写真:渥美「秋草文壷」慶応大学蔵
写真の壺をご覧ください。いい色彩であり、いい光沢でしょう。国宝の「秋草文壺」です。国産の陶磁器で国宝指定はわずか5点。そのうちの一つがこの壺です。この国宝を含む渥美窯の特別展が、一昨日から私が館長を務める田原市博物館で開かれました。
写真家の土門拳がこう絶賛しています。「日本のやきものの中から、ただ一点を選ぶとなれば、ぼくは秋草文の壺を選ぶ。雄渾にして繊細、重厚にして華麗、日本のやきもののありとあらゆる魅力を一身に担っているのである」(「古窯遍歴」)。
渥美古窯は中世、平安末期から鎌倉後期にかけて渥美半島に存在した古窯。発見が昭和39年というだけにほとんど世に知られていません。いわゆる六古窯とされる瀬戸、常滑、越前、信楽、丹波、備前といった仲間に列せられずにいるのです。
しかしこの渥美古窯は、最近になって東北の平泉や鎌倉など全国に流通し、大いに重宝されていたことが判明してきています。ところが鎌倉時代を機に、渥美古窯は忽然と途絶えてしまったというのです。
そこにはワクワクするような歴史と出来事が渥美半島と中世日本にあったに違いありません。そんなミステリアスな展開を想像するだに、壺の秋草の文様は殊のほか神秘的な輝きに見えるというものです。その確認にぜひ来館していただいてはどうでしょう。