森福都さん、『赤い月 マヒナ・ウラ』

 私にしては珍しく(夜は呑んじゃうから…)、「あと少しあとも少し…」と最後の章を夜更けに読んでいた。 そうして余韻をひきずりながら眠りについたので、何だかよくは覚えていないけれどもとても綺麗な夢を見た。 赤い月じゃあなくって、赤い花が出てきたような…。 ロマンチックに閉じた物語が、少しだけ流れ込んできていたのかなーと、やや強引に繋げてみた。  

 森福さんの作品は今までに何冊か読んでいるのだけれど、実は中国を舞台にしたものばかりだった(好きなんだものー)。 ので、中国もの以外の作品を手に取ったのは今回が初めてである。
『赤い月 マヒナ・ウラ』、森福都を読みました。

 自身の大往生から二十年近くも経った平成という時代に、曾孫の意識内で俄かに覚醒してしまった“私”の魂が彼に語りかける。 “どうか頼みを聞いてくれ。 おまえの曾祖父が抱えてきた九十年来の謎を解き明かして欲しいのだ”――と。 

 時は大正、ハワイを舞台に日系移民たちを描いたミステリー仕立ての物語が繰り広げられる。 一つ一つの謎解きは、決してあっと驚くようなものではない。 ほうっとやわらかな溜め息がこぼれてしまうもの、ほろりとした切なさに包まれてしまうものばかりである。 
 そうして幾つかの謎は解けたのに、最後まで真相が明かされることのなかった哀しい死を、当時の少年はいつまでも忘れることはなかった。 事件のよすがに残された形見は、亡き人の美しい指を飾っていた、大きな緑色のガラス玉で作った精巧な模造品である指輪一つだけ――。

 その、曾祖父は語る。
 両親に呼び寄せられてハワイに渡ったものの、後に孤児になってしまった新宅直吉は、ホノルル一繁盛している日本人向け旅館・白木屋旅館の奉公人となり、旅館の主の次男坊である磯次郎に可愛がられていた。 名うての遊び人でもある磯次郎と、十五歳の少年・直吉。 そんな二人がある事件をきっかけに、探偵の真似ごとを始めることとなる。 ハワイで成功した大富豪の若き美貌の後妻・濱田リヨが、海岸で謎の死を遂げたのである。 秘かに彼女への憧れを抱いていた直吉は、事故死という磯次郎の断言に最後まで納得すことは出来なかったのだが…。 果たして最後に残された謎は、直吉の曾孫・慶一によって解き明かされることになるのか。

 ハワイ移民の歴史について詳しいことを何も知らないのが幸いして、いい具合に肩の力を抜いて興味深く読むことが出来た。 郷里を離れて海を渡った人々それぞれの、かつて胸いっぱいを満たしていたはずの夢と不安と思惑。 いつしか年月は流れ、苦労して財を成した者もいれば、思いも寄らなかった変転をたどって再び日本へと戻る者もある。 大きなチャンスを摑んだ人、厳しい現実に打ちのめされた人。 どちらの立場にあるものの、異国にあって時には手を取り合い助け合っていた。 当時の日系移民社会ならではの、そんな勢いをも感じさせられた。

 行方の知れなかった大粒なエメラルドの指輪のこととか、最初の方に少ししか出てこないリヨの清楚で華やかな白いドレス(ホロムウ)姿のイメージが、最後の最後まで付き纏ってきてロマンチックな気分に浸れてしまった。 私にとっては、素敵な終わらせ方だった。 ひたひたと温かな波が、静かに胸に寄せて来るような。 
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