北一輝
前頁 北一輝 (警聴取4) 『 柳川では遠い 』 の 続き
聴取書
本籍 東京市杉並区泉町番地不詳
出生地 新潟県佐渡郡両津町字湊六十一
現住所 東京市中野町桃園町四十番地
無職 北一輝事 北輝次郎
明治十六年四月三日生
右ハ昭和十一年三月二十七日警視庁ニ於テ本職ニ對シ左ノ陳述ヲ為シタリ
一、本籍、出生地、現住所、職業、氏名、生年月日ハ只今申述ベタ通リデアリマス。
一、位階級勲章、恩給年金ハアリマセヌ。
國家改造ノ目的及手段方法如何
私ノ國家改造ノ目的及手段方法ハ私ノ改造法案ニ在リマス通リデ御座イマスガ
以下其ノ趣旨ヲ申述ベマス。
改造法案起草ノ目的ハ日本ハ世界第二次大戰ヲ免ガルル事ガ出來マセヌカラ
大戰中國家ノ内部崩壊等ノ事ナカラシムル事ヲ目的トシテ
戰爭以前ニ於テ國内ヲ合理的ニ改造シ度イト考ヘタカラデアリマス。
私ハ改造ノ機會ハ當然來ルベキ財界ノ破綻ニ処シテ銀行ノ國家經營ト言フ事カラ出發スルト考ヘテ居リマシタ。
手段ニツイテハ總テ大御心ヲ中心トシテ書イテアリマス。
ソレハ國家非常ノ改革デアリマスカラ一切ノ法律道徳ノ根源デアル大御心ノ御決定如何ニヨラナケレバ
平和ニ些ノ動揺ナク萬民悉ク新シキ組織ニ服從スルト言フ事ハ望マレナイカラデアリマス。
從テ私ノ用ヒテイル言葉ニ超法律的ト申シテアリマスノハ凡テ聖天子ノ御活動ヲ現在ノ法律ヲ以テ律シナイデ
大御心其儘ノ現ハレデアリ度ヒト言フ希望カラ申シテアリマスノデ
如何ナル國民モ超法律的行動ト言フ事ハアリ得ルモノデハアリマセン。
戒嚴令ノ施行ニツキマシテハ同書起草ノ當時ハ世界的風潮トシテ日本ニ於テモ ウイルソン主義、
レーニン、トロッキー崇拝ガ思想界ノ全部を支配シテイル時デアリマシタカラ
私ノ改造法案ガ實行サレルトシマス時ニハ當然之等大多數ノ反抗ヲ豫想シマシタシ
又現在ノ如ク國體ノ再認識ガ上下ニ徹底シテ居ナイ時デアリマシタカラ
大御心ニ對シテ絶對服從デナイ行キ方ヲスル資本家等モアルデアロウト考ヘマシタノデ
其ノ用意トシテ禍亂ヲ未然ニ防グト言フ事ガ主タル目的トシテ書カレタノデアリマス。
一面社會大變革ノ時デアリマスカラ
放火掠奪りやくだつ鞏姦等ノ動物的罪惡ガ所在ニ行ハレルモノト言フ豫想モ考慮ノ中ニ居レテ置キマシタ。
總テ不安動亂ヲ起サシメナイデ大變革ヲ滑カニ完成スルト言フ方針ノ下ニ書イタモノデアリマス。
從テ自ラ禍亂ヲ起シテ戒嚴令ヲ餘儀ナクセシメルト言フ計畫ノ如キハ
所謂五月事件以來國體ノ本義ニ照シテ私ノ反對シテ來タ処デアリマス。
從テ今回ノ事件ニ付キマシテ尊皇討奸ト言フ青年將校ノ標識トシテ君側ノ奸ヲ拂フト言フ點ニ就テ
自ラ犠牲ニナツテ法律ノ責ヲ負ウト言フ事ハ私ノ心カラ尊敬シテ居る所デアリマス。
但シ蹶起ノ事情ニ就テハ私ハ二月二十八日夕刻カラ憲兵隊ニ拘束サレテ居リ
且ツ事前ニ關知シタル事ハ西田税一人カラデアリマスカラ
詳細ノ計畫ハ存ジマセヌガ此ノ蹶起カラ直ニ國家改造ノ斷行ガ出來ルモノトシテ計畫シテ居ツタノデハナイカト思ハレマス。
ソレハ二月二十日前後
西田カラ聞キマシタ所デハ突發ノ主タル原因ハ一師團ガ満洲へ派遣サレルノデ
自分等ナキ後ノ日本ハ再ビ君側ノ奸ガ勢力ヲ盛り返シテ從前以上ノ罪惡を働クデアロウカラ
自分等ハ捨石トナツテ所謂重臣ブロックヲ一掃スルノデアルト言ヒマシテ
他ニ之ヲ機會ニ直チニ國家改造ノ斷行ニ入ルト言フ様ナ事ハ一言モ私ニ申聞カセマセヌデシタカラデス。
國家改造ノ爲メ君側ノ奸ヲ暴力ヲ以テ除ク必要ガアル事ハ
「 北 」 ノ書イタ改造法案ヲ信奉シアル者
乃至 「 北 」 西田ノ指導ヲ受ケル者 即チ所謂同志ノ信念トナリアルヤ
私ハ青年將校トハ二三人ヲ外ニシテハ直接關係ガアリセヌカラ信念ノ如何ハ存ジマセンガ
私自身ノ判斷ヲ申アゲマスト
所謂金權ブロックニ對シテハ議會ハ何年ノ間只盲從ヲ事トシテ御覺ヘノ宜敷様ニト努メテ居ル丈ケデアリマスシ
又 輿論期間ハ株式會社ノ營利會社デアル點カラ重臣ブロックト言フ大權力ト言フ大權力者ニ對シテ
一言ノ批評ガマシキ事ヲシタ事モアリマセンシ
歴代ノ政府モ其ノ御蔭ヲ以テ政權ニアリツイテ居ルノデスカラ
重臣ブロックニ對シテハ只奴隷ノ如ク服從シテ來テイル丈デアリマス。
即チ法律ノ根本ヲ握ツテ居ルモノハ彼等デアリマスシ
合法的ト申セバ彼等ニ從フヨリ他ニ何物モアリマセン。
即チ一個大キナル不可抗力ノ存在デアリマス。
西田ガ青年將校ノ心持トシテ私ニ申聞カセマシタノニ
青年將校等ガ打破シナケレバ
日本ニハ此ノ勢力ヲ打破シ得ル勢力ハ何処ニモナイト私に申シマシタ。
私ハ冷靜公平ニ見テ
暴力云々デハナクシテ世ノ移り變ワリニオケルヒト智ノ計ルベカラザル勢力トシテ
重臣ブロックト言フ堅城ヲ打破シタル勢力ヲ出現シタモノト解釋シテ居リマス。
今事件ニ關シ西田ニ對スル観察如何
私ハ西田ガ事前ニ私ニ話シタ内容
又ハ其語気態度等ヲ見マシテ 西田は時機ニ非ズト考ヘ居ルト同時ニ
自分ノ意見ヲ兎ヤ角言フヨリモ同志ノ將校等ニ一切從ツテ行コウト言フ決心ノ様ニ見エマシタ。
初メ五 ・一五事件ノ起キル一ケ月半程前ニ私ハ或ル豫感デ
西田ガ危險ナ渦中ニ在ルト言フ事ヲ感ジマシテ
西田ヲ呼ビ 「 君ハ何ヲシテ居ルノカ知ラナイガ 今ヤツテイル事カラ身ヲ引イタラヨカロウ 」
ト堅ク戒メタ事ガアリマス。
夫レガ五 ・一五事件トナツテ現ワレタ時 他ノ反對威力ノ西田ヲ邪魔者ニ考ヘテイル
小サキ私心ト相俟ッテ西田ヲ狙撃シ何年間ニ亘ツテ西田ヲ裏切者宣傳ヲシタノデアリマス。
西田トシマシテハ私ノ手當ニヨツテイチ命ヲ助カツタト言フ深イ感謝ガ有ル、
一面ニ年少気鋭ノ性格カラ此ノ侮辱ニ堪ヘラレン風デアリマシタ。
今回ノ時モ既ニ私ガ西田ニ前回ノ如く圏外ニアル様ニト勧告シタ処デ
西田ハ其ノ勧告ニ從フ心持モ見ヘマセン、
今回コソハ同志ト共ニ生死ヲ共ﾆｼﾖｳﾄ堅イ決心ガ意外ニ認メラレテ居リマシタ。
從テ私ハ西田ニモ關係將校ニモ中止方ヲ勧告シマセンデシタ、
只遺憾ノ點ハ最近一、二年間ノ西田ハ私ノ指導下ニアル事ヲ満足シナイデ凡テ獨裁的デアリマシタ。
西田カラ見マスレバ私ハ二十年近クモ年上ノ老骨デアリマスシ
又日常生活ガ信仰バカリデアリマスカラアク意デハアリマセンガ
實際問題ヲ餘リ話シタ処デ益スル処ガナイト言フ様ニ考へて居ツタカモ知レマセヌ。
殊ニ私ノ對外的ニ力ヲ注イデ居ルノヲ見テ
ソレハ 「 北 」 ノ役ダ 一人勝手ニサシテ置クサ、
ト言フ風デアリマシタ。
今回ノ事件ニ於ケル西田ハ國家改造ニハ時期尚早ト言フ事ハハツキリ考ヘテ居リマシタ。
然シ東京ニ於ケル同志全部ガ立ツト言フ場合ニ於テ
西田ハ無条件的ニ參加シテ行ツタ事丈ハ私ヨク存ジテ居リマス、
特ニ西田ハ、陸軍出身デアリマスノデ軍人ニ同志ガ多イ。
西田ノ立場ハ或ル部門ニ於テ指導的デアリマシテ當然左様ニナツタ事ト存ジマス。
事件後 「 北 」 ノ事件ニ關係セシ事項如何
二月二十六日午後三、四時頃
西田ガ私宅ニ參リマシテ此処ニ居リタイト言フノデ 私モ喜ンデ置キマシタ、
其時西田ガ青年將校カラ受ケタ報告デアロウト思ヒマスガ、
首相官邸ニ居ル青年將校一同ニ對シテ軍事參議官全部ガ見エラレマシテ
非常ノ感動ヲ以テ言ハルゝニハ
「 我々軍事參議官一同モ諸君ト共ニ死ヲ賭シテ昭和維新ニ前進シヨウ 」
ト言ハレタノニ對シテ青年將校側ハ
臺灣ノ柳川閣下ヲ以テ次ノ内閣ノ首班ニ願ヒ度イト申シ出タノデ物別レノ様ニナツタト言フ話ヲ私ニ聞カセマシタ。
私ハ氣ノタツテイル最中ノ時 何トモ口外スル譯ニハ行キマセンデシタガ
其夜非常ニ獨リデ心配致シマシタ、
私ノ心配ハ只々出動シタ青年將校ノ身ノ上如何ニアリマシテ
柳川閣下、眞崎内閣等ニヨツテ私ノ改造意見ガ實行セラレル等ハ毛頭考ヘテ居リマセン、
只青年將校ヲ有利ニ庇護スルニハ如何ナル内閣ガヨイカ、
又青年將校ガ速ニ原隊ニ歸ルニ就テハ
如何ナル内閣ナラバ一切ヲ一任して歸ルデアロウト言フ事丈ヲ考ヘマシタ。
依ツテ翌朝色々考ヘタ結果即チ二十七日ノオ昼前ト思ヒマスガ
西田ニ依テ栗原カ村中 ( 二人共ニ話シマシタ ) ヲ電話口ニ出テ貰ヒマシテ次ノ様に申シマシタ。
「 君等ハ柳川内閣デナケレバナラント言フ様ナ事ヲ昨日申出タソウダガ
何事モ第一善バカリ考ヘルノハ今ノ時デハアルマイト思フ
殊ニ柳川ハ遠イ臺灣ニ居ルノデハナイカ、東京ニ居ル眞崎ニスレバ大差ナイデハナイカ。
今日ノ場合ハ一切ノ事ハ君等ノ意見ヲ決メル事ガ根本ニナルノダカラ至急君等ガ全部デ相談ヲシテ
眞崎説ニ一致シ給ヘ、ソウシテ其ノ一致シタ意見ヲ以テ軍事參議官ヘ申シ出テ軍事參議官モ亦
色々ノ異論ガアロウケレドモ小異ヲ棄テゝ大同ニ合シテ軍事參議官一致ノ意見トシテ
時局収拾ノ爲ニ眞崎ヲ奏薦スル事ニスル様ニ君等カラ御願シナサイ。
陸軍ノ上下一致した意見ト言フ事ニナルカラ君等ハ色々ノ要求ヲ出サナイデ
眞崎ニ只一任スルト言フ事ニシナサイ、
ソシテ呉々モ言葉ヲ用ユルニ於テモ大權私議ニ亘ラザル様ニヨク注意スルコトデアリマスヨ 」
ト私ハ申シマシタ。
夫レニ對シマシテ、栗原、村中君モ直ニ承服シマシテ、
「 ソレハ皆ト至急相談シテ左様に決メマセウ 」 ト言フ返事デアリマシタ。
二十七日夕方ニナリマシテ西田ト村中トノ電話ノ後ニ私ガ出マシテ聞キマスト
先刻軍事參議官全部ハ見エマセンデシタガ
西閣下、眞崎閣下、阿部閣下ノ三人ガ見エマシタノデ吾々ノ希望ハ眞崎閣下ニ
此ノ時局ノ収拾ヲ御一任シ度ヒト思フト申シマシタ処ガ
西、阿部閣下等ハ直ニ賛同セラレテ君等ガソウ判ツテ呉レルナラバ僕等ハ至極賛成デアル
歸ツテ一同共相談ヲシテ返事ヲシヨウト言フ報告ヲ受ケマシタ、
同夜村中ガ參リマシテ私ト西田ノ前ニ於テ其電話ノ話ヲ更ニ口頭ヲ以テ申シ聞カセマシタ。
私ハ軍事參議官モ必ズ意見ヲ一致スルモノト信ジマスルシ、
又別ノ勢力ガ出テ之ヲ妨ゲルト言フ事ハ情報トシテモ得テ居リマセンノデ
二十八日中ニハ軍事參議官ノ返事ハマダカマダカト
二、三回西田ガ電話ヲシテ居ル機會ニ私カラ問フタ次第デアリマス。
電話ノ返事ハ未ダ何トモ返事ハアリマセント言フバカリデシタ。
同日夕刻ニナリマシテ憲兵ガ大勢私宅ニ參リマシテ、
西田ガ居ル筈ダカラト言フ事デ拘引ニ來ル風デアリマシタカラ私ハオリマセント僞リマシテ
身代ワリノ様ニナツテ憲兵隊ニ引致サレマシタノデ
同日夕刻以後ノ事ハ一嚮分カリマセン。
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今事件ノ勃発ニ關スル豫想乃至豫感ナカリシヤ
ソレハ相澤公判ガ進展シテ行キ方ニヨリマシテハ或ハト言フ程度ノデマモ飛ンデ居リマシタシ
西田カラモ其ノ時ハドウカ言フ様ナ話モ聞カサレテ居リマシタガ
一般人ハ五 ・一五以來 「 青年將校爲スナシ 」 ト高ヲ括ツテキマシタ。
私モ直前ニ聞く迄ハ何等豫感ラシイモノハアリマセンデシタノデ
私トシテハ對支關係ヲ調整スル爲メニ總選挙終了ヲ待ツテ久シ振リデ支那ヘ渡ツテ
協議ヲシタイト考ヘテ居ツタ位デ私ノ頭ハ其方ニ没頭シテ居マシタ。
今事件ノ計畫ニ就テ如何ナル者ガ参畫セシヤ
私ガ西田ニ問ヒマシタ時、西田ハ斯ウ言フ事ヲ答ヘマシタ。
「 荒木、眞崎、石原莞爾、小畑敏四郎、鈴木貞一 及 満井佐吉等ハ此ノ事件ヲ事前ニ諒解シテイルカ 」
ト問ヒマシタニ對シテ
西田ハ一々一人モ知リマセント答ヘマシタシ、
又私ノ見ル処ニヨリマスト
私始メ之等ノ人々ハ全部老人扱イヲシテ
事件後ニナレバ皆追随シテ來ルモノト見込ヲ立テゝ
先ズ無視シタト言フ風ガアリマス、
私ハ斯ウ言フ大事件ニ就テハ平面的ノミデハイケナイ、
立體的ニ上層部ニ豫メ堅實ナ協議諒解ガナケレバイケナイ事を年ノ功カラ承知シテ居リマシタノデ
二十六日ノ軍事參議官全部ト青年將校トノ會見ガ上下一致ノ絶好ノ機會デアルニ拘ラズ
ソレヲ逸シテ軍事參議官全部ニ對シテ如何ニモ青年將校ガ不信任ヲ表明シタ様ナ結果ニナツタノヲ見テ
愈々事前ニハ上層部ノ人々ハ全部無視サレテ居ツタト確信シテ居リマス。
勿論之ハ西田ヲ通シテ見タ私ノ判斷デアリマスカラ
他ノ關係者ヲ以テドンナ事ガアリマシタカドウカハ私ニハ一嚮分カリマセン。
私ハ上層部ニ少シモ洩ラサナカツタト言フ點ニ於テ秘密ガ保タレ
從テ出動ノ目的ヲ達シ得タモノト信ジマスト同時ニ爾後ノ収拾ガ非常ナ不幸ニ終ツタノモ
亦事前ニ上層部トノ聯絡諒解ガナカツタ事ガ一原因デハナカツタカト存ジテ居リマス。
青年将校ガ事前ニ連絡シタル民間同志ノ範囲を如何ニ考ヘアリシヤ
西田關係ニハ事件後西田ガ必要ニ應ジテ聯絡行動シタカト私ニハ察シラレマス、
事件前トシテハ龜川ト言フ人ガ西田、山口大尉等ト相談シテ居ツタト言フ事
ヲ西田カラ二月二十日前後ニ聞イテイマシタ、
事件前關係シタ民間人ノ人ハ龜川以外ニハ西田カラモ他カラモ聞キマセンデシタ。
本件ヲ事前、通知セシモノナキヤ
一人モアリマセン。
ソレハ西田ガ私ニ恐ラク知ラセナイト言フ秘密ヲ西田ガ破ツテ
私ニ知ラセタノデスカラ當然私カラ輕々シイ事ハ出來ル譯ガアリマセン。
西田カラ二月二十日前後事件ノ計畫を内々聞イタ時 關係ノ範囲ヲ關知セザリシヤ
私ノ知ツテイル青年將校ハ山口、栗原、磯部、村中、安藤 之等ガ出動スル事を話シマシタ、
他ノ人々ノ名前ハ知ラズ面識モアリマセンノデ故ニ指名シテ話ヲシテ聞カセマセンデシタ。
西田ト眞崎内閣、柳川内閣ト言フ様ナ事ヲ考ヘテ居ルト言フ様ナ事ヲ私ニ話シマシタ。
デ、私ハ矢張リ一體デナクテハヨクナインデハナイカト一言申シマシタラ言下ニ却ケマシタ。
ソレデ老人組ニハ一切事件ノ計畫ヲ知ラセヌ方針ノ様デアリマシタ。
同志トモ言フベキ在満親交關係者如何
島野三郎、大澤準、二人ハ國家問題ニ關シテハ根本思想ヲ同ジクシテ居リマシテ
殊ニ兩者ノ對露活動ニ附キマシテココロカラ成功ヲ祈ツテ居リ
上京ノ節ハ必ズ會ヒマシテ相扶ケ合ツテ居リマス。
菅波ガ居リマシタ時ニハ文書ノ往來ナドハ致シマセンデシタガ
絶エズ気ニカカリマシテ常ニ西田ヲ通ジマシテ消息ヲ聞知シテ居リマシタ、
右以外ニハ一人モアリマセン。
島野、大沢両君ト北トガ互ニ相扶ケ合ツテイル具體的ノ事情如何
ソレハ一昨年ノ夏私ガ非常ニ金銭上ニ窮乏シマシタ時
西田ガ大澤に 「 北 」 ノ援助方ヲ頼ンデヤリマシテ其ノ結果大澤君カラ千圓送ツテ來タト言フ事デシタ。
西田ガ私ニ持ツテ居リマシタ。
之ハ運動資金ト言フ意味デハアリマセン。
昨年夏大澤君ガ東京ニ見エタ時 大澤君ノ土産ダト言ヒマシテ西田ガ幾ラ貰ツタカ知リマセンガ
私ニ六百圓呉レマシタ、
後大澤ガ來訪シマシタ時私カラ御礼ヲ言ヒマシタ。
私共同志ハオ互ニ國家ノ爲ニ大事ダト言フ気持デ互ニ援ケ合ツテイマス、
必ズシモ國家改造ノ運動資金ト言フ風ナ意味デハアリマセン。
廣範囲ノ同志ト言フ意味デ援助シ合ツテイルノデアリマス。
島野三郎カラハ送金ナカリシヤ
大澤ト一緒カドウカ分カリマセンガ島野ハ言葉上ノ機能力ガアリマセンカラ
多分大澤一人ト思フテ居リマス。
島野トハ大正九年カラ國家改造ニ就テノ同志デアリマス。
アレガ露西亜カラ歸リマスシ私ハ支那カラ歸リマシテ 東京デ一緒ニナリマシタ。
猶存社ノ大川周明ノ紹介デアリマス。
所謂 「 重臣ブロック 」 トハ誰を指スヤ
之ハ倫敦條約以來陸海軍ノ正義派カラ起キタ言葉デアリマシテ
今日ハ常識化サレタ通用語トナツテイマス。
私ハ牧野ト齋藤丈ハ君側ニ置クマジキ人物ト思ツテ居リマシタ。
他ノ人ハ存ジマセン。
一般ニハ西園寺、牧野、齋藤、鈴木侍從長、一木、高橋等ヲ言ツテイル様デアリマス。
昨年夏大澤ノ土産ダト言ツテ六百円を西田カラ 「 北 」 ニ届ケタガ其ノ 「 土産 」 ノ意味如何
困ツテイルト思ツテ呉レタノダロウト思ヒマス。
昨年ハ特ニ困リマシタ。
大沢の旅順の金塊発掘に付いて知る所を述べよ
旅順ノ金塊ト言フノハ金貨デアルト思ヒマス。
私ノ神秘的生活ニヨツテ此ノ金貨ハ必ズ埋蔵サレテ居ル事ヲ確信シマス。
ソシテ大澤ノ如ク、ロシアノ内部攪亂ニ當ルモノゝ
資金トシテ大澤一人ノミニ与ヘラレテ居ルモノト信ジテ居リマス。
此ノ私ノ神秘的ノ證言ハ大澤ニ發掘ガ許可サレテアル時必ズ現實ニ確メラルゝ事疑ヒアリマセヌ。
之ハ陸軍省デハ大澤ノロシアニ對スル内部攪亂ノ實績ヲ何回トナク目ニ見テ居ルカラ
大蔵省デ國有物カ無主物カノ決定ヲ俟ツテ大澤ニ發掘ヲ許可スルノハ一ツノ理由トシテハ
先願者デアルノト大澤ノ對露行動ヲ認識シテ居ルカラダト想像シマス。
此ノ金貨問題ガアル故ニ大澤カラ金ヲヨコスト言フ事ハナク
我々ハ國家改造ノ同志トシテ窮乏等救ヒ合ウ仲デアリマス。
例ヘバ大澤ガ守本尊トシテ居ル不動尊ノ如キハ殆ド天下稀有ノモノデ
數萬金ニモ価スルモノデアリマス、
ソレヲ私ハ四年前ニ大澤君ノ一身ノ危險ナキ様
又大澤君ノ國家的努力ガ神佛ノ加護ニヨツテ支障ナク遂行サルゝ様ニト
念ジテ私カラ同君ニ贈与致シテ居ル様ナ事モアリマス。
此ノ不動尊ハ生駒生ノ開山湛海僧正ガ當時紀州侯ノ國家安泰武運長久ノ祈願の爲ニ
十萬ノ護摩ヲ焼キテ修法シタ其ノ灰デ同僧正ガ作ツタモノデ
三浦悟楼ガ朝鮮公使ニ行ク時一冊ノ借用證ヲ入レテソレヲ持主某カラ借リテ王妃事件ノ時
其レヲ頸くびニカケテ廣島ノ監獄ニ入ツタト言フ國家的因縁モアルモノデ
七、八巻ノ文章モ夫レニ附イテ居マス。
他ニ申立ツルコトナキヤ
今度ノ事ニ就キマシテハ私ト致シマシテモ色々官憲ノ方々ニオ手數ヲカケマシテ
恐縮ニ存ジテ居リマス、
私一身ノ身ノ上ハ如何様ニナリマスルカ自分デハ一切 アアカウトハ考エテ居リマセン、
只心ヲ靜カニシテ總テ神佛ノ御心ノ儘ニト言フ考デ謹デ法ノ裁キヲ待ツテ居ル次第デアリマス。
之レ丈デアリマス。
北一輝事 北輝次郎
右読聞ケタル処相違ナキ旨申立ツルニ附署名拇印セシム
昭和十一年三月二十七日
陸軍司法警察官 陸軍憲兵少佐 宇津木猛雄
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