あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

無眼私論 3 「 日本は亡國たらんとす 」

2017年04月03日 04時50分04秒 | 西田税 ・ 無眼私論


無眼私論
西田 税

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懐聖人
東行已法無  南洲已去無南洲
君不見擾々天下事  誰任東行南洲起、

姦類誤事政道亂  醜類構利民疾苦
歌聲高処怨聲高  狂激可起國家難、

一、
頽廢また頽廢、
無自覺な國民上下繞抱する空氣は、今や頽廢その極に達した。
腐敗の頂点に達したのである。
眞の大日本主義を理解し得ない幾多の人びとは、
一たび闡明せられすべてをこれに歸趨せしめたわれら國民の理想を再び暗黒に葬り去って、
的もなく誤った方向に國民を誘導した。

國民は誘導し去られたという愚劣さを見せた。
そしてここに未曾有の醜態を演ずるに至ったのである。
今日の日本は實に腐爛の極である。
病はすでに膏肓に入って、いかなる名医とても手の下しようのない狀況を呈しているのである。
そして彼らは共にその情況がいかなる方向に發展し、
いかなる程度まで進捗しているかということも知らない。
ああ、亡國か、亡國か。
われらはここに祖國の危機に瀕していることを絶叫せずにはいられない。
そして黙々として拱手坐していられないのだ。
われらは國民にその病の重體なることを告ぐると共に、病根を駆除し腐爛せる部分を除去し、
化膿せる部分を割きて最後の「メス」 を振るわねばならぬ。
かの明晃たる 「メス」 をもって一大手術を行わねば癒やすことができないのである。
しかして清新の気溢るる新しき日本を創造せねばならぬ。

二、
政界の堕落。
----政界の堕落はついに今日に至って極まれり矣。
見よその醜態を。
余輩思う、
日本は明治維新において政體を今日まで繼續し來ったような形式に改めたのであるが、
これは過早であったと思う。
それには種々なる理由もあらねばならぬが、しかし時代の推移、
民族の習性および當時の狀態としてはむしろ天皇専政をもってした方がよくはなかったかと思われる。
今日のごとき代議制はあるいはその當時における社會改造の行きがかり上採用せられたのであろうけれども、
余輩はむしろ進興すべく未だ隆盛の頂點に達していない間の嚮上發展的國家としては専政を可なりと信ずる。
しかもその主権權は天朝である。十全である。
代議制は第二段の改革なるべきものではあるまいか。
果然三十年にしてすでに頽廢した。
政黨は腐敗した、黨人は堕落した。
政黨内閣はすでに醜陋の極をつくして國民の前、列國の前に國家統治上の惡所を展開したのである。
彼らすでに然り、
官人黨人相伍し相次いで腐敗堕落したのは怪しむに足らぬ。
綱紀は頽廢して匡正することあたわず、公盗官に蔭れて跋扈し、
國民は歸趨に迷い社會は不安に陥り、不逞不良の徒巷間に満ち、さらに外邦との關係はいよいよ不利に、
國をあげ民族を擧っていまや混沌たる狀態に陥ったのである。
大權の委任によりて政を取り行う關係諸機關の腐敗はついにかくのごときの現情をもたらし來ったのである。
帝國議會の亡狀に飽きたるもの幾人かある。
しかも彼らを見よ。
國家を外にし國民を度外視して毫も自覺するところなく、
なおも平然として黨爭に熱中し私慾に齷齪しついに願みない有様ではないか。
現代の政治家政黨屋なるものを見よ。
しかして政府當路者の醜状をも観よ。
彼らには天朝國民に對する忠愛の観念の毫末をも認められぬ。理想もない。經論もない。

かくして日本は上下を擧げて不穏なる混沌狀態に陥った。
國民もついにこの毒潮裡に投じ去られたのである。
そして彼らは二十世紀皇國の使命たるべきアジア回興戰の盟主として
奮闘すべきすべてを抛棄し終らむとしつつあるのである。
まことに日本は眞理の表現たる天朝を戴いているのである。
外夷はどうでもいい、いやしくもその特質はこれは実に日本肇國の本質でありまた宏遠なる理想である。
日本が世界に皇道を宣布し終ったときに初めて今日の形式に移るべきではあるまいか。
----それは世界人類を一丸としてであるから、われらはこの醜態に對して例示することを好まない。
要するに今日のわが國の政界は見るも無慙な有様である。
この渦巻----混沌たる渦巻----の裡に去来する人々はついに國家と國民とを滅さんとするのである。
朋党私を挑んで國家さえもこれを彼らの毒潮渦中に導き入れんとしつつあるのである。

三、
知識階級の堕落
國民の中堅として知識と道徳と自覺との先導者たるべき彼ら
いわゆる有識階級なるものの現狀を凝視せしめ、
教育家といわず實業家といわず藝術家といわず、さらに學者といわず
いやしくも學をもって立つべく徳をもって表わるべく術をもって秀でたるべきすべての人々を通して
亡國的氣運の充満せるは明瞭である。
國家も國民も眼中にない、要するに自己の本能を満足せしめているのに過ぎないのだ。
私欲本能を満たすために彼らは君國に對する忠愛の観念なるものを毫末も保有しないのである。
芸術には國家はないかもしれぬ、學問には國境はないかも知れぬ。
しかしながら國家なくして彼らは存在し得られるとは言えないだろう。
國家社会の一分子としての相應な義務と権利とは享有しているのである、
國家あっての産物に違いないだろう。
彼らは陋劣なる自己のために國家社會を無視している。否、これを破壊し滅亡せしめようとしている。
いやしくも起って一世に名をなし、
國家社會を率い民族國民を誘導してますますその眞髄を發揮すべき責任を有するにもかかわらず、
恬として彼らは願みない、背徳の行動の多きを見よ。
彼らはかくして國家國民を惡化せしめつつあるのである。
爭って彼らに附圖する國民もないではない。
多數にある。しかも彼らは口に筆に行いに軽佻浮薄非理非道の極を盡して一般を誘惑し惡導し、
もって得々たる有様である。
良風を破壊し美俗を破壊し國家社會の風教傷然として地を揺がし民衆は思想ますます動揺し、
にわかに底止するところを知らない。
事實はこれを證明して余蘊なし。

ああ、かくして彼らもまた國家を衰頽滅亡の淵に導きつつあるのである。

四、
青年の堕落
國家民族の元氣は一に懸って青年にある、
青年の元氣は實に國家民族の運命を左右するのである。
然りしかして日本青年の現實を見よ。
青年の中堅たるべき學生はすでに堕落してしまった。
荒學遊蕩、虚榮に趨り名利を希い色薬をもって天分となすがごとき、
あるいは浮言放論、妄動亂行、これをもって得々然たるがごとき、嫋々たる軟風は學究の青年を蔽いて、
天下を思い國家を憂いこれを負って起たんとするの意氣はついに見るべからざるに至った。
青年という書生という、いまや亡國の非調を奏ずる第一人者と化し去った概がある。
都会の青年は不良性に趨き、田舎の青年はまたその剛健淳襆の氣風を棄てて軟風を喜びつつある。
農村の疲弊、----第十九世紀後におけるいわゆる産業革命、
工業發展の對象としてこの叫びは發し來られたのは事實であるけれども、
一面農村青年の風習惡化意氣衰頽に原因すること多大である。
----ついに日本の存立を弱むるのである。
全國の青年は擧げて蕩々として堕落の深淵に向って趨った。
彼らは心中、天下なく國家もなく、過去もなく將來もなし。
ただただ一つの享楽と利己とあるのみである。
國家民族を負ってつねに意氣に満ちた活躍をわれらに示し、
もってよく國家民族を危殆より脱逸せしむるは外邦の學生である。
過去幾世紀、國家民族のために事を成就するのはつねに青年である。
日本の青年は果してよくかくのごときに出で得るや否や。
吾人は多くは言わぬ、----しかし日本青年の堕落は否むことができぬ。
日本の將來は託することができぬ。
彼らは實に國家を衰頽に陥らしめつつあるのである。

五、
民衆の趨向
政界を始めあらゆる階級あらゆる社会の腐敗堕落と相伴って一般民衆はかつ迷いかつ動揺した。
そしてこれに随從せざるべからざるを強いられて滔々として惡化した。
道徳破壊  良風破壊。
すべての堕落より來った結果として一般民衆は良風を破壊した。
生活に非常な脅威を感ずるに至った。
不安となって來た。
思想はいちじるしく不良となった。
労働者と資本家との爭闘はここに生じここに進んだ。不逞浮浪の徒は野を満たした。
一般は今なお無知である。
ゆえにその言動たるや妄言であり亂動である。これが----國家はいよいよ混亂である。
民衆もこの責は負わねばならぬ。
しかし、彼らは可憐である。引きずられたのである。
速かに彼らを匡救しなければ、あるいは恐る、邦家の大患はここに発せん。
みずからみずからに火をつけて焼け死ぬるような惨事を惹起せぬとも限らぬ。
ああわれらは救わねばならぬ。
民衆は國家民族の大部を形成する。
偉大なる底力を有するものはまこと一部少數の機關にあらずして實に民衆である。
しかもこの民衆がいまや危険の深淵に臨んでいるのだ。
救濟者なくんば彼らはついに前進してこの危險を踏まねばならぬ情況におかれてあるのである。
危ないかな、七千余万の海東よ民生よ。

六、
政府當局は積年のふ弊政を堆んで今日に至った。
そして内治に外交に經濟に教育に軍事にすべての方面において失敗を繰返している。
ことに現在の政友会内閣のごときはその最たるものである。
幾多の問題は輿論を沸騰せしめた。
しかも當局者の陋穢醜劣なる、何らこれを感じないのである。
そして民心はますます不安に陥りそらに惡化し混亂状態を惹起するに至った。
野黨の無氣力なる、彼らもまた當局与黨と共に同じ穴のむじなに違いない、
結局どうすることもできないのである。
そして兩者××に議會は醜態を演じている。
上院においても然り。
爾來×等がなすところは何ぞや。
貴族と稱する一派、----皇室の藩屏----であるという裏面には
國家の煩累であるという意を物語っているではないか。
政黨政治なるものはよかろう----しかし朋黨私を營みて國家を滅すというのは眞である。
古來の事實がこれを證明する。
わが國における政界は全くそれである。
政爭----醜陋なる政爭とこれに伴随して生ずる幾多の不正事件収賄事件、公盗、
----これらが相合して上下を風靡しついに國民全部の堕落まで導き來ったのである。
似而非學者の放論、似而非君子の背徳行爲、似而非實業家の横暴、似而非藝術家の僞藝術、
これらは政爭より來る惡風と共にますます國民を誘惑し惡化せしめたのである。
然りしかしてこは果して何に原因するか。
國民の習性によることも大、環境に支配せらることも大である。
しかし一方彼らの頭にはつねに高遠なる理想がない。
理想もなく主義もない。第一考えない。
みたまえ、ゆえにせっかく再建した明治維新の理想も十年にして廢業せられたのである。
革命の聖的志士たる大西郷逝いてよりまた西郷は出なかったのだ。
----も一人の聖的革命志士たる高杉晋作はすでに歿しいいた。
わずか二人によって維持せられ來った革命である、
いかに明治初頭の改革は大なりしといえども、天なるかな、
西郷去ってついにこの業は敗れおわったのである。
後輩はその理想を繼承しなかった。知らなかった。忘れていた。
だから二十年もたたないうちに、もういわゆる鹿鳴館時代なるものを生んだのである。
すべて堕落した。----民衆は動揺し初めた。
怨嗟の声は高まった。----志士は随所に起ったのである。
爾來幾分平静に進んだ時局は、再び三十年にして第二の鹿鳴館時代を現出するに至ったのである。
今日は前より重大である。
病は三十年を經てついに膏肓に入ったのである。
君よ、冷静に國家社会の狀態を三十年前のそれと比較して見給え。
同じである、ただただ一層重大である。
混亂また混亂、櫌々の中に鋭い怨嗟の叫びが交る。
堕落また堕落、粉々の中に惨たる慷慨の叫びが交る。
そしてついに爆煙と忠血とをもって二重橋頭を染めたのである。誠に割腹以上である。
ああ亡國か興國か。
現狀をこのまま推進すれば滅亡のほかはない、ただただ時機の問題である。
しかも見よ、海外を。
いまや内憂と外患とこもごも臻った。
外憂むしろ措くべし、内患に至っては滅亡直接の主因をなす。
天朝を奉じて宇内に臨み、
人類を薫化して理想の世界を造るべき使命を有し理想を抱く日本人にして、
さらに第二十世紀は内を整頓し、
かつアジア開興の陣頭に盟主として起たねばならぬ使命を有する日本人にしてこの現實は如何。

われらはここにおいて決然として叫ばんとす、
「日本は亡國たらんとす、今日にして覺醒せずんばついに永久に滅亡のみ」 と。
そしてわれらはこの醜陋なる現實より日本を匡救して眞日本を建設せんがために
「メス」 を把って起つものである。
「メス」 である。
すべての腐敗せる汚物を掃除するために手術を決行しなければならない。
身體を清淨にせねばならない。

ああ ! !
今や 「メス」 あるのみ。
「メス」 とは何ぞや ?
爆彈と劍と、この清淨神聖な血とである。
やがて曇りは晴れて清天に円滋な哲理を含んだ、
そして一様にわれらを照らす天朝の誠光を拝むことができるのだ。
 ××××××
亡滅に瀕する祖國を直視しつつ無韻の心弦に熱涙を濺ぎかけつつ、
ひとり悲壮慷慨の曲を奏でるのである。
非調にわれ知らず眉をも黒髪をも濡らしつつ。
ああ ! ! ・・・・・
(二五八二、三、二二)

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