、前ノ様ナ政治的ノミデハナク、
深イ交際ニナリマシタ。
數年前迄ハ數千圓宛何回モ給付ヲ受ケタ事ガアリマス。
永井柳太郎ハ
大正五年、支那問題カラノ關係デアリマス。
往來シテ永イ交際ヲ續ケテ居リマス。
同氏ガ大臣ヲシテ居ル當時ハ盆、暮ニハ壱千圓宛届ケテ呉レマシタ。
一昨年返ス約束デ、弐千圓借リマシタガ、未ダ其儘トナツテ居リマス。
久原房之助ハ
昭和六年ニ三土忠造ノ紹介デ會ヒマシタガ初メデ、其年ナドハ時折リ會ヒマシタガ、
用事モナクナリマシタノデ自然遠ザカリマシタ。
昨年春國體明徴問題デ鈴木ト久原ト不和デ面白クナイト思ヒマシテ、兩者ニニ、三回訪問シマシタ。
昭和六、七年秋頃ハ盆、暮ニ千圓宛届ケテ呉レタリ、使ヒヲ私カラヤツタリシテ貰ツテ居リマシタ。
昨年九月、私非常ニ困リマシタノデ同人ニ電話で ( 岩田方ニ居ツタ際 ) 頼ミマシタ処、
確カ五百圓呉レマシタ。
夫レ以來、金ノ關係ハアリマセン。
其他ハホンノ私的ノ交際デ之レヲ申上ゲル様ナノハアリマセン。
右録取シ本人ニ讀ミ聞ケタルニ相違無之旨申立テ署名拇印セシム
昭和十一年三月二十日
於警視庁
陳述人 北輝次郎
司法警察官特別高等警察部特別高等課勤務
警部補 関口照里
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聴取書 ( 第五回 )
住居 東京市中野区桃園町四十番地
無職 北一輝 事 北輝次郎
当五十四歳
右者昭和十一年三月十八日本職ニ對シ任意左の陳述ヲ爲シタリ
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前回ニ引續キ申上ゲマス。
一、交友關係中申述ベマセンデシタガ
島野三郎ハ
大正九年大川周明君ノ紹介カラ非常ニ親シク交ツテ居リマシテ同人ハロシヤ研究ノ權威デアリマス。
其點デ常ニ私ハ有益ナ材料知識ヲ与ヘラレテ居リマス。
大澤隼ハ
満州事變後、島野ニ伴ハレテ來訪シマシタノガ初メデ、
同人ハロシヤニ對シテ實際的行動ヲ爲シテ居リ、
人物ト申シ 仕事と申シ、私ハ非常ニ尊敬期待シテ居リマス。
勿論兩人トモ西田ト深ク交ハリマシテ、
對ロシヤ活動ノ資金ヲ陸軍ノ機密費カラ幾分補助サレル様ニナツタト云フ事ヲ前年西田カラ聞キマシタ。
金錢關係ハ一昨年私ガ非常ニ困リマシタ時ニ西田ガ同人ニ頼ンデヤツタト云フ事デ金千圓持ツテ來マシテ、
大澤君カラデアルト申シマシタノデ、私ガ五百取リ、西田ニ三百、薩摩ニ二百圓分ケル様ニ致シマシタ。
又昨年九月西田ガ満洲カラ金ガ來タカラト申シテ私ニ六百圓都合シテ呉レマシタ時、
私ハ之モ同人カラト思ツテ居リマシタ。
其時ハ西田ハ何程來タト云フ事ハ話シマセンデシタ。
其後同人モ上京シマセズ、又西田ニ金ノ來タト云フ様ナ話ハ一嚮西田カラ聞キマセンノデ
勿論西田ニ金ノ來テ居ラヌコトト信ジテ居リマス。
尚軍ノ上層部ノ人々ニ如何ニモ私ガ知合ガアル様ニ思ハレテ居ル様デスガ
荒木貞夫大將ニハ
同人ガ憲兵司令官ノ時只一度會ツタ丈ケデアリマス。
本庄繁武官長ハ
同人ガ上海在武官デアツタ時少佐デアリマシテ、支那第一革命ノ時デアリマスカラ、
當時ハ親交ガアリマシタ。
武官長ニナリマシタ時、二十年目デ御祝ノ手紙ヲ上ゲマシタノデ返事ヲ貰ツタ丈ケデ會ヒマセン。
眞崎甚三郎大將ハ
未ダ一回モ會ツタ事ハアリマセン。
岩佐禄朗憲兵司令官ハ
大正九年私ガ日本ニ歸リマシタ時少佐デアリマシテ、
私ヲ警戒スル任ニ當ツテ居リマシタノデ、其時知リ合ヒマシタノガ初メデ、
後ロンドン條約ノ時、同氏ガ東京憲兵隊長デアリマシタノデ、用事ノ爲ニ 二、三度會ヒマシタ。
夫レ以來未ダ會ハナイデ居リマス。
建川美次中將ハ
所謂十月事件ノ最中、少シ不謹愼ト思ハレル事ガ私ノ耳ニ入リマシタノデ、
參謀本部ニ同志ヲ訪問シテ多少苦言ヲ呈シタ事ガアリマス。
前後夫レ丈ケデ後ハ會ツテ居リマセン。
石原莞爾大佐、
満井佐吉中佐ハ
石原氏トハ中野正剛氏ガ非常ニ親交ガアルノデ、
最近會フ事ニナツテ居マシタガ、未ダ一度モ會ツテ居リマセン。
満井中佐ハ
相澤公判ニ依テ 度々西田ガ會ツテ居ルノデ其内私モ會ヒ度イト思ツテ居リマシタガ、
之亦未ダ一度モ會ツテ居リマセン。
橋本欣五郎大佐トハ
所謂十月事件ノ時偕行社デ一時間程會ヒマシタガ、
之ガ前後トモ只一回デアリマス。
其他改造問題其他デ良ク話題ニ上ル
小磯國昭、柳川平助、山岡重厚、小畑敏四郎 等ノ各將軍トハ何レモ未ダ一回モ會ツタ事ガアリマセン。
一、何時モ目標トナル君側ノ奸トハ
君側ノ奸ト云ヒマスノハ ロンドン條約ノ騒ギノ時ニ始ツタ通用語デアリマシテ、
常ニ君側ニ在ツテ聖明ヲ蔽ヒ奉リ 政權ヲ其ノ徒党ノ好ム処ニ私スルト云フ意味デアリマシテ
常識化サレタ通用語トナツテ居マス。
私ハ 牧野、齋藤 丈ケハ君側ニ置クノハヨロシクナイト思ツテ居マス。
一、終リニ私ノ心境ハ
私ハ如何ナル國内ノ改造計畫デモ
國際間ヲ靜穏ノ狀態ニ置ク事ヲ基本ト考ヘテ居リマスノデ、
陸軍ノ對露方針ガ昨年ノ前期ノ如ク ロシヤ ト結ンデ北支ニ殺到スル如キ事ハ
國策ヲ根本カラ覆スモノト考へ、
寧ロ支那ト手ヲ握ツテ ロシヤ ニ當ルベキモノト考へ、
即チ 陸軍ノ後半期ノ方針變更ニハ聊いささカ微力ヲ盡クシタ積リデアリマス。
昨年七月 「 對支投資ニ於ケル日米財團ノ提唱 」 ト云フ建白書ハ
自分トシテハ日支ノ同盟ノ提唱ニ米國ノ財力ヲ加ヘテ
日支 及日米間ヲ絶對平和ニ置ク事ヲ目的トシタモノデ、
一面支那ニ於テハ私ノ二十年來ノ盟友張群氏ノ如キガ外交部長ノ地位ニ就イタノデ、
自分ハ此ノ三月ニハ久振リニ支那ヘ渡ラウト準備ヲシテ居タノデアリマス。
實川時治郎、中野正剛氏等ガ支那ニ行キマシタ機會ニ
單ナル紹介以上ニ突キ進ンダ話合ヲシテ來ル様取計ヒマシタノモ、其爲メデアリマスシ、
昨年秋、重光外務次官ト私トモ長時間協議致シマシタシ、
又 廣田外相ト永井柳太郎君トノ間ニモ私ノ渡支ノ時機ニ就イテ相談モアリマシタ位デアリマス。
年末年始トナリ、次デ總選擧ナドガアリマシタノデ此三月ト云フ事ヲ豫定シテ居リマシタ。
私ハ戰敗カラ起ル革命ト云フ様ナ事ハ ロシヤ、獨逸ノ如キ前例ヲ見テ居リマスノデ、
何ヨリモ前ニ、日米間、日支間ヲ調整シテ置ク事ガ最急務ト考ヘマシテ、
西田ヤ青年將校等ニ關係ナク、私獨自ノ行動ヲ執ツテ居ツタ次第デアリマス。
幸カ不幸カ二月二十日頃カラ青年將校ガ蹶起スル事ヲ西田カラ聞キマシテ、
私ノ内心持ツテ居ル、先ヅ國際間ノ調整ヨリ始ムベシト云フ方針トハ全然相違モシテ居リマスシ、
且ツ 何人ガ見テモ時機デナイ事ガ判リマスシ、
私一人心中デ以外ノ返事ニ遭遇シタト云フ様ナ感ジヲ持ツテ居リマシタ。
然シ満洲派遣ト云フ特殊ノ事情カラ突發スルモノデアル以上、
私ノ微力ハ勿論、何人モ人力ヲ以テシテ押エ得ル勢ヒデナイト考ヘ、
西田ノ報告ニ對シテ承認ヲ与ヘマシタノハ私ノ重大ナ責任ト存ジテ居リマス。
殊ニ五 ・一五事件以前カラ其以後何回トナク勃發シ様トスルヤウナ場合ノ時
常ニ私ガ中止勧告ヲシテ來タノニ拘ラズ、今回ニ至ツテ人力致シ方ナシトシテ承認を与ヘマシタノハ、
愈々責任ノ重大ナル事ヲ感ズル次第デアリマス。
從ツテ私ハ此事ニ依ツテ
改造法案ノ實現ガ直ニ可能ノモノデアルト云フガ如キ安価ナ楽観ナドハ持ツテ居マセン事ハ勿論デシタ。
只行動スル青年將校等ノ攻撃目標丈ケガ不成功ニ終ラナケレバ幸デアルト云フ點丈ケヲ考ヘテ居リマシタ。
之ハ理屈デハナク私ノ人情當然ノ事デアリマス。
即チ 二十七日ニナリマシテ、私ガ直接青年將校ニ電話シテ、
眞崎ニ一任セヨト云フ事ヲ勧告シマシタノモ、只時局ノ擴大ヲ防止シタイト云フ意味ノ外ニ、
青年將校ノ上ヲ心配スル事ガ主タル目的デ
眞崎ナラバ青年將校ヲムザムザト犠牲ニスル様ナ事モアルマイト考ヘタカラデアリマス。
此點ハ、山口、龜川、西田等ガ眞崎内閣説ヲ考ヘタト云フノト動機モ目的モ全然違ツテ居ルト存ジマス。
私ハ眞崎内閣デアラウト、柳川内閣デアラウト
其ノ内閣ニ依ツテ私ノ國家改造案ノ根本原則ガ實現サレルデアラウナドト夢想ヲシテハ居リマセン。
私ハ其人々等ノ軍人トシテノ価値ハ尊敬シテ居リマスガ、
改造意見ニ就テ私同様又ハ夫レニ近イ經綸ヲ持ツテ居ルト云フ事ヲ聞イタ事モアリマセンシ、
又 一昨年秋ノ有名ナ 「 パンフレット 」 ヲ見マシテモ、 ・・・「 国防の本義と其強化の提唱 」
私ノ改造意見ノ如キモノデアルカ何ウカ一嚮ニ察知出來マセンノデ、
私トシテハ其様ナ架空ナ期待ヲ持ツ道理モアリマセン。
要スルニ行動隊ノ青年將校ノ一部ニ改造法案ノ信奉者ガアリマシタトシテモ、
此事件ノ發生原因ハ相澤公判及満洲派遣ト云フ特殊ノ事情ガアリマシテ、
急激ニ國内改造 即チ、昭和維新斷行ト云フ事ニナツタノデアリマス。
今日私トシマシテハ事件ノ最初ガ突然ノ事デアリ、
二月二十八日以後ハ憲兵隊ニ拘束サレテ居リマシタノデ、
只希望トシテ待ツ所ハ
コウ云フ大キナ騒ギノ原因ノ一部ヲ爲シテ居ルト云フ私ノ國家改造案ガ、
更ニ眞面目ニ社會各方面ニ再檢討サレテ、
其實現ノ可能性及ビ容易性ガ認識セラレマスナラバ、
不幸中ノ至幸デアルト存ジテ居リマス。
即チ 如何ナル建築ニモ人柱ヲ要スルト聞キマスガ、
青年將校 及 無力ナル私共ガ人柱ニナル事ニ依テ
大帝國ノ建設ヲ見ルコトガ近キ將來ニ迫ツタノデハナイカ
等ト 獨リ色々ト考ヘテ居リマス。
以上何回カ申上ゲタ事ニヨツテ
私ノ關係シタ事
及ビ心持ハ全部申述ベタト思ヒマス。
右録取シ本人ニ讀ミ聞ケタルニ相違無之旨申立テ署名拇印セシム
昭和十一年三月二十一日
於警視庁
陳述人 北輝次郎
司法警察官特別高等警察部特別高等課勤務
警部補 関口照里
次頁 北一輝 (憲聴取) 『 西田は、同志と生死を共にしようと決心した 』 に 続く
現代史資料5 国家主義運動2 から
