バルガス=リョサ、『楽園への道』

 リョサを読むのは3作目。『楽園への道』の感想を少しばかり。

 素晴らしい読み応えだった。今、楽園への道…というタイトルに改めて向き合うだけで、呟くだけで、思いが溢れてうずくまりそうになる。
 心のどこかで憧れる。彼らのように、きっと本人にもどうにもならないような、己を突き動かす熱い塊を抱え込んで生きること。辛くて濃くて、どろっとした人生。自分自身にも周囲に対しても決して偽ろうとしないし何も誤魔化さない、そんな風にしか生きられない。故に、縛りにくる者には常に反逆し、立ちはだかる物には衝突を繰り返す…そんな、夢想家と呼ばれる人たちの人生が本当はこんなに孤高に美しく、きつい意味で誠実なものなのだということが、静かに胸に迫ってくる物語だった。
 祖母のフローラと、孫のゴーギャン。片や、まるで女が身売りをするような結婚を憎み、それを認める社会に立ち向かう女性解放家(後には、労働者の団結を叫ぶ)となった美貌の“アンダルシア女”。片や、一度はブルジョワとして成功を摑みながら、絵画に目覚めたことで狂ったボヘミアンとなった、情熱的で自由奔放で型破りな天才画家である。
 交互に語られる二人の物語には、蝋燭の灯が消える間際にひときわ強い光を放つのにも似て、時を隔てた祖母と孫とが最期を迎えることとなる場所へと向かいながら、果敢に闘い続けた日々が描かれている。そしてそこに何遍となく挿入される各々の回想から、彼らが歩んできた道のりの険しさが、徐々に浮き彫りにされてくるのである。

 語り手が、ふいにフローラやゴーギャンに直接語りかける箇所が、とても好きだった。例えばゴーギャンに向かってフローラのことを、“あの狂ったおせっかい女”と呼ぶところがあって、本当に彼女を理解して愛しているからこそ、そう呼んだんだなぁ…と心から思えて泣きそうになった。深い共感とユーモアがこめられ、温かな眼差しが常にそそがれているようで、時折胸の奥が熱くなった。
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コメント
 
 
 
大作「世界終末戦争」には挫折しましたが・・ (nao)
2010-11-14 17:59:08
リョサのものは「継母礼讃」を読んだのが最後・・ほとんど20年前(?)にもなりますか。
この「楽園への道」は、ひさしぶりどっぷり物語に浸れそうですね・・・読むのが愉しみです。
その前にこのシリーズの池内の新訳版「ブリキの太鼓」も未読なので、年内に読めたらいいなぁ。
最近エーコの「パウドリーノ」がようやく出たようですが、こちらは興味ありませんか?
 
 
 
Unknown (りなっこ)
2010-11-19 17:59:50
はい、「ブリキの太鼓」も「パウドリーノ」も実は気になっていまして、読みたいなぁ…と思っています。
どちらが先になるかわかりませんが、とても楽しみです。
年内かどうか…(笑)。

リョサは、好みにあうので少しずつ読んでいます。
「継母礼讃」も面白そうですね!
 
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