
写真:「シーサイド・スパ」
渥美半島の伊良湖岬といえば、島崎藤村の「椰子の実」の歌で有名です。昭和11年にNHKで流されたのが世に出た最初といわれます。しかしこの歌詞は、島崎藤村が自らの体験で作ったものではなく、民俗学者の柳田國男から聞いた話が発端とされます。
明治31年の8月、帝大の学生であった柳田はこの伊良湖岬の地を訪れ、ひと夏を過ごします。ある朝、浜辺を散策した折、椰子の実が流れ着いているのを見つけ、後日東京に帰った後にこの話を藤村に語ります。そのおり藤村は「その話はもらいました、他言無用に」と頼んだというのです。
先日、渥美半島の突端の伊良湖の海水浴場で、海開きの神事が行われました。地元のホテル関係者や渥美半島観光ビューロー、田原警察など30人ほど集まり、安全祈願を行ったのです。
この伊良湖の浜辺は今では「ココナッツビーチ」と「椰子の実」に因んで名づけられる海水浴場となっています。しかしまさしくこの浜辺が、柳田國男が逗留した民家から数百メートルの処なのです。
海開きの神事の傍らでは、若い男女100人余がビーチバレーを楽しんでいました。柳田國男が「海上の道」で考察した日本人。白亜の高層ホテルの前に広がるこの人々の風景を、100年前の柳田はどう想像したものでしょうか。
そういえば今日は8月8日。柳田國男の命日です。昭和37年のこの日、柳田は87歳の生涯を閉じています。