あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

澁川善助 「 斷じて檢察官豫審請求理由の如きものには非ざるなり 」

2018年11月03日 18時46分33秒 | 暗黑裁判・二・二六事件裁判の研究、記錄


澁川善助

澁川善助が、
「 斷じて檢察官豫審請求理由の如きものには非ざるなり」
と言う  「豫審請求 」 の内容とは。
二・二六事件の捜査報告書の送附を受け、
昭和十一年三月八日に、
檢察官陸軍法務官匂坂春平が陸軍大臣川島義之に對し 「 捜査報告書進達 」 を爲し、
豫審を請求すべきものと思料するとした。
同日、匂坂春平から豫審官に對して 「豫審請求 」 が提出された。
その内容は、次の通りである。
犯罪事実
第一 被告人等は我國現下の情勢を目して重臣、軍閥、財閥、官僚、政黨等が
國體の本義を忘れ私權自恣、苟且とう安を事とし國政を紊り國威を失墜せしめ、
為爲に内外共に眞に重大危局に直面せるものと斷じ、
速に政治竝經濟機構を變革し庶政を更新せんことを企圖し、
屡々各所に會合して之が實行に關する計畫を進め、
相團結して私に兵力を用い内閣總理大臣官邸等を襲撃し内閣總理大臣岡田啓介、
其の他の重臣、顕官を殺害し、武力を以て樞要中央官庁等を占據し公然國權に反抗すると共に、
帝都を動亂化せしめて之を戒嚴令下に導き、
其の意圖に即する新政府を樹立し、以て其企圖を達成せんことを謀り、
昭和十一年二月二十六日午前五時を期して事を擧ぐるに決し、
各自の任務及部署を定めたり。
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「 本事件ニ參加スルニ至リシ事情竝ニ爾後ノ所感念願 」
豫審中の昭和11年4月8日付で提出した手記
本事件の意義
國ノ亂ルゝヤ匹夫猶責アリ。
況ンヤ至尊ノ股肱トシテ力ヲ國家ノ保護ニ盡シ、我國ノ創生ヲシテ永ク太平ノ福ヲ受ケシメ、
我國ノ威烈ヲシテ大ニ世界ノ光華タラシムベキ重責アル軍人ニ於テヲヤ。
『 朕カ國家ヲ保護シテ上天ノ惠ニ應シ祖宗ノ恩ニ報ヒマイラスル事ヲ得ルモ得サルモ
 汝等軍人カ其職を盡スト盡サ ゝルト由ルソカシ 』
ト深クモ望マセ給フ 大御心ニ副ヒ奉ルベキモノヲ、奸臣下情ヲ上達セシメズ、
赤子萬民永ク特權閥族ノ政治的、經濟的、法制的、權力的桎梏下ニ呻吟スル現實ヲモ、
國威ニ失墜セントシツツアル危機ヲモ、「 大命ナクバ動カズ 」 ト傍観シテ何ノ忠節ゾヤ。
古來諫爭ヲ求メ給ヒシ御詔勅アリ。
大御心ハ萬世一貫ナリト雖モ、今日下赤子ノ心情ハ奸閥ニ塞ガレテ、上聞に達セズ、如何トモスベカラズ。
此ノ奸臣閥族ヲサン除シテ 大御稜威ヲ内外ニ普カラシムル 是レ股肱ノ本分ニアラズシテ何ゾヤ。
實ニ是レ現役軍人ニシテ始メテ可能ナルニ、今日ノ如キ内外ノ危機ニ臨ミテモ、頭首ノ命令ナクバ動キ得ザル股肱、
危険ニ際シテモ反射運動ヲ營ミ得ズ 一々頭脳ノ判断ヲ仰ガザルベカラザル手脚ハ、
身體ヲ保護スベク健全ナル手脚ニ非ズ。
此ノ故コソ、『 一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ 』 ト詔イシナレ。
億兆を安撫シテ國威ヲ宣揚セントシ給フハ古今不易ノ 大御心ナリ。
股肱タルモノ、此ノ大御心ヲ奉戴シテ國家ヲ保護スベキ絶對ノ責任アリ。
今ヤ未曾有ノ危局ニ直面シツツ、大御心ハ奸臣閥族ニ蔽ワレテ通達セズ。
意見具申モ中途ニ阻マレテ通ゼズ。
萬策効無ク、唯ダ挺身出撃、万惡ノ根元斬除スルノ一途アルノミ。
須ラク以テ中外ニ 大御心ヲ徹底シ、億兆安堵、國威宣揚ノ道ヲ開カザルベカラズト。
今回ノ事件ハ實ニ斯ノ如クニシテ發起シタルモノナリト信ズ。
叙土世界ノ大勢、國内ノ情勢ヲ明察セラレアレバ、本事件ノ原因動機ハ自ラ明カニシテ、
「 蹶起趣意書 」 モ亦自ラ理解セラル ゝ所ナルベシ。
吾人ガ本事件ニ参加シタル原因動機モ亦、以上述ベシ所ニ他ナラズ。
臣子ノ道ヲ同ウシ、報國ノ大義相協ヒタル同志ト共ニ、御維新ノ翼賛ニ微力ヲ致サントシタルモノニシテ、
斷ジテ檢察官ノ豫審請求理由ノ如キモノニハ非ザルナリ。

世界ノ大勢ト皇國ノ使命、當面ノ急務
今日人類文明ノ進展ハ、東西兩洋ノ文化ガ融合棄揚セラレテ、
世界的新文明ノ樹立セラルベキ機運ニ際會シ、而シテ之ガ根幹中核ヲ爲スベキ使命ハ嚴トシテ皇國ニ存ス。
即チ遠ク肇國ノ神勅、建國ノ大詔ニ因由アリ、
歴史ノ進展ト伴ニ東洋文化ノ眞髄ヲ培養シ、幕末以来西洋文化ノ精粋ヲ輸入吸収シ、機縁漸ク成熟シ來レルモノ、
今ヤ一切ノ残滓ヲ清掃シ、世界的新文明ヲ建立シ、
建國ノ大理想實現ノ一段階ヲ進ムベク、既ニ其序幕ハ、満州建國、國際連盟脱退、軍縮條約廢棄等ニ終レリ。
『 世界新文明ノ内容ハ茲ニ細論セズ。
 維新セラレタル皇國ノ法爾自然ノ發展ニヨリ建立セラルベキモノ、
宗教・哲學・倫理・諸科學ヲ一貫セル指導原理、
政治・經濟・文教・軍事・外交・諸制百般ヲ一貫セル國体原理ヲ基調トスル
齊世度世ノ方策ノ世界的開展ニ随ツテ精華ヲ聞クベシ。』
而モ、列強ハ弱肉強食ノ個人主義、自由主義、資本主義的世界制覇乃至ハ
同ジク利己小我ニ發スル權力主義、獨裁主義、共産主義的世界統一ノ方策ニ基キテ、
日本ノ國是ヲ破砕阻止スベク萬般ノ準備ニ汲々タリ。
皇國ノ當面ノ急務ハ、國内ニ充塞シテ國体ヲ埋没シ、大御心ヲ歪曲シ奉リ、民生ヲ残賊シ、
以テ皇運ヲ式微セシメツアル旧弊陋廃ヲ一掃シ、
建國ノ大國是、明治維新ノ大精神ヲ奉ジテ上下一心、世界的破邪顕正ノ聖戰ヲ戰イ捷チ、
四海ノ億兆ヲ安撫スベク、有形無形一切ノ態勢ヲ整備スルニアリ。
現代ニ生ヲ享ケタル皇國々民ハ須ラク、茲ニ粛絶荘厳ナル世界的使命ニ奮起セザルベカラズ。
此ノ使命ニ立チテノミ行動モ生活モ意義アリ。
私欲ヲ放下シテ古今東西ヲ通観セバ自ラ茲ニ覺醒承當スベキナリ。

國内ノ情勢
顧レバ國内ハ欧米輸入文化ノ餘弊―個人主義、自由主義ニ立脚セル制度機構ノ餘弊漸ク累積シ、
此ノ制度機構ヲ渇仰導入シ之ニ依存シテ其權勢ヲ扶植シ來リ、
其地位ヲ維持シツアル階層ハ恰モ横雲ノ如ク、仁慈ノ 大御心ヲ遮リテ下萬民ニ徹底セシメズ、
下赤子ノ實情ヲ 御上ニ通達セシメズシテ、内ハ國民其堵ニ安ンズル能ハズ、
往々不逞ノ徒輩ヲスラ生ジ、外ハ欧米ニ追随シテ屡々國威ヲ失墜セントス。
『 六合ヲ兼ネテ都ヲ開キハ紘ヲ掩イテ宇ト爲サン 』
 ト宣シ給エル建國ノ大詔モ、
『 萬里ノ波濤ヲ拓開シ四海ノ億兆ヲ安撫セン 』
 ト詔イシ維新ノ 御宸翰モ、
『 天下一人其所ヲ得ザルモノアラバ是朕ガ罪ナレバ 』
 ト仰セヒシモ、
『 罪シアラバ、我ヲ咎メヨ 天津神民ハ我身ノ生ミシ子ナレバ 』
 トノ 御製モ、殆ド形容詞視セラレタルカ。
殊ニ軍人ニハ、
『 汝等皆其職ヲ守リ朕ト一心ナリテ力ヲ國家ノ保護ニ盡サバ
 我國ノ蒼生ハ永ク太平ノ福ヲ受ケ我國ノ威烈ハ大ニ世界ノ光華トモナリヌベシ 』
 ト望マセ給ヒシモ、現に我國ノ蒼生ハ窮苦ニ喘ギ、我國ノ威烈ハ亜細亜ノ民ヲスラ怨嗟セシメツ ゝアリ。
是レ軍人亦宇内ノ大勢ニ鑑ミズ時世ノ進運ニ伴ハズ、
政治ノ云爲ニ拘泥シ、世論ノ是非ニ迷惑シ、報國盡忠ノ大義ヲ忽苟ニシアルガ故ニ他ナラズ。
斯ノ如キハ皆是レ畏クモ 至尊ノ御式微ナリ。
蒼生を困窮セシメテ何ゾ宝祚ノ御隆昌アランヤ。
内ニ奉戴ノ至誠ナキ外形ノミノ尊崇ハ斷ジテ忠節ニ非ズ。
君臣父子ノ如キ至情ヲ没却セル尊厳ハ實ニ是レ非常ノ危険ヲ胚胎セシメ奉ルモノナリ。
政治ノ腐敗、經濟ノ不均衡、文教ノ弛緩、外交ノ失敗、軍備ノ不整等其事ヨリモ、
斯ノ如キ情態ヲ危機ト覺ラザル、知リテ奮起セザルコソ、更ニ危險ナリ。
現ニ蘇・英・米・支・其他列國ガ、如何カシテ日本ノ方圖ヲ覆滅セント、孜々トシテ準備畫策ニ努メツ ゝアルトキ、
我國ガ現狀ノ趨く儘ニ推移センカ、建國ノ大理想モ國史ノ成跡モ忽チニシテ一空ニ歸シ去ルベシ。・・・以上、手記から
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第三回公判が終わった夜、
憲兵報告・公判狀況 2 『 村中孝次 』・・・ 第三回公判狀況    昭和11年5月2日    村中孝次  
・ 憲兵報告・公判狀況 3 『 村中孝次、對馬勝雄、澁川善助、磯部淺一 』 ・・・ 第四回公判狀況    昭和11年5月4日    村中孝次  對馬勝雄  澁川善助  

澁川は裁判長 ・各判士 ・検察官宛に
「 公判進行ニ關スル上申 」
と題する書面をしたため、これを提出している。
法務官が村中の陳述を制限したことに対する抗議文だが、
徒手空拳で国家権力と対峙させられている彼らの悲痛な叫びがほとばしっている。
次にその一部を掲げる。
『 公判進行ニ關スル上申 』
本軍法會議ガ特設セラレ、
公開ノ規定及ビ弁護人ノ規定ガ適用セラレヌコトニ相成リマシタル御精神ガ、
 本事件ノ最終日二月二十九日陸相官邸ニ於テ、
『 將校等ヲ自刃セシメヨ。若シ自刃ヲ肯ゼヌナラバ殺シテシマヘ 』
トノ御意見ガアツタ由デアリマスガ、
其ノ延長ニ他ナラヌノデアリマスナラバ、私共ハ何モ申上ゲルコトハアリマセン。」
「 本公判ニハ弁護人ガアリマセヌ。
 陳述ノ根據ヲ立證スベキ各種ノ資料ヲ整ヘルコトモ出來マセヌ。
ソレナノニ、被告ノ陳述ニ對シ、法務官殿ノ爲サレマシタ如ク
『 根拠ノ確タルモノハナイノダナ 』、
『 誰カラ聴イタカワカラヌノダナ 』
位ニ、殆ド萬人周知ノ事實ヲ、
恰モ架空ノ巷談孚説ノ如クニ片附ケラレマスコトハ、誠ニ遺憾に堪ヘマセヌ。