ヴァージニア・ウルフ、『ヴァージニア・ウルフ短篇集』

 『ヴァージニア・ウルフ短篇集』の感想を少しばかり。

 “玻璃の尖った指先はみな下方を指している。光はその玻璃を辷りおり、滴って緑色の水溜まりを作る。” 27頁

 とても素晴らしかった。“意識の流れ”の手法による文章を読むのには、独特な緊張感を強いられる気がしたが、少しずつ慣れてくると、その揺蕩いから意識が離せなくなる…つまりは癖になる。とり憑かれる。茨に歩を妨げられるように、幾度となく引っかかる箇所がある。するりと通り抜けられない。そのもどかしささえ、何とも言えない手応えだった。
 喚起されることが尽きない。この文章はどんな状態を差し、どんな眺めを表しているのだろう…と思いあぐね、その都度浮かべた答えの形は、きっと今だけのもの。いつの日か同じ頁を開いたなら、その時の私は違う光景を心に描くかしら…と、そう考えたら何故か嬉しくなった。そんなことにまで思いを馳せたくなる文章が、この1冊の中でたくさん待ち受けていた。

 好きだった作品は、たったの2頁が昏い宝石のようで息を呑んだ「青と緑」や、あっ気にとられる結末の「同情」。長篇を読み返したくなってしまった「ボンド通りのダロウェイ夫人」。“意識の流れ”に引き込まれた、「弦楽四重奏団」と「書かれなかった長篇小説」。
 とりわけ忘れがたいのは、「壁の沁み」。小さな壁の沁みから始まって、豊かに広がっていくイメージの重なり…。魔法を見せられた。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 1月19日(土)の... 1月21日(月)の... »