森福都さん、『狐弟子』

 狐少年、かわゆしかわゆし…。 ぎゅう。  

 久しぶりに森福さんが読みたくなりました(記事にはしていませんが、「漆黒泉」の文庫本以来)。 とりあえずは、装画がとっても可愛らしいこちらの短篇集を手に取ってみました。 
『狐弟子』、森福都を読みました。

 古の中国を舞台にした幻想的な物語が七話。 滋味きくすべし、いぶし銀の如き渋い耀きを放っているものもあれば、則天武后(とその実母)や漢の皇帝武帝の妄執生霊(?)幽鬼が跋扈する妖しい幻想譚もあり。 やはり何と言っても、その時代の中国ならではのいかがわしさや世知辛さ、そして、誰もかれもが陰謀をめぐらし合っていたかのような、油断ならない妖しい雰囲気を描き出して見せるのが巧み!である。 ミステリアスな作品はひんやりと美しく、滑稽さの中にしんみりとした味わいを秘めた作品は仄かに温かい。

 いつも感嘆せずにはいられない、森福さん描くところの女の強かさやしなやかな強靭さ、狡さと可愛らしさが存分に味わえる「鳩胸」や「股肉」。 ラストでぞくり――と背中が凍る、「雲鬢」…。

 表題作「狐弟子」は、唐の嗣聖年間の頃が舞台。 全真寺と呼ばれる破れ寺に住み着いた、狐の化身らしいと言われる老人・毛潜の元に、狐への化身志願の魯鈍そうな少年がやってきて…。 
 腹黒いけれども根は悪人でもない毛潜が、あくまでも雑用をさせる程度の思惑で受け入れた弟子の少年が、師の業の種明かしに気が付きつつ触れつつ成長していく過程がとても可憐な一篇である。 むふー。

 心ゆくまで堪能したのが、最後に収められた「鏡像趙美人」。 まず、双子の画師がいて、あまりにもその力が拮抗していたので一度は独立することを断念した二人が、その評判故に意にそわない技量比べを時の皇帝から強いられる話である。 後宮へ入るべく見出された美女・趙美人の魅力を余すことなく写しとることが出来たのは、兄か弟か…。
 えっ、そういうことだったのぉ?という驚きの展開もあり、森福さんの作風が隅々まで堪能できる逸品であった。 
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